吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。 作:シャモロック
吾輩は人間である。名前はヤマ………クロ、おはぎ、クラウン、モフガルド・ニャンディアス3世、キミリア。現在、モルガナと共に家出したロジェを捜索中である。もう日暮れだ。急いで見つけ出さないと。
という訳で、外に出ようとした吾輩をとっ捕まえたアルチナにより服装が変更された。簡単に言えば亜人みたいな姿だとバレたら色々とややこしいので、耳を隠す為にハットをかぶらされて尻尾を腰に巻きつけたのが今の吾輩である。
「絶対、吾輩の事を気に病んでだよな………気にしなくていいって言うのに」
「死にゆく貴方を見送った者達の代わりに言ってあげますが、そう言われると思ってた。貴方は私達に対しては甘いですから。でも、時には赦されることが辛い時だってあるんですよ」
「………………」
だからって、罰を与えるのはおかしな話だろと吾輩は思う。殺意を持って殺して来たならともかく、殆どが仕方なかったのだから魔女達を罰するのは無理があると思う。
「我が夫。貴方が私達のことを大切に思ってくださってるのは分かります。ですが、甘やかすばかりが愛ではないことも………貴方は分かっているでしょう?」
「それは………な。甘やかされるばかりの結果、生まれた怪物を吾輩は知ってる。そうならないように叱るのも大事だとは思ってるが」
「分かっているなら、いいのです。夫婦たるもの、夫が出来ないのであれば妻が支えるものです。そうやってもっと弱みを見せてくださってもいいんですよ?」
「弱みは見せてるつもりだがな………うん? アレは」
2人して並走してた矢先に、椅子に座って、やあ。と手を挙げる老人が1人。アゼル卿だ。彼は吾輩達が止まったのを確認するとちょいちょいと手をこまねく。彼が座っている席の頭上を見れば、屋外テラス付きのお店らしく、座るように促される。
「申し訳ない、アゼル卿。今、私達はロジェスティラの行方を探して──」
「その事について話があってね。まあ、座りたまえ」
そんな時間はないと断ろうとしたが、ロジェの居場所についてとくれば話は別だ。2人していそいそと閉店間際の店へと入り、飲み物を注文して席に座る。アゼル卿は頼まれていた飲み物を傾けて、息を吐く。
「まずは、おめでとうと言っておこうか。シュレディンガー君。見事なものだ………これが元黒猫だと言っても誰も信じないだろう」
「分かるんですか? 彼があの黒猫だと」
「うむ。彼………ぱっと見は彼女にしか見えないが、彼でいいのかな? 実は彼女だったり?」
「彼で構いません。アゼル卿。吾輩は男です。誰がなんて言おうと男です」
「ほっほっほ、そうかい。では、本題だ。ロジェスティラ君は今は私がかつて使っていたアトリエに下宿させている。今はあばら屋だが、雨風くらいは防げるだろう。どうも、君達の所を飛び出してきたようだしな」
「そうですか、ありがとうございます。迷惑かけて申し訳ありません。直ぐに迎えに」
「ふむ、その事じゃが少し待ってはくれぬか? ロジェスティラ君から大まかには話を聞いている。彼女は君達に合わせる顔がないと嘆いていたようだぞ? それなのに、迎えに行くのはどうかな? また逃げてしまうかもしれぬな」
「それは………」
モルガナも言葉に詰まる。確かに、今のモルガナやアルチナを見たら逃げてしまうかもしれん。ルノワールの歩法の持ち主と国中追いかけっこなんて、勝ち目がないし。
そんな吾輩達を見兼ねてか、アゼル卿は蓄えた豊かな白髭を撫でながら、ふむと頷き、
「であれば、監視するだけにとどめておくといい。彼女の傷は深い。自らの手で殺したとなれば、普通は立ち直れないが………彼女はまだ何かの約束を果たそうとしている。素直な子だ。私も応援したくなる」
「………アゼル卿が言うならば、申し訳ありませんがよろしくお願いします。費用はこちらでお出ししますので」
「ああ、それならこちらとしても頼みがあるのだがいいかな?」
頼み?とモルガナが首を傾げた所に吾輩達が頼んだ飲み物が、到着する。暖かなミルク2つから香る蜂蜜に手を伸ばし、ゆっくりと口に運んだところで、
「彼を研究させてくれないか?」
「──は?」
モルガナが手にしていたカップにヒビが入った。いきなり増した横からの圧力に吾輩もミルクを吹き出しそうになった。というかそんな頼みで怒らなくてもいいんじゃないですかね? いやまあ、マッドな人体解剖は流石に勘弁だが。
「まあ、落ち着きたまえ。悪い話じゃない。シュレディンガー君、この研究成果はクロス氏が生み出した『ULシリーズ』に近しいものだ。であれば、私が研究をしたい気持ちもわかるんじゃないか?」
「貴方は、賢者の石を研究してるのではなかったのですか? 最後の研究として若返りを目指してのんびり隠居すると。叶わなくてもそれは、それ。と言ってましたよね」
モルガナの跳ね除けるような強い言い方に、アゼル卿は沈黙を返す。あの、モルガナさん? 吾輩のことは気にしなくていいからもうちょい愛想良くしよ? この人、結構お世話になってるんじゃないか?
アゼル卿はしばし、髭を撫でながら瞑目するが、びくびくしながら、次の言葉を待つ吾輩。いきなり道具とか飛んでこないよな?と思った矢先、飛んできたのは衝撃的な発言だった。
「これは独り言だが、実はとある依頼を王家から受けておってな………ミスト王女の新しい肉体の作成を頼まれておる」
「…ッ……それは」
「返事はせんでいい。何せ、これは独り言だ。とはいえ、義手義足をつけようにも崩壊を止めねば話にはならない。唯一の希望として、私はULシリーズに賭けていたのだが、シュレディンガー君のおかげで希望が見えたんだ」
「………独り言ですが、賢者の石を作成し、クロの魂を移したように人形を素体として、ミスト王女殿下の魂を新しい肉体に移すつもりですか?」
「左様。魂を移せるならば、古い肉体は破棄できる。呪いも気にせんで済む。無論、色々な副作用はあれど延命だけならば、それで良かろう。その間に肉体を再生し、また移すなど方法は考えられる」
「その為に、クロの肉体を調べたいと………という事はもしや、隠居したのもその為に?」
「勘のいい錬金術師は嫌いじゃない。というわけだ。是非、協力してもらいたいんだが。どうだい? 黒猫君」
うーむ、ロジェが匿われてるとなるとな。最早吾輩の知ってる話とは違うルートを辿り出してるし、彼女を1人にする方が心配だ。
今の思い詰めてるであろう彼女を放置していれば、何の拍子に首を括ってもおかしくはない。自己評価が低いと極端から極端に走りかねないし。決まりだな。
「ロジェは吾輩が生きてる事は知らない。ましてや見た目も細かく伝えてはなかった筈だ──吾輩をロジェの監視役にしてくれ。費用は吾輩が出す。それでいいな?」
机に置いてあった木製のティースプーンに触れる。すると、眩い黄金に変わった。それを見てアゼル卿はほう、と感慨深く頷き、モルガナに興味深そうな目線を送る。
モルガナは心配そうにこちらを見るが、やがて根負けしたように弱々しく頷いた。ごめんな。また埋め合わせはするから。
「ふむ、では黒猫君………というか名前はなんなのかね? 君の周りの女性陣からは色々な名前で呼ばれているようだが。君自身、人間の頃の名前があるだろう?」
「そういえば………クロ、私も貴方が人間だった頃の名前を聞いた事がありません。なんて言うんですか?」
「うっ………それは、そのう」
モルガナの期待を込めた視線に、いよいよ来てしまったというか、なんやかんやで誤魔化してきたツケが回ってきたかと覚悟を決める。別に大した名前ではない。玉袋筋太郎とか言う下品な名前でもないんだが、ないんだがぁ………名前負けしてるからなぁ、吾輩。
「わ、笑わないで聞いて欲しいんだが………」
「笑いませんよ。その、本当におかしな名前とかでなければ」
「………マト」
「なんだ? すまぬが老人には聞き取りづらくてな。もう一回言っとくれ」
思えばこんな反応を何度もされてきた気がする。女の子と言われてもおかしくないし、源氏名?とか揶揄されることも1度じゃない。揶揄されるのも仕方ないが、本名がこれなのだから一生付き合って行くしかないのだ。
吾輩は大きく息を吐いて、ゆっくりと、滑舌よく伝えた。
吾輩が人間だった頃、前世で名乗っていた名前を。
「──ヤマト。吾輩の名前は、ヤマトだ」
漢字で書くと大和ってなるから、まあ男の娘の吾輩と合ってないこと。小さい頃に母親に聞いたら、日本男児たるものという事で父が勝手に役所に出してたらしい。ろくな事しねえな、あいつ。因みに妹の名前は旭である。もう、これ変な思想感じるけど大丈夫?
「ヤマト、ですか。ヤマト………ヤマト。ふふ、ヤマト」
「なんか違和感でもあるか? まあ、吾輩には合ってないと思うが」
「まさか。良い名前だと思います」
繰り返し、楽しむように吾輩の名前を繰り返すモルガナはどこか嬉しそうだからまあ、教えた甲斐はあったのだろうか。
「とはいえ、普段は慣れ親しんだ名前の方でいいさ。吾輩も今更本名で呼ばれるのはくすぐったいしな」
「ふふ、わかりました。それでは、クロと。やはり、こちらの方が私にはしっくりきますね」
「あー、そろそろ良いかの? 若者達の甘酸っぱい空気は寿命を延ばすが、時間は待ってくれんからの」
アゼル卿の咳払いに、すっ、とモルガナの目線がミルクに向くが白髪に映えるように耳が真っ赤である。完全に2人の空気感に入ってたもんな。吾輩も自分が顔赤くないか、とても心配。
「ではヤマト君、君はひとまず私の助手という扱いにする。老耄の最期の道楽に付き合わされる見習い錬金術師という設定だ。それで君もロジェと同じアトリエに住んでもらいたい。いいかな?」
「構いませんよ、アゼル卿。吾輩………いや、おれとしてもお世話になります。ただ錬金術の事はあまり知らなくて………良ければ教えていただきたい」
「クロ? 貴方の隣にいる、貴方の妻も錬金術師ですよ?? むしろ、私の方が教えるの上手いと思いますよ?? 手取り足取り教えてあげますから、やっぱり考え直すのはいかがですか?」
「まずは基礎から自分で学ぶよ。身内が相手だとどうしても甘えてしまうかもしれないしな」
「勉学は若者の特権だからな。学こそ道を増やす導となる。何、そう長い事は借りないさ。そういう甘いご指導は帰ってからやるといい。では、ついてきたまえ。ヤマト君」
「はい。よろしくお願いします。アゼル卿。じゃあ、またな」
立ち上がり、アゼル卿について行こうとした吾輩をモルガナの指が捕まえる。服の裾を掴むだけの弱々しい拘束に彼女なりの葛藤が伺える。
とりあえず心配させない為に、彼女の手を取って片膝をつく。寂しがりな所は幾つになっても変わらないんだなと笑いながら。
「心配なら、何日かに1回一緒にご飯でも食べよう。吾輩の奢りで」
「私は、クロのご飯が食べたいです」
「それこそ、また今度かな。何が食べたいかは次までに決めておいてくれ」
「約束、ですからね。嘘ついたら許しませんから」
「ああ、約束だ」
彼女の指をゆっくりと引き剥がし、名残惜しそうな彼女を優しく抱きしめて、背中を叩いてやる。そして、ゆっくりと代金をテーブルに積み、アゼル卿についていく形で吾輩は店を出て行く。暮れていく夕陽の中、ただお互いに語る事もなく歩いて行く。
今までの事を見る限り、アゼル卿はいい人だとは思う。若者の未来を案じ、腕を失った軍人達に義手を用意する。王国の錬金術のレベルを底上げする。間違いなく、いい人だ。
だから、吾輩は思っていた事を聞く。この話で吾輩は対応を変えねばならない。吾輩の知る知識と彼は全く違うのだから。
「何故、ロジェスティラを拾ってくださったんですか? アゼル卿。幾ら、シュレディンガーの知り合いとはいえ、貴方に対して何か利点があるわけでもない筈だ。返してくださる方がまだわかる」
「ふむ、老骨の優しさ?じゃ納得はいかんかね?」
「そう言ってる時点で、答えがあるのでしょう? ロジェの何が必要なんですか?」
吾輩の質問に片目を閉じながら、髭を撫でる。
「──血だ」
「………血、ですか?」
「ヤマト君。キミは賢者の石のレシピを知っているかね?」
「いえ、すみません………噂だと何かの血を使うとまでは」
アゼル卿もかつては賢者の石の研究をしていた設定がある。しかし、始まった実験は全く上手くいかなかった。出来上がるのは未完成の黒や白の賢者の石。真っ赤に染まる血のような赤い石が出来上がらず、老いによる期限が迫る中、遂に完成させたのだ──彼女が。
モルガナ・シュレディンガー。賢者の石の完成者。アゼル卿を超える天才錬金術師の生誕である。
彼女は賢者の石の完成に、
「うむ。だが、知ってるかもしれないがシュレディンガー君は賢者の石に血を使わなかった。しかし、クロス氏はレシピには『妖精の血』が必要と書かれている。ここまでを聞いて、不思議に思わないかね?」
「シュレディンガーもアゼル卿も同じレシピなのに、材料が違うって事ですか?」
「左様。かいつまんで話すが、私とシュレディンガー君は賢者の石の作成は個人の魔力の質も関わってくるんじゃないかと見ている。故に、同じ材料でも魔力の質が違えば、結果も変わるということ。これだけ繊細さを求められるのは初めてだ」
「つまり………アゼル卿の魔力を使う場合は、ロジェの血?いや、吸血鬼の血がいるという事ですか?」
「その通りだ。正確には半吸血鬼の血がいるのだがな。ミスト王女殿下に許可をいただき、血を使ったが危うくアトリエが吹き飛ぶ所だったよ」
しみじみと語っているが、それは大事故では?と吾輩思う。
まあ、理由はわかった。半吸血鬼なんて手頃にいるわけでもなく、ましてや血をくれる優しい存在とも限らない。となれば、ロジェは都合のいい存在に違いない。
「まあ、だからこそ彼女に協力してほしいのさ。私の………『黄昏の錬金術師』最後の錬成にね。この依頼だけは絶対に成功させたいんだ。王家の依頼に関わらず、私の錬金術師の名にかけて」
「その………何か、深い理由でもあるんですか?」
そこまで問いかけて、深入りしすぎたかと思ったがアゼル卿は聞こえていなかったかのように歩みを進める。気づけば、日はすっかり沈んでしまっていて、街頭の灯りだけを頼りにその背中を追いかけた。
「昔──私は帝国で妹を見殺しにした。以来、記憶の中の彼女は笑ってくれないんだ」
それはまるで独り言のようだった。罪を告白するように、アゼル卿は暗い夜道を迷う事なく歩き続ける。
「さあ、話の続きはアトリエに入ってからにしよう。ここから先はロジェスティラ君にも聞かせてあげたいからね」
吾輩は猫でありながら今は人間である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、モフガルド・ニャンディアス3世、キミリア。人間の名前はヤマト。
辿り着いた今にも倒れそうなあばら屋の前で、吾輩はこれから起きる事の予想をやめた。
ここから先は吾輩が知らない物語。知識も先入観すらも捨てて挑まねばならないと理解したから。
祝 黒猫呼び卒業
長かった………漸く、主人公を名前呼びできる。
という訳で改めて、黒猫の本名は〇〇大和です。
ヤマトって気軽に呼んでください。
感想、評価ありがとうございます。励みになります。
どしどし応募ください。待っています