吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。   作:シャモロック

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疲れただろ? 今日はもう寝ようぜ

 吾輩は猫である。名前はまだ………いや、10年前つけられたな。

 

「クロ。ごはんですよ」

「いつもすまないな。モルガナ」

「謝らないでください。私達は家族なんですから」

 

 吾輩の名前はクロである。ベタと言えば、ベタだがまあそれもいいだろう。そして名付け親のモルガナはすっかり成長して、村でも評判の美少女になっていた。

 

 月の輝きを溶かし込んだ銀髪に、知性を湛えた深い青の瞳と成長すれば美人間違いなしだ。それこそ、踏まれたいや射精管理されたいとかのスレが立つほどに。

 

「宿屋の仕事は平気か? 辛くないか?」

「はい。大丈夫ですよ。皆さん、優しいですし、屋根裏部屋とは言え自室をくれるなんてよくしてもらっていますから」

 

 さて、拾われてから10年の月日が流れたわけだが吾輩達はあの拾われた村でお世話になっている。

 当時は食い扶持がどうたらとかで捨てられないか、無駄に周りを威嚇していたがよくよく考えればこの村はとても原作ゲームとは思えないほど民度が良かったことを思い出した。

 

 少なくとも、大人になり美人になったモルガナが唯一幸せだった頃と夢に見るくらいには幸福に溢れた日々………という設定だったのだから。

 

 なので吾輩も彼女の生活にあまり口出しはしない。彼女には彼女の生活があるべきで、吾輩は本当に必要な事しか口にしないようにしている。例えば、彼女が覚えるべき魔法とか。

 

「それに、クロが看板猫になってくれたおかげで旅人がよくお金を落としてくれるようになったとも言っていましたね。クロは幸運の招き猫?なんでしょうか?」

「金貨ならすぐに出せるがな。そら」

 

 空中で手を招くと、虚空から金貨が1枚落ちてくる。そう、10年で気づいたが、吾輩はとあるチート持ちだったようだ。能力は吾輩が欲しいと思った分の金額が補填されるという金銭チートで幼い頃の育成費用では大助かりだった。

 

 何せ、吾輩は猫だ。森の中を散策する事に誰も違和感を覚えず、まして金貨を3枚ほど生み出し、帰ってきてモルガナを引き取ってくれた宿屋のおかみさんに手渡す行為も運良く金貨を拾ってくる猫として扱われていたのだから。

 

 そのせいか、ちらほらついてくる若者が増えたので森の中に適当に銅貨を隠すようになったが、まあいい。金さえあれば人間の世界は渡っていける。モルガナは将来、一国を動かせるようになるしな。

 

「クロ。私はそのようなものはいらないと言ったでしょう? 私は貴方やこの村の人と穏やかに暮らしていけたらそれでいいのです」

「………そうだな」

 

 うりうりと吾輩の顎下を撫でるモルガナの顔には笑顔が見える。その笑顔が後、1週間も経たないうちに消えてしまう事を吾輩は知っているのだ。

 

 吾輩が森を散策しているのはただの金貨を生む言い訳ではない。迫る敵の姿を探す為だ──帝国の皇女たるモルガナを始末する近衛騎士達、幸せを壊す不吉の象徴を。

 

 吾輩が描いた漫画の通りに話が進むならば、モルガナは人間達の国の中で最も強大で最も愚かである帝国の姫君なのだ。

 かつて、元が鬼畜リョナゲームという舞台から逆算して吾輩はこの世界を男尊女卑の過激な世界だと推測し、そう定義した。

 

 でなければ、魔女達が戦争の前線に立つこともモルガナがガニ股チン媚び腰振りダンスをさせられても誰も助けないどころか、率先して犯しに来るわけがないのだから。

 

『帝国に非ずんば国に非ず 男子に非ずんば人に非ず』

 

 そんな世界でこんな御題目を掲げさせれば、皇帝の後継として生まれた彼女は人間としては扱われない。しかし、そんな彼女を憐れに思った乳母により、森に捨てられた事で彼女は村で健やかに育ったのだ。

 

 だが、時がすぎてその事実が発覚。乳母は一族郎党晒し首にされ、近衛騎士達は愚かな女を始末しに森を捜索していたのだった。

 進行速度からして、1週間という数字に狂いはないだろう。こんな展開にした自分に嫌気が差す。

 

 1週間後は、モルガナの11歳の誕生日だ。

 

 まさか現実になるなんて………とは口が裂けても言えないが、吾輩のお腹に顔を埋めて深呼吸してる彼女を巻き込むわけにはいかない。これが悲劇の始まりなのだ。魔女として歩き出し、肉便器として終わるクソッタレな物語の。

 

「ほれ、昼休憩もそろそろ終わりだろう? 早く仕事に戻りなさい」

「………まだ一緒にいる」

「もう11歳だろう? いつまでも吾輩は一緒にはいられないんだ。少しは独り立ちをしなさい。15歳の成人の儀まですぐじゃないか」

「私達は家族でしょう? なら、永遠に一緒であるべきです」

「そうだ。吾輩達は家族だが………それでも猫である以上、吾輩は主より早く死ぬのだぞ?」

 

 寂しげに手を伸ばすモルガナの手を猫パンチで叩き落とす。そんな泣きそうな顔をしないでくれ。吾輩もとても苦しい。だが、いつまでも甘やかしてはいられないのだ。別れはすぐそこに迫ってきているのだから。

 

「私はクロとずっと一緒にいるもん!………いるもん」

「全く、主は本当に我儘だな。そんなことでは誕生日プレゼントは渡せないな」

「プレゼント!? あるの!?」

「ああ。しかもとびっきりのイベントも計画している。1週間後を楽しみにしているといい」

 

 やった、やったと可愛く小躍りするモルガナにやっぱりまだまだ子供だなと吾輩苦笑。彼女がパタパタと小さな足音を立てて、仕事に戻ったのを聞いて吾輩も外に飛び出す。

 

「おっ、クロだ。今日も見回りか?」

「あー! クロだ! もふもふさせて! もふもふ!」

「やあ、クロ。今日は川で魚が取れたんだ。やるよ」

 

 10年も経てば、この村の空気にも慣れた。当時は喋る黒猫を魔物のように思い、皆が恐れていたがモルガナを懸命に世話する吾輩の姿を見て徐々に評価を改めてくれたらしい。

 

 価値観を変えられず、魔物達と戦争を起こす帝国とは大違いである。時がゆっくり流れる穏やかなこの村が吾輩も大好きだ。

 だからこそ、吾輩は守らねばならない。この村をモルガナの悲しき過去として無駄に犠牲にするわけにはいかないのだ。

 

「こんにちはクロ」

「あっ、クロ! 今日も日課の散歩?」

「ロンにパトリシアか。今日も家のお手伝いサボって、冒険か? モルガナを見習ったらどうだ?」

「うっ! それを言われるとあたし弱いんだからやめてよー!」

「まあまあ、因みに僕は今日は休みだからね。サボりはパトリシアだけだよ?」

「裏切りものー!」

 

 てくてくと、森の入り口を歩いていれば木の上から声がした。どさりと落ちてきたのは、金髪の男の子と茶髪の女の子。男の子がロンで女の子がパトリシアだ。

 

 この村で唯一モルガナに近い年齢の男女であり、幼馴染と呼べる間柄だ。落ち着いたロンに元気いっぱいなパトリシア、そこにクールなモルガナを交えてよく森の入り口付近を散策しているのだ。

 

「全く、遊ぶのは構わないが森の中には行くなよ? 今はただでさえ、危ない。この間は人間の兵士達が入ってきていたからな」

「やだ! あたし達、何かした!?」

「えっ? それ本当かい? 村の皆には?」

「伝えてあるが、いきなり襲われるかもしれないとは思っていないようだ。その優しさや思いやりは美徳だが………吾輩、今回は嫌な予感がするのだ。故に森の中には入るな。出くわしたらどうなるか分からん」

 

 嘘である。吾輩、知っているのだ。漫画では兵士の存在に気づいたのは彼ら2人だったのだから。彼らは優しいから、兵士達を村にまで案内してしまった。

 

 惨劇の引き金を引いたのは彼らだった。自分達が案内した兵士達が村の人達を殺す姿を見て、後悔に苛まれた頃には──パトリシアは首だけの姿になり、ロンは炎に焼かれて死んでいった。

 

 そんな光景を誰が見たいというのだ。だから、口酸っぱく言わせてもらう。鬱陶しがられようが彼らが大事なのには変わりないのだから。

 

「いつ頃来そうなんだい?」

「1週間後だろう。あのイベントが起きてる最中だから、村人が奴らと出くわす可能性は低い。出来たらモルガナに気をかけてやってくれ。奴らは吾輩が対応する。狙いは恐らく吾輩だろうからな」

「あー確かに! ぽん太、お金をいっぱい生み出せるもんね!」

「だから、くれぐれも気をつけてくれ。陽が落ちる前には帰れよ」

「「はーい」」

 

 2人に見送られ、吾輩は森の中を走り出す。やはりというか、兵士達はかなり近づいてきているらしい。木の上から普通の黒猫ですよーの空気を醸し出し、盗み聞きを始める。

 

「しっかし、俺たちも楽な仕事ですねえ、団長! 娘1人を始末すれば、それだけで報酬が3倍なんですから!」

「臭い息を吐くな、副団長。だが、当然だろう。俺様はただ1人を除いて剣の天才と言われる男なのだからな! がーはっはっは!」

「その1人も女ですから、人間じゃありませんしねえ。今頃、魔物達と戦って死んでるじゃないんですかぁ?」

 

 今も懸命に生きてるぞ、そいつ。片腕欠損して顔にでかい傷作りながら魔物達相手の戦線を維持してるからな、あいつ。魔物達からも人間のレベルが彼奴になってるからな? 貴様だとすぐ死ぬぞ。

 

 まあいい、奴らはもうすぐ陽が落ちるからと火を起こし始めた。野営のことがわかっていない馬鹿である。煙のせいで村人達も兵士の存在に気づいたのだから、ある意味都合がいいが………それは村も同じだな。生活で起きる煙から奴らも大まかな道を決めているのだろう。

 

 しかし、パトリシア達がいない以上、道程が短縮されることはない。兵士達に気付きながら、村人が逃げられなかったのは案内人による時間短縮のずれのせいだ。

 1週間かかると見ていたのに、5日で来られたら対応など不可能に決まっている。

 

「さて、日も落ちてきた。そろそろ動くか」

 

 騎士よりかは蛮族に近い団長と呼ばれた男が率いる小隊の数を数え、奴らが酒盛りを開始した頃に夜に紛れて、忍び寄る。気分はまるでスネークだ。奴らが飲む酒樽に近づくと、とある粉末を溶かし込む。

 

「なんだ!? って、ただの猫か」

「にゃー」

 

 無論、近づいていたことがバレるが問題はない。酒を飲もうとする振りをすれば、首根っこを掴まれて森の中に思いっきりぶん投げられるからだ。動物愛護団体が黙っていないぞ。

 

「あの黒猫、この間も来てましたよね? 首輪があるから近くに村があるのでしょうか」

「煙からして近くにはあるんだろうよ。だが、あそこまでして酒が飲みてえとはふてえ野郎だ。次に来たら切っちまうか」

 

 華麗に草むらに着地した後、そんな会話を尻目に吾輩もフェードアウトする。既に仕込みは済んだ。勝利の美酒に酔いしれてるといい。吾輩、決して油断はしないぞ。

 

 尾行されても嫌なので猫にしか渡れない狭い通路や岩の隙間を抜けて、村へと帰宅。そのまま宿屋へ向かい、女将さんに挨拶と銀貨を手渡し、そのまま屋根を伝い、屋根裏部屋へ向かう。

 

「クロ、おかえりなさい。見てください、課題達成しましたよ!」

 

 窓をかりかりと音を立てれば、やり切った感あるモルガナが部屋に出迎えてくれた。吾輩の後頭部に顔を埋めるモルガナを尻目に、床に目を向ければそこには立派な小さな家があった。

 

 魔女にのみ、許された魔法──『芸術魔法(アート・アーツ)』の1つ。"建築"だ。

 

 吾輩、スピンオフ漫画を描くにあたって悩みに悩みまくったのは魔女達が使う魔法である。特に主人公が女限定で命令を聞かせられるエロゲあるあるの魔法のせいで魔女達もそれに支配され、自分の魔法を使うのだが………

 

 モルガナの魔法は『セッ○スしないと出られない部屋を作る』だ。

 もう一度言う。『セッ○スしないと出られない部屋を作る』のがモルガナの魔法なのだ。

 

 初めて聞いた時には吾輩、宇宙を背負ったのを今でも覚えている。というか、最初は芸術魔法なんて名前では無かった。

 だって、種類がおかしいんだよ!! 出られない部屋から始まり、膨乳ふたなりなんかの肉体改造、触手や粘液プレイ、感度数万倍、強制催眠、銃殺や刺殺のグロに、時間停止とかどうしろってんだ!

 

 吾輩頑張った。そりゃ、とても頑張った。何かしらのモチーフがないかとか一生懸命に探したところ、辿り着いたのは──芸術だった。

 ある意味、性と芸術は関わりが深い。というかそう思い込んでやるしかなかった。締め切り近かったしな。

 

 その結果、その魔法の応用ね?くらいにまで落とし込んだのだから、褒めて欲しい。

 

「………素晴らしい。ここまで形にするとはな。後はもっと大きなもので作れば自分達の一軒家も作れるぞ」

「そしたら、2人っきりで暮らせますね。クロ」

 

 さて、吾輩の嘆きはこれまでにしてモルガナの魔法による家の完成度を褒める………いや本当に凄いな。漫画だと襲われた時に暴走して、村全体を屋敷として作り替えてしまったのだが、ここまで精密に作れるとは。ならばアドバイスはこれだけでいいな。

 

「モルガナ、主の魔法はいわば外と内を分断する。どんなに外が危険でも家の中に逃げ込めば、なぜか人は安心するだろう? それはその部屋が自分の安全地帯だと思っているからだ」

「つまり、私の魔法は安全地帯を作ると言うのが本質ですか?」

「違うな。安全地帯である認識、外敵を妨げるもの。そう言う認識をルールに変えるのが主の魔法だ」

「つまり、何かしらの条件を達成しないと出られない屋敷や入れない館などを作るのが私の本質なんですね」

 

 彼女の成長を間近で観続けてきたが、この理解力には舌を巻く。吾輩の娘が可愛くて賢くて、親としてはありがたい限りだ。

 

「ああ。だが、その魔法を使うのは大人になってからだな。今はまだ理解を深めるといい。無論、危ない時は使っていいが」

「………? 何故です? 大人にならないと負荷が高いからですか?」

「それもある………あるが、本当は違う」

 

 だからこそ、彼女の人生を曲げたくない。モルガナ、お前は国など起こさずに大切にしてくれる誰かと何事もない凪のような穏やかな生活を送ってほしいのだ。

 

「──吾輩が守るからだ」

 

 例え、1週間後に吾輩がいなくなっても主は自分の人生を歩んで欲しいのだ。ただの黒猫なんて忘れて、平和な陽の光が当たる世界を。

 

「うん………ありがとう、クロ。やっぱり、私、大きくなったらクロと結婚します。本当の意味で家族になります」

「その為には吾輩、人間に戻らないといけないな」

「大丈夫です。私に任せてください」

 

 モルガナの熱の籠った目に吾輩は笑って返す。微笑ましいこと、この上ない。将来はパパと結婚するー!って娘に言われて嬉しくない男親がいるだろうか。いや、きっといないだろう。吾輩、前世に子供いなかったけど。

 

「さていろいろあって疲れただろう? 今日はもう寝ようぜ」

「そうですね。また明日も楽しみです」

「ああ、おやすみ。モルガナ」

「おやすみなさい、クロ」

 

 藁を敷き詰め、シーツを敷いた簡易的なベッドに身を委ねるモルガナの胸元に抱えられた吾輩もゆっくりと睡魔に身を委ねていく。

 吾輩は猫である。名前はクロ。

 残り1週間、やれる事はやり尽くした。後は天に祈るのみだ。

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