【第1部完結】吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。   作:あんみつ炙りカルビ

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連続投稿予定。とりあえず明日までは確実です。


ヒーローは遅れてやってくる

「悪が栄えるのを英雄は許さない。遅れてしまったが、お前はここで終わりだ!! ルドルフ・ヤマト・クロス!! 命の価値を貶めた錬金術師!!」

「………何で、殺した?」

 

 意味がわからなかった。殺す理由なんてなかった筈だ。彼は死にたがっていて、それを吾輩が止めた。それで終わった話をどうして?

 

 そんな問いかけに彼は言った。

 

()()()()()()()()()()()()

 

 悪戯が成功した子供のようにゲラゲラと、拍手をしながら。

 

「そっか。そうなのか………おれのせいで死んだのか」

「何を悲しむ必要があるんだ!! お前が生み出した死者蘇生で蘇らせればいいだろ? ああっ! そうだったなぁ。()()()()()()()()()()()()()()()()()() 不完全なものを完全なものとして出したお前の怠惰がこの惨状を招いた!!」

 

 楽しそうだった。人が死んでるのに。

 楽しそうだ。吾輩が招いたとばかりに、皮肉を宣うこいつは。

 

「明確な欠点………? そんなものあるわけないだろ?」

 

 ──馬鹿みたいだった。だから、話を合わせた。

 

「やれやれ。気づいてなかったのか? ULシリーズで故人の容姿を整えて、魂の器として不変の賢者の石を使う。そこに変換器で魔力を電気に変えて魂の情報を書き込むとどうなるか分かってないらしい!」

「だが、義姉は蘇った」

「違うだろう? お前が蘇らせたかったのは………()()()()()()()()。しかし、焼きついたのはお前の嫁………の()()を持った義理の姉の魂だった! そして、俺が蘇ったことで理解した! お前の死者蘇生は──!」

「──泥人間(スワンプマン)を甦らせるだけなのか」

 

 スワンプマン。アメリカの哲学者が唱えた思考実験だ。色々と端折るが、簡潔に言えば「雷に打たれて死んだ男の側の沼地に雷が落ちた事で生まれた精神も肉体も死んだ男と同じものを持っている彼が『本当に同一存在であるか否か』」をテーマにした実験。

 

 今回の場合、奴の言う事を信じるならば………肉体と記憶は同じだが、魂がまるっきり別物を蘇生してしまうのが吾輩がかつて過去に行った死者蘇生のようだ。

 

「その通りだ! あの爺さんの顔には笑ったよ! 妹に会えると思っていたんだろう! 積年の夢を果たせたと思ったのだろう! だが、残念! 蘇りを果たしたのは聖女勇者たる俺様だった! 記憶には確かにあのジジイを兄さん!と呼んで慕っていたようだがな!」

「魂が別だと、肉体よりも魂の方が優先されるんだな」

「おっ、なんだ? 理解できて俺は賢いって見せてるつもりか? そんなのをわざわざ残したから下手な希望を抱いて、いたいけな老人の生を無駄にした! やっぱりお前たち勇者一行は魔族達よりも最大の悪だよ」

 

 男は大剣を担ぎ直す。忌々しさに溢れた大剣は臓器のように脈動している。触れたら不味いが、もう俺の魔力は底をつきかけだ。

 どうやら、今回の俺はここまでらしい。無惨にやられて、こいつは魔女達の誰かにやられるのだろう。

 

「だから、死んで俺に詫びろ!! 夜明けの錬金術師!!」

 

 ──だったら、最期は!

 

「なら来いよ、偽物勇者!! 命を賭してお前をぶん殴る!!」

 

 死に物狂いで、ぶん殴ってやる!!

 

『そういう悪足掻きは嫌いじゃないよ、ますたぁ!』

「ウルテマぁ! ラインだ!!」

『らじゃー!!』

 

 吾輩の啖呵に、指先に金貨が生まれる。首輪を通じて、ウルテマが目の前に電磁の発射台を生成。吾輩はそれに目掛けて、コインを指で弾く。

 某学園都市の第三位を思わせるその技が、偽物勇者に一直線に進むが、

 

「はっ! 無様に足掻いても末路は変りゃしねえよ! 『影剣・讃求』!」

 

 大剣が振るわれる。先程よりも大きくなった壁の様な剣に、電磁砲が防がれるがたたらを踏ませた。その隙に床に手を突き、ぼろぼろになった地面を金に変える。だが、ただの金ではない。イメージは………固まる前の金!

 

「『黄金大陸(ジ・パング)』」

 

 最期の電磁砲を弾いた男の足元を金の沼へと変える。踏み込みが沼に波紋を生み出し、奴の両足が沈んでいく。

 

「これで逃げられねえだろ!!」

「ハッ! こんな拘束すぐに抜け………!」

「なら頭から叩き込んでやる!」

 

 玩具の魔剣を取り出し、崩壊仕掛けの天井に投げつければ爆発と共に崩壊を起こす。落下先は勿論偽物勇者の真上だ。

 真上にあった謁見の間が崩壊し、瓦礫と共に空の玉座がまでもが侵略者を押し潰そうとする中、再び大量の影の魔手が顕現し、受け止めた。

 

「馬鹿が!! 俺様には、無限に供給される魔力がある! わざわざ1対1でやる必要もねえ! このまま物量で押し潰してやるよ! 来やがれ!『影法師』!」

 

 瓦礫の影が揺らぎ、蠢き、形を成す。不定形のスライムの様な彼らはこちらへ這いずり………泡の様に弾けて消えた。

 見れば魔手の数もかなり少なくなっている。瓦礫自体は受け止めきれているが、どうにも苦しそうだ。

 

「何故だ、魔力が………まさかあの気持ち悪いクソ蟲負けたのか!?」

「よくわからないが、チャンスみたいだな!」

 

 玩具箱から追加で取り出したのは指人形。それを地面に放ると、ポン!という音と一緒に兵隊達が飛び出してくる。

 

「さっきの言葉、代わりに言わせてもらうぞ!! 『玩具の兵隊』、物量で押し切れ!」

「させねえ!!」

 

 瓦礫の重さに耐えきれなくなり始めた偽物勇者に追い込みをかける。サーベルを持った兵士達による手足を狙った攻撃を前に奴も影を伸ばして応戦の構えを取るが、吾輩の手を見て、息を呑んだ。

 

「玩具の花火」

 

 目を瞑り、花火を点火すれば閃光が奴の影を消し飛ばす。同時にサーベルが偽物勇者の腹部や胸部を貫き、奴は血を吐いた。

 本来なら、死んでもおかしくはないが半吸血鬼であるならば油断は禁物だ。吾輩は最後の魔剣を取り出すと、金の沼に投げて突き刺す。

 

「知ってるか、偽物勇者。金ってのは電気を通すらしいぜ?」

「──ッ!? ばっ、やめっ!?」

「玩具の魔剣:感電」

「ぎっ、ぎゃああああああああっ!?!?」

 

 指を鳴らせば、魔剣から放たれた電撃が金を通じて奴の体を突き抜けた。それによる筋肉の硬直と魔法の解除により、瓦礫を抑える力が消失。岩塊がその肉体を真上から押し潰し、兵隊達も巻き込んで盛大に響き渡る。

 

 地響きと爆煙が連鎖して噴き上がり、一瞬で奴の肉体は瓦礫の墓標の下敷きとなって自らを埋め立てていた。

 

「………勝ったか」

 

 張り詰めていた緊張を解く。ギリギリだった。玩具箱にあるのはあと1つだけ。金糸と何かの軸っぽい何かだったからな。まともに魔力強化もできないが、後は脱出するだけだと振り向いて、

 

『影分身』(ドッペルゲンガー)

 

 眼前に、大剣が迫っていた。唐竹割りのような迷いない太刀筋が、ゆっくりと吾輩が頭に迫り来る。何度も味わったことのある死の瞬間、全てがゆっくりになって行く中で──

 

『テメェの魔法で体、治せねえのかよ? 俺の神聖術ばっかアテにしてんじゃねえぞ』

『その割にきちんと治してくれるのはいいとこだよな、お前は。まあ確かになぁ………でもエリス、お前は傷や痛みをなかったことには出来るがおれには出来ないし』

『別に痛みや傷は成長に必要だが………命に関わるような傷とかは価値なんざねえだろ。ハッ、まあテメェが踏まれて喜ぶ豚じゃなけりゃあの話だがな』

『舐めるなよ、おれはこう見えて夜は強いんだからな。嫁とか毎晩鳴かしてたし』

『………見栄張りてえ気持ちは分かるが女は演技する生き物だからな』

『その優しい顔をやめろ!! 嘘じゃないもん! 本当だもん!』

 

 ──どうでもいい会話のついでに、大事な記憶があった。

 

 走馬灯は死の間際に人生の中で逃れる手段を探すためとあるが、今回はそうらしい。剣が頭蓋に突き刺さる直前、残りの魔力を全力で行使する。変換するのは、受けるダメージ。致命傷たる一撃を認識して、

 

「『影剣・似糾』!!」

 

 瞬間、衝撃を金貨に変換する。溢れ出す金貨が手から足から肌から流れ出す中で横凪の一撃が腹部に突き刺さっていた。

 

「『影剣・一輝羽』!!」

「──『生涯保険』(ダメージ・コンバート)

 

 しかし、それも受けた側から金貨へと変えていく。そのまま吹き飛ばされて、壁に激突しても受けた傷は吾輩の周りに積み重なる金貨の山へと代替えされた。

 

「………いや、案外やってみるもんだな」

 

 金貨に溺れながらも体を起こす。致命傷たる攻撃を認識する必要はあるが、それでも即死を免れるのは助かる。

 これなら、もっと魔女達の為に命を賭ける事が出来るな。

 

『違う、そうじゃない』

「何か言ったか、ウルテマ」

『残存魔力はさっきの生涯保険でゼロだよ。残りは変換した電力1発分。弾丸はある?』

「金貨は山ほどあるが………どうやら奴さんも本気みたいだな」

 

 何か幻聴が聞こえたような気もしたがウルテマとの会話を終えると砂煙が切り裂かれて、男が歩く。

 その歩みからは影が揺らぎ、その揺らめきはまるで炎のようだが、それにしては余りにも邪悪な炎だろう。

 

 歴史を消す。真実を有耶無耶にする。勇者一行を殺す。彼がやろうとしてることを1つでも止めなければ、この炎は国をも燃やして灰へと変えるだろう。

 

「これ以上、近づくな」

 

 だから、ここで仕留める。ここにいないロジェが気になるが彼女の事だ。きっと無事だろう。奴以上に死にづらい半吸血鬼なのだ。誰かを助けに戦線から離脱したとか、そんなとこだろうから。

 

 玩具箱から取り出した金糸と軸を組み合わせれば、奴は足を止めた。ヒュンヒュンと風切り音を立てて回り出したそれを電磁力で宙に浮ばせ、掌で触れないように発射台を作る。

 

「ドゥーン・スフィアか」

「これ、そんな名前なんだな。アゼル卿のトワイライトプリズムと同じか?」

「………なぜ、さっきになって漸く生涯保険を使った?」

 

 男はそれを見て、剣を構えるわけでもなく本当に不思議そうに聞いてきた。んな事言われても未来の記憶を先取りしただけで、使えるとは思ってなくてだな。

 

「それもそうだ。お前が作り出したドゥーン・スフィアの名前も知らない。そもそもお前はもっと、ラケシスの歩法を使いながら錬金道具を使って戦うタイプだった筈だ。舐めてるのか?」

「舐めてるわけないだろ。これが吾輩の全力だ」

「何故、()()()の一人称を真似する? 何故、お前は()()になっている?」

 

 一拍溜めて、男は言った。

 

「──お前、本当にルドルフ・ヤマト・クロスか?」

 

 その言葉に吾輩は残存電力を叩き込んで答える。

 

「吾輩の名前は、クロ。おはぎ、クラウン、モフガルド・ニャンディアス3世、キミリア」

「な、んだ? 何を言って??」

「全部が全部、吾輩の名前で、大事な繋がりだ。お前の知る吾輩がどうかは知らんが──吾輩にはこれだけあれば戦う理由にはなる」

 

 男は吾輩の言葉に小さく顎を引くと、何処か投げやりな雰囲気で吐息を溢して、首を横に振る。

 

「やれやれ………()()()()()()()()()()()()()()()()という事か。いいだろう。お前たちを倒す為に編み出した技でこの因縁に決着をつけよう!!」

 

 足元から噴き出した影が大剣に纏わりつく。剣が、巨大に黒い炎へと包まれていく。影を変化させてるからってやりたい放題しすぎじゃないか? 

 

「これが俺の必殺剣………『ダークネス・ワールド』! 俺を認めなかった世界全てを闇に落とす技だ」

「その歳になって世界が憎いとか言うなよ。世界のせいに出来るのは子供までだ。大人になったら、悪いことは全部自分のせいなんだよ」

 

 まるで、不動の奴みたいなこと言うんだな………いや、この世界的に言うならメイソンか。彼奴も世界がどうとか、社会がどうとかはよく言っていたが………それよりも親孝行してやれよと何度思ったか。

 

 そんな吾輩の無言の訴えに、奴は笑ったがそれは何処か自嘲気味で。

 

()()()()()()()()()()()()

「………………そうだな」

 

 その問答の最後に夜が堕ちる。闇が来る。振り下ろされた剣に向けて、黄金を解き放つ。夜を照らす太陽のように一筋の光が、闇を貫こうと迫る。

 

 それでも、

 

「うおおおおおおおおおおおおおっ!! 俺の、勝ちだあああああああああああっ!!!!」

 

 黒い終焉を前に黄金の輝きが呑まれていく。勝負を分けたのは魔力量の差。無限に供給されていた奴と吐きかけていた吾輩では出力に差が出た。それはそのまま威力に直結し、闇世が夜明けを飲み込んだ。

 

 黒い影はもう眼前に迫っている。退路もない。逆転の手札もない。どうやら本気でここまでらしい。

 一矢報いることは出来ただろうか。少なくとも奴の魔力を削ることは出来た。後は皆んなに任せればいい。もう吾輩達に負けはない。

 

 だから、最後に言っておきたかった。

 

「ウルテマ」

『なあに、ますたぁ』

 

 影に呑まれる。天地が分からなくなる。意識さえも呑まれて溶けて消えていきそうな中、最後の気力を絞って言葉を紡ぐ。

 

「ありがとう。お前がいたからここまで戦えた」

『………………』

「次があればまた会えるかな?」

『………会えるよ、キミリア。今度こそ、貴方を救ってみせるから』

「そっか。楽しみにしておく」

 

 遠ざかる意識を掴んでいた何かが離れていく。消える意識が最後に捉えたのは、偽物勇者が勝鬨を上げる雄叫びと窓ガラスが割れる音、

 

「──万彩顕現!! 『聖天白日』!!」

 

 そして、直上より降り注ぐ凄まじい白い光が、吾輩を包む闇を直撃した。猛烈な光が闇を喰らい尽くし、世界は一気に色を変えて──誰かが吾輩を抱えていた。

 

 深い海のような藍色の髪を父の遺品の帽子から覗かせて、開けた世界で敵を鋭い目で睨みつけている。

 けれど、吾輩を抱きしめる腕は何処までも優しくて。負担にならないように黒猫に姿を変えれば、彼女は懐かしむように頭の上に乗せる。

 

「今度は間に合ったね。クラウン」

「全く、漫画の主人公かよ………ロジェ」

 

 吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、モフガルド・ニャンディアス3世、キミリア。人間の頃の名前はヤマト。

 ヒーローはいつだって遅れてやってくるのだった。




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