吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。 作:シャモロック
というわけでモルガナ動きます。デート回、前編です。
吾輩は人間になった猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、モフガルド・ニャンディアス3世、キミリア。人間の頃の名前はヤマト。
昨日、あんな事があったせいで全く寝付けずに完全に寝不足である。今日一日はまるまる休みなので寝直すのもいいのだが、ロジェが借りて来た本の一気読みを開始したので邪魔にならないように出て来た。
「見つけましたよ、我が夫!!」
それがある意味で功を奏したかもしれない。やけにハク達使い魔を見るなと思ったら、あれよあれよと運ばれてアトリエ前に仁王立ちしていたモルガナの前にぶん投げられたのだから。
そのモルガナは何故かご立腹である。特に心当たりはないが、寂しくなったのに会いに来なかったとかそんな理由だろうか。
「アルチナとキスしたというのは本当ですか、我が夫!!」
「吾輩、急用を思い出した!! またな!!」
「今日という日は絶対逃しませんよ、クロ!!」
もうバレたのかよ! 昨日の今日だぞ! どれだけ迂闊な事したんだ、アルチナは!! 捕まるわけにはいかない。何故なら暴走したモルガナは何をするかわからない。下手したら、もう屋敷から出してもらえないかもしれないので全力で逃げ出す。
「捕まえましたよ、我が夫」
「話せばわかる! 話せば!」
「話ではなくて、行動で示してもいいんですよ?」
「予想通り過ぎる!!」
1分後に捕まった。猫の姿に変わったり、魔力強化してもこの始末である。魔法使いとしての年季の差が違いすぎる。せめてもの抵抗として黒猫になった吾輩だったが、モルガナは特段気にする事もなく、そのままアトリエへと帰還。
道中、ひそひそとこちらを見てくるリリィ筆頭の女騎士たちをスルーして、アトリエの1階の小さな部屋に入ると、厳重に鍵をロック。この流れ、前も見たことがあるなぁ!
「さて、クロ」
「やめるんだ、モルガナ! 吾輩、無理矢理は良くないと思う!」
「これから私とデートしましょう」
「無理矢理は………うん?? デート?」
「だって、ずるい。ロジェにかかりきりなのもわかりますが………せっかく人間になったのですから私ともお出かけして欲しいです」
ぐぐぐ、少し子供っぽく拗ねられると吾輩としても断りづらい。それにアルチナとデートしていて、彼女としていないのもおかしな話か。時間もあるし、ロジェもいない。なら、答えるのが筋ってものか。
「分かった。なら、何処に行きたい? この間、行った蕎麦屋は結構良かったが………」
「いえ、今日は私が案内します。なんだかんだでレリジェーン温泉街を案内出来ませんでしたからね。そちらで食べ歩きをしようかと」
「レリジェーン温泉街か………って事は転移扉か?」
「せっかくです。クロには私のアトリエの秘密を教えましょう。こちらへ」
そう言って彼女は床に手をつくと、何かしらの紋章と共に地下へと降りる扉が現れた。彼女はそこを躊躇いなく開くと、中に身を躍らせるので吾輩もついていく。
降りた先は明かりが規則的に並べられた広い空間。高さと広さは10mばかりだろうか。地面には何故か線路が敷かれており、目の前をハク達使い魔がトロッコに乗って過ぎ去り………脱線して吹き飛んだ。
「ここは………? 地下通路?」
「この通路は私の師匠から譲り受けたアトリエに記されていたのですが、用途は不明。ただ規模からして、恐らくは王国設立時からあるものと推測されています」
「王国側はこれを知ってるのか?」
「はい。アゼル卿含めて王家立会の下、特に価値はないとして保守保全を任されました。しかし、建築を司る私からすると何かしらの意図を感じるのでハク達使い魔に調査をさせて地図を作成しつつ、私の研究を試しているのです」
ふむ、彼女がこの時期にやってる大きな研究となると………やはり魔導列車だろうか。線路にしかり、トロッコに乗るハク達使い魔を見る限りは。今はまだ動力の調整中といったところか?
彼女が魔女ノ旅団として国を回るのもこの魔導列車を法国と連邦国に通す為の働きかけをするのが主な理由なのだ。その途中で新たな魔女達に出会うだけで。
とはいえ、モルガナからすれば今は関係ないので地下通路の行き止まりにある扉の前に立つ。こちらはシンプルに転移扉のようで彼女に抱えられたまま、吾輩も扉を通れば………吾輩達が泊まった旅館の1室に出た。
「では、クロ。何処か行きたい場所はありますか? なければ私がおすすめする箇所を回りたいと思うのですが」
「ああ、頼むよ。なんだかんだで、ゆっくり見て回れてないからな」
吾輩も黒猫から人間へと姿を変えれば、彼女がこちらに右手を差し出していた。エスコートして欲しいとの無言の訴えに吾輩は苦笑しながら、その手を取る。
「案内していただくのは吾輩の方では?」
「それでも、貴方に手を引いて欲しいのです。引く手数多の私の手を」
雪の様に白く、触るのを躊躇う様な綺麗な手を吾輩は取った。それだけで目元を緩めて嬉しそうに笑うのが妙に擽ったい。そのまま彼女は吾輩の指先に自分の指先を絡めていく。もう離さないと表す様に。
そのまま吾輩達は旅館を後にする。見るからにぽわぽわとした空気を醸し出す彼女に連れられて、馬車の中から眺めていた温泉街へと足を運ぶ。
「まずは早めのお昼にしましょう。おすすめは火山の熱と蒸気で根菜やパンを蒸した『溶岩蒸し』というのはいかがでしょうか。素朴ですが、あっさりしていて食べやすいので」
「地獄蒸しみたいなものか、いいね。それにしよう」
というわけで2人して、他愛もない話をしながら店へと向かう。アルチナが賢者の雫の実験台として精神的に死にかけていた事や、その後に気晴らしに外に出て帰って来てから妙に機嫌が良く、しきりに唇を触っていたなど………あからさまである。付き合いたての中学生だろうか。
吾輩も人のこと言えねえ………仕方ないやろ、吾輩の経験嫁1人やぞ。元彼女はそれすら出来ずに寝取られたわけだしな。
そんな事を露知らず、彼女は時折、腰まで伸びる髪の毛や首筋辺りを触りながらも何処か楽しそうだ。暑いのかもな。吾輩も少し汗ばんでるし。
「なので、聞き出したら羨ま………ずる………抜け駆けされたので。私もこうして、クロとデートしているわけです」
「因みに………アルチナはどうした?」
「今日も今日で何処か気が抜けてましたので、放置して来ました。なので、クロ? 今日は私だけを気にかけて欲しいです」
リリィ達がひそひそしてた理由を薄々理解しつつも、お目当ての店に到着した吾輩達は店先に並べられた石造りの椅子と机に腰掛けて、注文。暫くして、湯気立つ小さな籠が2つ運ばれて来た。
開けると、もうもうと立ち上る湯気と一緒に仄かな塩の香りがする。湯気が収まるとそこにはふっくらとした根菜と艶やかなパンがそこにあった。
「ここは、私が師匠に国家錬金術師の合格祝いとして温泉に来た際に訪れた店なんです。あっさりして食べやすい上に、こちらの出汁につけていただきます。蒸しパンはそのまま頂いてください」
「へえ、どれどれ」
見る限りでは蒸し野菜そのものだが、日本と違うのは野菜の種類だろう。じゃがいもらしきそれは、皮が鉄のように硬いのだが蒸された事で柔らかな中身がはみ出しており、それを掬って食べると仄かな塩味と芋本来の旨みの中に濃厚な乳製品の風味も相まって、天然のじゃがバターを食べてるようだ。
人参も、生臭さはほとんどなく寧ろ甘味が強い。野菜というよりは果物に近い。バーニャカウダとかでも行けるかも。
蒸しパンは黒パンを蒸したものだが、普通に食べるよりはるかに柔らかくなっており、噛めば噛むほど自然な甘さが溢れてくる。
「美味い、モルガナの師匠はいい店知ってるな」
「私の師匠は金遣いは荒く、だらしがなかったですが食事には力を入れていた人ですので。まあ、そのせいで家族に逃げられていた訳ですが」
「やめてあげよ? そういうのは」
「だからでしょうか。孫娘共々、私も可愛がってもらいました。私の姉とも呼べる人は連邦国で一旗あげると出ていき、残された私は師匠を看取った後にアトリエを譲っていただいたわけです」
「だから、こうして吾輩達が安心して暮らせてる訳だからなぁ。感謝するべきだな」
食後に出された暖かい麦茶もまた香ばしくていい。まったりとした空気の中で、吾輩が掌に貨幣を生み出して机に置く。いいものを食べさせて貰ったお礼に支払いは吾輩がするべきだろうからな。
「そういえば、クロの魔法は貨幣を生み出すものではなかったそうですね。より凶悪な………それこそ、国にバレてしまえば波乱さえ巻き起こすような危険なものだと」
「主ですら、その理解だと本当に不味いな。基本は猫のままでいた方が良さそうだ」
「それはそれで私はいやです。こうしてクロと手を繋いで歩くのは私の夢だったのですよ?」
「でもバレたら、亜人だからこそ奴隷にされたりとか考えたら怖いんだが? まあ、人間でなかったことがある意味幸いだな。貴族や王族が吾輩を取り込むためだけに亜人の血を混ぜるとも思えんし、子供も出来ないしな」
「そうとも限りません。養子に取るなどの手段もありますし、貴族の子飼いの部下、若しくは
店を出て、2人してぶらぶらと歩きながら吾輩の処遇について色々な意見をかわす。色気がないとか言うんじゃないよ。吾輩だってせっかくデートに誘ってくれた彼女に何かしてあげたいとは思って………うん?
「クロ、どうかしましたか?」
「んー、いや………」
ふと、それが目に止まった。温泉街に並んでいた小物店らしき店構え。見るからに立派なそのお店の硝子の向こう側に並んでいた品。銀髪の彼女に似合うような赤い宝石が輝く髪留めがあった。
そういえば、ここに来てから彼女は髪を少しばかり鬱陶しげに流していた気がする。やはりあの長さだと蒸れるのだろう。値段は………まあ高いが吾輩なら買えないわけではない。
「モルガナ。やっぱり、少し寄っていいか?」
「おや、クロ。誰かに贈り物ですか? 私はいつでも待ってますよ?」
「そっか。なら、今にしよう。主に似合う髪留めがあったから、贈り物だ」
「───はえ?」
気の抜けた声が漏れた彼女の手を引き、アレよアレよとしてる間にお目当ての髪留めを入手したが、まるで借りて来た猫のようにおとなしくなってしまったモルガナを再起動させねばなるまい。
とりあえずと、広場に来れば足湯に入りながら談笑する人達がいたので吾輩達もそれにならうことにした。
「──はっ! まさか、クロも冗談を言うとは。それで結局どなたに渡すもので」
「モルガナの為に買ったんだって。ほら、ここに座りな。つけてあげるから」
「し、失礼します」
あまりにも緩慢な動作でおずおずと吾輩の隣………から少し離れようとした彼女の腰に手を添えて、黙って引き寄せる。ピギョって何かが叫んだ音がしたが、気にしないまま髪飾りを手に取った。
目に止まった湿気を吸って重そうな髪。ここ数年で少しずつ伸ばしていたであろうそれをそっと手に取り、指で梳くと、絹のように滑らかに通る。
すると驚いたように、それまでの緩慢な所作とは打って変わって彼女が振り返った。
「じ、女性の髪を気軽に触るものじゃありませんよ………」
「吾輩でも、ダメか?」
「〜〜っ! く、クロにならか、構いません」
承認も得られたのでそのまま彼女の髪の襟足を束ね、きれいなうなじが見えるようにし、首筋に風が通るように固定。
火山の国に居を据えている以上、暑さに耐えられないなら切ればいいのに、とは言わない。彼女の綺麗な絹のような銀髪は、初めて会った頃から変わらない美しさの象徴だ。
「やっぱり、よく似合ってる。勿論、気に入らないなら売ってくれていい。それなりの値段にはなるだろうから」
「売るわけ………ありません。クロがくれた、贈り物なんですから」
とすっ、とモルガナが吾輩の肩に頭を預けてくる。足湯の熱に加えて彼女の柔らかな熱が暖かい。
「熱くないか? 何か飲み物でも買って来ようか?」
「………この辺りなら、錬金道具による氷菓があったはずです」
「じゃあ、それ買って来るから………どいてくれない?」
「ふふっ、いやです」
「それじゃあ、買いに行けないな」
「なら、暫くは………こうして、隣で」
吾輩は人間になった猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、モフガルド・ニャンディアス3世、キミリア。人間の頃の名前はヤマト。
ただ、今だけはこの時がゆっくり過ぎればいいと思うのだった。
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