【第1部完結】吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。   作:あんみつ炙りカルビ

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ヒロインが主人公に惚れるシーンって書くのが難しい………どういう動線で惚れたかがしっかりしてるか不安になります。ロジェの脳味噌を焼くにはどうするか最近の悩みです


黄昏がやってくる

 吾輩は人間になった猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、モフガルド・ニャンディアス3世、キミリア。人間の頃の名前はヤマト。

 すっかり遅くなった夜道をロジェと並んで歩いていた。飲まされたアルコールにより火照った体に夜風がちょうどいい。

 

「ファウストさん、酒癖悪かったね………最後の方とか全裸で踊ってたよ」

「あれもう、王国の誇りにして恥だろ」

「賢者の石を作れる人も、ああしたらただの人なんだよね………」

 

 月明かりが照らす中、賢者の石が完成した記念の祝いに巻き込まれた惨状を思い返す。最終的にはアゼル卿とガゼル卿の奥様からの雷が落ちて解散となったが。

 

「ファウストさんは凄いや。ずっと夢の為に努力をしてきて諦めなかったから、遂に賢者の石を完成させた。諦めなければ夢は叶うって言うのは本当だったんだね」

「夢ってのはそんなもんだよ。辛くて厳しい現実から逃げずに最後まで足掻き続けて、それでも夢に対して諦めなかった人だけが叶えることの出来るものさ………俺も昔はそうだったよ」

「ヤマトさんは、夢を叶えられたの?」

「ああ。現実に折られてなお、それでもと頑張ったから今がある。ロジェはおれに似ているよ」

「似てる? ボクとヤマトさんが?」

 

 そんな事あるかなぁ?とばかりに首を傾けたロジェに、吾輩は頷く。

 

「おれも昔、両親がいなくなってな。父は蒸発、母もおれが15歳の時に姿を消した。その後は祖父母の家に身を寄せて、学費や生活費を稼ぎながら夢を、作家を目指してた」

「それで、なれたの? 作家さんに」

「なれた。そこに至る迄に彼女を寝取られたり、会社で体を壊したり、何度も折れた事があったけど、それでも前に歩き続けた。そしてら漸く1つの作品に関わる事が出来た。漸く自分の職業を作家だと………夢を叶えたと、胸を張れるようになったのさ」

 

 隣で歩く彼女に顔を向ける。月光が、彼女の白い肌を照らしている。並んだ背丈は今は同じ。彼女の瞳が吾輩を映している中で、きっちりと言い切った。

 

「ロジェスティラ。君は折れてなお、それでもと前に進み続けた。その結果、君のおかげで1人の女の子が助かった。君が諦めずに夢に進み続けたからこそだ」

「ッ!!」

「夢から逃げなかった君は強い。その事だけは誰にも否定させない。もし否定するようなら、おれが真正面から言い返してやるさ」

「な、なっ、なっ!?」

 

 ロジェの顔が夜でもわかるくらいに赤くなった。こちらの顔が見れないのか、帽子の鍔で必死に顔を隠そうとする姿が小動物みたいで可愛らしい。

 暫くして落ち着いたのか、帽子から目線を見せるが何故だか呆れてるというか。

 

「そういうこと、他の人にも気安く言ってない?」

「気安く言ってるつもりはないが」

「つまり、言ってはいるんだね。元嫁さんは苦労しただろうなぁ」

「事実は言わなきゃ伝わらないだろう」

「伝えた相手の気持ちを考えてくれる?? もう!」

 

 するりと、目線が合わなくなった。少し早めに前を歩く彼女に、吾輩は首を傾げて後ろをついていく。ロジェが嫌になるような言葉を言ったつもりはないんだがな。

 暫く歩いて、辿り着いたアトリエの扉を開けて地下室へと降りていく。見ない間にロジェが料理に試行錯誤したらしく、野菜の切屑や皮などが放置されていたので、ひとまとめにしておく。後で捨てておこう。

 

 ロジェは面目なさそうに顔を伏せると、そそくさと水を汲んで上階に戻っていった。きっと体でも拭いているのだろう。その間にテーブルに広げられたユニティの本を片付け、空いたソファに体を沈ませる。

 

「ロジェ編のボスは、シャリテーヌの筈だったんだがなぁ………」

 

 ぼんやりと天井を眺めながら、吾輩は思う。本来であれば、アゼル卿の立ち位置は『慈愛』のシャリテーヌだった筈だ。魔族達に餌と苗床を提供する為に三羽烏は作られた。

 ロジェとの因縁はそこで作られ、終盤の戦いでロジェvsシャリテーヌが成り立つって流れだったんだけどな。

 

 アゼル卿が何故、三羽烏の総帥になっているのかはさっぱりだ。温泉街にシャリテーヌが来て、ミスト殿が血に侵されるまでは同じだとすると終盤の流れがまるっきり変わる事になる。

 

 本来なら、モルフェオの奴が地下水道に自身の体質からなる睡眠薬を流し、異変を察知したロジェと対決。それにより、企みは明らかになるが、それすら織り込み済みとして前もってシャリテーヌの血が混ぜられた予防薬を市場に流していた事が発覚。

 

 そして、そのままシャリテーヌの血により、吸血鬼に変えられた民を押さえ込む為に争う王国とアルチナ。錬金術により、全員の体を治そうと薬を開発するモルガナ、シャリテーヌに攫われたミスト殿を救う為に飛び出すロジェによる戦いが始まる予定だったんだが。

 

「血による『支配』と『自由』がロジェ編のテーマだった。それがないとすると、この物語はどこに着地する? アゼル卿の目的は? くっそ、おれはどうして頭が良くないかな」

 

 シャリテーヌが来る前提で動くにしても、モルフェオが何も動かないのが気になる。ユニの奴に殺されてるか? いや、だとしたら報告くらいは入れそうだしな。

 というか、ユニがいて王国に害を出すような作戦が立てられるか? 魂の揺らぎで嘘を見抜けるユニに腹案は通用しない。それこそ、自死を前提にしないとユニは見逃したりはしない筈だ。となれば、

 

「ユニに会わなきゃな………」

「ヤマトさんは、あの軽い感じの女性が好きなの?」

「うおっ!?」

 

 考え事に没頭していたせいか、ロジェが戻って来ていたようだ。少しばかりしっとりした彼女が壁に寄りかかってじっとりとした目を向けてくるので、誤魔化す為に咳払い。だめだ、誤魔化されてくれなさそう。

 

「モル姉と結婚が決まってて、アル姉も口説いて、更にユニティさんに手を出すのは幾らなんでも節操なさすぎだよ!!」

「待つんだ。誤解だ。おれは別に口説いてるつもりはない!」

「なおさら、たちが悪いよ!!」

 

 どうしよう、ちょっとばかり彼女の虫の居所が悪いのかもしれない。ふーんだ、とロジェは天井に吊り下がっているハンモックに体を預けて不貞寝の体勢に入り、

 

「「あっ」」

 

 ブチリ、と嫌な音を立ててものの見事に頭から机の上に落下した。声を殺しながらゴロゴロと床の上を転がるロジェの強靭さにちょっと引いた。今の落ち方は障害が残るコースだったぞ。どんな体をしてんだ。

 

 それはそれとして、今までも小さいロジェで危うかったハンモックだったが女子高生くらいまでに成長したロジェの体重に負けたようだ。重くなったか?とは絶対に口にしない。余計ないざこざを生むだけだから。

 

「とりあえず大丈夫か?」

「〜〜っ! いったぁ………」

「むしろ、よく痛いで済んでるな………それで? 今日の寝る場所なくなったけどどうする? おれは全然床で構わないが」

「そ、それはだめだよ! ボクが床で寝るからさ!」

「女の子を床で寝させる男がどこにいるんだよ。気にするな」

「そ、そういう事をさらっと………」

 

 もだもだし始めたロジェをおいて、吾輩床に寝転がる。地下室だからか、床が硬い。あと、底冷えが酷い。眠れなさそうだな。まだ上の木造の床で眠った方が良さそうだ。

 やっぱり上で寝ようと、体を起こした矢先、ぐいっと体を引っ張られて柔らかなものに包まれる。振り向けば、ロジェが吾輩を無理矢理ソファに押し倒していたところだった。

 

「だから、言ったじゃん………ボクが床で寝るからいいよ。昔はずっと床で寝てたわけだし」

「いやいや、それやるならおれが2階で眠るって。木造だから、ここほどは酷くないだろうし」

「腐りかけの床や鍵が掛からない上階で眠る気? そっちの方が危ないよ」

「じゃあ、一緒に寝るか? ソファでぎゅうぎゅうになって」

 

 お互いに譲る気がないので、否定も交えてあり得ない選択を掲示する。互いの体格を考えれば抱き合う事で可能だろうけど、そんな選択肢を内気なロジェが選ぶわけがない「いいよ」の、で………?

 

「ほら、早く詰めてってば」

「え、いや、その………」

 

 無理矢理ソファの奥に詰められてそのままロジェも空いた空間に体を滑らせる。吾輩の腕を持つとあすなろ抱きさせるように前に持ってきた。

 嘘だろ? こんな事が、こんな事をロジェがこんな積極的にするわけがない………まさか、偽物か!? 

 

「いやいやいや、嫁入り前の女の子がこんな事しちゃだめだろ? もし、おれが手当たり次第に女に手を出す屑野郎だったらどうすんだ」

「すでにモル姉にもアル姉にも手を出してるじゃんか………()()()()

 

 その言葉に、吾輩の体が強張った。それを全身で察知したのか、彼女は吾輩の腕を痛いほど握りしめる。沈黙が痛く、静寂だけが部屋に満ちていた。

 

「どうして分かった?」

「2人がクラウンを好きなのは目に見えてたのに、直ぐに別の人に乗り換えるのは有り得ないって思ってた。ただ、万が一あるかもと思ってたし、錬金道具を起動させた事についても、血縁だからって言い訳出来ると思った」

「いつ、確証を?」

「お酒って怖いね。酔っ払ったファウストさんがクラウンの事を話してたから」

「アゼル卿ェ………」

 

 仕方ない事だとは思う。念願果たして、酒を浴びるほど飲んでいれば口を滑らせることもあるだろう。とはいえ、こうして明らかにされるのは気不味い。理由はあれど、騙していたのは確かなのだから。

 

「その、すまない。騙していた事を謝らせてくれ。申し訳なかった」

 

 謝罪を口にする。彼女を放っておけないから、わざと黙っていたけれど彼女からしてみればたまったものではないだろう。揶揄われてるなんて思われても仕方ない。罵倒や非難も甘んじて受けようと、彼女の次の言葉を待てば、

 

「………その事については全然いいよ。ボクがクラウンを噛み殺しかけたんだ。罰だと思って甘んじて受ける。ただ、自分は本当に周りが見えてなかったんだなって」

 

 彼女は特に気にした素振りを見せず、こちらへ体ごと振り向く。綺麗な目が吾輩の胸元から見上げるように映していた。その顔に迷いも躊躇いもない。

 

「今は違うと?」

「自分の考えでミストさんを助けて、ちょっとだけ自分に自信が持てた。自分の考えが間違ってるかも………って思考を少しだけやめてみた。そしたら、少しだけ世界が広がった気がしたんだ」

 

 ユニの言う通りだったかもしれない。甘やかしてばかりだったロジェが、1人でこうまで行けるとは思ってもいなかった。

 吾輩がいた事が、彼女の成長の枷になっていたとは………吾輩もまだまだ人に教える側として未熟だな。馬鹿弟子が例外ともいうべきか。

 

「だからね、クラウン………ボク、謝りに行こうと思うんだ」

「誰に?」

「──モル姉とアル姉に」

 

 驚いた。それはもう、目を剥くほどに。あのロジェが、自分の意思で2人の下に戻ろうとしているその事実に。

 

「クラウンがファウストさんと賢者の石を作ってる間に、ミストさんと話をしたんだ。ミストさんの身体からもう少し毒素が消えたなら、義手や義足をつけてもいいかもって。でも、それならもっといい方法があるって思った」

「アルチナの魔法か」

「うん。アル姉なら彼女に生身と同じ肉体を与えてあげられると思う。モル姉もいれば、肌荒れとかもきっと治せるんじゃないかって。ミストさんは私の方から依頼するって言ってくれたけど………自分で話してみるって言ったんだ」

「どうしてだ? ミスト殿に間に入ってもらった方が………」

「ううん。それじゃあダメだと思った。ボクはクラウンや皆にずっと甘えてたから、あの事件が起きた。また皆に甘えて流されてしまったら………また取り返しがつかない気がしたから。だから、自分で選んだ。辛くて苦しいけど………自分が由しと思う選択をしたかったから」

 

 男子三日会わざれば刮目して見よ、なんて言う諺があるけれどそれはきっと彼女にも言えたらしい。たった数日、姿を見なかっただけでここまで変わるなんて。もう、吾輩の存在がデバフじゃないか、これ。

 

「? クラウンどうしたの? 急に頭なんか撫でて」

「いやなんか、もう………吾輩の存在意義あったかなって」

「あるよ。クラウンがいたから、モナ姉やアル姉は助けられたんじゃないか。ボクに散々言ってたじゃないか。自信持って!」

 

 逆に慰められてるのが情けない。吾輩泣きたくなってきた。もう黒猫に戻って、悶えようかと思ったがロジェが吾輩に擦り寄ってくるので、諦めて腕の中に収める。

 

「狭いだろ。黒猫に戻ろうか?」

「いいよ。今は、こうしてたいんだ。クラウンが生きててくれた。その温かさを感じていたいから」

 

 吾輩は人間になった猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、モフガルド・ニャンディアス3世、キミリア。人間の頃の名前はヤマト。

 結局、その日は2人で寄り添って眠った。互いの暖かさを感じながら。

 

 

 

 

 

 

 誰もが忘れた歴史の中、残された遺跡に私はいた。何の為に作られたか、それを理解してなお口を閉ざし、別の錬金術師にその調査を依頼したのだから。

 王国の地下に張り巡らされた地下通路は、道なのだ。流れを司るものなのだ。私が賢者の石を作る為に足りない魔力を増幅させたように。国から、民からほんの少しの魔力を吸収し、循環と増幅を繰り返す回路。

 

「それがこの地下通路の秘密………ルドルフ・Y・クロス氏が生み出した『魔道廻廊』。国を設立したのはこれを隠す建前だったのだろう」

「ぐーぐっぐっぐ………ですが、総帥。何故、英雄とも呼ばれた錬金術師がそのような回路を生み出したのでしょうか。防衛装置にしても歴史から消えているのが気になります」

「それは私にも分からん。ただ回路を生み出した理由はわかる。恐らく、夜明の錬金術師も私と同じことをしたかったのだろう。それには膨大な魔力が必要だった。だから、生み出した。『死者蘇生』それを成し遂げる為に必要な魔力を用意する為に」

 

 地下通路、その中心。そこは王城の真下に位置する。全ての魔力が1つに集まるその部屋は意外にも淡白で生活感のない小部屋だった。小さな机と大きな本棚、細々としたガラクタ入れ。そして部屋の中央………巨大な錬成陣の上に寝台があった。

 だが、寝台には1つの人形が寝かされている。側には散らばった冊子。年代からしても300年は下らないものだ。

 

「遂に、遂にだ………この時が来た。いや、来てしまったと言うべきか」

「本来であれば、あの死神に全て台無しにされる筈でしたからね」

「ああ。そもそも完成できるとは私にさえ思っていなかった。私の寿命が先に来る方が早いとも。だがそれならそれで割り切れた。今の今まで奴隷組織なんぞ率いていた男の夢が叶うなんぞ、罰当たりにも程がある」

 

 自嘲気味に笑えば、右腕たる亜人は顔を曇らせた。らしくもない。それこそ、我が息子より付き合いの長い男だ。もう1人の息子とも呼べるその男は愚かにも奴隷の自分を買った主人を心配してるようだ。

 

「総帥」

「言わんでも分かる。あの忌々しい死神に遊ばれているのだ。私達は」

「っ!! 分かっておられるのなら、何故!」

 

 懸念はある。あの魔女だ。ユニティ・ブバスティス。奴隷にされた亜人達を買い占める変わり者で連邦国の代表にして作家。

 今の今まではお得意様だったはずが、急にこちらに敵意を見せ、たった1日で組織を壊滅させられた。個にして群とも呼べる彼女は私達を、足蹴にしながら。

 

『取引をしよっか! 今すぐ死んで夢も名誉も失って貴方の一族を薄汚い犯罪者の血として広めるか。ウチの言う通りにして、夢と名誉と家族を守って死ぬか。どっちがいーい?』

 

 私は──選択をした。最悪でも、まだ良い選択を。

 家族に迷惑などかけられない。叶うならば自分だけ苦しむようにと。

 

「小賢しい事に、あの魔女からすればどちらでも良いのだろうよ。あの女の目的からすればな。謂わば私達は物語の道化、引き立て役でしかないが、夢を叶えてくれるのであれば乗るしかないだろう。約束は守る人物のようだしな」

「今からでもあの黒猫を人質にすれば………いえ、迂闊な発言でした。すみません」

「構わぬよ。モルフェオ。付き添いは結構だ。何かしらの意図で選ばされたとはいえ、死への片道に貴様まで付き合う必要はあるまい」

「ぐーぐっぐっぐ。何を馬鹿なことを。最後までお付き合いいたします。その為に兄弟達は私を残してくれたのですから」

「………主人に似て、馬鹿な男だ。では始めよう。伝説の具現を」

 

 寝台に寝かせた人形『ULシリーズ』の内部には完成した『賢者の石』が入っている。そして、ヤマト君から貰った変換器の解説図。これは既存の錬金道具………魔力を炎に変えるものを少し改造するだけで済んだ。

 しかし、帝国も終わりだな。あれほど理路整然とした解説と理論を構築できる女を捨てて、地位しか誇ることのない男を後継に据えるとは。奴らが無様に死ぬのを見られないのが心残りか。

 

 死者蘇生に必要なものが全て揃い、モノクルをつけて錬成陣に魔力を流す。膨大な魔力が全て雷へと姿を変え──人形へと叩き込まれる。本来なら焼け消える………しかし、賢者の石があるなら話は違う。

 これは焼き付けなのだ。()()()()()()()()()()()()()()()作業。何処にもいない妹の魂をその肉体に焼き付けるのだ。

 

 モノクルに不透明な何かが映った。それは焼き付いた賢者の石に滑り込むようにして入っていくと、真っ赤な閃光が部屋中を満たし、慌てたモルフェオが私を押し倒す。

 暫くすると、光は収まり、辺りを見渡すが何も異常は見受けられない。寝台の人形………否、妹に似せた人形はピクリともしない。失敗したのか。

 

 ゆっくりと彼女に近づく。記憶の中の彼女に似た人形は起きる気配はない。失敗だと、私は思った。そして、同時に安心もした。やはり伝説は伝説でしかなかったのだと。

 

 ただ、それでも………また、昔のように

 

「兄さん、と呼んで欲しかった」

 

 枯れ果てた老木から、雫が落ちる。人形の彼女の頬を濡らす。

 

()()()()()………?」

 

 声がした。目を見開けば、人形がゆっくりと目を開いていた。まるで意識がまだ沼の底にいるような彼女はゆっくりと体を起こすと、まるで雷に撃たれたように一気に捲し立てた。

 

「兄さん!? 何処に行って………あれ? 何だか、兄さん年取ってない? というかお爺ちゃんになってる!?」

「お、おお………! ルシア! ルシア! 私だ! アゼルだ! 本当に生き返るとは!!」

「え、何!? 何があったの!? 確か、私は陽の下に身を投げて……いや、私はあいつらからお荷物だって追放されて………吸血鬼の血を飲まされて………ミュウを無理矢理襲おうとして………アレ?」

「大丈夫だ。記憶が混濁してるんだろう。無理もない。兄さんがついてるぞ。もうお前を脅かす者は何もない。お前の身分や偽装は既に済んでる。あの時みたいに腹を空かせることもないんだ」

 

 死者蘇生は本当だった! クロス様は『亡くした義姉を生き返らせた』と書いてあったが本当の事だったのだ! 私の人生は全てこの時のためにあったのだ!!

 

「モルフェオ!! 早く服を着せてやれ!」

「ぐーぐっぐぐ! おめでとう御座います、総帥! さあこちらを」

「いやはや、ルノワールの秘伝書を手放した甲斐があった! クロス殿のレシピは本当だった! 私の選択は間違いではなかった!!」

 

 手渡された服をまだ頭を抱えて悩んでいるルシアに手渡せば、彼女は何やらぶつぶつと呟く。目の焦点が定まってない。まさか、何か異常でも起きているのか?

 

「兄さん………お兄ちゃん………ルノワール………クロス………? アレ、私はルシア………ルシアだよね。ラケシスの奴め、僕が、いや俺が下着を盗んだくらいで偉そうに、ミュウの奴も水浴びを覗いたくらいで………ああ、そうだ」

「ルシア………?」

()()()()()()()()()()()

「ッ!! 総帥、離れ──!」

「やれやれ、判断が遅いなぁ──そんなんだから君たちは負けるんだよ」

 

 最期に映ったのは、私を庇おうと前に立つモルフェオと──部屋中から生み出された黒い魔手。その暗闇に押し潰された寸前に、私は自分の過ちを理解した。

 

 死者の蘇生など──神以外に手を出してはならないのだと。




よーし、3章の終わりが見えて来た!
感想評価ありがとうございます! 毎度励みになっております!
どしどしください! 待ってます!
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