吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。 作:シャモロック
いやほんと長かった………長すぎだよ、ごめんなさい。
「というわけで、賢者の石で優勝していく事にしよう」
「という事で、できていいものではない気がする」
吾輩は人間になった猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、モフガルド・ニャンディアス3世、キミリア。人間の頃の名前はヤマト。
とりあえず首輪の安全と効能が分かったので、ロジェの様子を見に行く事にした。因みにお昼のうどんはめちゃくちゃ美味かった。野菜の優しい甘味と上質な小麦の素朴な味わいが絶妙で、また買うのありだな。
アゼル卿のアトリエに訪れると、受付の女性が前回の部屋に案内してくれた。相変わらず黒幕が高笑いしてそうな部屋だが、まだ昼過ぎなので部屋の中は大分明るい。
その部屋で、何故かミスト王女にロジェが跪き、指先に口付けをしてるのかは定かではないが。恐らく吾輩は描いた漫画通りの流れがあったのだろうと察した。その場合は章ボスとの決戦時による、土壇場の策だったが。
「来ましたか、クソボケカスハーレム男」
「事実なんだけど、もう少し柔らかく言えない?」
「いつか魔女達に性的に食われそうな男(笑)。もっと早く来なさいよ」
「隠しきれてない。笑いが隠しきれてない。後、モルガナ達がそんな事するわけないだろ!!」
「それ、本気で思ってんの?」
「最近無理だなと自覚しつつある」
しっかし、まさかの決戦フォームとして描いた成長後のロジェが割と平和な今見ると少しばかり違和感があるな。とはいえ、吾輩が知っている通りの中性的な顔立ちのまま王子様っぽい美人になったのは吾輩も鼻が高い。
暫く待つと、ロジェがミスト王女の指先から口を離す。そこで漸く吾輩に気付いたようで、彼女はハッとした顔でこちらを見るので挨拶がわりに手を上げた。
「ま、間男!! じゃなかった、や、ヤマトさん!」
「ねえ、ウルシュラ。何を教えた? 無垢なロジェに何を教えた? ん? 言ってみ? おれが大嫌いな言葉が聞こえた気がするんだが?」
「ヤマトって奴はモルガナ様とクソボケ猫の間に挟まった挙句、モルガナを寝取った間男って説明しただけですが? 何か間違えていますか?」
「寝取ってねえよ………取り消せよ、今の言葉!」
「怒るとこ、そこなの?? どんだけ嫌いなのよ、あんた。逆に素質あんじゃない?」
「ライン超えたぞ、コラァ!!」
NTR嫌いな奴に君、素質あるよ?とか言う奴はマジで彼女が寝取られてから言え。まーじで女性不審になりかけるからな。吾輩、嫁がいなかったらマジで闇堕ちしてた。間違いない。
ギャーギャー騒ぐ吾輩に、ロジェは信じられないという顔をしてる。いつかは分かるよ、ロジェ。人はくだらない事で戦争を始めるんだって。多分これはその例外でもかなり下らないとは思うけど。
「ふふっ、お元気そうですね。クロス様。昨晩のお茶会はどうでしたか?」
「これはこれは、大変失礼な姿をお見せしました。ミスト王女殿下。それはそれとして、あの茶会は貴方様の提案だったのですか?」
「いえ、ウルシュラの入れ知恵です。クロス様は30代の女性が好きだと聞いてましたので」
「やっぱりお前の仕業か、ウルシュラぁ!!」
「何よ。30代の女騎士を愛人として侍らせてるくせに。あっ、それともアンタの性癖『歳下の後輩や弟子とかに優しくして成長したら食う』方を優先したら良かったかしら?」
「後輩は嫁だし、弟子は食ってねえよ! というかやっぱりお前おれのこと知ってんな!? 言え! 誰に聞いた!?」
「教える義理はありませーん」
太々しく鼻で笑うこのメイド、こちらをおちょくって楽しんでやがる。いつか絶対その秘密を明らかにしてやる。けらけら笑うメイドを努めて無視して、ロジェに目をやれば吾輩と目が合う。
以前までは目を逸らすことが多かった彼女だが、しっかり見つめても決して目を逸らすことはなく、成長した背丈は吾輩と並んでいる。丸まっていた背中を伸ばした正しい姿勢は少女の自立を表してるようで。
「──おおきくなったな」
きっと、きっかけはミスト殿を助けたことによるものだろう。一回り成長したように思える。彼女に足りなかった自信を、成功体験が補っているのだ。いい傾向だ………待て、何故胸元を隠す。
「………えっち」
「ッ!? 待て、そういう意味じゃない! 成長したなって意味で!」
「やっぱりクラウンに似ておっきい胸が好きなんだね………」
「くっそ、何を言っても誤解される気がする!!」
「見てください、ミスト王女殿下。彼は私の言った通り、女の子を育てては成長した所を食べる邪悪な果樹園の主なんですよ」
「英雄が色を好むのは歴史が証明してますが………歪んでますね」
「人を特殊性癖者みたいに言うのやめてくれない??」
全くと、肩を落とすと扉が開き、威厳のある老人が髭を撫でながら入ってくる。その後ろには見慣れた女軍人………というかティーガー殿がいた。ティーガー殿は吾輩に気付き、目を見開くとロジェを見て表情を歪めた。
「クロス様。あまり勝手な行動は謹んでいただきたい。貴方は国を代表とするお方だ。そこらの盗人とは訳が違う」
「ぬ、盗人って………まあ、分類的にはそうだけどさ」
「ティーガー。貴女も少し言葉を慎みなさい。説明したはずです。彼女は私の呪いを軽減してくれた。根治………とまでは行きませんが、投薬治療で充分治る所まで来ているのです。陽だまりの下にまた連れ出してくれた我が恩人を愚弄するとはいい度胸です。今度こそ暇を与えてほしいか?」
「………………口が過ぎました。許していただきたい」
かつて会った時より血色が良くなったミスト王女の叱咤に頭を下げるが、それが形だけなのは誰にも分かった。いかんせん、外部に対して敵意が刺々しすぎる。ロジェですら眉を顰めてるくらいだ。12歳に負けてるぞ。
ティーガーの登場で微妙な空気になる中、いそいそと準備を進めていたのだろうアゼル卿は手を叩き、乾いた音で全員の視線を集める。
「結構結構、若いと血気盛んでいいの。だが、喧嘩なら下でやりたまえ。今からは大事な検証の時間だ。部外者は部屋から出て行って貰おう。ミスト王女殿下、申し訳ありませんが………」
「分かっております。本日の検査、誠にありがとうございました。ウルシュラ、ティーガー、
ウルシュラが押す車椅子によって、ミスト殿が部屋から出ていく。ティーガー殿も黙って後に続き、ロジェはこちらを見ると頑張って!と口パクで言ってくれたので頷く。しかし、いつの間に愛称で呼ばれるほど仲良くなったんだろう。
「それで、おれはここにいてもいいんですか?」
「構わんよ。むしろ、ちょうど良かったくらいだ。今日は検証確認くらいで済ませるつもりだったが、本格的に取り組んでもいいかもしれない」
「取り組む? 何をですか?」
「ふっ、決まっているだろう………」
そこまで言うとアゼル卿はこちらを振り返り、
「というわけで、賢者の石で優勝していく事にしよう」
「という事で、できていいものではない気がする」
某三忍を思い出すような口ぶりで隣の部屋に移動。すると内部には慌ただしく、動くローブ姿の人達。アゼル卿が入ってきた事に気づき、頭を下げたりする事から教え子や弟子なのだろうと勝手に納得していれば、1人の男がこちらに近づく。
「やあ、初めましてかな。自分はガゼル・ファウスト。いつも父が世話になってるね」
「私の息子だ。このアトリエの総責任者と呼べる。今回の検証に於ける手伝いだ。ガゼル、こちらは分かっているな?」
「ええ。ただ、噂で聞く限りはあまり仰々しいのも嫌いかなって。少なくともアトリエ内では気安い口調の方がいいでしょう」
「助かります。自分はヤマト。ただのヤマトです」
ボサボサの髪に無精髭だが、目はこちらへの好奇心を隠しきれていない。いかにも研究者という立ち振る舞いの彼はどうやらアゼル卿の息子なようで。彼に手招きされ、部屋の中央に行くと、
「これがもしかして………」
「ああ。賢者の石を完成させる為の必要な錬金道具だ。ここまで来るのに時間がかかったよ。皆んな徹夜の突貫作業だが、歴史に名を残す分岐点に立ち会っているからか興奮して取り組んでくれているよ」
ガゼル卿は作業場に張り巡らされたパイプのような配管を見渡した後、空間に投影されている光でこれらの錬金道具の調子を確認しつつ、パイプの水平性などを調整する。
ただ聞いた感じ、突貫作業で組み立てているので、歪みが凄まじいことになっているらしく、真空計を見比べてはいまいちそうに首を捻っていた。
「父さん! ちょっと隙間がある! 真空の質はどうしようか!」
「計算上の数値と調整が難しくなるからなるべく高めだ! 今回だけだと、割り切って無理して繋げろ!」
「了解!」
いつの間にか反対側のパイプで作業しているアゼル卿の返事を受け取り、魔法を使って人力では不可能な強さで配管をめり込ませていく。
「経路の途中にある照射の角度以外は雑でも問題ない!数値も安定したので、次のパイプを頼む!」
「よし来た! さあ、ヤマトくん。君も手伝ってくれたまえ!」
「え!? いや、おれは何もわからない………」
「大丈夫、自分達の指示に必ず従ってくれたらいい。君がかの夜明の錬金術師じゃなくても、『賢者の石の制作に尽力』という功績は決して無駄にはならないはずさ! さあ、早く行こう!」
「っ! はいっ!」
とりあえず専門知識もないので指示通り、周辺に散らばる余ったパーツやごみを1つにまとめて捨てていく。稼働中に足を引っ掛けて錬金道具に断ち切られて死にました、とかだと笑うに笑えないからとの事。
「ガゼル、こっちが下がってる!」
「今噛ませます! 唸れ、大地の咆哮! ヤマトくん! 水平機を持ってきてくれ! そこの、机の下に転がってる奴だ!」
「これですか!?」
「よっし! 水平、流石は自分! 父さん、加速機の制御を頼みます!」
「任せろ!」
アゼル卿が各所に宝石………というかプリズムみたいなのを設置し、細かく角度を調整していく。どうやら生成した魔力を集束させるのだが、それでも足りないのでプリズムでさらに一点へと集中させるらしい。
「膨大な魔力があればゴリ押しできるんだけどね………そんな事したら100人くらい魔法使い生贄にしないと」
「何故だろう、とある錬金術師がダブルピースしてる姿が見える」
クロス殿が考えた賢者の石を生み出すには膨大な魔力を必要とするようでガゼル卿の冗談も手段としてありらしい。
それを恐らく単独で成し遂げたであろう魔力お化けの彼女に吾輩はちょっと引いた。
「これ、成功しますかね?」
「装置の強度が足りなければ漏れ出る上に、収束した魔力に当たれば体に穴が増えて、運が悪ければ死ぬね」
「怖っ………モルガナもこんな錬金道具を組み立てたんだろうか」
「いやぁ、どうだろう? シュレディンガー氏はもっと綿密にやっていた筈だよ。今回は父にしては珍しく焦ってるようだ。まあ、目の前に出来るかもしれない可能性があれば焦るのも当然かな」
粗方調整を終えたのか、アゼル卿が汗びっしょりでこちらに歩いてくる。弟子の1人が私たち布で汗を拭うと、懐から空色に塗られたモノクルを片目につけた。
「よし、軽く中の空気を引いたら、ロジェスティラ君の血を熱で一気に蒸発させる。それを魔力に付与して宝石を変化させるのに内部の空気が干渉するから真空にして全て省く。どうせこれは今回限りだ」
「まあ微々たる要素なんで、ただ失敗したときにもう使えないってなったら萎えますけどいいですか? 父さん?」
「──今回で成功させる。その為にこのモノクル、魂を見る為の錬金道具を生み出したのだ」
「なら。始めましょう。準備はいいですね?」
錬金術師達が離れた後、ガゼルさんが何かしらの装置に魔力を回し、加速器を稼働する。赤く輝く光がパイプ内を満たすと空気が破裂するような音がして、レーザーがパイプ内を通過していく。
あまりの眩さに目が眩みそうになるが、アゼル卿は気にする事もなく、プリズムを調整し始めた。それを見てガゼル卿も宝石に向けてレーザーを照射する。
ここまでは順調だった………でもトラブルは起きるもので。
「父さん! レーザーがパイプを突き抜けて壁際が焼けてます! ああっ! 日誌に火が!!」
「すぐに消火だ! 急げ!!」
「アゼル卿、最後のプリズムが割れてる! しかもレーザーが漏れ出してるし、これっ!?」
「ええいっ! 奴め粗悪品を掴ませおったな!? 私の魔法で無理やり水のプリズムを作って照射する! ヤマト、手伝え! パイプのヒビを埋めるんだ!」
「それ、いきなりやって可能なんですか!?」
「きっと多分大丈夫だ! 当たっても死ぬだけだ!」
「凄く不安!」
辿り着いたプリズム部分に水でアゼル卿が無理矢理埋め込み、照射角を強引に曲げていく。吾輩も渡された変な泥をパイプに埋め込み、金に変えて無理矢理ヒビを埋めていく。
強引にレーザーを曲げるもんだから、壁を焼き切り、本棚から出火はするわ、漏れ出た光の熱で肌がヒリヒリしていく。日焼けの酷い版だ。多分火傷しかけてる。
それでもレーザーが宝石に当たり、眩い光に部屋中が包まれる中、アゼル卿はモノクルをつけてタイミングを測る。
「父さん、これでいいんですか!」
「黙れ、馬鹿息子! 私の判断に大人しく従え! 勝手に判断するなよ!」
「最初からかなり条件が変わってる! 成功するんですか!?」
「……………」
「「黙らないで!?」」
それでもアゼル卿は黙って腕を振り下ろす。それを合図と捉えてガゼル卿は錬金道具に通していた魔力を切断する。閃光が燃え尽きる星のように一際輝くと、目的とした宝石には──血のような赤が輝いていた。
「私にかかれば、容易かったな」
「ええ、2度と父さんとはやりません」
「再現性皆無の制作すぎる」
肩を上下させて、やり切った吾輩達の言葉に周りの錬金術師達も膝をついたり、壁に寄りかかりだす。全員が張り詰めていた気が抜けた中、ふらりとアゼル卿だけ石へと向かう。
ゆっくりと、慎重に、赤子を抱えるかのように取り出されたその宝石は部屋の全ての目線を奪うように輝いていて。
言葉が上手く出てこない。目を奪われるのは、その光があまりに素晴らしかったから。錬金術師の秘奥にして極地をただ、目に焼き付けておきたかった。
「……………ここに来るまで色々な選択肢があった」
アゼル卿が噛み締めるように言う。
「妹を死なせ、錬金術師になり、組織を作り、義賊に盗まれ、帝国から追放され、王国に流れ着き、息子に恵まれ、死神と取引をし、王女殿下は救われ──この結末に辿り着いた」
アゼル卿は漸く肩の荷が降りたとばかりに、大きく息を吐き、完成した──賢者の石を大事そうに握りしめる。
「これが、選択の結果だというならば………私は最後まで走り抜けるとしよう。皆の者、ありがとう。おかげで私はまだ走り続けられる」
部屋の中で拍手が始まる。アゼル卿の言葉の意味は分からなくとも誰もが、完成した事に対する喜びや感動の叫びを上げていた。
「死神、ね………」
だから、それでいいと思った。その感動は尊いものだと思ったから。
『主の目と引き換えに譲ってもらったのか。魂を観測する目………賢者の石を完成させる為に必要な』
吾輩は人間になった猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、モフガルド・ニャンディアス3世、キミリア。人間の頃の名前はヤマト。
たとえ、
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