吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。   作:シャモロック

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家出少女の行方

『ぱぱ。"自由"ってなに?』

 

 それが父と交わした最期の会話だったんだ………偉大な父さんはあの狭い監獄でいつも血まみれだったけど、ボクを撫でる手だけはいつも優しくて。ボクにとっての憧れだった。

 

 偉大なるルノワール一族の四代目。帝国に仇なす義賊たる存在として、その名前はよく知られていて、牢屋にいたボクらを物珍しそうに見に来ていた騎士達を覚えてる。

 

 最期に、父はこう言ってました。

 

『どんな時だろうと、自らが由しとする道を選ぶ事かな。後悔しても、間違えていてもいい。生きているなら、幾らだって修正は利く。だから、自らを由しと出来ない。納得できない事や他人に選択を任せるような人間にはなるな。それが父さんからの最期の教えだ』

 

 だけど、父さん。ボクにはむりだよ。

 信頼してもいいかもしれないと思った仲間をボクは傷つけた。

 

 きっと、今から戻って頭を下げれば暖かなミルクと一緒に許してくれるんだろうってのも分かってる。あの人達がそんな暖かい人達だってのも短い日々で理解してる。

 

 でもあの時、クラウンを噛み砕いて彼の血液を飲んだ時、ふと我に返った。冷静になって自分の行いを省みて、口の中に溜まった自分ではない存在の血を認識して、今でさえ思うんです。

 

 どうして──あんなに美味しかったんだろう

 

 思い返すたびに、自分とは思えないような艶めかしい吐息が口から漏れるんだ。濃厚な血の味しかなかった筈なのに、まるで分厚い肉に齧り付いたような味わいが口いっぱいに広がっていく事に妙な恍惚を覚えたんだ。

 

 噂では帝国では、ほぼ生食で食べられる肉料理があるらしいですね。ユッケ?って言うんですか? じゃあ、きっとあれに劣らない旨味だと思います。それだけ美味しくて、夢の中であの味を求めてしまうくらいに。

 

 そうです。美食を知らない少女に、それを掲示してもそそられはしない。何故なら、彼女はその味を、狂わせる欲を知らないから。

 それをボクは知ってしまった。奇しくもあの太った豚みたいな亜人………三羽鴉の半吸血鬼グラストンのように。

 

 あの日、クロスと呼ばれた錬金術師のアトリエ跡地を観光して、究極と呼ばれる品。その正体は薄々分かったけど、ボクには必要ないものだった。美術品としての完成度は高いけど、それよりクロス・アイスの方が興味を惹いた。とても美味しかった。

 

『やっほー! ユニちゃんだぜい! 1人で観光地巡りとか寂しくない? 寂しいよね! てな訳で、せっかくだからユニちゃんも付き合ってあげるー!』

『わ、わあ………』

『泣くほど??』

 

 まあ、何故かいたユニティさんに振り回されなければもっと良かったけど。悪い人じゃないのは分かるんだけど、こう………あの明るさはボクには眩しいっていうか。

 

 あとはちょっと考え方が合わないというか、結果良ければ全てヨシ! 過程よりも結果が大事! というのが認められない………認めたくないって言うか。ごめんなさい、上手く言葉にできなくて。

 

 わ、分かってくれますか? というか、その………知り合いだったんですね。え? 研究に必要な材料を譲ってもらった仲? い、意外。

 あ、それで何があったかでしたよね。え、と………その後、ユニティさんに色々と温泉グルメを教えてもらって堪能していた矢先でした。

 

『おまえ、ルノワールだな?』

 

 ユニティさんがお花を摘みに行ってる間に、ボクの目の前に知らない巨漢の髭もじゃがいたんです。脂………かな? それで肌はテカッてて、変な匂いもしてたんで逃げようとしたんです。今思えば、アレは血の匂いだったんだね。

 

 だって見る限り、鈍そうだったから………瞬きの間に、横を走り抜けようとしたんです。そしたらボクの速度について来て………びっくりした時を狙われて、思いっきり殴られました。

 

『むだだ。おでからは逃げられない。三羽鴉の食欲担当、このグラストンからはな!』

 

 何故、戦ったか………ですか? それは、防御した両手が痺れるような一撃、観光客や湯治に来た一般人がいる温泉街での躊躇いない襲撃にボクには逃げる選択肢はありませんでしたから。

 普通は逃げる? そ、そうかもしれません。でも、きっとボクが知ってるルノワール一族なら逃げたりしないと思うんです。ボクよりも勇敢に、皮肉を交えながら悪を嗤うそんな気が。

 

 あ、も、勿論! じ、時間稼ぎのつもりでした! だって、軍人さん達が来てくれるだろうし、それにドラゴさんもいたから。なんとかなると思って。へ? の割には勇敢に戦っていたと聞いている? キミへの感謝が来ている?? い、いや、それほどでも………これくらい当たり前だから。

 

 でも、戦った感じから正直に言えば今までの中で1番強かったです。半吸血鬼って、魔力で強化しなくても建物とか平気で壊せちゃうんだから、驚きました………でも、怖くはなかった。だって、ボクも同じ事が出来るから。

 

 はい。グラストンとボクの戦い方は似たようなものでした。どちらも肉体を武器に、それ以外を牽制にして叩き込む形。違うのは、その方法ですね。グラストンは、半吸血鬼特有の再生力や身体能力を利用してました。ボクは魔法で相手の油断や隙を生む形ですから。

 

 ただ、体格差もあるし、歩法を駆使すれば攻撃を当てる事は可能だったんです。あの体格差だけど力自体は同じだったから……ただ、通行人を狙ってグラストンが走り出したので咄嗟に反応してしまったのを返す形で首筋を噛みちぎられました。

 

 え? でもキミは亜人で同じ半吸血鬼だろって? ははは、そ、その通りですけどボクは………自分が今の今まで亜人だって自覚がなくて。

 

 半吸血鬼も自分の再生力や身体能力を維持する為に血が必要なのに、ボクにはそういった衝動もなくて。グラストンが体に日焼け止めみたいな脂を塗らなければ軽い火傷になっても仕方ない太陽の下で元気に活動出来ますから。

 

 だからでしょうか。初めて首を噛みちぎられて、真っ赤な血が押さえても止まらなくてルーフェンさんからもらった服を汚す中で、初めて自分が人間ではないと思ったんです。

 

 少し意識を向けただけで傷口が埋まり、息をすれば抜けていた空気がちゃんと肺まで到達する。首筋を拭えば、もう血は固まってて。改めて、自分は人間じゃないんだなぁって。

 

 自分が亜人だと分かって、恐ろしくないのか、ですか? 

 うーん、あんまり?

 

 だって、ルノワール一族は夜を駆ける義賊な訳だし………初代が吸血鬼だったから夜になると活動してたのかなぁって。

 それに、亜人だって皆にバレたのに部屋を変えられる事もなかったし、皆普通に寝てたんだもん。逆にボクがあんまり寝れなくて早起きしちゃったくらいだもん。

 

 何も変わらずに、ボクに接してくれた。

 血を吸う怪物の亜人だとしても、何も怖がらずに。

 それがどれだけ嬉しくて──どれだけボクは甘えていたんだろう。

 

 それを知ったのは、グラストンの魔法だった。彼はボクの血を飲むとベラベラと魔法について教えてくれたんだ。何で、自分の魔法をベラベラ説明するんだろ。普通、隠すものじゃない?

 

 とにかく、グラストンの魔法は空属性『相手の血肉を食べて同じ肉体に変化する』魔法………どうも、食べた相手の身体能力を得る魔法だったぽくて。いきなり攻撃の速度が目に追えなくなりました。

 

 先程までは受け止められた攻撃が弾かれただけじゃなくて、腕が歪むほどの威力。骨折の痛みに呻いたボクを頭上から、かかと落としで追撃されたんです。魔法で直撃は避けたけど、地面が陥没するほどで、ボクの両腕も衝撃で吹き飛んだくらいだったから。

 

 とても、怖かった。初めて死ぬかもしれないって。

 父さんもあの日、ボクの目の前で首を落とされて死んだ時も同じだったのかなって。

 

 苦しみ、喪失、それら全てが目の前に来てボクは泣いちゃいました。

 グラストンにも馬鹿にされました。怖くなったら泣くのか、ガキだとか。泣いても誰も助けてくれないぞって。

 

『違う。違うよ、グラストン………ボクは自分が情けないんだ。キミが魔法を使うまではボクはキミと互角だった。なのに、ボクの身体能力が加算された瞬間、ボクは押されてる』

『それが恐怖だど………おでの仲間、リリスがお前にされたものと同じものだ!』

『違う。ボクとキミの力自体は互角だった。体格の差がこんなにあるのに同じって事は………ボクの力は本当は結構凄いんじゃないかって。少なくとも王国に潜む悪党と同じくらいに』

 

 ボクは自分に自信がなくて、正しく自分の強さを測れてませんでした。モナ姉やアル姉も同じようなこと言ってくれたけど、身内贔屓だと思ってて。

 クラウンも、散々自信を持てって言ってたのを漸く実感したんです。敵がボクに忖度なんてする訳がありませんから。

 

 だから、少しだけ自分を信じてみたんだ。ずっと頭の中にあった魔法の使い方、それを試してみようって。強化されたグラストンにボクの魔法は動きを止めるくらいにしか役立たなくなったから。

 

『万彩顕現──"血装鮮色(メイクアップ)"』

 

 再生した両手を床について、絵の具に変えて、体をキャンパスに見立てて、白紙に色を塗るように。刺青を模した色を体に塗布、そして色による強化を発動したんだ。赤色なら、こう………攻撃力が上がる感じ? モナ姉ならもっと理論的に説明出来ると思うけど、とにかくそんな感じです。

 

 身体能力が互角になれば、あとは技量の勝負だったから。相手の視界を血で潰して超接近戦。相手の再生力が高いならそれを消し飛ばす勢いで蹴り潰せばいい。グラストンは見てからに力押しが得意そうだったから、それを全て真っ向から受けて押し切ったんだ。

 

 だから、攻め気に出過ぎたんですね。自分の力が凄いかも………!って言う高揚感にも駆られてたせいで、トドメの一撃を前に腹に何か撃ち込まれて………気づいたら、ボクはクラウンを噛み殺してました。

 

 自分は結構強いんだ!なんて気持ちはもう吹き飛んでいきましたよね。自分はただの血を吸う怪物でしかない。それを改めて教えてくれたのが、グラストンで、ボクはボクを知れて良かったと思います。

 

 あの血を飲む感覚を思い出す度に、少しの渇きを覚えるんです。水なんかじゃ満たされない渇望を、どうにか満たしたいって思う自分が怖いんです。

 クラウンの血が美味しかった理由は今ではわからないけれど、乾きに負けてモナ姉やアル姉に手を出すかも知れない………そう思うだけで、ボクは夜も眠れなくなる。

 

 クラウンが2回死んでて、3回目もひょっこり生き返るかもしれないから、謝れば許される。なんて、それは言い訳ですよね。

 モナ姉もアル姉も自分のせいで死んだからって慰めてくれると思うんだけど、それで命を奪った事が許されていい訳がない。

 

 大切な人を殺したくせに、許してもらった挙句、そんな優しい人達を血を吸って殺すなんてしたらボクはボクでなくなる。義賊の誇りすらなくなって、三羽鴉のように一般人に被害が出ても笑って流すようになってしまう気がしたから。

 

 それじゃダメなんだ。そしたら、ボクは………ボクを許せない。納得できるはずがない。大切な人達の大事な人を傷つけて、へらへらと笑って許されるようなそんな奴になっていいわけがないんだって。

 

 だから、逃げた。あの優しい場所にはいられないから。

 あの人達が悪いわけがない。弱くて情けないボクが悪いんだ。

 

 い、以上が、ボクがモナ姉達の所から飛び出して、王国が誇る時計台の屋上にいた理由です。その、ぼ、ボクって逮捕されちゃうんでしょうか………あんな事して、更に迷惑はかけられないので見逃して、くれませんか?

 

 ボクはもう、帰れないので………適当に国の片隅で過ごします。ある約束があるので国からは離れられませんが、路地裏や屋上で目立たないように過ごしますから、その………え?

 

 太陽を克服した亜人の血を調べたい、ですか? 賢者の石? モナ姉が作っていた奴ですよね? それを作ってたんですね。それで、その完成の為に必要? ぼ、ボクは構いませんが………えっ! 代わりに屋根がある部屋を貸してくれるんですか?? それは、その………ありがたいですけど、何で、ボクを? 親しい仲でもないのに。

 

 歳を重ねると若い子に世話を焼きたくなる………ですか。あ、いや、その、ありがとうございます。できれば、しばらくはお世話になります。約束を果たしたら、この国から出て行くから。

 

「それまではよろしくお願いします──ファウストさん」

「構わないよ。シュレディンガー君には私もお世話になっているからね。ロジェスティラ君」




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