吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。   作:シャモロック

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難産でした!! 遅れてごめんなさい!
まだあともう1回山場乗り越えたら最終ラウンドに入るのでお待ちください! 長すぎるよね! ごめんね!


シュレディンガーの猫 後編

 吾輩は人間になった猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、モフガルド・ニャンディアス3世、キミリア。人間の頃の名前はヤマト。

 今は足湯から上がって、饅頭片手にぶらついてるところである。

 

「レイテ印の温泉饅頭美味いな………ふかふかで中に入ってる甘辛い角煮がまた美味い」

「ドラゴのお兄さんも私達だからとおまけしてくれましたね。気前のいいご家族です」

 

 お互いの手は繋がったまま、吾輩が買った温泉饅頭………どちらかと言うと中華まんに近いそれに齧り付く。モルガナもそれを見て1口食べる。彼女は吾輩と違って、餡が入ってるようだった。見る限り、黒餡ではないのがちょっと気になるな………よし。

 

「モルガナ、1口くれないか?」

「………へ? わ、私のですか?」

「せっかく別々の味を選んだからな、分け合いっこしよう」

 

 吾輩は早速、自分の角煮まんを千切ろうと彼女から手を離そうとして………ずいっ、と目の前にモルガナのあんまんが差し出される。後、ちょっと震えてる。見れば、少しばかり頬に赤みが差していた。

 

「これはどういう事かな?」

「!? これは、その………言わなくても分かると思いますが?」

「ダメだろ、モルガナ。自分の気持ちはしっかり言葉で伝えなきゃ」

「〜〜っ!!」

 

 なので、ちょっとばかり揶揄う事にした。やりたい事は分かるが、素直に応じるよりも彼女の反応が見たくなったからではない。断じてない。吾輩、そんなサド精神はない。本当だよー。

 

「そ、の、これは、手を繋いでる以上はこうして食べさせ合うのが合理的だからです。決して他意はありません。本当です。だから、早く食べたほうがいいですよ、クロ」

「急に早口」

 

 モルガナは目を泳がせまくりながらも、何とか言葉にしようとして言い訳じみた言葉を並べる彼女に一言述べて、その饅頭を1口噛み締める。彼女が生唾を飲み込んだような音を尻目にその甘さを味わう。

 

 なるほど、餡子は餡子だが芋餡のようだった。さつまいもか何かを練ったのだろう澱粉由来の甘さが舌に残る様で、吾輩は自分の角煮まんに目を向けて、そのまま彼女の口元に差し出した。

 

「………………これは何の真似でしょうか?」

「うん? 釣れるかなぁって」

「私を誰だと思っているのです。最年少国家錬金術師であり、王国で名高い美人すぎる錬金術師ですよ。その私がこんなあからさまな釣り針に釣られると思っているのですか?」

「はい、あーん」

「………あ、あーん」

 

 語るに落ちるとはこの事だ。とばかりの素直な落ちっぷり。色々と並べてはいたが、吾輩の言葉に素直に口を開いて吾輩の食べかけを口にする。躊躇ってはいたがノリノリである。この錬金術師。

 

「美味いか?」

「………おいひいでふ」

「あんまんも美味しかったよ。口直しには良かった」

「………ごめんなさい、嘘つきました。味なんてわかりません」

「え? 大丈夫か? 体調でも悪い?」

 

 吾輩とした事が彼女の体調不良に気づいてやれなかった。確かに、熱があるみたいに顔は赤いし、握っている手はじっとりと汗ばんできている。もしかしたら、暑さでやられたのかと………手を離そうとして、更に力を入れられた。

 

「何も、わからないんです………ただ、ものすごく楽しくて、幸せな事以外は」

「あ。ああ、びっくりした。でもこれくらいで喜んでもらえたならよかったよ」

「これ以上があるんですか!?」

「急に声大きくなるじゃん………まあ、慣れない土地だし、慣れてる場所ならもう少し楽しませてあげられるかもって話」

 

 これが異界………まあ日本なら結構美味いところとかは案内できる自信がある。少食だが、食べるのは嫌いじゃないし、連載出来るようになってからは気晴らしに喫茶店でネーム出してたりするからな。

 

 いつかは………異界の事、話さなきゃ行けないのかもな。

 

 モルガナ達は受け入れて………いや、断られたり、拒否されたりする未来の方が浮かばなすぎる。ひょっとして、彼女達、吾輩の事好きすぎか?

 むしろ、アルチナ辺りは気づいてそうだよなぁ。この間、ロジェに食べさせた蕎麦で気づいたけど吾輩は普通に箸使ってたが、基本はフォークだよなぁ。アルチナも箸使ってたから違和感に気づかなかった。

 

 帝国の異界知識で覚えたとすると吾輩が箸を使える理由も何となくわかるだろうし、モルガナに至っては枕物語で話した道具がもろ日本で生まれた道具だし、勘付かれてはいそう。

 

 それでも………聞いてこないのは彼女達の優しさだろうか。

 だからこそ、吾輩も決断せねばなるまい。故にここに来た。

 

「クロ、着きましたよ。来たがっていた………『クロスのアトリエ』その跡地です。入場料は銅貨1枚です。国民なら無料ですので、私の付き添いなら無料で入れます」

「おっ、着いたか………ロジェが言ってた『究極』の品ってのも気になるし、一度見てみたかったんだよ」

 

 そして、クロスが異界から来た存在か確かめる為にも。吾輩達が潜り抜けたアーチ型の大きな入り口には、豪華な金属製と石製の看板が立っており、アトリエの名前が書かれている。

 

 そこを通過すると、砦のようなアトリエの中へと入っていく。入口すぐの広いホールは、観光客のために一般公開されているようで、吾輩達と同じような恋人達や家族に、他国の商人も来ているらしい。

 

 内部は石造りの壁とアーチが続き、天井は高く、木の梁が露出してるがそれと引き換えに天井から降りるシャンデリアや2階に上がるためのホールから直結した階段は繊細な細工がされていて、一種の芸術品のようだ。

 

「そういえば、クロス殿って何をした人なんだ? 王国の設立やクロス様式に錬金術を発展させた人ってのは聞いてるが」

「そうですね………分かりやすい成果はそれらですね。後は有名なのは『死者蘇生』と聖女勇者『エリス』の仲間として旅をしていた事ですかね」

「………エリス?」

「その反応からして、クロが手紙に書いていた私達の仲間になる予定の魔女と何か関係が?」

「いや………それはないはず。多分、それにあやかった名前がついた別人だろう。うん、きっと」

 

 現実から目を逸らしたホールの両側には、クロス殿がこれまでに生み出した道具や磨き抜かれた様々な種類の宝石の原石や加工品、そして純金製の工芸品が、特別なガラスケースの中で展示されていて、外からの光を受けて輝いている。

 

「さてさて、どれが究極の品なのやら」

「ロジェがそう言っていたのですか? ここにあると?」

「自信なさげにしていようと、義賊としての目は確かなはずだ。本人も多分これだろう。って言ってたし………ついでだから確かめたくてな」

「因みにですが、クロの予想は何ですか? やはり究極と言われる以上、兵器の類でしょうか」

「うーん、何というか弾丸………矢を火薬で遠くに撃ち込むような長筒の武器?」

「もしかして、銃の事を言っていますか?」

「え、あるの!?」

 

 異世界あるあるの銃、まさかの存在が発覚。よくよく考えれば異界の奴らも同じ事を考えていたかもしれない。存在するのも当然の話………いや、それなら帝国付近でもう少し銃を見ても良い気がするが、彼女の難しそうな顔からして量産は出来なかった感じっぽい。

 

「ええ。ただ、複雑すぎる事に加えて、精密な加工がいる事から量産に向かず、王国ですらも作ったは良いのですが1回で動作不良により、壊れたそうです」

「それってどういう形の?」

「クロス氏のを参考にしたので、展示されているはずですよ。それに………きっとクロならわかるでしょう?」

 

 さらっと、腕を取られてエスコートされた先は少し照明の灯りが落とされた空間だった。薄暗く、何だか重苦しい空気の中で並んだガラスケースの中には確かにその雰囲気で展示せねばならないものばかりだ。

 

 目に止まったのは黒塗りにされた大型の改造自動拳銃。ゲームや漫画でしか見たことないが、吾輩にはそれが誰の為に作られたものか分かった。

 かつてそれは、魔女ノ旅団No.8と呼ばれる魔女が使用していた自動拳銃と形も大きさも一緒だったから。

 

 間違いない──クロス殿は()()()()()()()()()()()

 じゃなきゃ、まるっきり形まで一緒になる訳がない。

 

「銃に刀………変わり種はバイク。これは確定か?」

「やはり、クロも思いますか? クロス氏は異界から来た人間だと」

「ああ、そうだ」

「何故、そんな判断が出来るか………それも聞いてよろしいですか?」

 

 ガラスケースに手を触れていた吾輩に対し、モルガナが隣から声をかけてくれる。その目にはある種の確信が浮かんでいた。彼女は吾輩より遥かに賢い。きっと吾輩の正体にも薄々気づいてはいたのだろう。

 

「この武器や乗り物は………クロが眠る前に話してくれた怖い道具にそっくりです。食べ物もそうでした。クロと別れてから一人で過ごすうちに異界の知識に触れていく中で妙な既視感を覚えましたから」

「あからさまにこの世界で生まれたものじゃない。まるで異物、異界の知識で生み出されたものならまだ理解できる………って建前を並べるならそんなところか」

「………では」

「ああ」

 

 それを話してくれるその時まで彼女は待っていてくれたのだ。こうして、話しやすいきっかけを生み出してくれた。その誠意に応えなくてはならない。

 

「モルガナ」

「はい」

 

 彼女の空いていたもう片方の手も取って、目を逸らさずに向き合う。いつの間にか吾輩よりも大きくなった彼女の顔を見上げるように。

 

 

「吾輩は──異界から来た元人間だ」

 

 

 それを聞いて、彼女は笑った。当たり前のように吾輩の手を両手で握り込んで。

 

 

「──そうだと思っていました」

 

 

 その手を握り返す。手に汗が浮かぶ。らしくもなく緊張してるらしいが何とか口を回す。万が一があるかもしれない問いかけを。

 

 

「怖く、ないのか? 別の世界から来たこの世界の人間じゃないんだぞ?」

「幼き私を育て、守ってくれた異界の貴方より、小さな私を殺そうとしたこの世界の人達の方が怖いですよ。それに………」

 

 

 そして、彼女の水晶のような瞳が吾輩を映す。子供を眠らせるような母親のように穏やかな声で。

 

 

「貴方と私が出会えた………この奇跡に感謝したいくらいですから」

 

 

 案の定の答えに吾輩も肩の力が抜ける。予想通り、モルガナは吾輩の正体にも薄々気づいてはいたらしい。流石にこの世界が吾輩が書いた物語とまではバレていないと思うが。

 

「因みにいつから勘付いてた?」

「異界の事を知ってから、薄々と。再会してからは異界の知識に驚きはしてましたが、その驚き方はアルチナと同じでしたから。つまり、存在は知っていたが何でここにあるの?という驚きです」

「吾輩の事、よく見てるな」

「当たり前ですよ。愛してる人を目で追ってしまうのは、当然でしょう?」

 

 それでも、いつかバレてしまうかもしれない。何せ、ここまで直球で好きだと言われて上手くはぐらかせない吾輩の事だ。きっと彼女も分かったまま、黙っててくれるだろう。今回みたいに、吾輩から話してくれることを待ちながら。

 

「因みにですが、アルチナも薄々気づいてはいますよ」

「そんなにか、そんなに吾輩わかりやすい?」

「クロは基本的に素直かつちょろさが毛皮被ってるだけですからね。私より分かりやすいかと」

「いや、モルガナ。主は分かりづらいぞ。吾輩だから、わかるけどもう少し感情を顔に出そうか。吾輩といる時くらいに素直になろう」

 

 首を傾げる運動をするモルガナ。本人の自覚が薄いのは吾輩の設定とはいえ、いかがなものか。彼女の頬に手を寄せてみれば、擦り寄ってくるモルガナも割と警戒心が薄い気がする。まあ、可愛いからいいか………大分絆されてる気がする。しっかりしろ、吾輩。

 

「それで、クロ? 究極の品に心当たりはありますか?」

「うーん、ロジェが美術品としてなら価値があるって言ってたから刀が怪しいっちゃ怪しいんだが………だとしたら、これが変換器になるか?って疑問がある」

「変換器、クロスレシピの三大発明の1つですね。魔力を変換するものならば、あの武器では些か小さすぎます」

「だよなぁ。武器の可能性もあるが、もっと別なものだよな。他に展示品は?」

「後は2階にあるクロス氏の歴史と………お墓ですね」

 

 モルガナの案内の元、2階に上がる。片方の部屋はクロス殿がどんな旅路を辿って来たのか、絵や日記などから推察し、使っていた道具が展示されているようだ。

 

 大きく広げられた絵には7人の男女が描かれている。赤髪褐色の女性は、その隣に立つ黒髪の女性の肩に腕を回し、もう1人の黒髪の女性には僅かに鱗らしきものが見える。それを皺のある初老の男性が微笑みながら見て、楽器を持った男性が意味深に笑い、その前に寝そべるのは何処か見覚えのある藍髪の女性が並んでいた。

 

 それを見つつ、並べられた展示品に目を向ける。小さなガラスケースに入れられたおままごとに使われそうなナイフや人形に書かれた注釈を読み上げる。

 

「クロス・レシピ………『玩具』シリーズ?」

「クロス氏の代名詞たる錬金道具ですね。玩具のような小ささやその合成の手軽さから軍でも正式に使用されているものになります。いずれ、クロにもレシピを教えましょう」

「吾輩、錬金術師の資格とかないけどいいの?」

「国家錬金術師の立ち会い下ならば問題ありません。ですが………」

「分かってる。軍でも使用されてるなら多分違う。芸術品っぽくもないしな。となれば、隣の部屋か」

 

 そして、もう一つの部屋は入っただけで心身を引き締めさせる静謐さに満ちていた。僅かなスポットライトらしき道具に照らされたその部屋の中央には襲撃された犠牲者………クロス殿を慎む黄金の碑が吾輩の腰の高さくらいまである黒ずんだ招き猫に抱き抱えられ、飾られていた。

 

「墓地に招き猫とか罰当たりにも程があるだろ」

「招き猫?」

「ああ。異界だと、ああやって猫がこまねく事で幸運を呼ぶんだ」

「なるほど、つまりクロは私たちにとっての招き猫というわけですか」

 

 モルガナは招き猫を撫でた後に近くにあった綺麗な布で金の碑を拭く。ちらっと、注釈を見れば『敬意を表して磨いてください』と書かれていた。

 郷に入れば郷に従えという言葉もあるし、終わったモルガナから布を受け取ると、金の碑を軽く拭く。ついでに招き猫も拭いておこう。番犬ならぬ、番猫を。

 

『──魔力波長を確認します』

 

 ふと、何処からか声がした。機械的な音声で、コピー機が紙を吐き出すように淡々と。

 

『魔力属性:空属性 魔力波長………90%一致 魔法名:【黄金の夜明】機体名:明けの空に響く福音(スカイクラッド)を再起動します──成功」

 

 あたりを見渡して、漸く気付く。吾輩が撫でていた招き猫からその声が出ている事に。

 

『個体名:【夜明の錬金術師 ルドルフ・Y・クロス】──本人確認が取れました。待機モードへ移行します』

「は?」

 

 何が起きてるのかさっぱりなまま、呆然としていれば閉ざされていた招き猫の瞳が開眼。同時に黒ずんでいた招き猫がいきなり輝きだし、吾輩の目が光で潰れた瞬間、カシャリ、と首に何かが巻きついた。

 

「クロ!! 大丈夫ですか!?」

「あ、ああ。何とか………何が、何?」

 

 思わず尻餅をついた吾輩を支えるモルガナに応えつつも、首に手を振れればそこには先程まではなかった硬い手触りなのに柔らかく肌に馴染むチョーカー………いや、首輪がついている。

 

「モルガナ、吾輩の首に何かついてる。外せるか?」

「この場では流石に………それに」

 

 彼女が首だけで後ろを見ろと誘われ、その目線に首を向ければ………出口にごった返すような人と軍人らしき者たちの集団。好奇、疑惑の視線の先は、全て吾輩に向いていた。

 

「なあ………モルガナ。吾輩、逃げられると思う?」

 

 吾輩は人間になった猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、モフガルド・ニャンディアス3世、キミリア。人間の頃の名前はヤマト。

 彼女は黙って首を横に振る。つけられた首輪の重さが更に増したような気がした。




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