吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。   作:シャモロック

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うおおおお! アゼル卿! これが吾輩の魔法なんですか!?

 吾輩は人間になった猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、モフガルド・ニャンディアス3世、キミリア。人間の頃の名前はヤマト。

 それでは早速とばかりにロジェスティラを椅子に座らせると注射器を取り出す。中々に針が太い。ロジェがビビり散らかしている。吾輩もちょっと尻尾が震えてる。

 

「ううっ………」

「大丈夫か、ロジェスティラ? 手でも握ろうか?」

「………お、お願いします」

 

 ぎゅっ、と片手で吾輩の手を掴むロジェ。子供らしく、注射器に怯える姿は可愛いが、

 

「そーれ、ぶすっとな」

「あっ!!」

「あがあっ!? て、手がッッッッッ!!」

 

 いきなりの刺激にロジェが咄嗟に力が入れたせいで吾輩の掌が圧縮された。というか完全に変な音した。大丈夫? 吾輩のおてて取れてない? 猫の手くらいに小さくなってない?

 

「馬鹿かね、ヤマト君。少し考えればそうもなろう」

「だ、だとしても………震える少女に手を差し伸べるのが男ってもんでしょう………ちなみにおれのおててはどうなってます?」

「ふむ、新種のミイラみたいに細くなってるね。治そうか?」

「是非頼みます」

 

 あまりにも咄嗟すぎてアドレナリンドバドバ状態のうちにさっさと治してほしい。アゼル卿はロジェの注射器をホースらしきものに繋ぐと、パックに繋いだ。あれで血を確保するらしい。

 

 その後、棚をゴソゴソと探すと何かしらの薬品を………すげえ煙と泡立ってるけどほんとに大丈夫?? 吾輩の手をさよならグッバイしない? 

 

「安心したまえ。これには未完成の賢者の石を溶かしたものでね。シュレディンガー君も作っていたんじゃないかい?」

「作っていたかもしれませんが………現物を見ていないので」

「そうか。これは治癒力を高めて一気に治す薬でね。もっと煮詰めて、繊細な調合を重ねると更に毒々しく、粘性を増して、刺激臭もするようにするが、若返りの薬にもなるのだよ。シュレディンガー君はこの薬の精製に熱心だったな」

 

 とある女騎士の顔が思い浮かんだが、心の中で十字を切った。モルガナの検証に利用されてるアルチナの武運を祈る間に吾輩の手にそれがぶっかけられる………すると、逆再生のように戻っていき、1分もすれば綺麗な手に戻った。

 

「おおう! 治った! 凄いな、錬金術って!」

「ふふ、興味があるかい? シュレディンガー君にも頼まれてるからね。検査や実験の間は暇だろう。これでも読むといい」

 

 窓際にある立派な机の上に置いてあった冊子を受け取る。アゼル卿が持つには随分と新しい本だ。まだ作成したばかりなのか、紙とインクの匂いがするのだから。

 

「題名は………『クロス・レシピ』? 著者は『夜明の錬金術師』クロス。この人って王国を設立した、あの?」

「左様。それはクロス氏が積み上げた錬金術の極意………その初級編だ。錬金術の学校でも使われている教本でな。王国の錬金術師は皆、そこから始めるらしい。私は帝国で技術を目で盗んで覚えたが、効率が悪いからな」

「もしかして、わざわざ用意してくださったんですか?」

「用意したとも。とある黒猫好きな錬金術師からの寄与だ。礼は彼女に言っておくといい」

 

 後半の声はロジェに聞かせないためか、小さかったが確かに伝わった。今度モルガナと飯を食うときにでも感謝を伝えないとな。

 

「では、ロジェスティラ君。暫くは大人しく待っていてくれたまえ。それまで暇だろうから、本でも置いていこう。文字は読めるかね?」

「あ、はい。父さんから教わったし、王国に来てからはリリィさん達が教えてくれたので」

「よろしい。それなら………この『爆ぜる天の暴君〜極悪義母は国を崩壊させるようです〜』を渡しておこう。退屈に耐えられぬ時に読むが良い」

「何の何の何!?」

「因みに著者はユニティ・ブバスティスだ」

「ユニティさん!?」

 

 サイドテーブルに置かれたユニティの作品にドン引きながらも、暇には耐えられなかったのか表紙を捲り始めたロジェ。その間に、吾輩はアゼル卿に手招きされると、別の部屋へと繋がる扉を潜る。

 

 こちらは先程の部屋とは違って、薬品の匂いが凄い。乾燥したハーブの爽やかさと、焦げた硫黄のような刺激臭、そして古い紙の香りが入り混じった、鼻の奥がツンとするような独特の芳香。

 

 加えてコトコトと煮える鍋の音、時折パチパチと爆ぜる暖炉の火、そしてどこからか聞こえる「カチ、カチ」という不規則な歯車の回転音。ふと、見上げて見れば天井に大小さまざまな歯車があり、それが噛み合って何かを動かしてる音だった。

 

「さあ、そこに寝てくれるかい? 勿論、服は脱いでくれたまえ」

「分かりました」

 

 部屋の壁は、床から天井まで届く重厚な黒檀の棚で埋め尽くされ、そこには、背表紙が擦り切れた古めかしい魔導書や、ラベルの剥がれかけた薬瓶が所狭しと並んでいる。

 

 その中央、先程の石造りとは違う木製の玉座に服を脱いで寝転がる。最低限として、股間は隠してもらった。流石に全裸は避けたい。猫の時は全裸じゃないかって、アルチナ辺りに言われそうだけど。

 

「では、少しばかり魔力の投射をさせてもらおう。因みに私の属性は水だ。なので、この液剤を飲んでくれたまえ。魔力投射がやりやすくなる」

「あの、これって人体に影響は………」

「………………」

「そんな黙って微笑まないで貰えます!? 滅茶苦茶心配になるんだが!?」

 

 とろり、とした液体だが匂いがえぐい。こう牛乳を雑巾で拭いた後に発酵させたような腐敗臭がする………ええい、吾輩も男だ! 

 

「そーれ、一気。一気」

「いやな飲ませ方しないでくださいよ………味は酸味が強いオレンジみたいなのが逆に気味が悪いな」

「まあまあ。解剖よりかは良かろう? では始めようか。寝たまえ」

 

 アゼル卿が用意していた桶に手を濡らすと躊躇いなく吾輩の腹に置くので冷たさに肌が泡立つ。何というかエコー検査を受けている感じだ。

 暫く吾輩の腹部から、胸部をなぞり、吾輩の額に指を置く。

 

「なるほどのう。だいたいわかった。一応、血液をもらって良いかな?」

「どうぞどうぞ」

 

 腕を差し出せば、先程よりは細い注射器の針により血を抜かれる。見ればしっかりと赤い血だ。良かった。実は青かったり、緑だったりしたらどうしようかと。

 

「さてと、私が何を調べたかったか教えておくとしよう。クロス氏が残した3つの要素は全てが死者蘇生に繋がっているのは事前に説明したな? その1つULシリーズは先程見せたようにただの人形にしか見えなかったはずだ」

「確かに外見は本当に人間みたいだった………顔以外は」

「その通りだ。加えて、ある程度の身体の大きさはこちらで調整せねばならないが、そこはいい。問題は外面ではない………中身だ」

「中身? あっ、臓器とかって事ですか?」

「如何にも。クロス氏のレシピにはそこまで深くは書いてなかったからな。これでいいのか、不安になったのだよ。やはり、賢者の石を埋め込んだ上で魂が入ると中身も伴うというのか」

「まあ、中身の構造が分からなくても外観がしっかりしてれば騙されるものでは?」

「しかし、中身がわからない道具など怖くて使えないだろう? まさか、ヤマト君はそんな道具を使っていた事はあるまい」

「………せやな!」

 

 ………スマホとかテレビとか全く構造分かってないけど、吾輩使ってたのは黙っておこう。前世だとみんなその筈だしな! なっ!

 そんな吾輩に対し、先程の血を試験管に入れて揺らすアゼル卿は真剣な眼差しでこちらを見ている。真面目な話かと吾輩も体を起こして背筋を正す。

 

「先に伝えておこう。ヤマト君、今の君は人間に近いが………分類上は亜人だ。薄々気づいてはいたかもしれないが」

「………だろうな。シュレディンガーも気づいてるか?」

「当たり前だろう。錬金術師たるもの。自分の創造物を把握してなくてどうする。見た限りは猫の獣人のようだ。とはいえもっと別の種族の可能性もある。外に出る時は気をつけろ。私のように亜人に寛容なものばかりではないのだから」

「肝に銘じておきます」

 

 服を着て、帽子を被る。人間形態を得たのはいいが、亜人である事がバレたら些か面倒なのは間違いない。ロジェの件が終わったら、再び猫に戻って生活した方がいいかもな。

 

「ああ、それとついでだが。どうだい? 君自身の魔法を調べてみる気はあるかな?」

「え? 魔法、ですか?」

「うむ。君は珍しい空属性の魔法を扱えるが、ドラゴ殿から聞いた限り、死ぬ寸前に魔法が変質したようじゃないか。本来、そのような事はあり得ぬからな。何かしらの関連性を腰を落ち着けられる間に調べて見るのはどうだ?」

 

 アゼル卿の提案は願ったり叶ったりだ。吾輩もロジェに噛まれて死ぬ前に発動した魔法はいつもとは違った。それに、人間形態になれるようになってからは、魔力の流れがいいというか引っ掛かりがない。澱みなく流れるような感覚も調べたかったところだ。

 

「その結果、シュレディンガーにも渡していただけるなら」

「無論だとも。では早速始めよう。少し待ちたまえ」

 

 あーでもない、こーでもないと棚や引き出しを漁るアゼル卿に暫く待った後、それらしき水晶のようなものが目の前に差し出された。これはあれか? 異世界ファンタジーによくあるステータスオープンのやつか?

 

「これは『五生の写見』という錬金道具でな。これもクロス氏が生み出した魔法属性を調べるものだ。まずは触れて魔力を流しておくれ」

「なるほど、ステータスオープンではなく水見式的な………こんな感じかな?」

「魔力を流した後、暫くすると水晶の中が炎、水、風、土で埋め尽くされる筈だ。だが、もし空属性の場合は………」

 

 アゼル卿の言葉が最後まで言い終わる前に水晶が光で満たされた。まるで小さな太陽のように煌めく水晶に目を逸らす。暫く、目を逸らして瞑っていたが光は徐々に小さくなり、水晶内部に文字が浮かんでいた。

 

「このように対象者の空属性魔法の助言が映し出されるのだ。何を変化させるのか、何に効果を及ぼすのか。とかな」

「………所々、虫食いなのは何故?」

「空属性は魔力が変化しやすいらしく、そのブレが酷いとこうなるらしい。とはいえ、この道具が出来てからは悲惨な事故は大きく減った………それでも空属性は珍しい分、使い勝手も悪い。結局、役に立たない、使えないなどという悪い風聞は消えなかったがな」

「悲惨な事故って例えば?」

「自分の死をきっかけに空気を毒に変えるものや、いじめられた恨みを怨霊に変えて呪い殺すものだ。私が若い頃、帝国では頻繁に起きていたな。あの国は学習能力がないのだろうか」

 

 アゼル卿が愚痴る中、吾輩はとりあえず水晶に浮かんだ文字列を眺める。書かれていたのは以下の文字だ。

 

『〇〇なきものを〇〇あるものに変える魔法』

 

「何もわからないままじゃねえか!!」

「うーむ、ひさびさにハズレを引いたな。肝心な部分がさっぱりだ」

「これもう一回やったら分かります?」

「いや、無駄だ。それよりは実験で見極めるとしよう。何事も挑戦と検証の繰り返しだからな」

 

 楽な道はないよ笑。と水晶玉に嘲笑われた気分だ。ただ、アゼル卿にはこれすらも想定内だったらしく、サイドテーブルを吾輩の前に置くと、木製、銀製の匙を置く。その隣のお盆には素人目でもわかるダイヤモンドを思わせる宝石と、ただの石ころが置かれた。

 

「まずヤマト君の魔法の自認は何かな?」

「吾輩の自認は『貨幣を生み出す』魔法だったんだけど………死にかけた際に、貨幣ではなく銀そのものが溢れてきたんです」

「では、まずは匙を金の匙に変えてくれるかな?」

 

 とりあえず匙2つを両手で持ち、いつもみたいに魔法を使えば何事もなく、金の匙へと変わる。それを見て、アゼル卿は頷くと、次に真空管のようなものを持ち出してきた。

 

「では次は金貨を生み出してくれるかな? 生み出した分を今回の調査料にしよう」

「ちゃっかりしてますね………では」

 

 金貨を生み出すのは最早慣れたものだ。広げた掌に魔力を込めれば、空中から金貨が数枚ほど手のひらの上に落ちてくる。アゼル卿はそれを眺めると、触り、拡大鏡で観察した後、ゆっくりと胸元にしまった。堂々としすぎである。

 

「次にこの密閉した空間を金でいっぱいにしてくれるかな? ただし、機材には触れない事」

 

 アゼル卿の言葉に従い、魔力を通すが………ん? どうにもおかしい。掌からどんどん水が溢れていくみたいだ。霞を掴んでるような感覚に近い。

 そして、当然のように空間には金貨は生まれず、吾輩が首を傾げていると、納得したかのように真空管をしまう。

 

「最後に、この高価な宝石を銅貨に変えてくれたまえ。因みにだが価値は白金貨一枚だ。そして、この石は一見普通の石だがある性質を秘めていてな。売れば白金貨3枚は下らない。こちらも同様に。ではやってみたまえ」

「………か、変えたところで弁償は無しですからね?」

「白金貨も生み出せるによう言うわ。さっさとやりたまえ」

 

 おっかなびっくり、高価な宝石達に手を触れて魔法を使うが………先程と同じように魔力が流れていく。というか弾かれてる感覚だ。手を見るが、ダイヤや石は銅貨には変わっていない。

 

「なるほどな………因みにその魔法を維持したまま、聞いてほしい。宝石は本物だが、その石は朝の散歩でたまたま拾った石じゃ。なーんの価値もない」

「えっ、じゃあ何で嘘を………はっ?」

「やはりのう………そういう魔法か」

 

 アゼル卿の言葉に反論する前に石を握っていた手の感覚が変わる。ゆっくり掌を開けば、そこに石などなく、じゃらじゃらと銅貨が音を鳴らして存在を示していた。

 そして、目の前の錬金術師は答えがわかったように深く頷くと俺の掌から宝石を取ると代わりにまた石を置いた。今度は金貨にでも変えたらいいのだろうか。

 

「最終確認だ。ヤマト君、その石を………宝石に変えてはくれぬか?」

「い、いやいやいや! 宝石に変えるなんて、出来ませんよ。そんな事、今までだって金貨は産んできましたが、宝石なんて………!」

「つべこべ言う前にやってみせなさい。そうすれば自ずとわかる」

 

 何かしらの確信を得たのか、自身ありげに言うので吾輩もおずおずと魔力を流してみる。多分、普段通りに魔力を流して金貨に変える流れを宝石に………さっきのダイヤに変えるつもりで魔法を発動させる。

 

「なるほどなるほど………使い方によっては世界がひっくり返るな」

「な、んで………石が宝石に変わるんだよ!? 金貨を生み出す魔法じゃなかったのか!? 吾輩の魔法は!」

 

 開いた先に石はなかった。そこにはキラキラと光を吸って輝く透き通るような宝石が1つ。掌に転がっていたのだから、驚きもする。検証結果が間違いではないとアゼル卿は頷き、吾輩の手からダイヤを取りながら、その言葉を持って証明を完了させた。

 

「ヤマト君。君の本当の魔法は──『価値なきものを価値あるものに変える魔法』だ。対象は君が触れたものに限られ、君の自認で石を宝石にすら変えられる。金貨は空気や土を無意識に変えていたのだろう。逆に言えば、君が価値など無いと思えば………恐らく人間ですら金貨や宝石に変えられる魔法。長年生きてきた中で、これほどまでに恐ろしさを感じたことはない」

 

 アゼル卿はそこまで言うとダイヤを吾輩に投げ渡す。素人目線でもこれが到底偽物だとは思えない。ましてや、調べてくれた相手があそこまで冷や汗をかきながら焦る姿なんて見たことなかった。それが逆にリアルを、事実を教えてくれているようで、身震いする。

 

「なあ、ヤマト君。君の生み出した空属性魔法──『芸術魔法』にしかり、君自身の魔法にしかり、君の生み出すものは私の常識を遥かに超えている。だから、教えてくれたまえ」

 

 アゼル卿は気付けば吾輩から距離を取っていた。その手には三角形が組み合わさり生み出されたプリズムと、その中に潜む禍々しい何か。それをこれ見よがしに見せつけながら、アゼル卿は厳かに吾輩に問いかける。

 

「君は一体、何者なんだい?」

 

 吾輩は人間になった猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、モフガルド・ニャンディアス3世、キミリア。人間の頃の名前はヤマト。

 吾輩の正体だって? そんなの吾輩が知りたいわ。




アゼル卿「何それ、知らん………怖」

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