吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。   作:シャモロック

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今更ながら、アルチナとティーガーの話はダイジェストで良かったなって。
もしかしたら、アルチナとティーガーの話は修正入るかもしれません。下手したら、決着後の2人の会話だけになるかも。


騎士と軍人の決着

 たまに、自分がこんなに幸せでいいのかなって思う時がある。

 

 好きな時間に寝て、好きな時間に起きる。騎士として働いていた時よりも命の危機がない仕事で数倍のお金を稼いで王国で質のいいお酒を片手に仲間達と晩酌を楽しむ。

 

 安寧の日々、怠惰なる日常に身を置きながらも何かをしなきゃと焦る自分がここにいる。

 

 その理由はずっと前には分かっていた。私があの国から逃げたからだ。

 美しいものを守りたくて剣を握った筈なのに、今の私は剣すら握る事なく、のんびりと暮らしている。

 

 何かをしようと、朝の鍛錬だけは欠かさずにしてたけど。何かをしてる風に見せていると思われても仕方なくて。

 仲間達に話しても、働きすぎだから休みなさいとしか言われない。これは私がおかしいのか、それとも周りがおかしいのか。

 

 きっと、私がおかしいんだと思う。

 

「………っ、意識を失ってたかしら?」

 

 ぼんやりとした頭を振って、呆けたまま空を仰ぎ見る。何がどうなって、どうしたんだっけかしら?

 確か、剣を奪われてから肉弾戦で押し負けて………ああ、そうそう。

 

「しなる枝の鞭で吹き飛ばされたんだっけえ? さて、どうしたものかしら」

 

 呼吸をする度に肺が痛い。肋骨でも逝ってるかもしれない。私の魔法はこういう内部の負傷には何の効果もない事が辛いところね。

 がっつり、抉れてる脇腹は適当に掬った砂を押し当てて魔法で皮膚へと変える。いつもは剣という杖ありきの速度だけど、素手でやると自分の発動速度の遅さに辟易する。

 

 使えないよりかは使えるほうがマシだけど、才能の壁って奴を見る度に凹む自分がいるのも否定しない。剣術や全体的な強さで言えば他の魔女達にも負けてはないし、ましてやティーガーにやられる要素も──

 

「──バカね、アルチナ。今、貴女は追い詰められてる」

 

 肺の痛みも無視して、空気を全部吐き出す。昂った気を沈めて、治療が終わった腹を見る。また傷が増えた。これはもうおはぎ先生に娶ってもらうしかないわねえ。

 そんな他愛ない思考を浮かべながら、手に切削の魔法を纏う。数秒かけてゆっくりと纏われたそれを見て、私は建物の瓦礫からゆっくりと足を踏み出した。

 

「ほう、まだ立つか」

「お生憎様、帝国の女騎士が立てなくなった時は死ぬか、便器になるかの二択だもの。貴女の場合なら、部下の軍人達にくれてやるのかしら?」

「王国の軍人を何だと思っている!!」

「うーん、権力を与えられた素行不良の輩かしら? この間なんて、いたいけな少………年を路地裏に連れ込もうとしてたものぉ。それを見て、軍人は素晴らしいって言えるかしら?」

 

 おはぎ先生を、女の子と勘違いして路地裏に連れ込もうとしてた軍人の姿は帝国でよく見た騎士や国民の姿に重なった。

 

 まあ、おはぎ先生が美少年なのは分かるわぁ。夜を形にしたような髪をお姉さんと同じみたいに後ろで纏めて、綺麗なうなじを見せてくれるし、全体的に線の細い体型だから、お姉さんの体でぎゅってしたら、全身包めるし、ぴょこぴょこ感情豊かに揺れる猫耳も可愛いものね。

 猫みたいにくっきりした目元に、小さな口とか全体的に吸い付きたくなるし、後、全体的にいい匂いする。男の子よね?本当に。

 

「まあ、話はちょっと聞いてるのだけどねえ。シャリテーヌの襲撃のせいで、指導や現場の指揮をする人間達がごっそりやられたって話は」

「ふん! 手足を直した程度で、国の弱みを語るとは帝国に堕ちたか!!」

「別に手足を作ってる間の雑談でしょうが。まあでも、貴女が焦る気持ちも分かるわ」

 

 元々、帝国に恨みはあったのだろうけどより酷くなったのは魔族の襲撃のせいか。お姉さんが抜けた防衛線のせいで、魔族が王国に襲撃。そのせいで、現場を支える中間層がいなくなり、部下を締める者たちがいないから規律も緩んだ。

 

 それを何とかしようとして、気負いすぎてるだけなのだろう。そこを突かれた形かしら。

 

「だけどね。結局1人でやれる事なんてたかがしれてるの。無理に手を回しても返ってくるのは罵倒と怒声だけ。なら、皆で手分けした方が感情的にも疲労的にもマシにはなるわ」

「その悪循環を産んだのは貴様ら、帝国だろうがあっ!!」

 

 聞く耳すら持たない彼女の樹木を手刀で断ち切る。発動は問題ない。問題はこの魔法を使いっぱなしにできるほど自分の魔力量がない事だ。

 湯水のように使っても、平気そうな姫様がこういう時は心底羨ましくなる。

 

 さて、ここからどうしようかしら。

 

 このままだと、負けは濃厚。剣はないし、魔法は最早制限ありで考えて使わないといけない。かと言って、切削で切断は不可、だって死んじゃうもの。なら塑像でくっつける? 悪くはない。悪くはないのだけど………。

 

「簡単な塑像じゃあ、剥がれちゃうわよねえ」

 

 地面にくっつけても、樹木を地面から生やして対処してきそうだし。本格的に手元の武器じゃあ、埒が明かないわ。

 じゃあ、確認をしましょう。状況を打破できるような何かしらの因子を。

 

 まず周りには誰もいない。巻き込むような民間人もいないけれど、助けもいない。影の怪物も先程から巻き込まれてるのは助かるけど。

 建物はほぼ倒壊、食事屋さんばかりだったからかペーパーナイフや食器やらはあるのだけど二、三回、受け太刀すればすぐに壊れてしまう。

 

 で、お姉さんの魔力は体感半分。使える魔法は以下の二つ。

 空間を変化させて、対象ごと切断する『切削』

 無機物を有機物とくっ付ける『塑像』

 どちらも強力な魔法だ………使い手が剣士でなければ、尚更に。

 

 特に空間変化なんて、稀の中の稀。帝国の歴史には空間を変化させて瞬間移動と絶対切断を兼ね備えた最強の騎士もいたんだとか。

 その話を姫様に雑談混じりに話して、なんて返されたんだったかしら?

 

「とはいえ、貴様と戦うのも飽きた頃だ。私は早くシアン様の下に行かねばならない! あの方ならこんな国からすら変えられると信じているから!」

「言葉が軽すぎて空に飛びそうね。シアン様がどーたら言うより、もう少し地に足付けた生活を考えなさい」

「〜〜っ!! いいだろう! その減らず口もここまでだ! 大樹の魔法の真髄を見せてやる!」

 

 彼女の足元から生えた木がより重なって、一本の巨木へ。壮大かつ広大な葉を揺らし、漂う豊かさはある一点へと集中。そして、1つの果実がなった。

 

「大樹魔法の真髄は大地から魔力を吸い上げる事。お前は知るまい。今、この国の地下には大量の魔力が循環している! シアン様に注がれて、国を覆う影! それを成り立たせた魔力の一部を吸い上げて、成った果実は──金色に輝く!」

「キラキラ光るものが好きなら、金貨でも見てなさいよ」

「最期の言葉はそれで構わないな?」

 

 果実が、空から黄金色に輝く星のような実を彼女は喰らう。同時に膨れ上がる彼女の肉体。中から破裂しそうな程の力の奔流は………何もわからないお姉さんでも、使用法が違うことは分かってしまった。

 

 木々はその膨れた怪物の足場となり、今にも吹き出しそうな口を照準のようにこちらに向ける。人間ではやる奴は見たことないが、魔族や魔物なら見たことある光景だ。

 

 ゲロ………失敬、吐瀉物を吐き出すように酸性の液体などを噴射するその前段階。仮にもだ。もし彼女の言葉が本当だとすれば吐き出される魔力は尋常ではない。防御はなし。逃げる選択だけを頭に入れて、

 

「──貴女、本当に王国の軍人よね?」

 

 自分の背後に王城がある事を理解した。

 

 幾ら、影魔法で闇堕ちしようとはいえそこまで従ってしまう彼女の弱さ。国を守ることよりも外敵を倒す事にしか目が見えない浅慮さ。全てが終わった後に、地面に膝を突いて後悔するのは彼女だろう。

 

 その姿がありありと思い浮かんでしまうから、

 

「全くもう、逃げるわけにはいかないじゃない」

 

 賢い選択は全力で投げ捨てた。とはいえ、このままだと死ぬのは間違いない。ならば、狙いは1つ。放たれた魔力波を叩っ切る!!

 

「っっっ!! おぼげあっ!!」

 

 吐き出されたそれは極光に等しい光だった。太陽の光を何万倍にも収束したような輝きを前に、私は手刀を構えて──

 

『一度剣から離れて考えなさい』

 

 こんな時に、いやこんな時だからこそ姫様の言葉を思い出した。今がちょうどその時だと言わんばかりに。

 とは言っても、私の人生は常に剣と共にあって………。

 

『アルチナ』

 

 ふと、つい最近になって手放したくないものが増えたのを思い出した。自分よりも他人優先で、突っ走っては死にかける。まるで昔の自分を見てるかのようなチョロくて可愛い黒猫を。

 

 今までの戦いの日々から、凪のような微睡む日々に全てを切り裂くような剣はいらなかった。必要だったのは、好きな人を膝上で撫で回すように………初めて好きになった人を死なせないと掴む手だった。

 

 ………手刀を解く。代わりに掴む。何を? 世界を。

 

 そこにあって、誰もが認識できないもの。当たり前にありすぎて、自分の世界から外していたものを掴み、私の支配下に置く。

 掌には何もない、指先が虚空を切り、爪先が──辛うじて引っかかった。

 

「っらああっ!!」

 

 引っかけたそれを自分を中心に回す。引き伸ばされる世界、飛んできていた光もそのままに掴んだ世界を、空間を回して回して、撃ってきた相手へ向けて解き放つ!

 

「なあっ!? 打ち返し──!?」

「お返しよっ!!」

 

 捻じ曲げられた空間が光の向きを変え、射線は撃った方へと戻り、着弾する。一拍、と共に轟音と閃光が飛び散り、近くにいた影の怪物達もそれに巻き込まれて消えていく。

 咄嗟に瓦礫の山に飛び込んだ私さえも巻き込んだ爆発の余波が鎮まり、ゆっくりと顔を出すと膝を突いて、血を垂らす軍人がそこにいた。

 

「貴女も大概丈夫ねえ………目は覚めたかしら?」

「………………」

 

 返事はないが、趣味の悪かった刺青みたいなのがなくなっている。あれも影魔法の一種なら先程の光線が炸裂した際に、閃光により消し飛んだのだろう。それで無事なのは、彼女の鍛えた肉体が頑丈だったからとしか言えないが。

 

「剣、返してもらえる? 辺りの影の怪物は消え失せたけど、まだ助けを求めてる人はいるはずだもの。早く助けに行かなくちゃ」

「………………」

 

 聞こえているか怪しかったが、足元に木が生えると不味いものを食べた赤ん坊のように愛剣2振りが吐き出された。樹液か何かでベタベタだが、魔力が底を突きかけてる私には剣は最後の拠り所だ。

 

「それで、貴方はこの後どうするの? 敵に乗っ取られて、街を壊して、守るべき民を傷つけたけど」

「───殺せ」

「………あのねえ、貴女を殺す理由がないでしょう?」

「だが意味はある。国に叛意を見せた軍人など身内の恥だ。今ここで生きて帰ったとて、実家から勘当されるのが妥当だろう」

「だから、死んで名誉の死をって?」

「そうだ。お前なら分かるだろう。帝国の騎士なら………」

 

 漸く挙げられた顔は酷いものだった。散々、毛嫌いしていた騎士に命を救われた事への反抗心。あるいは反発心──などではなく、どうにかしてほしいと子供のように縋る1人の女性だったからだ。

 

 心中は察するに余る。王国に歯向かい、それを敵対心を抱いていた相手に止められて、自分でももう分からなくなってしまってるのだ。

 だから、死のうとしている。追い詰められててどうしようもないから。何というか、極端から極端に走る子だと思う。

 

「分からないわよ。私は名誉の死とやらから逃げた脱走兵だもの」

 

 それでも放っておけないのは、人が魅せる美しさを知っているからだろうか。

 

「うじうじしてるならそこでしてなさい。その間に救える人が死んでいってもいいならね。私はそうして悩むくらいなら、悩みながら剣を振るわ。迷いがあれど、剣筋がぶれても、それでも何人かは助けられる筈だもの」

「………………」

「答えは私は持ってないわ。いつだって答えは自分しか持っていないもの」

 

 ここまで発破をかけて、立ち上がれないのならばもう知らない。情けない話だけど戦場で膝を突いた者を全員は助けられない。戦争に心を壊してきた仲間を多く見てきたからこそ、下さないといけない決断をすれば、

 

「お前は………優しくないんだな」

「甘いと優しいは違うでしょう。それに自分が優しくされるような立場とでも?」

「そうだな………」

 

 ティーガーは生み出した木を支えに立ち上がる。顔色も悪いし、体も震えているが………立ち上がれているならまだいいだろう。とりあえず自殺はしなさそうだし、ここは彼女に任せておはぎ先生達を探しにいかないと。

 

「………私を縛っていた影には気をつけろ。敵は王宮で、影を操る魔法を使う。私も影によって殿下や陛下から引き離された挙句、洗脳されたからな」

「洗脳………ね。の割には貴女の意識は強くあったように見えたけど?」

「言い訳に聞こえるかもしれないが、あの影は人の闇を強く引き出す。我慢してること、言えない事………それら全てを解放できる感覚が何とも心地よかった事は覚えているよ」

「たかだか影を操る魔法で、それ全部やるのって拡大解釈がすぎるでしょう………?」

「出来て当然かもな。何せ、奴は自分を聖女勇者だと名乗っていたのだから」

「御伽話の英雄が晩節を汚さないでよ、もう」

 

 それはさておき、王宮に行かないと。どうせ、おはぎ先生の事だもの。こういう鉄火場の中心で命をかけてるに違いないんだから。

 そう、今まさに王宮からなんか黄金の閃光が天空に飛んでいったけど、きっとおはぎ先生は生きてるわ。

 

「生きてて欲しいわぁ………」

「苦労してるんだな………」

 

 だって、先生。命が懸かると一気に信用なくなるもの。

 そんな言葉を飲み込んで私は王宮に向けて走り出すのだった。




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