吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。   作:シャモロック

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前話のティーガーの下り改変しました。何か違和感があったので。
それと関係ありませんが、筆者はアイアンマンが好きです。あの鎧はロマンしか無いと思う。


スカイクラッドの福音

 吾輩は人間になった猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、モフガルド・ニャンディアス3世、キミリア。人間の頃の名前はヤマト。

 目の間のアゼル卿に、ロジェがいない。分断されたな………ロジェはまあ心配ないだろう。肉弾戦では圧倒してたし、彼女もそれを前提に立ち回るはずだ。

 

 問題は吾輩だよな………相手は格上の錬金術師。吾輩の武器とも呼べる知識は彼に対しては役に立たないだろうしな。

 吾輩の描いた漫画じゃあ、アゼル卿はちょい訳でしかなかった。シャリテーヌを命を賭けて撃退した偉人として名前だけが出てくる存在だったはず。

 

 だから推察するしかない。この世界だと生存出来てるのは三羽鴉の総帥として、組織の助力を得ていたからか? 組織はユニが潰してる筈だから、助太刀はない筈だ。モルフェオの存在が気になるが。

 吾輩の知る限り、水属性の魔法使いでシャリテーヌを追い返せるような錬金道具を持ってると考えて間違いないだろう。

 

 ただ気になるのは、その立ち姿だ。

 

「イメチェンでもしましたか? 随分とロックな刺青入れてますね?」

「ふん! 言葉遣いがなっとらんクソガキが。貴様らのような若輩のせいで国自体の価値が落ちておる! もっと歳上を敬わんか!!」

 

 絶対何らかの魔法受けてるな、これ………アゼル卿はこんな事言わない!を全力で回収していくような口振り。老害だとしても程がある。

 恐らく、体に刻まれた蠢く黒が原因か。黒だからって安易な感じじゃないが、あの勇者の口振りからして関係してるに違いない。

 

「これは失礼しました。アゼル・ファウスト卿。何分、浅学の身でありまして。良ければアゼル卿のお話を聞かせていただきたい。この国で何を為されようとしているのですか? きっとかの著名なアゼル卿だ。それはそれは素晴らしい計画なのでしょう」

 

 とりあえず礼を正せば、アゼル卿がほう、と顎髭を触る。予想以上の感触だ。こういうタイプは褒めておけば簡単に話してくれると見たが、どうだ? 普段のアゼル卿なら絶対に話さないだろう。

 

「ふん! 下手な煽てだが悪くはない。貴様らには経験がないからな。理解が届かないのは仕方ないだろう。この国を支配する為にかの勇者様は蘇られたのだからな!」

 

 嘘だろ。話すの?? 知能指数落ちてるのか? 

 

「勇者様はとても凄いお方だ。私が妹を蘇らせようとした瞬間に割り込み、その慧眼で私を導いてくださったのだ。この地下に張り巡らされた魔導回路を使って自らに魔力を集中させ、国に影の怪物を解き放った!!」

 

 地下? 魔導回路? あっ!? もしかして、あの地下通路か!? あれってそういう事か!?

 国中に影の怪物がいるのもそれによって増幅された魔力によるもの………? じゃあ、どのみち彼奴を倒すか、魔導回路を止めるしかない!

 

「なるほど、素晴らしい! という事は影ながら怪物を使って国を支配するおつもりで?」

「愚か者め。よくそんな浅はかな考えが口に出せるものだ。勇者様は言った。エリスという名前で影の怪物を解き放った後に、シアンという名前で国を救うのだよ! これにより、真の勇者たるシアン様の名前は正しく評価され、偽物勇者は歴史から名前が消される事になるだろう!」

「それはそれは!! とてもいい考えです!」

 

 吾輩の大根染みた演技にも関係なくペラペラ喋ってくれる。おかげで勇者………いや、この感じは偽物か。偽物勇者シアンと呼ぼう。

 偽物勇者シアンは国を巻き込んだマッチポンプを仕掛けるつもりか。聖女勇者を演じた自分で国を危機に陥れて、自分で国を救う。

 

 ロジェや俺は復讐ついでに黒幕の部下として処理して、聖女勇者と帝国の義賊が盗んだ国を取り返した英雄として称賛され、歴史には聖女勇者エリスが現世に甦り、悪行を成したと残される。狙いはそんなところか?

 

「その為にも計画に異常は許されん。魔導回路には私の部下を置いた。軍人達はシアン様が影を経由して、様々な場所に飛ばした! ロジェスティラ君はシアン様が止めるだろう。よって私が貴様を殺せば何の問題もない!」

「そっか。じゃあ、逃げるわ」

 

 話してる間に、玩具箱から取り出した玩具の花火を投げて、背中を向けて逃げ出した。すぐさま角に飛び込んで壁際に体を寄せると、廊下を覆うほどの光が………あれ?

 

 閃光が来ない。不発か? にしては足音も何もない。どうなって、

 

『顔を出しちゃだめだよ〜』

「へ? 何の声──」

 

 顔を出そうとした矢先、髪先を何かが掠めて直後に衝撃によって吹き飛ばされた。ごろごろと後ろに転がり、顔を上げた先には既に杖が迫って………あぶねっ!?

 

「ちいっ! 反応だけは一丁前か! ならば、くれてやる! トワイライトプリズム!!」

『あっ、それはやばいね〜魔法で壁出して〜』

「誰!? どちら様!? というか壁!? どうやって!?」

()()が誰とかどーでもいいじゃ〜ん。説明するのも面倒だし〜』

「その一人称でわかったわ!! 壁だな! こうか!?」

 

 魔力強化による防御で受けながら、崩れた瓦礫に手を当てて魔法を使う。一人称ウルのやばいって言葉は多分、本当にやばい。

 とりあえず吾輩が出せる硬い壁と来たら、やはりダイヤモンドになるだろうか。実はそんなに強くないとか言われるが、魔力強化すればいけるか!?

 

 壁から覗いた先、三角状の物体が煌めき出したそれを指先で回しながら、アゼル卿はこちらへ向けて投下する。

 

 瞬間──音が消えた。

 

 訳がわからぬまま、吾輩の体

 

 

 は

 

 

 消えて

 

『──充電が間に合ってよかったよ〜。ウルシュラの奴、仕事を放棄してミスト王女を守りにいくなんてさ〜。()()()()を守る人形として失格だよね〜』

 

 声がした。思わず目を開ければ、そこにはアゼル卿はいなかった。代わりにいたのは………メイドさん? 

 というか、何だこの部屋………絶対におかしい。さっきまでいた城の廊下じゃない。でも見た覚えがある。だってここは、

 

「アトリエ………?」

「そうだよ〜ますたぁ。貴方のアトリエ〜。おかえりなさいませ〜」

 

 モルガナと一緒に行ったクロスのアトリエが広がっていたのだから。そして、目の前にはメイドがいる。クラシカルなメイド服を着てるからメイドだろう。何故、ベッドに寝っ転がってスナック菓子を摘んでるかが不思議だが。

 

「………ここはどこだ? ()()()()

「おお。流石はますたぁ。ウルに気づくなんて。でもざんねん。ウルはウルスラじゃないんだよね〜」

「でも、お前はウルスラに関係がある。そうだな?」

「まあまあ、何か飲む〜? コーラとかあるよ〜?」

「話を聞け!! 何がどうなってる!? お前は何を知ってる!? というかここはどこだ!?」

「おちつきなよ〜焦ってもいいことなんてないんだからさ〜一休み。一休み。ここが何処かなんて予想がつくでしょう? 他でもない貴方ならさ?」

 

 もし、ウルスラがこの世界の主人なら吾輩の予想通りだろう。そして、それが可能だと言うならば、目の前にいるウルスラとそっくりのメイド………何故か丸眼鏡をかけているのが気になるが。同型機に違いない。

 

「まずは名前を聞かせてくれ。恐らくはウルスラの同型機なのは想像がつく。ますたぁって呼び方からして、お前を作ったのはモルガナじゃないな?」

「では、改めて自己紹介を。ますたぁ」

 

 ベッドからもそもそと起き上がり、スナック菓子の油がついた指先をスカートでふきふき。そのまま菓子がついた服をパンパンと払って、優雅にカーテシーを決める。

 

「ウルの名前は──ウルテマ。ウルテマ・K・スタンラン。ルドルフ・Y・クロスによって最初に作成された究極にして完璧なメイドにしてスカイクラッドのナビゲーションだよ〜という訳でさぼろうよ、ますたぁ〜」

 

 最初に作成されたメイド人形………? という事はウルシュラやウルスラより歴史が深いのか? 

 いや気にはなるが、それよりもだ! 今1番気になるのは、ナビゲーションという言葉。

 

「この世界がお前の魔法によるものだという事は分かる。『情報を記録し、記憶を蓄積し、現実に再現する』類の筈だ。アトリエを再現したのは、それだとして………ナビゲーションって言ったか?」

「そうだよ〜スカイクラッドの情報処理支援も兼任してるから〜」

「なら、スカイクラッドってなんだ? 変換器なのは分かる。だが、情報処理支援をやる必要があるような道具とは」

「スカイクラッドは〜ルドルフ様が生み出した()だよ〜。寧ろ、それがメインで変換器はその一部にしか過ぎないんだから〜」

「鎧、だって?」

「うん。それがますたぁがアトリエに残した究極の1品。勇者一行として戦えた力の証………使いたい?」

「当たり前だろ!! それがあれば、皆んなを守れる!!」

()()()()()()使()()()()()

 

 吾輩の言葉を彼女はばっさり切り捨てた。虚空からコーラを取り出すと、ちびちび飲み出す。どうやってコーラを生み出してるかも聞きたいが、今はそれどころじゃない。

 

「何でだ!? 吾輩がルドルフじゃないからか?」

「まさか。そんな理由じゃないよ〜寧ろその姿勢だから使わせてあげられないんだ〜」

「何でだよ! 皆に戦わせて、吾輩だけいっつも後ろで見てるだけ!! そんな事態を変えられる! 皆を吾輩が守って──!」

「──魔女達は、貴方に戦って欲しくないんだよ?」

 

 静かにそれでも力強く彼女は言った。柔らかい口調ではあるが、言葉に込められているのは拒否だ。彼女は吾輩に鎧を使わせるつもりがないらしい。

 目の前にコーラが注がれる。しゅわしゅわとした炭酸が音を立てて、グラスに入った氷が音を立てる。

 

「魔女達はみーんな、貴方を大事に思ってる。だけど、貴方がそれを蔑ろにしてる。そんな人に使わせたら、きっと貴方はまた最後まで命ある限り魔女達を守るでしょ? そんな事して、魔女達は喜ぶと思う?」

「そ、れは………」

「その傷は、ずっと貴方を苦しめてる呪いなのもね〜。他人を傷つける事と違って、自分の傷は誰にも見えない。だから、限界がわからない。加減も知らない。死ぬまでずっと傷つけて、笑って死ぬ。ますたぁはそんな人だもんね」

「まるで、人を異常者みたいに言うんだな………」

「異常だよ。魔女達も皆んな、思ってるけど言わないだけで〜。だからこそ、ウルが言わなきゃならないのが面倒だよね〜」

 

 机に顔を押し付けてぶーたれるウルテマに吾輩も出されたコーラを口に含む。懐かしい味だ。嫁と一緒にポップコーンを食べながら、コーラを飲んで映画を観てたあの日々と共に。

 

 目の前で大切な人が死んだ。だから、今度は死なせない。役立たずだった俺よりも遥かに価値があった彼女を死なせたから今度こそ、大切な皆んなを死なせないと思って………。

 

「それが、ダメなのか?」

「うん。ダメだよ。ますたぁが皆の為に命を賭けるように、皆もますたぁが好きだから命を賭ける。貴方に死んで欲しくないから」

「それでも………おれは………」

 

 力が、欲しいと口にしようとして口に出来なかった。ウルテマの言葉は正しい。間違えてるのは吾輩だ。けれど、その力があれば大事な人が泣かなくて済むようになれる。

 無力な黒猫だった吾輩でも皆の役に立てると思うから。弱った皆んなを慰めることしか出来ない吾輩でも皆を守れるから。

 

 だから、だから───!

 

「まあ、言って素直に聞くわけもないよね〜だから、約束して欲しい。そしたら、代わりに鎧を使わせてあげる。じゃないと、アゼルの攻撃でどの道死んじゃうからね〜」

「それは、厳しい取引だな」

 

 彼女の手に鍵がある。渡されたそれは金色に染まって輝いていて。無理矢理開かれたおれの手にそれが置かれた。

 

「約束だよ〜自分の命の価値、それを少しでいいから高く見積もる事。死んでもいいからって命を投げ捨てない事。最期まで足掻いて、それでも犠牲が必要な時に………漸く手段の1つとして選択肢に入れる事。はい、お姉ちゃんと約束、できるかな〜?」

「揶揄うなよ………可能な限り、努力する」

 

 いぎっ!? この野郎………掌に指先をめり込ませやがった。顔が怖い。次はないって顔が言ってる。

 

「分かった。約束、する」

「最初からそうしなよ〜もう〜」

「所で、どうやってスカイクラッドを使うんだ?」

「それはね〜あるキーワードが必要なんだ〜」

 

 彼女が口にした言葉を最期まで聞いた瞬間、今までいた世界が弾け飛んだ。回帰するのは土埃と瓦礫に塗れた灰色の世界。体を起こせば、ダイヤモンドの壁は粉粉に消し飛んでいたようで、キラキラした屑だけが体に残っていた。

 

「何だ。まだ生きていたのか」

「アゼル卿………」

 

 砂埃を払いながら、立ち上がる。廊下の先、ローブには汚れすらないアゼル卿が水玉を浮かばせながら、立っていた。その顔には慢心とも油断とも呼べる余裕がありありと浮かんでいて。こちらとしても気が楽になる。

 

「助かるよ、アゼル卿………」

「何だ? 死にぞこなった事に対する皮肉か?」

「ははは、違うよ。彼女に会わせてくれて。おかげで、大事な事を教えられたからな」

 

 首輪に指を当てる。教えられたキーワードを頭の中で反芻し、口にする。これは約束だ。決意の証明だ。少しばかり自分の命の価値を高く見積もってみよう。

 

 ロジェスティラのように少しだけ自分を信じてみよう。

 魔女達に相応しいと思える自分であるように。ほんの少しだけ。

 

「──スカイクラッド:起動。キーワードは【夜明けに福音を】」

『OK ますたぁ。スカイクラッド起動します』

 

 脳裏にウルテマの承認が聞こえた。同時に首輪からキラキラした粒子が吾輩を体を覆っていく。昔に見た鋼鉄の男の50番目のスーツのように体に張り付くように形成されていき、黄金を基調とし、ダイヤモンドが張り巡らされた鎧へと姿を変える。

 

「──その鎧は!」

 

 一見すると戦うための装備というよりは、王家の秘宝を並べた絢爛豪華な彫像のような、圧倒的な美しさと神聖さを纏った重装甲のようだが、目の前のアゼル卿が目を見開いてる事から余程この鎧が凄いものだと気づいてるらしい。

 

「アゼル卿。貴方には世話になった」

 

 手足を軽く動かして、確かめる。問題なし。400年前の骨董品とはいえ、動くのはやはり作成者本人の腕が良かったのだろう。吾輩という認識はとっても薄いが………おかげで命を捨てる以外の手段が1つ増えた。

 

「だから、ここから退いて欲しい。貴方が悪事を成していたとしても恩はある。私はロジェスティラの下に行かないとならない。まだ彼女は戦っている筈だからな」

 

 祈るようにそれを訴えた吾輩の言葉にアゼルのは笑った。人を馬鹿にする訳でもなく、老害じみた嘲笑いでもない。穏やかに、吾輩が知ってる笑い方だった。

 

「そういう訳にもいかんのだよ………ここで私が死ぬ事に、意味があるのだから」

「………そうですか。でしたら」

 

 両拳を合わせて、構える。やれる事はわからない。それでもここで簡単には負けられない。絶対に勝つ。勝って、ロジェスティラと合流する!

 

「──押し通させてもらいます!」

「来たまえ。最期の()()よ! これが最期の教えだ!」




NGシーン
「キーワードは【ちゅきちゅき魔女たん結婚して!】」
『うわぁ、マジで言ったよ………ますたぁ、ばか?』
「テメェ!!」

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