吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。   作:シャモロック

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ラクーンシティから帰還しました。
デート回という名のヤマトの心情吐露回になってしまった………




やっぱり君のそばがいい

 吾輩は人間になった猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、モフガルド・ニャンディアス3世、キミリア。人間の頃の名前はヤマト。

 今はニコニコ笑顔なアルチナに腕を組まれて、店に連れ込まれた所である。店前のお品書きからして、恐らくは蕎麦屋だな。

 

 湯気とともに濃厚な出汁の香りが店内に入った吾輩の鼻をくすぐり、木造の椅子に腰掛ける。異国情緒に溢れた店内では夕飯に来たようなお客さんがちらほらと見え、それなりに繁盛しているようだ。

 

「ここはリリィ達が見つけたお店でねえ。是非ともとおすすめされたから、連れて来たのぉ。デートの約束もまだだったしねえ」

「悪いな、そっちから誘ってもらって。代わりに今日の代金はこっちで払うよ。好きなもの何でも頼んでくれ」

 

 気前よく、指先から銀貨を生み出せば彼女はくすりと笑った。お品書きらしきものを取り、彼女にも見れるように机に広げた。

 蕎麦自体は転生者のものだとして、素材自体は異世界のものらしく、様々な種類の蕎麦がそこにはあった。

 

「本日のおすすめは『マンドラゴラの天せいろ』に『トレントのキノコ蕎麦』か………おっ、普通のざる蕎麦もあるんだな」

「迷うわねえ………お姉さんはキノコ蕎麦にしようかしら」

「じゃあ、おれは天せいろにしよう。そしたら、分け合う事ができるしな」

「あら、嬉しい。ごめんなさい、注文お願いします」

 

 やって来た店員に注文を伝えて、どちらにするか?と聞かれたのであたたかいのと答えれば、店員は頷くと更に品書きを出して来た。

 

「良ければ蕎麦の前にこちらをどうぞ。連邦国から仕入れた『水竜の鬼わさ』や滅多に出回らない『コカトリス卵の極厚だし巻き』に王国でしか食べられない『錬金味噌の焼き味噌』などございます」

「蕎麦前って奴か、凝ってるなぁ。とりあえずそれ全部貰おうか。後はおすすめのお酒は?」

「火山の熱を使って蒸留した『溶岩妃』という麦のお酒と………焙煎した麦を使ったエール『煙王冠』が御座います」

「あら、じゃあその2つを頂こうかしらぁ」

 

 注文を終えるとニコニコとした顔で店員は戻っていった。そこまで蕎麦前を頼まれないのだろうか?と思案すれば、アルチナが品書きの値段を指で差す。なるほど、庶民が払うには些か高すぎるのか。

 

「馬鹿め。金で解決するならば吾輩の前に敵はない」

「やりすぎると国から目をつけられるわよぉ」

「それはそう。帝国とかにバレたら、飼い殺し間違いなしだろうしな」

「『異界の王子や姫君』みたいに女と美食をあてがわれてダメにされるでしょうからねえ」

 

 吾輩の魔法の真価がミダス王の手、しかも制御可能だなんて知れたら帝国だけじゃなくて王国でも不味い気はする。今のところアゼル卿で止まってはいるが、バレたりしたらきっと王国でも同じ目に遭う予感。

 

「それで、そっちの様子はどうだ? モルガナとか寂しがってないか?」

「あら。いい女とデートしてるのに、他の女の子に気を配るとかよくないんじゃない? お姉さん嫉妬しちゃう」

「君がそこまで器が狭いならな。おれが知る主はこれくらいは笑って揶揄ってくると思ってたが?」

「ふふ、じゃあお言葉に甘えて。姫様の事、気にしてあげてるのねえ? それでぇ、いつ貰ってあげるの?」

「また難しい質問を………」

「そこで『おれが好かれてるわけねーじゃん!』とか言わないのがおはぎ先生の美徳よねえ………あ、そうそう。お姉さんにも本名教えてもらっていいかしらぁ? 姫様が先生の名前を知って自慢げなのよねえ」

「そこまでおれの名前に価値があるか? ヤマトだよ。ヤマト。ただ呼び方は今まで通りおはぎ先生で構わない。そっちの方が慣れてるだろうしな」

「好きな人を名前で呼んであげたいって言うのは普通じゃないかしらぁ?」

 

 照れすら見せずに堂々と言わないでほしい。顔が熱い。彼女を直で見てあげられない。何だかこっちが恥ずかしくなってくる。もうすぐ三十路の男をそうまでして口説く必要があるのだろうか。

 

「それで、ヤ・マ・ト先生は姫様とお姉さんどちらを選ぶのかしら? あ、いっそ両方って言う感じかしらぁ?」

「主はそれでいいのか?? 帝国で一夫多妻の闇というか扱いは見て来てるだろうに。主はモテないとは言うが、王国ならそれなりに貰い手が………」

「私は、貴方に貰われたいって、言ってるのだけど」

 

 揶揄うような口調ではなく、固く人に言い聞かせるような物言いに吾輩も漸く彼女の顔を見れば、少しばかり目つきが鋭い。もしかして、ちょっとばかり怒ってらっしゃる?

 

「ヤマト先生? 貴方が嫌なら無理矢理お嫁さんになるだけだから、気にしないでいいわぁ。ただお姉さんの年齢的にもういい貰い手がいないのだけは分かってほしいのよ」

「積極的に押しかけ女房になりに来るのやめて頂けない? 無理にとはじゃなくて、無理矢理とか聞いたことない暴挙よ? だとしてもだ、主はこんな定職にすらついてない無職野郎がいいのか」

「あら。それを言うならお姉さんも無職のならず者よぉ? それに年齢も近いし、30代でも気にしなくて、辛い時に甲斐甲斐しく看病してくれて、原点を思い出させてくれるような男性がまた目の前に現れると思う?」

 

 圧が凄い。そして、この圧には覚えがある。嫁が26歳の誕生日を過ぎた頃からいつプロポーズしてくれんの?うん?という無言の圧以来だ。なお、ちゃんとその後に指輪を買って付き合って10年の記念日の旅行で指輪を渡したので許してほしい。吾輩鈍感主人公ではないのだ。

 

 ないのだが………この圧に屈してしまっていいのだろうか。

 

「お待たせしましたー。溶岩妃と煙王冠になりまーす。それとこちらが鬼わさに卵焼き、焼き味噌です」

「はーい、ありがとう。じゃ、ヤマト先生。どうぞ?」

「あ、ああ。ありがとう」

 

 とくとくと、徳利から、というか再現してるの凄いな。アルチナからお酌されて、溶岩妃とやらを口に運ぶ。話しぶりからして、麦焼酎っぽいが果たして。

 

「〜〜っ! 喉を通る時の熱がまるで溶岩みたいだが、熱さの後に酒精の刺々しさがない! これはいいな、麦焼酎としたら今まで飲んできたものより美味いかもしれないな!」

「ヤマト先生は結構、お酒いける口なのねえ。潰れた事とかあるの?」

「ないな。いつもおれが介抱する側だった」

「──元嫁さんもそうだったのかしら?」

 

 アルチナの言葉に吾輩は何も返さず、ただ徳利からお酒を注ぐ。僅かに濁ってはいるが、それでも焼酎として申し分ないそのお酒で唇を湿らせる。なんて答えたらいいか、迷うように固く結ばれた口を緩めるために。

 

「忘れられない………ってのはそうだ。だからっていつまでも引きずり続けるのも違うってのもだ。ただ、ずっと思ってるんだ──吾輩が隣で寝てなければ、彼女に運転させなければまた違う未来があったのかもって」

「それが、お姉さんや姫様の思いに応えられない理由?」

 

 どうだろうか。色々と理由を挙げようとすれば、色々な理由は挙げられると思う。嫁を死なせてしまった後悔、死別した世界で新たに家庭を持っていいのかという疑念。ただ、吾輩が彼女たちの思いに応えかねているのはきっと、

 

「──幸せになるのが怖いんだ」

 

 禍福は糾える縄の如し。なんて中国の諺があったが、吾輩の人生はいつも幸福と不幸が繰り返しだった。

 彼女が出来たと思えば寝取られをかまされ、卒業前に元嫁と付き合えたかと思えばついた仕事がブラック企業で体を壊すとかいう。

 

 異世界………というか吾輩の漫画の世界に来ても変わらない。変わらないが、吾輩の不幸で皆が幸福を享受出来るならそれでいい。黒猫の宅配便は自分にだけ不幸を運ぶ魔の宅配便でありたい。

 

「幸せになれば必ずぶり返しが来る。おれの人生はずっとそうだ。であれば、皆が幸せである為にずっと不幸になればいい。そうすれば、おれの好きな人達はずっと笑っていられる」

 

 だって、そうだろ。あんなに素晴らしいものが、人が、()()()()()()()()()()理由もなく消えてしまうなんてやりきれないじゃないか。

 それなら、永遠に不幸のぬるま湯に浸かっていたい。沸き立つような喜びの後に、いつ訪れるかも分からない喪失に怯えるくらいなら。

 

「おれは皆が好きだよ。あれだけ綺麗な子達に貴方が好きですって表現され続けられたら、絆されもする。でも、おれが責任を取った事で主達に不幸が訪れるのが耐えられない。おれだけなら、いい。でも主達が巻き込まれたらおれは………」

 

 ぼろぼろと隠していた本音が、口をついて出てくる。どうやら吾輩らしくもなく、この焼酎で酔ってしまっているらしい。吾輩ザルだったんだけどな。

 

 アルチナはただ、煙王冠の名を冠したお酒。黒ビールみたいなものを傾けてただ話を聞いてくれていた。ある意味、こんな弱い吾輩を見たのがアルチナで良かったかもしれない。モルガナやロジェには見せられないし、見せたくないしな。

 

「話はわかったわ。だからこそ、敢えて言うわね──馬鹿な事を言わないで」

 

 そんな弱った吾輩を、彼女はばっさりと切り捨てた。そこまで容赦なく切り捨てられるとは思わなかったので吾輩困惑してる。求めてたわけじゃないけど、もうちょい優しい言葉でもいいんじゃない?

 

「私も姫様も、ロジェちゃんも貴方のおかげで幸せに王国で過ごせているのよ? 生きてるなら辛い事は山ほどあるし、お姉さんだって幸運の後に不運が来たことなんて戦場ではしょっちゅうだった。目の前で亡くなっていった仲間達なんて数えきれないわ」

 

 鬼わさと呼ばれていたわさを食べつつ、黒ビールで流し込む男前な飲み方をする彼女はそれはもう言葉に怒気が乗っていた。アルチナさん、酔ってらっしゃる?? やっぱり、このお酒達滅茶苦茶強い?

 

「だからこそ、生き残った私達は幸せにならないといけないのよ。また死んだ後に仲間達に出会った時にとびきりの笑い話をする為にね」

「なら、不幸が訪れたらどうする。それこそ、リリィ達が亡くなっても──主は同じことが言えるのか?」

 

 言えるわけがない。ずるい質問だ。実際のところは彼女はそうはなれなかったのだから。彼女も意地が悪いと分かっているだろう。黙りながら、鬼わさや卵を口にしながら、彼女の返答を待つ。

 

「無理ね、多分。私はきっとずっと後悔する」

「だろうな」

「だけど、きっと最後には………彼女達に恥ずかしくないように剣を握るわ。先生だってそうでしょう?」

 

 そんなわけないと、黙って首を振る。アルチナは確かに立ち上がった。それだけの強い女性だ。でも吾輩はずっと引きずって、後悔して、怯えて、逃げ続けて──

 

「だって、お嫁さんが亡くなっても──()()()()()()()()()

 

 ──何か、大事なものを教えられた気がした。

 

「助けられなかった、救えなかったと嘆きながら自殺する騎士達を見て来たわ。幸せに出来なかったと、亡き恋人の訃報を届ける事もあった。それでも、まだやれると………立ち上がれる人は最後に幸福を掴むのよ」

「その後に不幸が「来ない。最後に幸福を掴んだのだから、結末は幸せなまま終わるのよ。そうでないなら、世界の方が間違っているわ」

 

 遮られてまで、言われたのは納得がいくようなものではなかった。要は頑張れば報われる、なんてありきたりな話。

 最後に幸福を掴んでも、その先が不幸な結末が待っているなら意味がないと言い返せ。主達の物語はそう定められているのが正しいのだと。

 

 最早意地だった。揚げ足取りだと分かっていながらも、言ってはならないことを言おうとして、吾輩の手に彼女の手が重ねられていた。

 

「過程で何かを失っても、最後に皆で笑えればきっと幸せだってお姉さんは思ってる。先生は幸せを恐れているようだけど、それでも幸せになりたくないわけじゃあないんでしょう?」

「………それは」

「考え方を変えるのは難しいわ。だけど、覚えておいてね。幸せになるのが怖くても貴方にも幸せになってほしいって私達は思ってるの。だから──」

 

 重ねられた掌が、頬に触れている。お酒で熱を持った暖かさが伝わってくる。彼女の紫水晶のような瞳に吾輩の姿が映る。その瞼が閉じられ、柔らかな感触が口元に触れた。

 触れ合った時間はほんの数秒だけ、それでも充分な熱が互いの体を行き来したような感覚。閉じられていた瞳が吾輩の姿を映した矢先、彼女の人差し指が吾輩の唇に触れた。

 

「これを幸福と取るか、不幸と取るかは先生の選択次第よ。出来れば、幸せだって思ってもらいたいものだけどね」

「お前、これは………ずるいだろうよ」

「あら、先生顔真っ赤よぉ? こういうのは初めてじゃないでしょう?」

「聞いて驚け、吾輩の経験人数は1人だけだ。初めてではないが、経験は少ないんだよ」

「じゃあ同じね。お姉さんも経験はなかったわぁ──本当に好きな人とキスをする。そんな甘い体験はねえ」

 

 くすくすと笑う彼女、熱過ぎて変な汗が流れ出した吾輩。まさか、アルチナからそういう事されるとまでは予想できていなかった。

 互いの間に、妙な雰囲気が流れ出している。このままでは不味い。流れるがままに答えも出ないまま、行くとこまで行ってしまいそうだ。誰か助けて!

 

「お客さん、それ以上は蕎麦を食べて外でやって下せえ。ウチはそういう店じゃないんでね」

「「あ、す、すいません………」」

 

 出された湯気立つ蕎麦に艶っぽい空気は霧散し、2人して黙って締めの蕎麦を啜っていく。実にうまい。出汁が効いていて、締めにはぴったりだ。揚げたマンドラゴラは芋のような繊維が詰まった大根のような力強い味だ。つゆに浸すといい塩梅だな、これは。

 

 いや、本当はもっと味わいたいんだよ? でもね、店内の空気が微笑ましいものを見た、という感じがとても気まずいのでさっさと逃げたい。

 

 お互い、耳まで赤くしたまま無言の意思疎通で蕎麦を吸い上げるとそのまま支払いを終えてそそくさと足早に店を出た。すっかり陽が落ちて、暗くなった夜空の下で互いに別れを切り出しづらくて、ただ店の前で佇んでいる。

 

「そ、それじゃあ………おれはロジェを待たせてるから」

「え、ええ。ロジェちゃんにもよろしくね」

 

 いい大人だっていうのにあまりにもぎこちなさに溢れた会話である。付き合い立ての中学生カップルみたいな会話をした後、彼女は帰っていった。送ろうかと思ったが、やめた選択は間違いではなかった。空から人が降って来たからだ。

 

「や、ヤマトさん!? あ、アル姉と何してたの!? だ、だめだよ! アル姉にはクラウンって言う素敵な人がいるんだから!」

「何って一緒に蕎麦を食べてただけだよ………軍人に絡まれて、助けられたそのお礼にな。さて、帰ろうか、ロジェスティラ。夕飯作らないと」

「………? 何かあったの? さっきから唇触ってるけど、火傷でもした?」

「………………………まあ、そんなとこ」

「え、何、今の間」

 

 吾輩は人間になった猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、モフガルド・ニャンディアス3世、キミリア。人間の頃の名前はヤマト。

 その後、食べた物の話をしたらロジェも食べたいというので蕎麦を買ってひたすらに茹でまくるのだった。一生分、茹でた気がするぞ、マジで。




〜とあるアトリエ〜
モナ「お帰りなさい、アルチナ。何かありましたか?」

アル「え、何が??」

モナ「いえ、先程からしきりに唇を触っているようでしたので………荒れているなら何が薬を作りましょうか?」

アル「………恋の病につける薬はある?」

モナ「不治の病ですね。諦めなさい」
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