吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。 作:シャモロック
樹木が迫る。死なる枝に、切り裂く葉。モノづくりの街を盛大に破壊していく存在は王国軍が誇る軍服を身につけているが、巨大な樹木が龍のように暴れ回る中、それを止める素振りはない。
なーにをあの軍人はとち狂ったのかしらぁ? あれだけお姉さん達を目の敵にしておいて自分で街を壊すなんてどうかしてるわねえ。
「死印天華"五分咲き"」
まあ、何が起きたかさっぱりだけども、少なくとも今の彼女は正常ではないとだけは分かるわぁ。それにお姉さんがやる事は変わらないしねえ。
地上にいる私へ向けて降りる龍は大きく口を開く。私は愛剣を抜き、迷う事なく飛び込んで、
「"暗薔薇"」
螺旋状の斬撃により、龍の口から内部ごと切り裂いていく。操作しているならば、そこに辿り着くまでに全て斬ってしまえばいい。私にはそれができる。全てを木屑に変えた先、空中に身を踊らせた私へ前から更なる枝が迫る。
空中では動けない。当たり前の事象をついて来たのは認めるが、
「お姉さんが魔法使いだって事忘れてないかしらぁ? 絶剣、抜錨」
"切削"そう名付けられた空間を変化させ、切断する魔法。体幹だけで振り抜いたその斬撃は樹木を紙を割くかのように容易に切り裂く。
噴水を囲む円形広場。その中央にある女神ミュウ様の像はすでに崩れ、散乱した瓦礫の間から雑草が伸びており、著しく成長したそれが軍人を受け止めて、着地したお姉さんと対峙する。
「それでぇ? 何でこんな事してるのかしら?」
「目の前に敵がいるから倒す! それが軍人たる私の務め!! 帝国の騎士崩れがじゃまするなぁ!!」
「会話にならないわねえ。魔族達との戦いで散々見た現象だわぁ」
嫌なこと思い出した。夜中に人面鳥が襲撃して来たせいで、乱交パーティしてた男どもが洗脳されたせいで朝まで掛けて全員制圧したのよねえ。
奴隷の女の子は魔族に連れて行かれるわ、居なくなったやつらの穴埋めしろだわ、最悪だったわ。思い出しただけで苛々してきた。
さて、切り替えましょうか。見た感じ、多分操られてるのは間違いない。人体にそういった兆候はなし。ちらほらと国中に湧いてる影達からして、影に潜む魔物かしら? 影を操る事で人間を操ってる?
となれば、姫様みたいに閃光で影を消した方がいいのだけれど………私はそんなの持ってないものね。困ったわ。
なまじ強いのが大変ね。殺す分には問題ない。理性が飛んでる分、実力は上がってはいるけれど、それでもまだサジェス程じゃない。あんな特殊性もないしね。問題は、
「
姫様含めて私やロジェちゃんはかなりギリギリの立ち位置にいる。揃いも揃って帝国側の人間が、軍閥の代表たる家系の人間を殺して問題にならないか。この戦いに勝っても国からいちゃもんつけられて追われたらたまったものじゃない。
国を信用できないのは………お姉さんが荒みすぎてるかしら。
ともかく、相手を殺さずに尚且つ拘束する。これだけの大規模な魔法を扱う戦略兵器を前に。
「まあ、実力差を考えたらちょうどいいかしら」
足裏で地面の感触を確かめながら、ゆっくり剣を握り込んだ。筋肉が軋み、骨が鳴る。
対するティーガーは右腕を前に突き出した状態で右肘に左手を添える構えね。静かな武人のように感じるのは一重に彼女の鍛錬の積み重ねなのだろうけど。細身の身体、長い桜色の髪、ただその瞳だけが異様だった。影そのものを覗き込むような、底なし沼のような溝色をしている。
「先に言っておくけど」
互いに無造作に近づく。言葉が届く。後1歩で始まりを告げる。
「今の私は機嫌が悪いの。手加減は期待しないで」
「奇遇ね」
ティーガーが肩を回す。その声だけはやけに理性的で。
「私も、あの戦いは暴れ足りなかったからな」
次の瞬間、地面が爆ぜた。ティーガーの踏み込みによる石畳が砕け、衝撃波が噴水を破壊し、巨大な獣が突進するような速度でこちらに向かってくるのを見切り、即座に双剣を振る。
攻撃の形を絞るために、空間に斬撃を走らせる。紫黒の軌跡にティーガーの進路上の空間そのものが裂けた。本来なら、触れた瞬間に肉体は両断されるのだけど、
「はぁッ!」
「ッ! そう来るのね!!」
しかし、ティーガーは腕を振り抜き、地面から生えた巨木が私の視界を防ぐ。盾のように割り込んだそれを切り裂くがそこにティーガーはいない。
こういう手合は凡そ分かる。突くのは死角。この場合は、真上か………
「真下っ!!」
「っ!」
既に迫っていたティーガーの拳へ合わせて剣を向ける。既に拳を止める事は出来ない。通常の斬撃でも指は持っていける!
「なんのっ!」
それでも腐っても王国を代表する双璧ねえ。いきなり踏み込みがずらされ、私の剣が明後日の方へ振られた。足元をみれば蔦が絡みつき、私の脚を見当違いにむけている。そのせいで剣閃がずらされた事に舌打ちし、迎撃をやめて防御に入る。
「死印天華"六部咲き"」
剣の峰で拳を受け流す。そのまま滑らせるようにして刃を彼女の体に突き立ててすり抜け、痛む傷を抑えるティーガーを強化した脚で背中から蹴り飛ばす。
「"毒桜"」
しっかり決まった受け技だったが、ティーガーは街灯へ蔦を巻き付けるとその反動を利用して無理やり距離を潰した。やっぱりあの程度じゃあ、止められないわね!
「近づき方が滅茶苦茶ねぇ!」
「戦闘時に考えるの嫌いなんだ! 指示を出すのも面倒臭い! どうして部下も仲間も私の言うこと通りに動けない!? 簡単な事しか言ってないだろう!」
「上に立つ人間が部下への説明を面倒がっちゃダメでしょうが!!」
拳と剣が激突する。衝撃に後退しながら双剣を振るう。斜め。横薙ぎ。刺突。通常の斬撃と空間切断を織り交ぜて、紫閃が幾重にも走り、広場に生えた樹木をを削り取っていくが、更に生やされた樹木や葉の刃に枝の剣が噴水の断面を晒し、街灯が音もなく崩れ落ちる。
ティーガーはその中を駆けてくる。枝を盾にし、蔦で剣の軌道を変え、根を踏み台にしながら。まるで森そのものが彼女の筋肉になるような躍動。このまま彼女に木や植物を生やさせるのは不味いわね!
「全部、薙ぎ払って………」
「やはり、空間斬撃の時に少しタメがあるなっ!」
魔法を使うために僅かに意識を逸らした隙にティーガーが低く潜り、次の瞬間、腹部から臓器がひっくり返るような衝撃が走る。
「がっ……!」
呼吸が止まる。どうやら膝蹴りを受けた私の身体が浮いた。不味い。受け身も踏ん張ることもできな………がはっ!
「ここまで近づけば剣を振るうより私の拳の方が早い!」
肘打ち。回し蹴り。拳打。ロジェちゃんほどではないけれど一撃一撃が重い。1発1発が骨身に染みれ。肉体が軋む。双剣で受け流しながら距離を取るが、間に合わない。
「やはり、貴様は肉弾戦が下手ね」
「剣士なんだから仕方ないでしょうが……!」
苛立ち混じりに双剣を交差させ、不可視の断裂が手足を狙う。後で治すからと振られたそれに──ティーガーは笑った。
「捕まえた」
「え?」
いつの間にか、蔦がアルチナの足へ絡みついていた。空間操作に意識を割いた瞬間を狙われたのだ。
蔦が引かれて、体勢が崩れる。その隙へティーガーが踏み込み、掌底と同時に突き出された枝が手首へ叩き込まれる。
「がぁっ!」
痛みに握力が弱まり、右手の剣が宙を舞う。残された左手で剣を向けるが、体勢が悪かった。力が入らなかったそれを彼女はさらに回転しながら蹴り上げて左手の剣も弾き飛ばす。
カラン、という乾いた音が広場に響いたと思うと地面から生えて来た木に飲まれていき………空の手には何も握っていなかった。
静かだわ………全く、お姉さんの荒い息がやけに響くくらいには。
「終わりだ」
汗を拭いながら笑う。狂気的な笑みはそこにはない。軍人らしく、軍服についた汚れを払い、こちらへ樹木を伸ばす女がいた。闇堕ちしてる癖に戦闘理論は冷静だから嫌になっちゃうわ、全く。
「剣がなきゃ、貴様の魔法は使えない。そして、貴様は剣士であり肉弾戦では私に敵わないことも知っているはずだ」
とりあえず肯定も否定もせずににやりと笑っておく。追い詰められ俯いたまま黙っているのは良くないのは経験談だ。
しかし、嫌らしいったらありゃしないわね。お姉さんの戦いからして、魔法の使用が不慣れな所を突かれた感じ。3年前から何も成長してないじゃない。
「投降しろ。そして我が国から出ていけ。そうすれば、命だけは助けてやる。貴様ほどの剣の持ち主なら帝国に出戻ってもやっていけるだろう」
「断る。つくづく思うのだけど、どうして貴女はお姉さん達を目の敵にするのかしらぁ? 帝国に恨みでもあるわ………あるわよね。ごめんなさいねえ」
あのアホ国が恨みを買わない訳がないわね。素直に謝罪すれば、ティーガーも白けた顔をするが、直ぐに気を引き締め直した。その目に怒りが浮かんでるのが見えて、凡その推測はつく。
「当たり前だろう。帝国によって何人殺されてきたと思っている。我が領地は帝国と王国の境目だ。つまりは防衛線とも呼べる。王国程ではないが、亡命を望む者達も少なくはない」
「ああ、わかったわぁ。ある日、亡命してきた振りをして潜入調査員でも入ってきたんでしょう?
「………我が領地に住む民達だ。何の罪もない、民達が犠牲になった」
やっぱり、と思った。身近な人間が傷つけられたからこその過剰防衛………いやまあ、帝国民ってだけでやりすぎるのは間違いじゃないのが嫌なところよね。
真っ当な人間はいる!なんて神にすら誓えない程の割合なのだし、特にその防衛線を潜り抜けて来た人間達が大犯罪者だから仕方ない。というかお姉さん達が全面的に悪い気がする。
「分かるか? 国民はお前たちのような人間がいるだけで夜も眠れない。帝国民を受け入れる国も理解し難いし、義賊に礼儀を払う王族などもってのほかだ。私は私の正義を貫く。貴様らに理解されなくても構わない」
「構わない? 違うでしょう………
「………貴様の言うことは一理ある。だから貴様は国から逃げ出した」
「ええ、そうよ。その通り。
肩が上下する。苦しげな呼吸。だが次第に、その肩が揺れ始めた。血を流しすぎた? 違う。怖いのか? それも違う。笑っている。らしくもなく、戦い中に。
「……ふふ」
「何がおかしい! 貴様と一緒にするな!! 私は今でも国に忠を尽くす軍人だ!! 私が守るべきは民であり、貴様は倒すべき敵で──!」
「じゃあ、周りを見なさいよ。貴女が守りたかったものは………」
ティーガーが眉をひそめて声を上げるが、それに割り込むようにして辺りを見渡す。来た当初に美しくも実用的に整えられた道は荒れ果てた地面と変わらず、夜を照らしていた街灯は全てが途中で折られている。
国民達は逃げ惑い、心地よい音を立てていた工房からは爆発音が絶え間なく響き渡る。これが彼女が守りたかったものの成れの果てだ。彼女の魔法が地面を持ち上げ、街を破壊し、守るべき民よりも敵を追い払うことに執心している。
「──もうとっくに貴女のせいでなくなってるのよ?」
「──貴様!!」
またもや大地が、捲り上がって森林が生み出されていく。人々の努力の結晶、その街達がどんどん緑に飲み込まれていく。
惜しい。と素直に思った。この子がいれば陰の怪物達を抑えるのはもっと簡単な筈だから。
敵の手に落ちたのを失態と切り捨てるつもりはない。
だけど、自分が守りたいものから目を背けるのだけは許せなかった。
──かつての私が誤った道を全力で走っていたのだから。
乱れた紫髪をかき上げて、唇の端が妖しく吊り上げて挑発的に笑う。手に武器はない。それでも逃げるわけにも退くわけにもいかなかった。
自分と同じように道を違えそうな若い女の子がいる。ならば、かつて自分が黒猫に救われた事を今度は自分がやる番だと思ったから。
「かかって来なさい。私は魔女ノ旅団No.2 "刻印の魔女"アルチナ・L・キャロル!! 貴女を止める騎士の名よ!」
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