吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。   作:シャモロック

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よく来たな、佐川急便にアリさんマーク!

 吾輩は猫である。名前はクロ。

 今日はモルガナの誕生日であり、運命の分岐点でもある。

 

「村長、今日はよろしく頼む」

「………ええ、任されました」

 

 朝日が昇る頃、吾輩は村長の家を訪れていた。パトリシアの父である村長は立派な体躯を吾輩の目線に合わせるように膝をついてくれる。たかが猫にここまで敬意を払わなくてもいいと言うのに、彼は断固として譲らないのだ。

 

「貴方とあの子が来てから、この村も随分と豊かになりました。それもこれも貴方が森の外で使える外貨を拾ってきてくれるおかげです」

「物々交換が主であるこの村では、珍しいものだったろうに。だが、貴殿がきちんと外の世界にも目を向けられる長で良かった。今まで吾輩達を村に置いてくれた事、感謝する」

「感謝なんて、そのような………外貨を手にしたおかげで外で育つ作物の種や栽培方法、文字や算術の本などより良く生きていくのに必要なものを手に入れられたのですから。だから気にしないでください」

 

猫の身だが、頭を下げて感謝を示す。同時に謝罪も込めて、心から。村長は息を呑むと、大きく息を吐いて、安心させるように胸を叩く。吾輩達を引き取ったばかりに苦労をかけたのに、何と器の大きい男なのだろうか。

 

「それで奴らは………やはり、モルガナを狙っているのですか」

「ああ。訳は伏せるが、モルガナを始末しに来ているようだ。故に、イベントに乗じてモルガナをこの森から外へ逃がして欲しい。貴殿らは兵士達よりも森の道に詳しいだろう? 奴等とは真逆に逃げる事も可能な筈だ」

「それはそうですが………やはり、育った村を捨てるのも………」

「安心するといい。長くても3日。野宿をしてもらえれば吾輩が全て始末をつけよう。だが代わりにモルガナを頼む。あの子はここで死なせたくないのだ。無論、貴殿達も」

 

 死なせたくない。誰も彼も。この1週間、この小さな体にその重さがどんどん積み重なっていくのが分かった。

 何か足りない事はないか? 何か見落としてないか? どうすれば皆を救えるのか。吾輩が飯を食う為に作った世界、それが今頃になって責任としてのしかかって来ている。

 

「計画はこうだ。この村恒例の11歳の記念日として行う森を使った宝探し。貴殿はモルガナに付き添い、吾輩が森の外側付近に仕掛けたプレゼントの杖をモルガナに回収させていただきたい」

 

 11歳の記念日に森で宝探しをして、キャンプをする事で成長と自然の大切さを知るイベントは吾輩と村長が相談し、10年前から始めたものだ。村総出でイベントの手伝いをする為、村には人っこ1人居なくなる。

 

 全てはこの時のため、前もって進めていた計画だ。村長からしてみればたまたま重なってよかったと思っているかもしれないが。

 

「そして、そのままモルガナを外に逃せばいいのですね。何か伝える事はありますか?」

「手紙に全て書き記した。そもそも吾輩はただの親代わりの黒猫だ。強いて言うならば………いや、やめておこう。吾輩が彼女にこの5文字を伝える価値などあるものか」

「………彼女は決してそう思ってはいないと思いますが」

「………かもな」

 

 皮肉げに笑うが、そうだとしてもやらねばならない。吾輩は死んでも漫画のストーリーに変化はないだろう。何故なら吾輩はただの異物でしかないのだから。

 

 ──吾輩が描いた漫画に黒猫は存在しない。

 

 少なくともモルガナの使い魔はまた別にいる。そいつに転生したならともかく、作者である吾輩の手から離れた世界に干渉した何者かが、吾輩を黒猫として転生させたのならば何かしらの厄ネタがある筈だ。

 

 であれば、彼女達のそばにいる事はその何者かの目的達成に必要な事なのだろう。ならば、吾輩の方から身を引くべきだ。

 

「その後、吾輩は村で兵士達を待ち伏せし、取引を持ちかける。奴らはモルガナの姿を知らない。故に吾輩がモルガナであると押し通す」

「ですが、貴方は雄の黒猫ですよね?」

「それこそ、TS………何故か呪いで雄の黒猫に変えられたと言えばいいだろう。観た限り、兵士のリーダー格は馬鹿そうだ。吾輩の持つ手札を差し出せば乗っかって来るだろう」

 

 帝国は財政難である。無闇矢鱈に戦争を仕掛けるわ、上層部は贅沢尽くしだわ、民達は重税で苦しんでるわと国庫はいつ底をついてもおかしくはない。

 そんな所に無限に金貨を生み出すモルガナを名乗る黒猫が現れれば………?

 

「奴らは喜びながら吾輩を帝国へ連れ帰るだろうよ。まあ、死ぬ事はあるまい。二度と光の差す場所には帰れなさそうだがな」

「どうして………どうして、あの子にそこまで命をかけられるのです。貴方は元人間だと言っていたが………同じ人間である私にはそのような自己犠牲はとてもじゃないが出来やしない」

 

 吾輩の淡々とした言い分に、村長の絞り出すような声が朝の爽やかな空気を両断する。確かに、周りから見れば吾輩は未来ある娘を守る為に身を捧げる高潔な猫に見えるのか。

 

「それが当然だ。村長。吾輩と主では見える世界が違うのだ。主は主が大事だと思う世界を守るがいい。吾輩は主を含めた全てを守りぬくからな」

 

 そんな自分に見えている事に、反吐が出そうだ。感謝なんて思わなくていい。運が良くてラッキーだというくらいの感覚でいいのだ。ヒロインの悲しき過去………!くらいの軽い感覚で吾輩は汝らを1度殺したのだから。

 

「話は終わりだ。吾輩は帰ろう。モルガナを起こしてやらんといかんからな」

「………黒猫さん」

 

 話を切り上げ、戻ろうとする吾輩を村長は呼び止めた。振り向けば、彼は吾輩に向けて頭を下げていた。

 

「貴方に敬意を。かつて人間だった頃の貴方に会って見たかったです」

「ふっ、やめておけ。実際の落差にがっかりするだろうから」

 

 てちてちと、村長の家を抜け出せば入口前に何故か隠れてるパトリシアがいた。彼女が目を覚ますにはいささか早い気もするが、イベントにワクワクして早く起きてしまったのだろうか。

 

 いや、単に父に挨拶しようと思ったら吾輩がいたから遠慮したかもしれん。話を聞いておきたいが今日は分刻みのスケジュールだ。すぐにモルガナを起こさねば。

 

 いつも通りに屋根から屋根裏部屋に侵入し、穏やかな寝息をたてるモルガナの顔に肉球を乗せる。モルガナは比較的朝に弱い。声をかけても起きないので顔に肉球を乗せたり、叩くことで毎朝起こしているのだ。

 

「ふみゅ………くろ、おあよ」

「おはよう。早く、顔を洗いなさい。今日は主の誕生日だぞ」

 

 顔を洗いに行ったモルガナを見送り、その間に彼女の服を用意しておく。暫くすると前髪をぐっしょり濡らした少女に呆れながらも、吾輩はこの10年で慣れたタオルドライをしつつ、尻尾で掴んだ櫛を通していく。

 

「ありがとう」

「全く、主は顔を洗うのが上手くならないな。本当に」

 

 渇いたのを確認すると、階段を降りて宿屋の食堂へ向かう。女将さんのご厚意により、三食用意してもらっているのだ。

 今日は誕生日だからか、いつもより豪華だ。新鮮な卵を使ったオムレツに野菜スープと白いパン。モルガナはいつもボソボソとした黒パンを牛乳で流し込んでいたが今日は白いふわふわのパンだからか喜んで食べているようだ。

 

 因みに吾輩は野菜クズを炒めたものである。慣れると意外と美味い。

 

「うっ………にんじん」

「好き嫌いしないで食べなさい。大人の美人になれないぞ」

「誕生日くらい見逃してください」

「だーめーだ。嫌いなものから逃げていたらいつまでも克服できないだろう」

「むーっ」

「膨れてもダメだ。ご馳走様。早く食べて部屋に戻りなさい。先に行って待っているから」

 

 こうすると彼女は直ぐに食べて戻ってくるので、その間に荷物の準備を済ませておく。今回は彼女の避難も含んでいるので3日分の食料や水、そして路銀や外部から入手した近辺の地図を入れておく。

 

 本当は他にも色々入れたいのだが、10歳の身では重すぎる荷物は逆に足枷になりかねないからな。逃げるのにも軽い方がいいだろう。

 鞄に荷物を入れ終わると、モルガナが戻ってきた。

 

「さて、今日は主がイベントの主役だからな。思いっきり楽しんでくるといい。吾輩、残念ながら所用で行けないからな」

「何ですか、所用って。私の誕生日より大事な事があるんですか?」

「何度も説明したが、近くにゴブリンが来てるかもしれないんだ。奴らが村を空けている中、悪さをしないか見張るのが吾輩の仕事でな。まあ、2、3匹だから気にせず楽しんでこい。吾輩の逃げ足が速いのは知ってるだろう?」

「むう、私が薙ぎ払ってもいいんですよ。私の必殺技、凄いんですから」

「ああ、あの………昨日見せてもらったがあれは人間に向けるべきではないな。吾輩、あんな勢いで飛び出す柱に当たったら死ぬと思う」

 

 パトリシアやロンと冒険中に村の入り口まで迫っていたゴブリンをモルガナが必殺技で倒したらしいが、うん、まあ、その………ゴブリンが空中錐揉み回転するレベルで吹き飛ばされていたから威力は察するあまりだ。

 

 いやまあ、モルガナの成長速度は早いと思っていたが既にあそこまで超速で柱を生み出すまでに至っているとは………下手したら、あの兵士達にも勝て、いや、何を考えてるんだ吾輩は。巻き込まないと誓っただろう。

 

 漫画では暴走が初めての使用で、村ごと巻き込んでしまったがこれならば心配はあるまい。

 

「まあいいさ。今日くらい吾輩のことも忘れて楽しんでこい。帰りは明日だろう? 気をつけてな」

「うん。じゃあ、また明日ね、クロ」

 

 元気よく駆けていく彼女を見送って、吾輩も窓から外へ出る。今日はいい天気だ。澄み切った青空に、心地よい日差し。それを満遍なく浴びる。

 

「こうやって日光浴出来るのも今日で最後だろうからな」

 

 ゆっくりと、ゆっくりと吾輩は足を運び、村の入り口の前で奴らを待つ。思えば10年間、色々な事があった。まだ物心つかないモルガナに尻尾を掴まれ、振り回されたり、のしかかられたり、食われかけたり………いや吾輩、碌な目に遭ってないな?

 

 過去を振り返るのはやめて、未来を見よう。さて、帝国に捕まった後はどうするべきか。とりあえず2番目の魔女候補であり、魔物たち相手の前線を維持する彼女に会いに行かねば。

 

 吾輩の無限の金銭チートを利用して、どうにか面通しできないだろうか。漫画ではモルガナがとある魔物の素材を手に入れる為に前線まで来た所を助けるのだが、その頃には右腕と左足がなく、片目も持っていかれてるからな。なるべく早いほうがいい。

 

 彼女の魔法は膨乳ふたなりに変える魔法………ではないが、欠損程度なら治せる筈だ。漫画より早く教えてやれば、あの剣の実力を失うことはないかもしれない。

 

 そんな未来予想図の先に………足音が聞こえてきた。

 乱暴な足取りだが、何処か急いでるようにも見える。暫く待てば、草木をかき分けて蛮族騎士達が姿を現した。

 

「さ、サガワ団長………村です! 情報を得ねば………はうっ!」

「耳元で騒ぐな………うぐっ、アリ副団長、見ろ! あの、黒猫だ!」

 

 誰も彼もが顔色を悪くしたまま。よしよし、あの酒に混ぜたキノコの毒が効いているようだ。実はあの時混ぜた粉末は、この村では下剤として扱われている代物なのだ。

 キノコ全て口に含めば3日はウン○が土石流の如く止まらない。今回はその倍の量を小まめに入れておいたのだ。この1週間、腹を下しながらの旅路はクソほど大変だったろう。

 

 そして、彼らも気づいた筈だ。村で待ち構える見覚えのある黒猫に。恐らく毒を混ぜたのはこいつであろう事も。であれば、吾輩は不敵に太々しく笑うのみだ。

 

「よく来たな、サガワ・キュービン団長にアリ・サンマーク副団長。吾輩の名前はモルガナ。アルチナ元団長は元気かな?」

 

 吾輩は猫である。名前はクロ、偽名はモルガナ。

 ここからが正念場。さあ、運命を乗り越えろ!

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