吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。   作:シャモロック

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あーなんかの間違いで書籍化しないかな、この作品


蝶の羽ばたき

「さて、ある程度の実力は互いに分かったと思いますが………」

 

 地下通路の丈夫さに私は感心する。作った人はよほど優秀らしい、受けた余波や衝撃さえも魔力へと変えて中心に運んでいるようだ。破壊行為や地下通路内で暴れることも踏まえた上での建築にため息すら漏れる。

 

 完成度だけではなく、それを隠し切った隠蔽にも呆れるしかない。これだけの設備を作るには国の設立から関わる必要がある。そんな昔に存在した著名な錬金術師は私の知る限り、ただ1人だ。

 

 夜明の錬金術師 ルドルフ・Y・クロス。

 流石は我が夫、では妻として私は──

 

「まだ、やりますか?」

「………ぎっ、がっ、たりまえでしょう、が!」

 

 ──貴方の設備を悪用した男を倒すとしましょう。

 

 そんな素晴らしい建築物を前にして、無粋な男は既に何度も地面を舐めていた。爛れた皮膚に、切り裂かれた傷、濡れた肌からは現在まで溶けてるような音がしてる。全て私がした事だがそれでも、男は諦めない。

 

 意地でも私に一撃を喰らわそうとしているが、

 

「うおらあっ!!」

「気合い充分ですが、それは先程見ましたよ」

 

 到底届く訳もない。

 

 蝶の羽ばたきにしては、強めの風を目の前に壁を生み出す事で防ぎ、視界が塞がれた私に横から風を切って飛んでくるブーメランも槍へと変わる杖の錬金道具【槍混隊(スピア・ベッド)】で薙ぎ払う。

 鱗粉自体は指につけた毒を無効にする指輪【不幸薬屋(ハードラックストア)】と睡眠を無効にする指輪【眠れぬ羊(ノースリープ)】で無効にする。

 

「摩天楼」

 

 返す刃で、杖で地面を叩き、柱を地面から生やしていくが流石は蝶の亜人だけある。軽やかに避けられた………無駄に綺麗でキメ顔なのが腹立ちますね。

 

「長城壁」

 

 壁を生み出し、逃げ場を潰す。唯一の逃げ道たる真正面には、指先に挟んだ玩具の魔剣と【発破六銃士(シックス・マスケティアーズ)】と名付けた各自6回は爆発する6個の爆弾を投入。モルフェオの顔色が変わるが、判断が遅い。

 

「揚げ焼きです」

 

 床に落ちる前に、モルフェオが逃げようと羽を羽ばたかせた直後に投擲した魔剣と爆弾が衝突。同時に爆風や閃光から身を守る為に、生み出した壁側に爆発の熱を閉じ込める為に更なる壁を増やせば、

 

「………なるほど、もう少し火薬の量は増やしても良かったですかね」

 

 壁の彼方から確かな振動と、絶え間なく続く爆発がくぐもった音を立てて聞こえた。ただの爆発に私の建築の規則が抜けられるわけもありません。【黒猫じゃないと出られない壁】など、モルフェオが抜けられたらそれこそ拍手をしてあげましょう。

 

 油断? いいえ、これは、

 

「ただの事実という奴です。まだ生きているのですね………今まで王国を悩ませていた奴隷組織というだけはある」

「………」

 

 生存確認の為に、壁を下ろしてみれば片方の翅を失いながらも炭化した翅を羽ばたかせている蝶がいた。彼の周りの空気だけが歪んでいるように見える事から、恐らくは空気の膜で体を覆ったのでしょう。

 

 しかし、爆炎や熱に耐えるためとはいえあそこまで焼け焦げてしまえばもう二度と動く事は………待ちなさい。

 魔剣を投擲。狙いは炭となってるが頭。そこへ飛来した魔剣は──すり抜けた。

 

「幻影!?」

「ぐーぐっぐっぐ、風や水を利用して光を屈折させて蜃気楼を生む。風や水魔法使いなら覚えて損はない小技ですよ」

 

 声がした方に壁を生む。何かが弾かれる音がして、安堵の息を吐けば、性懲りも無く壁の横からブーメランが飛来するのでそれを弾こうと槍を構えて、叩き割った。

 

 同時に視界を色取り取りの煙が襲った。いや、これは、鱗粉?

 

「眠りも毒も効かないのであれば、あえて蓄えた鱗粉を目潰しとして使用する。おかげでここまで近づけた!」

 

 その鱗粉を縫って、抜き手が眼前に迫っていた。咄嗟に首を横に向けて躱して、魔力強化による前蹴りをお見舞いするが奴は退かない。

 亜人は厄介だ。魔族の強靭な肉体を、更に魔力強化で跳ね上げる。稀にしか生まれない性質がなければ、集団として油断できない存在になっていた。

 

 それを成し遂げ、今なお手綱を握り続ける巫女姫は化け物であり、策略家とも言えるのだが。

 

「………見事です。だが、この距離も別に貴方のものではありませんよ」

 

 翅を片方失いながらも、突貫するモルフェオの刃を槍先で捌く。懐に入って来たなら、持ち手で殴り返す。少し距離が取れたら壁を生み、逃げ場を限定し、槍でその空間さえも削り取っていく。

 

 私の槍捌きには冴えた技も猛々しい力もない。ただ基本に忠実に、教えられた型を持って槍を使う。それは相手からすれば、分かり切った動線にしか見えないのだろうが、

 

「お手本のような槍捌き! ぐーぐっぐっぐ! やはり、そこまで白兵戦が得意ではないようだ!」

「ええ。何故なら、私は魔女で──錬金術師なのですから」

 

 彼が更に踏み込んだ瞬間に壁を生む。部屋を作る。私自身も中に閉じ込めた部屋に、絶対的な規則が刻まれる。モルフェオは私の行動の意味に気がつかないだろう。何せ、この錬金道具は夜明の錬金術師ルドルフ・Y・クロスが生み出した──危険物なのだから。

 

「踏み込んでくれてありがとう。ようこそ、私の部屋へ」

 

 槍先で横薙ぎし、頭を下げた彼へ4本の杖からそれぞれ炎、水、風、土を放ち無理矢理でも距離をとる。何故ならこれは、近くで使えば巻き込まれてしまいますから。

 

【ドゥーン・スフィアを止めるまで出られない部屋】

 

「ドゥーン・スフィア………?」

「夜明の錬金術師たる我が夫が過去に生み出した危険物。クロス・レシピ『超級』に書かれている最後の作品。とはいえ、アゼル卿から渡されたこれを超える『禁忌』の書には死者蘇生の三大発明が書かれていた訳ですが」

 

 虚空から落ちて来たそれは、手の平で浮遊する。太陽を思わせる黄金の輝きにモルフェオが後退りするが、この部屋に逃げ場などない。その為にわざわざ白兵戦に応えたのですから。

 

「実体は球体………に見せかけた超高速回転する金糸。その為、触れた瞬間に削り取られてしまう危険物であるが故に、使用には注意を払わねばなりません。例えば──絶対に中から出られない部屋で使うなど、ね?」

 

 モルフェオの顔が赤から青を通り越して白く染まる。自分の末路を察したからだろう。事実その通りだ。

 奴が行動を起こすより早く、更に壁を生み出して小部屋を作り出す。高さは大人の背丈だが、大きさは子供でギリギリ入るほどに小さい。そして規則は【ドゥーン・スフィアが部屋を削り取った瞬間に出られる部屋】だ。

 

「これで貴方はもう出られない」

 

 私の魔法は謂わば言ったもん勝ちな箇所がある。条件は【絶対に出られない部屋】には出来ない事。敢えて逃げ道を残す事でそれ以外では出られないようにしているものだと。

 極論を言えば【恋人を殺せば出られる部屋】に恋人と閉じ込めたり、【手足を切り落とせば出られる部屋】など。出られる可能性がごく僅かでもあれば成り立つのだ。

 

 そして、今回の規則は特殊。規則に削り取る事が条件にある以上、削る事は許されるわけだ。ただし、記載はドゥーン・スフィアと指定があり、かつ()()からという条件はない。外部から削ろうが削られさえすれば部屋から出られるのだから。

 

「ドゥーン・スフィア」

 

 ──出られたなら、の話だが。

 

 追加で出した3つを手の平から魔力で押し出せば空間を削り取りながら進んでいく。削られた空間が閉じる事で前に進んでいくそれは、小部屋に到達すると何の躊躇いも引っ掛かりもなく、通り抜け、私が生み出した部屋の壁に当たり、拮抗する。規則がある以上は錬金道具では逆らえないのだろう。

 

 その間に、ガチャリとドアノブが開かれて中から右腕と左足、そして腹部に綺麗な風穴が空いたモルフェオが膝をついた。亜人とはいえど限界らしい。

 

「決着、で構いませんね?」

「………っ、くそっ」

 

 その悪態を承諾と受け止め、彼の横を通り抜けて未だに壁を削ろうとするスフィアを真上から槍でぶっ叩く。狙いは金糸を回転させる軸。それを叩き割り、全部停止させた後、私は部屋を元に戻す。

 その後、血溜まりに沈む彼にポーションをぶっかけた。完璧に回復はさせないが、失血死されるのは見過ごせない。

 

「モルフェオ。私が勝者である以上、敗者の貴方には全てを語る義務があります。勿論、情けもかけた上でこれ以上、恥を晒すのであれば………それを貴方の選択として受けて立ちますが?」

「ぐーぐっぐっぐ。性格が悪い。まるで帝国民のよう………あだあっ! 傷口を抉らないでくださいますか!?」

「戯言の前に話しなさい。この設備は今、何を目的に動いているのですか?」

「………シアン様の魔力に変えているのだよ。これにより、シアン様の魔法『影を変化させる』魔法を国中に広げているのさ」

「なるほど、影の怪物はその供給によるものでしたか。操作方法を教えなさい」

「………寝台の真下に説明書がある」

 

 寝台の真下、裏側に貼り付けられていた説明書を手に取れば見た事ある字で簡潔かつ丁寧にまとめられていた。その通りに寝台の裏側にある窪みに触れると、床の一部が回転してそれらしい操作道具が現れる。

 

 見た事ないものだ。私の指先が触れる直前、何もない空間に突如として光の膜が立ち上がる。それは、まるで夜の湖面をそのまま空中に固定したかのような、薄く平らな光の板だった。

 

 板の表面には、見たこともない緻密な光の紋章………いや、文字らしきものが、呼吸を刻むように淡く明滅している。恐る恐るその光に指を触れれば

驚いたことに、指は向こう側へ突き抜けなかった。

 

 まるで、目に見えないほど薄く磨き抜かれた水晶の壁に阻まれたかのような、確かな手応え。同時に『ピッ』という、小鳥のさえずりのような短い金属音が鼓膜を震わせると同時に、指先から同心円状の光の波紋が広がった。

 

「まさか、これは意志を持って、私の指の動きを『読んで』いるのですか!?」

「ぐーぐっぐっぐ、あの方も似たような反応してましたよ………余程、貴女達錬金術師には珍しいものに見えるらしい」

「当然です! これがどれほど画期的か!? ああ、もう! こんな切迫詰まっていなければ構造を調べたいところだというのに!」

 

 光の文字を横に払うように指を動かすと、光の板は音もなく滑らかにスライドし、新たな紋章の羅列を目の前に差し出してきた。それはまるで、神々の悪戯のようだった。

 

 調べ尽くしたい好奇心を抑えて、説明書通りに操作していく。水晶面にはシアンという名前が浮かび、それに繋がる通路を解除すれば、通路も動作を終了した。

 そこから更に国中にいる人物を照会できるようで、項目に挙げるようにすれば目当ての人物がいたので、彼女に通路を繋げる。

 

「これで、よし。私も急いで地上に………王宮に向かわねば」

「ぐーぐっぐっぐ、無駄な事を。貴女達はシアン様には勝てません。三羽鴉の総帥たるあの方には………!」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 演技がかった言葉に私がため息と一緒に返せば、モルフェオから沈黙が返ってくる。それが明らかに答えを示している事に更にため息をついた。

 

「説明書に書かれた字はアゼル卿の文字によく似ていますし、貴方自身アゼルのと表向きの繋がりがあった。加えて貴方が帝国出身の奴隷であった事に帝国出身のアゼル卿を考えれば………可能性は高いでしょう。確固たる証拠は何処にもありませんが」

「そうだ。そうして欲しいと、私が協力者に願ったのだからな」

 

 仰向けになったモルフェオは口の横から血を溢しながら語る。

 

「私が捕まるのはもう仕方ない。あの女に組織を潰されてから、そうなる覚悟は出来ていた。ならば最後の恩返しとして………アゼル様の罪も我らが背負うと決めていた。まあ、それもより良い生贄が出てきてくれたわけだが」

「それが、シアンという訳ですか………貴方達が生み出したのですか?」

「死者蘇生。アゼル様の宿願だった。それが、ああなるとは。伝説ももしかしたら歪んで伝わってるかもしれませんね、ぐーぐっぐっぐ」

「それを話して、良かったのですか? 私がアゼル卿が三羽鴉の総帥だと国に伝える可能性もありえ………」

「ませんよ。貴女には伝えられない。何故なら、貴女は賢いから。帝国出身のアゼル様が王国を悩ませていた奴隷組織の総帥と知られれば、帝国の姫君たる貴女の風当たりは更に強いものになる。加えて、貴方が秘密を明かせば総帥の息子さんやその家族達も後ろ指を差される人生を送る事になるでしょう」

 

 意地の悪い笑い方で、考えうる最悪の可能性を掲示する。モルフェオが言うのはもしもの話だ。ただ、実現する可能性が高いのも………ティーガーの態度から高いのは事実と言える。

 

 ただそれとは別で………モルフェオの境遇を考えると私にその選択は出来ない。

 

「私は………あの日、乳母によって逃がされた後、小さな村で黒猫によって育てられました。貴方の言う通り、私は帝国基準で言えば理知的と呼べるのでしょう。ですが、それは私を愛して育ててくれた黒猫たる夫のおかげです」

「ああ、あの夜明の錬金術師ですか………」

「ええ。だから、その、私も貴女と同じなのです。あの日、私を助けてくれた、知恵を与えてくれたあの人にただ幸せになってほしいと、思ってしまう。今回もそう。もし、私が貴女と同じ立場ならきっと………私もそうしてしまうでしょうから」

 

 同じ錬金術師に救われたから、彼がそうせざるを得なかった事も理解が出来てしまう。もしもクロが全て嫌になって、世界を滅ぼそうなんて言ったら私はきっと………止められないだろうから。

 

 私の本音に、モルフェオは少しばかり私を見上げた後、納得するかのように頷く。それでも彼はある種の諦観を顔に浮かべて、

 

「ぐーぐっぐっぐ、負けた事は仕方ない。仕方ないが………やはり、悔しいなぁ。こうやって人の気持ちに寄り添える貴女に、一撃入れることが出来なかったのが」

「──いいえ、それは違いますよ。モルフェオ」

 

 悔しげに口にしたモルフェオに否定を返し、彼にも見えるように髪を耳にかける。そこにはうっすらと赤く滲む擦り傷が浮かんでいて、彼の目が大きく見開かれた。

 

「鱗粉を囮にした一撃。風を纏った抜き手が、私の肌に傷を与えていたようです。仕方ありません………ええ、本当に。不本意ですが」

「………は、ははははははっ!! そうか! そうか!! やってくれるのか!? 本当に!! なるのか、貴方が!! 帝国の皇帝──いや、()()に!!」

「それが私と彼の………いえ、()()の幸せを阻むなら」

 

 今はまだ帝国からの嫌がらせは軽くても、私の下に来てくれたアルチナやロジェの事を考えれば、いつ帝国から狙われてもおかしくはない。

 それに、未来に来る最悪の事象を避けるためにも帝国という余計な存在を黙らせておきたい気持ちはある。  

 

 決して、モルフェオに言われたからではない。彼の言葉はきっかけだった。私に逃げられない過去があると思い出すきっかけだ。

 

 私達が幸せな未来に向かうために、過去は清算する。

 清算した上で、何の憂いもない幸せな未来を目指す。

 

 その為に必要なら──私は帝国の玉座に座ろう。

 

「ぐーぐっぐっぐ、見たか帝国!! 貴様らが蟲だと笑った存在が………無力な蝶の羽ばたきが!! いつかお前たちを食う台風へと変わったぞ!!」

「主人殿! 微力ながら助太刀に参りましたぞ!」

「ちょうどいい。ハク。こいつを拘束なさい。私は地上に………王宮に向かうとしよう!」

「ははっ! 皆の者! 此奴を拘束するぞ!」

「頼んだぞ、モルガナ・シュレディンガー!! 私はその時を牢屋の中で楽しみに待っていよう!!」

 

 地下通路を後にする。すれ違いざまに駆けつけてくれたハク達使い魔に彼を拘束するように指示をして、私は地上へ急いで向かう。

 ハク達使い魔に拘束されるその間にも、彼の楽しそうな笑い声はずっと響いていた。いつまでも、何処までも。




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