吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。 作:シャモロック
次回は遅れるかもしれません。
ちょっとラクーンシティに行かないといけないので。
吾輩は人間になった猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、モフガルド・ニャンディアス3世、キミリア。人間の頃の名前はヤマト。
アゼル卿の視線は鋭い。手に遊ばせている真っ白な三角の構造体もとても怖い。これもしかして、尋問フェイズに入ってらっしゃる?
「かつて空属性魔法は今よりも扱いが悪かった。空属性だからと嬲られ、捨てられ、魔族側に付く者達さえいたとされる。だが、その不条理を変える為にある者達が編み出した2つの『魔術』が空属性魔法使い達を救ったのだ」
「『錬金術』と『神聖術』か………」
「ほう、流石にそれは知っているようだな。魔法が世界に変化を齎す力という事に目をつけ、魔物の素材や迷宮から取れる素材を変化させて武器や道具に様々な効果を付与する『錬金術』」
「そして、魔の者達を倒す為に編み出した『神聖術』だろ? 法国だと熱心に指導されてるらしいな」
「そうだ。それらは聖女勇者とクロス氏によって編み出されたとされている。分かるか? ヤマト君。君がシュレディンガー君やキャロル君に教えた魔法………"芸術魔法"はそれと同じだけの価値があると言えるのだ」
「い、いやいや。アレは正確にはおれが編み出した物じゃ………」
「馬鹿者が。生み出した本人が価値を認めんでどうする。全く、我が宿願が叶う時に限って不測の事態が起きすぎだ。神は私の事が嫌いなのだろうか」
手遊びしていた三角が空間に沈むように消える。見れば指輪が光っていたように見えた。異世界ファンタジーでよく見るアイテムボックスみたいな道具だろうか?
「まあいい。大方、予想はつく。其奴らが現れた時はいつだってそうだ。結果をまるで見てきたかのように過程を穴埋めし、題目を立てて後世に名を残す。勇者達の中にもその存在がいたのだろう。ゆえに少人数での先代魔王討伐を果たしたのだからな」
アゼル卿はそこで話を切ると、目の前から姿を消した。呆気に取られる吾輩を前に、肩に手が置かれた。その手は強く、骨が軋むほどに吾輩の肩を掴んでいて。思わず唾液を飲み込んだ。
「君は………『異界』から来たのだろう? 帝国にいた頃には君のような奴らを見てきたから分かる。異界から来た者達は全員が強力な魔法や知識を有しているし、察するに君は魔法の進歩を進める為に召喚されたのだな?」
全然違いますけど?? なんて言える空気ではない。どころか、貴方達は物語の作品で吾輩はその作者でした!なんて言える訳がない。絶対に頭がおかしい奴扱いされる自信がある。
なので、吾輩がやる事はただ1つ。
「アゼル卿──全く持って仰る通りです」
全力でその建前に乗っかることにした。
だって、ほら。吾輩が元人間である事とかも『異界』から来たからとかで説明付きそうじゃん? 帝国で召喚されて、反抗されたから猫に変えられたとかの推測してくれそうやん? 吾輩が曖昧に微笑むだけで何とかなりそうだもん。
「そうか。猫にされていたのもそういう事だな?」
「ええ、そうです(何も分かってない)」
「シュレディンガー君達にこの事は?」
「話してません(これは本当)」
「なら、この事は私の胸に留めておこう。いつか必ず自分の口で話すといい。驚かしてすまなかったね。帝国からの刺客として遣わされたのかと冷や冷やしていたんだ。何せ、私が失敗すればミスト王女は亡くなるのだから」
アゼル卿の体から、こちらを刺すような疑念が消え、肩を掴んでいた手から力が抜ける。ぽんぽん、と肩を叩かれながら懐から懐中時計を取り出すと、隣の部屋を親指で示した。
「もう結構な時間だ。ロジェスティラ君を回収して、今日は帰るといい。暫くは、ロジェスティラ君の血を研究するからまた手がいる時は声をかけよう。それまでは好きにしていて構わない………ああ、いや、出来れば頼み事があるんだが」
「頼み事ですか?」
「何、簡単なお使いだよ。その事はロジェスティラ君も交えて話をするとしよう。もう十分、血も取れただろうしね」
隣の部屋に移動すると、ロジェは食い入るように本を読んでいた。積み上げられていた小説が既に3冊目に入ってるのを見ると、余程気に入ったらしい。声をかけても気づかないので、仕方なしに本を取り上げようとして………ちょっ、力が強い!
「待って! 今、いいとこなんだ! 極悪義母が捕まったメイドを助ける為に寄生蟲に支配された村に助けに行くとこなんだから!」
「もう夕方なんだから帰るぞ! 食料もないんだから、買って帰らないといけないんだから」
「うっ………それは、そうだね」
「余程、気に入ったようだな。良ければ譲っても構わんよ」
「っ! いいんですか!?」
「無論だとも。私もたまたま押し付けられただけだからね。食指も動かんし、処分するには勿体無くて困っていたのさ。もらってくれると助かる………全30巻をね」
「ゴミ処理を押し付けてませんか、アゼル卿」
吾輩の質問に微笑みながら、黙る事で回答を返すアゼル卿。彼女の腕から針を抜いて、ふとその動きが止まる。吾輩も目を疑った。だってそこには、血が虚空から滴り落ちて、ロジェの腕の中に入っていく姿があったのだから。
「ロジェスティラ君、これは何かね?」
「あっ、え、と。ほ、本を読んでたんだけど、血が抜かれすぎて気が散るのが嫌で………魔法で赤い絵の具を血に見立てて補給してました」
「………それはどれくらい前からかな?」
「確か、2時間前くらい」
アゼル卿は微妙な顔で、溜まっていた輸血パックに印をつける。恐らく純粋なロジェの血液と魔法によって補填された血が同じか判断しなくちゃならない仕事が増えたからだろう。
文句を言いたくもなるが、依頼したのはこちら側だし、子供相手なのでやりきれないという感情がありありと浮かんでいる。
「さてと、それで頼みがあってね。明後日でいいから、薬をミスト王女まで持って行ってほしい。服用に関してはウルシュラが分かっている筈だ。ここまで来て、失敗とか笑えないのでね」
「分かりました。入城についてはどうすれば」
「私が事前に話を通しておこう。そうすれば、入口までウルシュラが迎えに来てくれる筈だ。簡単なお使いとはいえ、王城に入るのだから失礼な真似はしないように頼むよ。特に、ロジェスティラ君? 君のおかげで城の警備を見直さなきゃならなくなったからね? 分かるかい?」
「あ、あのもしかして怒ってます??」
「ははは、まさか怒ってないとも。本当だとも。この忙しい中に仕事を増やしおって………なんてね」
「ご、ごめんなさい………」
渡された薬は粉薬のようで皮袋に入れられていた。それを大事にしまい直して、ロジェが30巻の本を袋に入れてもらった後、愚痴ついでに見送って貰った。ロジェは肩身が狭そうだったが、いつかやる事を前もって気付けたのだからそこまで怯えなくていいと思う。
受付には気怠そうな男から笑顔が素敵なお姉さんに変わっており、賃金ですと皮袋を差し出される。中身は銅貨20枚だった。吾輩が金貨を生める事は知っている筈だが、義理堅いようできっちり報酬を払ってくれるのはありがたい。
早速だが、この銅貨で買い物でもしようかな。店もそろそろ閉まる時間だから、値引き交渉とか出来るかもだし。
ロジェにも買い出しの提案をすると、快く頷かれて、荷物持ちもするよ!と言われたがまずは荷物を置いて来なと言うと、颯爽とアトリエに帰っていった。そして気づく。
「もしかして、吾輩初めて1人で王国を散策してるのか」
いつも誰かがそばに居たし、猫の時は吾輩抱えられていたしな。日が傾きかけて来たとはいえ、治安がそこまで悪いわけでもない。基本的には軍人が見回りをしてくれてる筈だ。ドラゴ殿が雑談でそう言ってた。
なので、吾輩は市場をぶらりと散策する。品揃え自体は初めて来た時と変わりはないが、今回欲しいのは食材なのでそれを重点的に回る事にした。
市場の活気は時間が時間だからか、それほどでもないがゆっくり見て回るには非常に助かる。
やはり、火山地帯だからか根菜類が多いのが特徴のようだ。さつまいもやじゃがいもや大根みたいな根菜類がデカいのに安い。暇してた店主に話しかければ、野菜を買うついでに色々な話が聞けた。
「やはり、主菜はパンとかが多いのか?」
「やっぱ、この辺りは火山地帯だからな。稲よりかは小麦の栽培が主流よ。米は水が豊富に使えねえと意味ねえから、小麦を使ったパンやウードンが主流だな」
「ウードン?」
「小麦を使った細い紐みてえな料理だ。後はソバってのもある。クロス氏の弟子が再現した料理でな。王国だと結構気軽に食えるんだぜ。この辺りがおすすめだな。嬢ちゃんみたいな顔でも入れるくらいには上品だから、安心するといい」
「うどんって事か、ありがと。素敵な店主さん。良ければ野菜買わせてくれないか? 買った野菜はこの袋に詰めてくれ。錬金道具なんだ」
「おいおい、金食い虫をお持ちとはな。もしかして嬢ちゃん、お忍びのご令嬢だったりすんのか?」
「そこは秘密って事で。因みにウードンや蕎麦とかパンを買える店はあります?」
「おう、俺の酒飲み仲間がやってるパン屋がいいぞ。あそこは安い割にはいい質の小麦を使ってるからな。朝飯には持ってこいだ。白いパンも売ってるが、高えぞ。大人しく黒パンにしとくんだな。多少硬いがスープに入れりゃ変わりはしねえ」
豪快な店主から色々な話が聞けた所で吾輩が猫から愛用してる金食い虫に野菜を放り込んでいく。とはいえ、何も持っていないとロジェが戻って来た時に不思議がられてしまうからな。パンを買いに行くとしよう。
「おいおい、お嬢ちゃん。こんな時間にどこ行くの?」
「え、いや、買い物に………」
「こんな時間帯からは危ねえよ。因みに何買うつもり?」
と、足を進めた矢先に2人の黒い壁が立ち塞がる。吾輩より上背で黒い軍服に身を包んでる姿から、恐らくは見回り中の軍人なのだろう。まあ、吾輩の見た目は女性だからな、心配で声をかけて来たところか。
「そこのパン屋に行くつもりなので大丈夫ですよ」
「いやいや、あそこのパン屋は危ねえよ。この間も食中毒が出たばっかりだしな。俺らがいつも食ってる店に案内してやるよ」
「そうそう。めっちゃ美味いもんご馳走してやっからさ!」
へえ、地元の名店ってヤツかな? 吾輩の両側を挟むようにして肩に腕を回してくる。セクハラでは? 吾輩男だからいいけどさ。
ただ並々ならぬ威圧感ではある。普通の女性なら、こんなまるで逃さないように囲まれたら………待って。
「あの、路地裏の方に店があるんですか? こんな時間からそんなとこは危ないんじゃ」
「大丈夫大丈夫」
「オレらつえーからさ。暴れても逃げてもだいじょーぶ。だから、嬢ちゃんも楽しもうよ。オレらと一緒に、さ!!」
先程まで人好きするような顔をしてたはずなのに、いきなり愉快げに口角を上げて路地裏に、人がいない方に吾輩を連れ込もうとしていく。
このままでは吾輩の貞操が危ない! そして奴らの性癖も危ない! 余裕あるじゃないかって? いやまあ、今までの間近に迫る死の危険に比べれば軍人失格の男達にそこまで怯えることもないだろう。
何かを宝石か金貨に変えて、気を逸らしてその間に魔力強化で逃げ出す。それで行こう。金食い虫から芋を取り出し、宝石に変えようとした矢先、
「あら、そこのおにーさんたち? こんな時間にどこ行くのぉ?」
聞き慣れた声が背後からした。振り返れば、そこには紫髪の妖艶なお姉さんがにっこりと笑顔を浮かべて立っている。男達も口笛を吹くほどに魅力的な女性だ。
「へえ、いい女だな。些か年齢行ってるが」
「なんだ? 見せもんじゃねーぞ。それより、お前も相手してくれんのか?」
彼らは知らない。その女性が何者なのかを。なぜ知らないのかが理解できない。双璧の1人を大勢の軍人の前で撃ち倒した騎士の名を。
「あらやだ。お姉さんが声をかけるのはそこの人だけよ」
その騎士は指の骨をパキパキと鳴らすと、こちらに歩み寄ってくる。澱みない魔力強化をしながら、死地を潜り抜けた威圧と共に。
「ねえ、そこのおにーさん? 良かったらお姉さんとお茶しない?」
刻印の魔女──アルチナは逆ナンを仕掛けてくるのだった。
吾輩は人間になった猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、モフガルド・ニャンディアス3世、キミリア。人間の頃の名前はヤマト。
なお、男たちを倒すのに1分も掛からなかったのは流石である。そのアルチナはニコニコで吾輩と腕を組んでいたのだが。
ロジェ「助けに行こうとしたら、アル姉がいるせいで出られない………」
次回はアルチナとデート回です。
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