吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。 作:シャモロック
次回は金曜予定です。
吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、モフガルド・ニャンディアス3世。キミリア。目の前のウサ耳少女はウサウサと耳を揺らしながら、ユニの顔へアイアンクローを仕掛け、鶏を締め殺したような悲鳴がユニから漏れていた。どうして(宇宙猫)
「い、言うこと聞いて『月餅姫』!」
「しもべが偉そうに。私のことは親しみを込めて『カグヤ』と呼べと言ったわよね?」
「話を聞いて、カグヤ!」
「しもべが私の名前を呼ぶなんて万死に値するわ」
「理不尽!」
「漫才しとる場合か!! 来るで!」
何度も壁まで吹き飛ばされて、苛立っているのかロジェがギリギリと錆びついた歯車のような音を立てて歯軋りをしていた彼女が再び姿を消した。吾輩をモルガナが抱えたその時、カグヤの背後に出現し、後頭部へ目掛けて爪先が迫る。
「ッ!! 月餅姫!! 伏せや!!」
しかし、反応が遅れた月餅姫を庇うようにドラゴの風を纏った蹴りがロジェの一撃を止める。鈍い音に、僅かな苦痛を漏らしたドラゴだったが弾き飛ばされた勢いを利用して彼女の側頭部に脚を叩き込む。
だが、彼女は揺らがない。防御なしに受けた筈なのにたたらを踏む事なく、ドラゴの脚を掴もうとしたのをモルガナが生み出した柱が弾き飛ばし、そのまま彼女の体を新たな柱が襲うが、全てを回避して再び迫る。
「ッ! 効いとらへんのかい!!」
「並大抵の肉体強度ではないですね。ドラゴ、脚は無事ですか」
「………正直あかんかもな。変な体勢で蹴り入れたせいで脚折れたかもしれん」
モルガナが牽制の柱と同時に家に閉じ込めようとするが、驚異的な反応の良さで致命的な拘束だけを回避、多少の傷は再生力で押し切るつもりだろう。顔面に柱が当たろうが、鼻血すらも一呼吸の間に治ってしまうならばそれが1番合理的だ。
だから、月餅姫の力が必要なのだが………
「ねえ、そこの貴方様? どうして私を庇ったのかしら?」
「え、そりゃ隙だらけで危なかったしな」
「す、好きだらけっ!? 初対面なのになんて情熱的なの!?」
何故か、月餅姫はドラゴ殿と会話してたかと思えば急に頬に手を当てていやんいやんと身を捩り始める。解放されたユニを見れば、目が隠れてるが恐らく目から光が消えてるだろうなぁと吾輩察する。
「決めたわっ! 貴方、私の11番目の夫になりなさい!!」
「やっぱりこうなるじゃん………3世、責任とってよね」
「これ、吾輩のせいか? 吾輩のせいかもな………」
「そんな、オレらまだ付き合ってすらないし、噂されたら恥ずかしいやん」
「何故貴方はそんなに乗り気なんですか、ドラゴ」
『月餅姫』こと『輝ける月の姫君』は惚れっぽい月兎のお姫様が自分の運命の人を探し、素敵な男性に恋をして、そんな彼が抱えるトラブルに巻き込まれて解決しては勝手に夫認定していく珍道中である。
故にその具現化たるカグヤは惚れっぽく、素敵な男性を勝手に夫認定するというのでユニもほとほと困り果てている。
まあ、それでも他に比べれば圧倒的に卸しやすい相手なのだが。
「そうと決まれば早速結婚式よ! そこのしもべ2号! 早くこの壁を消しなさい!」
「………もしかして、私の事ですか?」
「ごめん! 本っっ当に! ごめん! モナモナ!! ウチの子が本当にごめんなさい!! 月餅姫!! あの子を止めたら壁を消してくれるから! 今だけは力貸して! ほら、ドラゴ殿も!」
「お、おう。カグヤちゃんのちょっといいとこ見てみたいなぁ」
「よっっしゃあああ!! テンション上がってきたぁぁぁぁ!!」
昂る月餅姫の雄叫びにロジェが踏み込む。先程までとは違い、ジグザグに複雑に進んでいるのか飛び跳ねた衝撃だけが彼女が進んだ道を示し、その辿り着く先ににいるのは勿論、月餅姫。
次に吾輩が捉えた姿は、月餅姫の顔面に向けたドロップキックの体勢だったが、彼女はそれを鼻で笑って指を鳴らす。
「もっちりもちもち〜磯部餅!!」
それを止めたのは、ロジェの前に現れた座布団並みの大きさがある磯部餅。ロジェの足先は餅に減り込み、月餅姫まで届かない。しかも、ただ防いだわけではない。餅の粘り気によって彼女の脚が拘束されているのだ。
「月の兎は嫉妬深いよ!! 私の旦那様に手を出すな! 殺すならしもべにしろ!!」
「ウチの命、軽すぎない!?」
同時に月餅姫が飛び跳ねる。拘束された餅から逃げようと足掻くロジェに対して、ムーンサルトで飛び越えた月餅姫が空に出した餅を足場に弾力を生かして、上空からロジェに迫る。
ロジェ自身が腕を交差して防御に入るが、その眼前に赤熱化した餅が顕現。敵を見失った一瞬の虚、その間に回転して勢いを増したかかと落としが餅に突き刺さり──爆発を引き起こす!
「やーきーもーち、どろっぷ!!」
爆発の勢いで地面に叩きつけられたロジェが、跳ね上がり、血を流しながらもこちらを睨みつけた顔に月餅姫の膝が突き刺さり、更に血が吹き出していく。
「もちもち〜力餅!!」
某海賊漫画主人公のように、後ろへ伸びた腕を体ごと叩きつける勢いでロジェの腹に突き刺さり、血反吐を吐く。だが、ロジェも負けていない。カウンターで月餅姫の頭を両手で掴むと、渾身の膝蹴りをお見舞いする。
脳味噌どころか、生首状態になりそうな一撃に月餅姫も、戦闘不能に、
「効かないわっ! だって私は餅だもの!!」
ならなかった。月餅姫の顔が凹むがすぐにお湯につけたピンポン玉のように復活。片足上げた状態の彼女の腹部を撃ち抜き、防御が下がった側頭部を殴り付け、更に伸びた反動による拳が顎を貫き、彼女のバランスを崩す。
「因みに台詞に関してはどうか許してください。吾輩も全力土下座して許可を得たパロディなので許してください。何でもしますので」
「今、何でもするって??」
「主には言ってないぞ、モルガナ」
目を爛々とさせたモルガナを無視して、畳み掛けるようなコンビネーションでロジェの口や鼻から血を吹き出し、どんどん再生させていけば比例するように彼女の体が小さくなっていく。
「やはり、血が抜ければ抜けるほど元の姿に戻るようですね」
「みたいだな。再生力に高濃度の吸血鬼の血を使ってるんだろ。外部から魔力を供給させなければ、このまますり潰せる」
月餅姫の猛攻は止まらない。ロジェも血が抜けてきているからか、動き自体は先程までの本能任せではなく、技術を活かして捌いているが餅を生かした体術に追いつけていない。
「がっ!!」
「ッ!! 崩れた! もらった!!」
月餅姫の拳が顔面を捉え、彼女が後ろに吹き飛ぶ。そこへトドメを刺すための月餅姫の大振りの拳は──空を切った。
「なっ!? 何処に消え………」
「カグヤ! 下!!」
やった事は単純で、拳が迫ってきた瞬間にロジェは自らの体を小さくした。それこそいつもくらいの大きさに瞬時に変化して月餅姫の視界から姿を消すと、逆立ちするような体勢から一気に飛び上がり、両脚で彼女の顎を揺らした後、強靭な体幹で空中で回転し、側頭部に右足を叩きつけてボールのように吹き飛ばす。
奇しくも脱獄の際に見たロジェの動きだ。大振りを誘い、カウンターを決める彼女本来の動き。まだ血に酔っているとはいえ、いきなり冴えた動きに月餅姫はついていけなかった。
「カグヤ!!」
「馬鹿、ユニ!! 全員、ロジェから目を逸らすな!」
そして、ロジェの動きに近くなるという事は彼女本来の歩法を使うという事。咄嗟のあまり、全員が月餅姫に目線がいってしまった事で、ロジェの姿が消え──吾輩は空を舞っていた。は?
遅れて現状を理解する。吾輩を掴んでいるのは小さな掌、片手で掴んだそいつは信じられない握力で吾輩を掴んだまま──
「ロジェ、やめ──」
目の前で、口が開かれて白い牙が見えて、何かが壊れる音がした。
「ぎ、にゃあああああああああああああ!!」
「クロ!!」
「3世!! くっ、『夢想伝──」
痛い痛い痛い! 割れるようなどころではない、既に砕け散った痛みと共に急激に力が抜けていくのを感じる。自分の中から何かが吸われる妙な感覚に、吾輩は安堵する──これがなければ意識を失っていたからだ。
「聞こえ、………てるか、ロジェスティラぁ!! 吸血鬼ってのは弱点が多くて嫌になるよなぁ!! 太陽に、大蒜に、十字架に──銀、とかなあ!! 鱈腹食らえよ!」
銀貨を大量に生み出そうとして、魔力が形にならなかったのか吾輩の吸われていく血液が流動する銀に変化。それを体内に入れてしまったロジェが咳き込み、吾輩を全力で投げようとするが、吾輩は尻尾を巻きつけ離さない。
周りを見渡せば、大量の銀が吾輩を中心に吹き出していく。銀貨ではない固まる前の金属として。
「何ですか、これは………クロの魔法は『貨幣を生み出す魔法』じゃあ」
「そんな事より、モナモナ! 足場をちょうだいってば!」
「ッ!! 摩天楼!!」
点滅し出した吾輩は意識の続く限り、ロジェの体に銀をぶつけていく。肌が焼ける彼女は再生力で押し切ろうとするが、肌が焼ける臭いがなくなった。ふと、顔を見ればロジェの瞳に戸惑いが浮かび、吾輩の体を見て、その色に絶望が差す。
「な、ち、く、クラウン………」
「3世!! そこどいて!!」
「ち、違う………ユニ、もう、ロジェは………」
「血なら大丈夫! ウチが治すから!」
呆然とするロジェに吾輩が声を掛けるより早く、空に身を踊らせたユニに吾輩が片手でしっかり抱え込まれ、ロジェが意識を取り戻した事を伝えられず、ユニが眼帯を外して、ロジェに向けて右手を振りかぶる。
「『魂絶』!!」
「──クラウン」
ユニの掌底が無抵抗のロジェを捉えて銀が蠢く地面に叩き落とされる。そして、そんな彼女を縛るように空から落ちてきたのは3段の大きなお餅。
「もっちりもちもち、鏡餅!!」
ロジェごと押し潰すようにして、みかん代わりにてっぺんに座っていた月餅姫の拘束が決まり、周りのモルガナによる壁も消えていく。焦るような壁の消え方と一緒に、モルガナが走り寄るが、痛みのあまり意識が遠のいていく。
「ダメ………いで、クロ!」
「………治療、………チナを! 早く!」
「………ジェちゃんは、オレが………!」
今までにもあった自分が消えていくような感覚に、吾輩は僅かな安堵と………後悔に苛まれていく。まだ皆と一緒に過ごせると思っていたし、こんな道半ばで倒れるなんて思ってすらなかった。
ただ、死なんてものはそんなものだろうって言う感覚も何処かにはあった。大切な人は漠然と明日も明後日も生きているだろうって思っても、いきなり目の前で消えていくのだからたまらない。
それでも………まだ吾輩は死ねない。このまま死ねばロジェはきっと自分を許せなくなる。それだけは、ダメだ。彼女達を守るためならこの命は惜しくないが、彼女達を追い詰めてしまうならば自分の命は守らないと。
「──まだ、死にたくない」
吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、モフガルド・ニャンディアス3世、キミリア。何とか振り絞って伝えた吾輩の言葉に、誰かが叫んでるような気がするが吾輩の意識は眠るように暗闇へと落ちていくのだった。
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