吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。   作:シャモロック

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サブタイが全て。
まだ何も終わってないのに死ぬわけにはいかないよな、黒猫!



黒猫ですか? 今、私の隣で寝てますよ

 強制的に意識を遮断され、こうして目覚めるのはもう何度目の経験だろうか。というか何回吾輩死んだら気が済むのだろう。

 見慣れた天井の模様を目にしながら、寝起きのような頭でぼんやりとそう考えて、左手を顔に当てて眉間を揉み解す。

 

「吾輩、死ななかったのか………」

 

 見慣れていたのは当たり前、そこはモルガナの自室で吾輩は大きく息を吐く。ふと、隣を見れば窶れたモルガナが誰かの手を握りながらすやすやと寝息を立てている。

 

 どうやら今回は彼女のおかげで生き延びたらしい。疲れた顔をした彼女を起こすのも忍びないのでゆっくりとベッドから出ようと左手で毛布を捲る………待て。

 咄嗟に飛び跳ねるように起き、感じた違和感を確かめるように自らの左手を顔の前に運べば、その違和感を漸く理解した。

 

 その左手は──()()()()()()

 

 確かめるように掌を開いては閉じる。すると、吾輩の意思の通りに動くではないか。自ずと視線は先程のモルガナが握っていた手へ向かう。それも吾輩の体から伸びていた右手らしく、暖かく柔らかな感触に薄々と自分の現状を理解。

 

 そして最終的な確証を得るために、右手を彼女の手から抜き取ってベッドから出るとモルガナが普段使用してる姿見の前に立つ。

 歩く分には問題はなかった。猫の身が長かったから二足歩行を忘れてるんじゃないかとちょっと不安だったが、まあいい。そして、吾輩は姿見の前に立って、自分に起きた変化を理解した。

 

 長いまつ毛に、キューティクルがかかった髪は肩まで伸びていて、猫の目のようにパッチリとした瞳が吾輩の視線につられて動く。すらっとした鼻は息をして、薄い唇が開いてため息を漏らす。

 

 よく知ってる顔だ。ずっと見てきた顔だ。男らしさのかけらもない、何なら化粧したら美人になる顔だ。

 

「吾輩の、人間だった頃の姿じゃねえか………」

 

 ただ、違うのはもっと華奢で男性らしさなど皆無だった肉体が細くても頼もしい体躯に変化しているし、吾輩の頭の上でぴこぴこと動く黒い猫耳と、腰の上から生えてる尻尾。道理で人間の耳がないのかわかったが、なぜ猫耳と尻尾が??

 

「──クロ?」

 

 ふと、背後から彼女の声がして振り返る。起こしてしまったのか、ベッドから体を起こして毛布で体を隠していた彼女が吾輩を見て、不安そうに声を掛けるので、ただ笑いかけた。彼女を安心させるように。

 

「どうかしたか。モルガナ? また昔みたいにあの屋根裏部屋で添い寝して欲しいのか?」

「〜〜っ!! クロッ! クロッ!! 良かった! 本当に、良かったっっ!!」

 

 感情の赴くままに突進してきた彼女を受け止めようとして、過去に似たようなことをした際に思いっきり押し倒された苦い記憶が蘇る。とは言っても避ける選択肢などないので、痛みに耐える覚悟を決めて、

 

「うわっと!! 飛びついてくるなよ、危ないだろ?」

 

 意外とすんなりと抱きとめることが出来た。どうやら肉体はやはり吾輩が知っている強度ではないようだ。かつての吾輩だったら、間違いなく潰されて、嫁に情けないって鼻で笑われてた。

 

 とはいえど、モルガナ(170cm)に身長で負けてる(165cm)なのはやっぱりちょっと男心にキュッと来る。彼女はそんな事気にしないし、涙声になりながら吾輩の胸元に顔を埋める彼女に申し訳ないので何も言わないが。いや、礼だけは言うべきだな。

 

「ありがとな。モルガナ。おかげで今回は命を拾えた。他の皆は無事か?」

「はい………はいっ! 1番危なかったロジェも含めて皆、ぶじです。今は皆、疲れて眠ってますが………クロが目覚めた事がわかったらきっとすぐに起きてくれますよ」

「そっか、良かった」

 

 あの餅に潰されたロジェも無事らしい………よく無事だったな? あの質量で潰されながら生きてるとかやはり大概ロジェも常人超えしてると言うか。ともかくモルガナが言うなら間違いはないのだろう。

 

 ならば次にやることは1つ。

 

「それじゃあ早速で悪いんだけど、服をくれないか? 流石に裸は色々不味い」

「私は一向に構いませんが? しかし、その………クロって人間に戻ると、その……意外と……大きい、ですね。びっくりしました………は、はいるかな

「身長がかな? 器かな? 視線を吾輩の顔に合わせようか?? 嫁入り前の淑女がまじまじと見るもんじゃないよ??」

「まだ、時間もありますし………えっと………簡易的な検査を、し、しませんか? ふ、2人っきりで、ベッドの上で………それから、その」

「肉体の検査は後にしよう! まずは服を着て、朝ご飯に──!!」

「朝からどうかしたのかよ、モルガナ様? 廊下まで声が聞こえて」

 

 あれほど迄に空気が固まったのは今世で初めてかもしれない。起きていたのか、リリィが扉を開けて見たのは裸でモルガナの肩に手を置く吾輩と真っ赤になりながら、下半身をチラ見し続ける裸のモルガナ。

 リリィは自分の頬を思いっきり殴った後、夢ではないと悟ると、天井を見上げて菩薩のような笑みで、

 

「そ、それじゃあごゆっくり………朝ご飯は2時間後に持ってくるから。アタシはこの辺で」

「待て! 行くな! お前は完全に誤解してる! 早まるな!」

「早まってんのはアンタだろうが。猫から人間に戻ってすぐにヤル事やるって………まあ、溜まってたよな。仕方ないよな」

「おい、やめろ! その生暖かい目を!」

 

 結局、事情を説明してもどうにもならなかったのでお布施をすることで免れました。これ立場が逆なら金を握らせてそういう事を黙らせてる悪代官だぞ、と起きてきた皆にそう言われて、吾輩はショックだった。

 

 とはいえ、その馬鹿騒ぎに乗じて皆が起きてきたので全員で1階の食堂に集合………おい、リリィ達吾輩を見て何をひそひそしてるんだ?? あれならイケるとか、怖い事聞こえてるんだが? 主らはまず後ろから迫る笑ってないアルチナに気をつけた方がいいんじゃないか?

 

「さて、パティとロンは今はいないし………ロジェは目覚めてないからこれで全員か。じゃあ、改めて皆の黒猫だ。とりあえず助けてくれてありがとな」

「本当に………本気で焦ったわぁ。いきなりの戦闘音に目を覚まして駆けつけてみれば、ロジェちゃんは潰されてるわ、姫様の腕の中でおはぎ先生がぐったりしてるわで、血の気が引いたわよぉ」

「アルアルがいてマジ感謝ってかんじ! ウチだけじゃ、何処かに飛んで行く魂の確保は出来ても治療はできないんかんね」

「ユニもいてくれて助かりましたよ。貴方のおかげで、またクロを失わずに済みました………しかし、やはり未完成品を無理やり使えるようにしたせいで不具合が起きてしまってるようですが。何処かおかしな事はありませんか? クロ?」

「うん? 特には? 今のところ飲み食いも出来るし、動く分にも問題あるは無さそうだし………魔法も、よっと! 問題なさそうだしな!」

 

 いつものように念じてみれば、掌から金貨が生み出される。魔法に関しても問題ないようだ。ただ気のせいか、魔法の発動がやけにスムーズというか、引っ掛かりがないというか。体がポカポカするというか。

 

「………先生? ちょっとお姉さんの手を強く握ってもらっていいかしらぁ?」

「うん? こうか?」

 

 珈琲を飲んでたアルチナがカップを置き、手を差し出すのでこちらも彼女の手を握り、力一杯握り締める。なんだろう、吾輩の力がどれぐらいなのか、知りたいのか? 吾輩貧弱もやしっ子だぞ? 今はうどんくらいの太さをしているが。

 

「………やっぱり、先生。魔力強化できてるわぁ。猫の時は出来てなさそうだったのに」

「おっ、モルガナ。そんな機能もつけてくれたのか! 吾輩もそれが出来ればやれる事が増えるから「つけてません」助か………なんて?」

「つけてません。そんな機能は」

 

 静寂が場を支配した。

 

「ま、まあ? 突発的な行動だし? 不測の事態くらいはあるよな! なっ!? アルチナ!?」

「そ、そうねえ! あ、そ、そうだ! 先生はまた猫には戻らないのかしらぁ? ほら、諜報だと猫の姿は役立ちそうじゃない!? リリィもそう思うわよねえ!」

「矢印こっちに向けないでください、隊長!」

 

 リリィの面食らった言葉を尻目に吾輩は少し、思案する。確かに変化できたら便利だな。とはいえなり方わからんし………むむ、こう魔法に変化を働きかけるような感じで吾輩の体に働きかけたら、どうだ!

 

ぽんっ!と音がして、吾輩の視線が慣れ親しんだ高さへと変わる。手を見ると先程までの少しカサついた人の手ではなく、ぷにぷにの肉球がついた猫の手になっていた。

 

 流石はモルガナ。変化まで出来るようにしていたらしい。空属性魔法の応用だろうか。

 

「……………」

「………おい、モルガナ黙ってどうした? らしくもないじゃないか、そんな汗を流すなんて。暑いのか?」

「私、そんな、機能、つけてない」

「「「「………………」」」」

 

 静寂が再び場を支配………というか全員が絶句してた。恐る恐る人間になるように念じると再び元の姿へと変わる。それを見てモルガナはふらりと倒れそうになり、アルチナは頭を抱え、ユニは愉快そうに笑ってる。

 

「も、モルガナさん!? これ、吾輩大丈夫だよね!? 吾輩、なんか新しい種族に変化してないよね!? まだ人間だよね!?」

「落ち着きなさい、クロ。そう深呼吸して、目を閉じて、ゆっくり目を開けば………ほーら、そこは穏やかな朝が」

「夢ならばどれだけ良かったんだろうな、この状況」

「この珈琲、檸檬の香りがするわね」

「檸檬珈琲って奴ですよ、隊長」

 

 ええ………吾輩どうなってんの?? ユニが魂を捕まえて、アルチナが延命して、モルガナが吾輩を人間に戻すために作っていた人形にぶち込んだらこんな珍妙な化学変化起きる事ある??

 

「とりあえず肉体検査は必要だな………診察が欲しいわ」

「美少年とお医者さんごっこと聞いて!!」

「ウケる、欲求に素直すぎじゃん。アルアル」

 

 ちょっと興奮し始めたアルチナはさておき、早急にはいらないかもしれないが肉体検査は受けよう。可能であるなら、モルガナやアルチナがいない場所の方がいい。なんでかとっても嫌な予感がする。

 

「そういや、三羽鴉はどうなったんだ? 逮捕されたのか?」

「その辺りはウチが対応済みだよ! 軍人さんに引き渡しからもーまんたい! そんで、見て見て! じゃじゃじゃーん! "ルノワールの秘伝書"〜! しかも2セット! 手に入れちゃった!」

「ルノワール………? それってロジェに関わるものですか?」

「そーみたい! 中、ちらっと見て見たけどルノワール一族の秘伝の儀式が書いてあったから見せた方がいいかも!」

「じゃあ、アタシが起こしてきてやるよ。少し待っててくれ」

 

 わざとらしい喜色の声だが、よくやったと褒めてやりたい。リリスとグラストンを倒した事で回収した秘伝書をちらつかせれば、モルガナが食いつき、リリィが関係者たるロジェを起こしに行った。

 

 吾輩はのんびりと食後の珈琲を飲み、久しぶりに感じる豆の豊かな香りと少し舌に残る苦味に懐かしさを覚えながら、これからの事を振り返る。ロジェの物語も折り返し地点だ。ここから彼女は最後のモルフェオを倒し、総帥と呼ばれる存在と戦わなくちゃならない。

 

 次に関わるモルフェオは王国の地下に張り巡らされた下水道で問題を起こすのだが、それが総帥の真の目的を誤魔化す為のものだとは吾輩以外は気付くまい。さりげなく、ロジェを誘導して、開始前に潰すとしよう。いや、吾輩が潰してもいいかも………どうやってかは後で考えるとして。

 

「今のところ、全て順調に──」

「大変だ!! ロジェスティラが部屋にいねえ!!」

「──なんだって?」

 

 吾輩は猫………いや、今は人間である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、モフガルド・ニャンディアス3世、キミリア。

 彼女の物語の結末は既に遠い彼方へと。この結末はまだ誰にも渡っていないと──死神は妖しく微笑むのだった。




次回はロジェ視点。
失意の底まで落ちてから魔女達の再生は始まる。


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