吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。   作:シャモロック

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連続投稿です。


黄昏を超える夜明け

『ん、スカイクラッド起動完了。システムオールグリーン……あーあ、また今日から稼働(おしごと)かぁ。ますたぁ。瞬殺でよろ〜』

「そんな事言ってないで助けてくれませんかねえ!? この鎧、どうやって使うんだ!?」

 

 アゼル卿から放たれる圧縮された水の弾丸、魔力強化した肉体で相変わらずの横っ飛びで回避し続ける吾輩になんて悠長なことを言ってらっしゃるんですかね!?

 

 誰かの為に傷つくならともかく、犬死にだけは勘弁なんだが!?

 

「『宵ノ口杖』二式」

 

 アゼル卿が杖を突く。7つの宝石によって彩られた中の1つが光り輝き出す。うおおおおっ!? 何が何だか分からんがとにかくやばいのは分かる!

 

「"独楽鳥"」

 

 吾輩の背筋に悪寒が走る。本能の赴くままに転がった矢先、背後で何かが壊れる音がし、振り返ろうとすれば激流が吾輩を襲う。

 

「三式"血鳥"」

 

 またもや宝石が輝き、激流によって流された吾輩の目の前に2体の赤ずきんを被った怪物が現れた。漂う鉄臭い匂いからして、多分血液で出来た怪物………!

 

「ウル! 武器はないのか、この鎧に!」

『あるよ〜何がいい〜?』

「白兵戦がこなせる奴だ! 頼む!」

『あーい。それじゃあ、金剛石の爪(ダイヤモンド・ナノ・エッジ)

 

 ウルテマの言葉に、手の甲が疼いたと思えば鉤爪のように爪が生えて来る。ダイヤモンドで出来ているようでキラキラ輝いてはいるが、強度的に不安になるのは吾輩だけだろうか。

 

『大丈夫大丈夫。強度は魔力強化で補うし、戦い方は鎧を介してウルが教えて………違うね。()()()()()()()()()

「おい、まさか………」

『3分間、貴方はかつての貴方に戻る。記録再現(メモリーロード)

「────ッ!?」

 

 頭を金槌で殴られたような衝撃、それをさらに100倍にしたような負荷に目の前で火花が散る。走馬灯のように流れていく見た覚えのない風景、人々、国、そして──

 

『なあ、相棒。もし、もしな………魔王を倒して、その………テメェさえ良ければ──一緒に暮らさねえか? ってなんだその顔は』

『どうして、魔王討伐前夜に言った!? ねえ!? 何で自分で死亡フラグ立てるんだ、エリス!? やだ、おれ明日が凄く不安になって来た!』

『………テメェは、人が素直にしおらしい態度してやってんのによぉ!! それに、隠れて見てんじゃねえぞ、野次馬が!! ミュウもアテナもラケシスも爆笑してんじゃねえ!! ノヴァもなんで止めねえんだ!!』

 

 赤髪褐色の女がこちらの首根っこを掴み、ヘッドロックを仕掛けて来る。吾輩が漫画で描いたよく知っている女、エリスが記憶に写り──戻って来た。

 

 同時に漠然としていた世界に、道が生まれる。迫る赤ずきんの怪物を前に、どうすれば回避出来るか、受け流して、攻撃に移れるかが分かる。

 懐かしい感覚に戸惑いながらも、爪を構える。某Xの男達を代表する狼男のように爪を交差して、踏み込んだ。

 

 赤ずきん達が腕を振るうのでそれを一薙し、なくなった事に衝撃を覚える間に音もなく背後へと移動する。ロジェが良く見せていた歩法にそっくりだな………と何処か他人事のまま、吾輩は爪を背後から赤ずきん達の頭部に突き刺し、そのまま股下まで切り裂いて、

 

「だと思ったよ」

 

 背後から嫌な予感がしたので、さっきの移動方で回避すれば床や瓦礫がねじくられていた。空間ごと雑巾のように絞られた残骸を見て、さっきの攻撃も同じ物だと理解し、そのまま踏み込む。

 

 狙いは爪の大振り………と見せかけて、寸前で消える。輝いていた宝石から防御系の何かだと思って、背後から後頭部を狙っての回し蹴り。

 

「四式"悲喰鳥"」

「ちっ!」

 

 回避はなかった。完璧に入った筈だった。なのに、威力を完璧に殺され………いや喰われた。咄嗟に爪を振るうが、爪先が消える。なるほど、とりあえず攻撃は通じなさげだな。

 水の弾丸を、ラケシス譲りの歩法を吾輩流にアレンジした流離の行方(ラピスラズリ・ドッジ)で避けつつも消えた爪先を甲に閉まって距離を取る。

 

「ウルテマ、()()()の技だ」

『了解〜。変換器起動。魔力を電力に。ライン形成、OK。撃てるよー』

豪雷一閃(ゴールド・レイルガン)

 

 腕の先がスライドし、出てくる発射口から電磁加速された金の玉。それすらも威力を殺されて、アゼル卿の前で失速する。

 代わりに水の刃が壁や床をズタズタにしながら迫るので、その場から飛び退く。どうにも、これもダメなようだが、

 

「先程からその不可視な防御壁を展開してる間、水の魔法しか使ってないがどうした? さっきと同じ回転を操る何かを使わないのか? トワイライトプリズムもだ」

「貴様みたいな若造に使うなど錬金術師としての誇りが許さん! そもそも水魔法だけで貴様など事足りるわぁ!! 唸れ、私の魔力を!!」

 

 唇が乾く。肌がひりつく。どうやら空気中の水分をかき集め、回転させていく。巨大な洗濯機のような水流をこちらにぶつけるつもりらしいが、

 

「ウルテマ。そろそろ3分だ」

『ん。了解ますたぁ。攻撃はそのまま受けるって事でいいんだよね〜じゃあ、ウルは次の準備だけしとくよ〜』

「頼む。後は──()()()()()に任せるとしよう」

「小僧がごちゃごちゃと! 食らうがいい!! 蒼き頂天(ブルー・エクスタシー)!!」

 

 放たれた津波のような膨大な水流をおれは真正面から鎧で受け止める。足裏から出したスパイクで体を固定し、水流内に入り混じった瓦礫や小石で鎧の表面が削られてもなお、逃げる事はしない。

 経験があるだろう? 最大の技を受け止めてなんて事ない顔をしながら、歩いて来る敵の絶望感を。無傷ではなく、擦り傷や口から血を溢しながらも戦闘を続行できる相手の存在感を。

 

「ふはははっ!! 避ける事もせずに迎え撃つとは愚かな!! これだから経験がない若造は無謀な挑戦をやめられない! 自分の底を正しく理解してなければ、自分の力で叶えられる範囲など分からないというのに!!」

「──その点には同感ですよ、アゼル卿」

 

 あああああっ!! いってえええええ!! なんか記憶が混濁してる間に、体がめちゃくちゃ痛いんですけどぉぉぉぉぉぉぉ!?

 バカなの、馬鹿なの!? わけわかんないけど、回避せずに真正面から受けたの吾輩!? 何があったら、そうしてこうなる!? 痛みのあまり夢から覚めた気分だ………!

 

 くっそ、だがある意味チャンスか? アゼル卿が目玉が飛び出そうなほど驚いている事から何かの切り札だったに違いない!

 ここは下手に感情に出さないで、余裕ある態度の方がいいか? 見れば、鎧も金箔の部分が禿げて、下にキラキラした下地が見えるし、なら。

 

「自分の理想もわからないまま、理想を叶える事は出来ない。何故なら、その理想を叶える為に必要な事が何も分からないから。作家になりたいのに、小説を書かずに毎日スポーツに汗を流す馬鹿はいない筈だ」

「軽傷、だと!? 馬鹿な!」

「効きましたよ、少しですけど」

 

 嘘です。くっそ痛い。何なら涙が出て来そうなクラス。まあ、モルガナの時に斬られた時に比べられたらまだ我慢はできる範囲だが。

 

「現に貴方は自分の理想を正しく理解し、必要な努力と選択をした。だから、夢を叶える事が出来た。まあ、結果は見ての通りですが、それは仕方ありません。面白そうと思った作品が、実際に読んでみたら面白くなかったみたいに──現実ってのはいつだって頭の中の理想を裏切ってきますから」

「………ヤマト君」

『ますたぁ。準備完了。鎧を光らせるよ!』

 

 瓦礫の残骸を肌に刷り込み、金に変えて鎧を修復すれば内部から暖かなものが流れると同時に光が鎧へと集まっていく。

 もしも、アゼル卿を支配してるのがあの刺青みたいな影だというなら、

 

「だから、お前は出て行け。影の怪物」

 

 鎧が光り輝く。どういう原理かは分からないが目が潰れるほどの発光にアゼル卿も思わず目を逸らした。

 光が収まった先、顔を片手で覆うアゼル卿はおずおずと顔を上げて、深くため息を吐き、杖を地面に突いた。

 

「全く不肖の弟子め………どうして、あのまま私を殺してくれなかったんだ」

「それをした後の事を考えますとね………それに、世話になった貴方を殺したくなんてなかった」

「甘いな………だが、その甘さはかつて私が捨てられなかったものだ」

 

 すっかり理性を取り戻した瞳でこちらに愚痴を吐くけど、戦闘の姿勢は未だ維持したままだ。

 

「今からでも遅くはありません。アゼル卿。自分達と協力して、あの勇者を倒すわけには行きませんか? 貴方が、その、犯罪組織の総帥である事は黙って──」

「ダメだ。それでは。私は戦った末の戦死を遂げねばならん。でなければ、何も知らない息子に私の罪を背負わせる事になる。君が勘づいたようにこれから先に勘づく奴が出て来るかもしれない。今なら都合のいい生贄もいる。シャリテーヌの時以来の絶好の機会なのだ!」

「だからって──!」

 

 殺せるわけ………!と言う前にアゼル卿の手には白い三角、トワイライトプリズムが握られていた。

 

「分かってもらおうとは思わん。都合が良すぎるのも承知の上で老人の最後の我儘だ。監獄で罪を償うにはこの身に宿る灯火はあまりにも短すぎる。ならば、罪を後に背負わせない為にも………私に死に場所をくれたまえ」

 

 トワイライトプリズムが光り出す。1回目とは違う、廊下を覆い尽くすほどの眩い輝き。目が眩む吾輩にウルテマが気を利かせて顔まで鎧で覆ってくれたから、とりあえずは見れているが………。

 

「ある死神は、言った。人生は物語だと。だが私は違う。人生は長く続く道なのだと。夢を叶えようと、罪を犯そうと道はそこで途絶えることはない。この選択肢が正しいか悪いかさえも分からない………が、それでも私達は歩き続けなければならない」

「それの終わりがここで、いいんですか?」

「ああ。私の道は妹を失った時から始まった。錬金術師を志し、帝国の中枢まで入り込んで知ったのは──妹が吸血鬼になったのは()()()()()という事が判明した。その時からだろうな。あの日めざした、光はもう見えなくなってしまったのは」

 

 知っている。ティア編で明らかになる事実だが、帝国貴族の中には魔族を奴隷として従えて、わざと人間と繁殖させる遊びがあるらしい。アゼル卿は事前に知ってしまったわけだ。それで、道を踏み外した。

 

「帝国への嫌がらせに、それによって生まれた子供の亜人を飼い始めて組織を作った。邪悪な遊びを嗜む貴族令嬢達を逆に奴隷にして、魔族に送りつけた。代わりに亜人達は連邦国へと売り払った。魔族も連邦国も強くなれば、いずれ帝国へ反旗を翻すだろうと思ってな」

「だが、王国の人間は? 彼らは関係なかったはずだ」

「………ああ。組織が大きくなるにつれて、私の目も届かなくなった。だから、私は悪くない!なんて言うつもりはない。あの日、私が選んだ道が悲劇を生んだ。全ての責任は私にある。だからこそ、死神に組織を滅ぼされても、ここで命を捨てても文句はない。ただ、子供達は関係ないだろう?」

 

 アゼル卿の言い分はわかった。要するに、過去に犯した罪も何かも背負って自分が死ぬ事で子供達に罪を引き継がない。組織はユニによって潰されてるから、もう悲劇は起こり得ない。だから、ここで死なせろと。

 

「都合のいい事を言ってる自覚があって尚、それですか………なら、ここで俺によって()()()()選択肢も考慮に入れてるんでしょうね!!」

『ますたぁ、その言葉は多分魔女達が死ぬほど言いたいと思うよ』

「余計なお世話! ウルテマっ!! 無力化する武器を!」

『準備できてるよ〜』

 

 鎧が剥がれていく。形態が変化していく。全身を覆っていた金が、巨大な馬上槍に姿を変える。だが、先端には砲口があり………つまり、これは巨大な銃火器だ。すいません、吾輩無力化する武器を求めましたよね??

 

『弾丸は非殺傷弾。当たった瞬間に、肌に付着しやすいカスが散る。同時にますたぁの魔法によって金に変えることで相手を拘束する弾丸【ミダスの手】を電磁加速でぶっ放す──『黄金の夜明け』(ドーン・バースト)

「大丈夫なんだよな? 威力の余り、殺さないよな?」

『だいじょーぶ。ウルを信じて』

 

 砲身に金のラインが走る。魔力強化でも重たいそれを、アゼル卿のトワイライトプリズムに向ければそちらもまた回転を始める。

 

「来たまえ」

「行きます」

 

 白銀の光と、黄金の光が収束し──衝突した。

 黄昏へと至る白銀の光は徐々に徐々に、舞う金粉にその光を弱めていく。その光景にアゼル卿は困ったように笑い、そして。

 

「………俺の勝ち、ですね」

 

 白銀の閃光を消し飛ばし、廊下の壁に巨大な穴を開けた結果を認識した吾輩は一気に体の力が抜けて座り込んでいた。既に砲身は首輪へと姿を戻し、アゼル卿は体の所々を金に変化させたまま佇んでいる。

 

「我儘勝負は君の勝ちのようだな、ヤマト君」

「歳上に我儘言うのは若者の特権ですからね」

 

 座り込んだまま見上げたアゼル卿はまるで吾輩を眩い光を見るように目を細めていて。

 

「ヤマト君。この光景を忘れるな。私は妹という光を失って、自分の始まりを見失った。だから、どうか君だけは道を踏み外さないでほしい。愚かにも君の師匠を名乗る馬鹿な老人からの………最後の言葉だ」

「大丈夫ですよ。吾輩は命が続く限り、彼女達を助けると決めてますから」

 

 膝に手を当てて、立ち上がる。全身を襲う虚脱感からもう魔力が底を突きかけてるのを感じる。具体的には10連勤した後の休日の朝みたいな感覚。

 それでも、アゼル卿に近づいた。最後に感謝の念を伝えたくて。

 

 顔に血が飛び散った。

 

「───は?」

 

 ごろん、とアゼル卿の首だったものが廊下に転がった。開けた視界の先には、影の大剣を手にした聖女勇者が立って………何で? ロジェは負けたのか? 生きてるのか? いや待て、アゼル卿を何で殺した? というかここまでどうやって──

 

「おい」

 

 混乱する吾輩に、聖女勇者エリス・シアン・ウルタールは言った。

 

「これが俺が味わった痛みだ。理解したか?」

 

 吾輩は思った。こいつは"仮面の魔女"エリス・ウルタールじゃないと。




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