吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。 作:シャモロック
吾輩は猫である。かつては人間だった。
吾輩は猫である。名前はまだない。
どこで生まれたかなど見当もつかない。だが、かつて吾輩が人間だった頃、吾輩は漫画を描いて暮らしていた事は記憶している。
スイッチ一つで明かりが点き、遠くの人に容易く声をかけられるそんな現代生活を楽しんできた。
だからなのだろう。深き夜の森がここまで暗いとは思わなかった。しかもあとで聞けば、ゴブリンなどが彷徨いていたというのだから危険しかない。
だが、今の吾輩には早急に動く必要があった。
それは吾輩の隣で泣いている小さな小さな赤子がいたからだ。
籠におくるみに入れられた状態で泣き叫んでいるが、誰も助けに来やしない。無論、吾輩も放っておいて逃げ出そうとしたのだが………結局、戻って来てしまうのだった。
何故吾輩が人間から黒猫になっているのか。
そもそもここは何処なのか?
この赤子はどうするべきなのか。
考える事は山ほどあったが、とにかく行動せねばと籠を引っ張り引き摺るように移動する。このまま赤子を見捨てるのは人間として不愉快だ。とかつての心が叫んでいるようだったからだ。
そんな慈悲を神様が見ていたのか、ぼんやりとした明かりが見えて来た。誰でもいいからこの赤子を引き取って欲しい。欲を言えば、山賊や盗賊とかではない方がいい。
「おい! 赤子だ! 赤子がいるぞ!」
「もしや、この黒猫が引っ張って来たのか!?」
「お腹を空かせているのか………? 俺は村まで戻る。警邏は頼むぞ!」
「ああ、任せろ!」
吾輩は前世で良い事をしていたらしい。人の良さそうなおっさん2人が赤子の泣き声に近づいて来てくれたのだ。武器は手にした槍だけだが、会話の内容からして村の住人らしい。因習村とかではないといいが。
とはいえ、目的は達した。吾輩はクールに後を去ることにする。吾輩は猫であるが故に、気まぐれな存在なのだ。
「おっ、名前が書いてあるな………モルガナかぁ。女の子だな!」
──今、なんて言った?
その名前を聞いた時、ぶわっと脳内に溢れ出した存在した記憶。具体的に言えば、吾輩が人間の頃に描いていた漫画、その主人公の名前であった。
思い返せばこの状況に見覚えしかない。猫だと言うのに冷や汗が止まらない。体の震えがおさまらない。ああ、神よ。吾輩が何をしたと言うのです………何故、吾輩を、なぜ、俺を、
「鬼畜凌辱リョナグロゲームのスピンオフ漫画に転生させたんだぁぁぁぁ!!?」
「「黒猫が喋ったぁぁぁぁぁぁ!?」」
どうやら吾輩喋れたらしい。そのせいか、結局吾輩も村に連れて行かれるのだった。
*
吾輩は猫である。今はそんな衝撃のファーストブリッドを受けた翌朝、案内された村の屋根の上で朝日を浴びながら頭を抱えていた。
少し、自分を語るとしよう。吾輩、前世はそれなりに人気の漫画家だったのである。しかし、それは自分の実力で勝ち取ったものではない。何故なら、スピンオフ漫画で有名になったからだ。
そう、鬼畜凌辱リョナグロゲーム『黒魔女集会』のスピンオフである。このゲーム、とある大手から出されたものなのだが、内容が余りにも酷すぎる、人権に配慮がない、と発売当時から話題になり、1週間でワゴン行きになったすごい作品なのである。
流血は当たり前、欠損は前戯、丸呑みは正義で、斬首した手や足の付け根に挿入し出したところで吾輩、この仕事を受けたことを全力で後悔した。とはいえ、こちらは明日の食費もままならない漫画家、相手も少しでも売り上げを挽回しないと誰かが首を括らざるを得ない状況だったのだ。
吾輩、あれだけ漫画に真摯に向き合ったのは初めてだったかもしれない。スピンオフに使えそうな人物を頑張って探すところから始まった。なにしろ、ゲームの主人公は妄想癖の酷いハゲデブという、エロゲーならともかく漫画の主人公にするには吾輩的に無理な奴だったので。
その為にゲームをやり込み、アヘ顔やふたなり、感度数万倍、触手による種付け、達磨状態のヒロイン達から目を逸らし、ひたすらにキモい主人公がエッチするだけのストーリーの薄さに虚無を覚え、魔女全員が国を捨てて、アヘ顔ダブルピースをするエンディングのやるせ無さに吐いた頃に漸く決まったのが………モルガナという魔女だった。
魔女モルガナ。ゲームに登場する9人の魔女のリーダー格で、怜悧な雰囲気に素晴らしいスタイル、蔑むような目線と彼女に踏まれたい者たちが多くいるという、原作の紹介があるキャラを主人公にしたのだ。
幸い、彼女の過去は語られていなかった為、肉付けしやすかったこともある。その為、彼女の悲しい過去を書きながら仲間である魔女達を集めて国を興すストーリーで漫画を描き始めたのだ。
結果として、馬鹿みたいに売れた。
毅然としつつも、何処か抜けてるクールな魔女が一般ウケした事で『黒魔女集会』は『魔女集会で待ってるわ』のタイトルに変更し、7年の連載を経て完結したのだ。
なお、ネット上では、
『こ、ここから原作(鬼畜ゲー)に入るんですか?』
『彼女達が、一体何をしたというんだ………?』
『作者の悪魔! 鬼! クソみたいな主人公!!』
などなどと、あくまで前日譚の漫画が原作の時間軸に合流した事に嘆き………というか阿鼻叫喚だったし、殺害予告まで届いたがすまぬ。原作者から原作を変えるな!という圧があってな。すまぬ。
しかし、それが現実になったのであれば話は別だ。元はエロゲのキャラとはいえ、きっちり彼女達を作ったのは吾輩だ。内面も過去も、魔法も彼女達を記号から人間にしたのは吾輩だ。
吾輩が、彼女達をいずれ辿るバッドエンドの道に立たせてしまったのだ。今は穏やかに眠るこの赤子も最終的には壁に埋め込まれて国民の肉便器にされるなど許される筈もない。
「──これは吾輩の罰か」
吾輩は彼女達の親のような者。であれば、吾輩の罪に彼女らを付き合わせる必要はない。地獄に行くのは吾輩だけでいい。
であれば、人間でないのは好都合だな。原作のキャラでもなければ簡単に命は捨てられる。一度死んだ身だ。命すら惜しむな。お前はただの猫なのだから。
開かれた窓から部屋へ入れば、モルガナがきゃっきゃっと笑っていた。吾輩の姿を見て笑っているのか、これから迫る末路も知らずに幸せそうに笑ってる姿を見て、覚悟を決める。
「安心するといい、モルガナ。お前は………お前たちは吾輩が守ってやる。だから、どうか健やかに育ってくれ」
吾輩は猫である。名前はまだない。
だが、使命はある。それは魔女達9人の全員を幸せにする事だ。
多分、この黒猫のCVは大谷育江