吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。   作:シャモロック

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連続投稿2日目です。薄々お気づきかもしれませんが、作者は型月と呪術が大好きです。

時間軸的にはクラウンと分断されて、アゼル卿とやり合ってる頃から前話までのロジェ視点です。


夢想伝播

「クラウン!!」

「よそ見してる暇はあんのか!」

「あるから言ってるんだよ!!」

 

 アゼル卿と落ちていったクラウンを助けようしたけど、迫る影の手に中断するしかなかった。真下に滑り込むようにして、回避。勢いそのまま前転して、追撃の上空からの一撃も避けると、今度は振られた大剣が目の前にあったから、蹴り上げてがら空きになった胴体に銀色の脚を叩き込む。

 

「『銀の靴』!」

「おごあっ!?」

 

 手応えあり! 苦しそうな声を漏らす勇者に手元に生み出していた白く輝く絵の具の塊を見せつける。

 半吸血鬼だから、頑丈なのはわかった。でもボクとは決定的に違うことがある。それは一族により、完成された太陽に対する耐性!

 

「『聖天白日』!」

 

 太陽を直で見たような閃光がボクと勇者の間で輝き、謁見の間を光が満たす。輝きの中、肉が焦げるような匂いからしてやっぱりボクほど太陽に耐性があるわけでもないようだ。

 相手の脚があった場所を踏みつける。地面が揺れるような音を立てて、勇者が痛みに耐えるような声を漏らした。それが聞こえれば、見えなくても充分!

 

 重心を落とす。膝を落とし、腰を落とし、胴を落とし、肩を落とし、全身を叩きつける。肩と背を相手に向けて、ただこの一撃に全てをこめて踏み込む。

 

「────!!」

 

 無音の絶叫。そして、馬鹿でかい音のようなものが聞こえた。視界が回復すれば、半身が吹き飛んだ勇者の姿………そして、僕の狙い通りに極光によって影が消え去り、解放されたミストさん達の姿。

 

 クラウンも心配だけど………ミストさん達の方が今は危ない。ああもう、やる事が多い! だけど、全部捨てたりなんかしない! 

 あの時とは違う! 今度は誰一人として死なせたりしないから! 皆んなで笑って帰るんだ!

 

「逃げるよ! 捕まってて!!」

「っ!! お願いします!」

 

 ボクはすぐに歩法で2人に近づくと、問答無用で2人を抱えて破れた窓から外に飛び出して謁見の間から姿を消す。王様は気を失ってるけど、ミストさんは元気そうだ。

 壁を蹴って、城の天辺まで駆け上がると城の入り口付近でドラゴさん達が中に入ろうとしている姿が見えた。影の怪物に襲われていて、身動きがとれないみたい。

 

「ミストさん! ドラゴさんを見つけたから引き渡すよ!」

「だめっ! ロジェ! 後ろですっ!」

 

 ミストさんの叫びと一緒に嫌な気配が上から降り注ぐのを感じた。咄嗟に城の天辺から飛び降りると、さっきまでいた尖塔を堕ちてきた夜が押し潰す。束ねられた影の手はそこに目標がいないと分かると、すぐにこちらへ向けて伸びてくる。もういい加減嫌になってきた!

 

 幾ら『自分の思い通りになる』魔法だからってここまでの規模でやれるもの!? あんだけ殴って蹴り飛ばしたのに、すぐに回復するし! 同じ半吸血鬼だったグラストンならもうとっくに倒せてる! しかも国中に影の怪物出しながらボクの相手もするとか、クラウンの馬鹿!! もうちょっと加減した魔法作ってよ!!

 

「………おかしいです」

「何が!?」

「余りにも歴史書に書かれている聖女勇者と戦いかたが違いすぎます」

 

 泣き言を言っても始まらないし、影の手を撒いてからでないとドラゴさんの下に行けないから城の壁を蹴りつつ、逃げてる中でミストさんが疑問を口にする。

 

「私が知っている聖女勇者の戦い方は『神聖術と魔法による舞踏を組み合わせた回避と撹乱を混ぜた近接戦』によるものです。それなのに、一切神聖術を使わずに、魔法による舞踏すら見せないのは些かおかしいとは思いませんか?」

「ボクが弱いから舐められてるってのは?」

「だとしても、神聖術を使わないのはおかしいです。神聖術は『魔族を倒す為の魔術』と呼ばれており、魔族に対して凄まじい効果を持ちます。それは魔族の血を引く亜人も同様。種族によりますが、ロジェが相手ならば有効打になるはずです」

「確かに、クラウンも散々不思議そうにしてたけど………じゃあ、あの勇者は偽物かもしれないって事?」

 

 だとすると、クラウンの事を知ってるのが気になる。あの語り口からして、何かしらの因縁は多分ある筈。それもきっと勇者一行に関わる事だ。ボクのご先祖、ラケシス・ルノワールの事を話してたくらいだし。

 

「ミストさん。勇者一行の仲間って7人だったよね。クロスのアトリエで見た絵にはそう書いてあったから」

 

 ぼんやり記憶だけど、書かれていた絵には確か7人って………あれ? 説明文にだっけ? でも確かに7人って書いてあった気が、

 

「ロジェスティラ。勇者一行の仲間は()()だとされているが………歴史には7人目の名前が残されていた。クロス氏のアトリエにもだ」

「父様! お気づきになられたんですね!」

「それよりも! どういう事!? 何か知ってるの?」

 

 意識を取り戻した王様を抱えながら、城壁で影の射線を切る。彼奴、半吸血鬼だからある程度は日光に耐性あるとはいえ、こんな青天の下には出てこないだろうし。どうやってボクらのことを追ってるんだろう。ってそれよりも情報が先だね。

 

「………歴史から消された真実だ。聖女勇者、夜明の錬金術師、大海の亜神、義賊、天剣騎士、夢見る旅芸人。彼らが魔王を倒したとされている。しかし、その旅路の途中で逃げ出した存在がいるのだ」

「逃げ出した………?」

()()()()()と言ってもいい。その上、勇者一行を恨み、魔族に寝返ったとも。クロス氏の手記に残されていたが、クロス氏は後悔しているようだった。我らもそれを汲み、その事実を公開することはなかった。説明文で7人目がいたと、匂わせる程度におさめたのだ」

「その7人目の名前は………?」

 

 影の手を蹴り飛ばし、瓦礫を足で蹴り上げて白に光る絵の具へ変えて全て消し去る。その間にも息を整えた王様は躊躇いながらも、その名前を口にした。

 

()()()。【影牢】のシアンだ」

「シアン………! 彼奴、確かに言ってた! エリス・シアン・ウルタールだって!! えっ? じゃあ、彼奴は嘘をついていたって事!? 何の為に!?」

「──そりゃ、真実を隠す為じゃん?」

 

 頭上から声が聞こえる。見上げれば、太陽の直下、でかい鳥に乗ってる誰かがこちらに向けて飛来してきていた。風に揺れる青い髪、目元を隠していた布は下ろされて、両手には1冊ずつ本が開かれている。

 

 物語から飛び出してきたような………御伽の魔女が、そこにいた。

 

「ユニティさんっ!? 助けに来てくれたの!?」

「まーねっ! 同じ魔女仲間として、助けてやらねば名が廃るってわけだから! とりあえず一旦、王女様達預かろっか? そっちの方がもっと自由に動けるっしょ?」

「ありがとう!! 助かるよ!」

 

 白と黒で出来た鳥の背中に飛び移る。4人乗ってもまだ広い背中で、ミストさん達や王様を解放すれば、空高くまで飛翔する。

 地上では変わらず、影の怪物達が湧き出してはいるが地上よりも雲の方が近いくらいの高さだと怪物達も出てこれないらしい。

 

 ひとまず、ミストさん達の安全は確保されたかな………?

 

「ユニティさん。ユニティさんの芸術魔法で遠くからチクチク攻撃出来たりしない? 具体的には日光を操る使い魔とかいない?」

「ん! 無理! ぶっちゃけ、ウチの方もマジで余裕ないからね! 国中に出てきた影の怪物抑える為に、禁書シリーズ1冊使っちゃってるからこの鳥ちゃん以外もう出せないし」

「ユニティさんの魔法って使い勝手悪いよね………」

「文句なら3世に言ってってば。で? どーする? ロジロジ? ウチは国中の影の怪物を抑えなきゃならない。倒してもすぐ復活するから、多分どっかから魔力供給受けてんね。じゃなきゃ、国中に魔法なんて使えないし、こちらはジリ貧だからもうマヂ無理ぽよ状態なんだけど………抑える必要と魔力に都合がつけばこの国を救える」

「それ、ほんと?」

「本気と書いてマヂ」

 

 ユニティさんの目が妖しく光る。自己申告を信じるなら、シアンを誰かが倒さなきゃならない。倒した所で魔法が消えるかは条件次第だけど、倒さないとこの事件は終わらない、と思う。

 それに………クラウンがまだ中にいる以上、戻らないって選択肢は最初からない筈なんだ。ただ、

 

「………怖い?」

「うえっ!? な、何が!?」

「3世の事だから何でかまだ城の中にいるんでしょ? ウチは動けないし、アルアルは闇落ちした軍人を止めてる。モナモナは何してるかわからんけども、ウチの読み通りなら魔力に都合をつけられる筈。となれば、3世を助けに行けるのはロジロジしかいないってわけだもんね」

「………そうだね。その通りだよ」

 

 そんな事言ってる場合じゃないのは分かってる。迷うだけで時間の浪費だって事も。国を救う為に、シアンにボクが力を入れればクラウンは死ぬかもしれない。クラウンを助けに行けば、その間にも国の犠牲は広がっていく。

 

 ボクがシアンを倒して3世を救う。

 

 これは()()()()()()()()()()

 

 ──でも、

 

()()()()()()()()()()()()()()()()3()()()()()()

 

 これが()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

「ひゅうっ! いい顔するようになったじゃん!」

「そう………かな? よく分かんないや。ただ、やる事だけがはっきりしてるだけだし」

 

 口にしたからかな。逃げ道を自分で潰したからってのもあって、いい感じに追い詰められてる。胸元をヒリヒリした感覚が湧いてくる。

 だけど………悪くない。今はなんだか、この感覚が妙に心地いい。視界が開けたような、どこにでも行けそうな解放感? 高揚感? 分かんないけど、悪いものでないのは確か。

 

 そんなボクを見て、ユニティさんは不適な笑みを浮かべる。振る舞いからして、胡散臭さが滲み出てるが、

 

「OK、OK! そんな新たな自分を見つけたロジロジに魔女の先輩たるウチから助言を授けてしんぜよう」

「助言?」

「自分をいい奴だ!って言う奴にいい奴がいないように、自惚れようと評価するのはいつだって他人。自己評価の良し悪しなんて、社会じゃ何の役にも立ちやしないけど──自分なら出来る!って気持ちは悪いものじゃない。要は時と場合の使い様ってね!」

 

 言葉だけは真摯で的確で、まるで姫巫女と言われてもおかしくないくらいの慈悲に溢れていた。

 自分なら出来る………か。ユニティさんの言う通りなら、きっと今がその気持ちの使い用なのだろう。

 

「ユニティさん。ユニティさんにはドラゴさんと合流して、ミストさんを守ってほしい。ボクはシアンを倒して3世を助けに行く」

「モチのロンだよ! がんばえ〜ロジロジ〜!」

「待って。ロジェ」

 

 意思を示して、鳥から飛び降りようした矢先にミストさんに呼び止められた。振り向けば、ミストさんが近づいてボクの手を取る。部屋の中に囚われていた頃より、幾分か血色が良くなった手をボクの手に重ねて、

 

 

「──頑張って、私の英雄さん」

 

 

 じわりと、頬に急激に熱が集まるのを感じてミストさんから目線を逸らした。分かっててやってるなら、クラウンに並ぶ人たらしなのは間違いない。全くもってお姫様ってのは凄いなって思う。

 突入寸前だったのに、想像以上に手足や顔は強張っていない。張り詰める緊張感はいい意味で動きを解していて、それだけで彼女の言葉はどんな財宝よりも価値があった。

 

「ありがとう、()()()。彼奴から盗んでくるよ」

「盗む………何をだ?」

「勿論、彼奴が奪った──この国を!!」

 

 足りない自信まで補ってもらったボクは鳥から身を空に委ねた。体に叩きつけられる風が何よりも心地いい。火照りが治れば、冷や水を浴びたように思考が滑らかに回っていく。

 

 ここに来るまで色々な事があった。家畜牧場でアル姉に出会って、謎の黒猫に導かれて、必要としてくれる誰かを探す為に閉ざされた世界から飛び出して、ルノワールの一族が託してきた愛と使命を知った。

 

 1つ1つが何物にも変え難い宝石で、1個1個の出会いは黄金にも負けない輝きを持っていた。それで出来上がった思い出はボクにとっての宝物に変わっていた。

 

 もし、あの日あの時にあの場所で家畜牧場から逃げ出さなかったら………なんて、想像も出来ないや。

 今のボクが、がむしゃらに自分なりに考えて選んで道を歩いてきたから今があるんだって思うから。

 

「漸く、父さんが言ってた自由の意味がわかった気がするよ」

 

 迫る地面、見える道筋。反射的に体は国旗が飾られている金属の棒を掴み、体を振り子のように振り、手を離して方向転換。

 すぐさま重力に従って、落ちる体だがその落下点は次の金属棒。足裏で掴んだ感覚を維持して、そのまま跳躍。橋の真ん中に飛び降り、ついた足先から膝を柔らかく使って、衝撃を逃し、前回りしてそのまま走り出す。

 

 それを止めようと影の怪物達が、ボクの前に現れるけど今のボクには障害にすらなり得ない。

 柵に手を着いて、飛び越えて、赤煉瓦の壁を蹴って、白亜色の高壁を一息に乗り移る。ジグザグに走りながらも体幹がブレる事はない。

 

 まるで世界全てが道であるみたいだった。目で見て、耳で聞いて、口で発して、鼻で嗅いで、手足で面を感じる。走れる場所を五感で探す。

 飛び交ってきた怪物を踏み台に、力一杯空に飛び出せば謁見の間に空いた巨大な穴からクラウンの姿が見えた。シアンに追い詰められている、今にも殺されそうな彼が。

 

「クラウン!!」

 

 それを見て焦った。怪物によって崩された瓦礫から足が離れた。宙を掻く。なににも触れない、届かない。体が揺らいだ。体勢が崩れる。上か下か、姿勢を保つことができない。

 

 これでは、クラウンの下に間に合わない。

 だから、これが──ボクの歩法だと思った。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 最短距離でその勢いのまま、窓を割って謁見の間に飛び込み、空いた穴へと身を踊らせる。

 

「──万彩権限!! 『聖天白日』!」

 

 飛び込んだ先にはクラウンが影に呑まれていた。それを認識した瞬間、ボクは瓦礫を白い絵の具に変化させて、解き放ちながら空を蹴って立体的にシアンの死角に入り込み、空中を足場に側頭部に蹴りを叩き込む。

 

 引き延ばされた時間の中で吹き飛ぶシアンの目線はボクを追えていなかったけど、クラウンはボクの姿を認識すると安心したように黒猫に戻るから、ボクも安心させるように笑顔を浮かべながら定位置の頭の上に置き直す。

 

「今度は間に合ったね、クラウン」

「全く、漫画の主人公かよ、ロジェ」

 

 随分と懐かしい気もするけど、それだけ短い時間でクラウンと濃密な過ごし方をしたからと内心納得する。同時に頬が熱くなるけど、昂ってるだけだと自制して構えた。

 

「しかし、助かった。ありがとな」

「気にしないで。それよりも、クラウンこそ平気?」

「………まあな。色々とあったよ。そっちこそ、何かあったか?」

「何かって?」

「横顔が大人っぽくなった。迷いが消えたって言ってもいい。随分とかっこよくなったな」

「えへへ、クラウンも傷だらけでちょっと野生味あってその………かっこいいって思うよ?」

「昔のロジェじゃ言えない言葉だな………来るぞ」

 

 魔力が尽きた彼に代わって前に出る。シアンはすぐさま立ってきた。きっとこの再生力も魔力にモノを言わせてのものなんだろう。さて、それじゃあどうする。

 

 魔力供給を受けているってユニティさんは言ってた。じゃあ、それを遮断してやればいい。でもどうやって? それこそ、別の場所に移動するような無茶が必要だ。モル姉の転移扉みたいに。

 

「ロジェ、何を悩んでる?」

「実は………どうにかして、彼から魔力を遮断したい。なんかそういう道具とか持ってない? ないならもう白兵戦でごり押すしかないけど」

「無限に供給されていた魔力は遮断されたみたいだ。多分、やったのはモルガナだろうな。それはそれとして、脳筋すぎるが、無いわけじゃない。今のロジェなら使()()()()

「使える?」

「──夢想伝播。芸術魔法の極地にして切り札をな」

 

 まるで確信を持ってるかのように頷くけど、その発動方法やとっかかりもないのにどうしろと。なんか、クラウンってボク達に対して割と期待しすぎてるような気がするんだよね。

 

「待て。吾輩の説明がわるいのはそうなんだが、本当にそれしかないんだ」

「だったらもうちょいしっかり説明してよ」

「こう、詳しく説明すると著作的な何かに引っ掛かるというか………類似品が多すぎて正面衝突するというか。一言で言えば、『自分の芸術品を完成させる』事が夢想伝播の発動に繋がるんだ。モルガナやユニはそれを満たしてる。逆にアルチナはまだ半分って所だからな」

 

 そんな思いが顔に出てたからか、クラウンは焦って言葉を付け足す。どうしよう、更に分からなくなった。よくこれでモル姉やアル姉は芸術魔法覚えられたよね………自分の芸術品か。

 

 モル姉とユニティさん、アル姉の違いが芸術品を完成させる事………? ユニティさんの魔法は多分、御噺的な奴だから作家として本を出してる事が条件を満たしてるって事だよね。

 モル姉は家を建てる魔法だけど………アトリエとかの改築やあの別荘がそれに値するのかな? 逆にアル姉が半分って事は、腕や足を造る事が該当してるけど削る方がいまいちだから、まだ足りないって事?

 

 じゃあ、ボクは? ボクの魔法は絵画だ。

 何を描く? 何を描いた? クラウンが出来るって確信があるなら、ボクは多分入口にはいるはずなんだ。後はきっと気づくだけ。

 

「わざわざこの俺様の下に戻って来るとは………ああ、それとも俺様の女になりに来たのか?」

「現実見てからいいなよ。影牢のシアン。自分に自信がないからって聖女勇者の名前を借りるのはどうなのさ。そんなに、自分が逃げたって歴史を消したかったわけ? エリスさんにわざわざ成り代わってまで名誉を落として、自分の汚名を葬りたかったんだ」

「違うっ!! 俺は彼奴らに追放──!」

「やっぱり、君はシアンなんだね。そんな事言えるの、本人しかいないもん」

 

 そんな思考に沈んでいたボクを引き戻したシアンに、ミストから聞いた話を交えて返せば彼は急いで口に手を当てる。

 それが何よりの証拠だよね。と突きつければ勇者改めシアンは呆けた目をした後、髪をガシガシと掻き出す。その目はさっきまでとは違う。据わってる。正気じゃない。

 

「やれやれ。俺の完璧な演技がこうも簡単にバレるなんて」

「完璧な訳あるか。ここにいるのが聖女勇者を知らないから何とかなってただけだ。俺たちを騙して詐欺師と何も変わらないだろうが」

 

 クラウンの言葉にボクも頷けば、シアンの目に更に澱みが増す。納得がいかないとばかりに顔に爪を立てながら、こちらを睨みつけるが、

 

「その通り。だから、君達もそうなる。歴史に描かれるのは常に勝者が語る言葉だ。400年前、勇者一行に負けた俺は歴史からも存在が消えた。今あるのは【影牢のシアン】という言葉だけ。それも王族しか知らないという徹底振り。勇者一行は余程、俺に嫉妬していたようだね」

「嫉妬………? 追放されたって事は余程の事してたんじゃないのか? だって、考え方の違いや方針で別れたなら悪く書く必要はないだろ」

「黙れ!! なら追放した挙句にわざと俺を魔物の群生地に招き入れる必要はあったのか!? 余程俺を殺したかったのかい!? この俺の魔法が覚醒しなかったら、俺は死んでたんだ!」

「そこに関しては何も言わないよ。分からない以上、どちらが正しかったかなんて語る意味もないからな。でも、お前は400年前の元仲間が作った国を危機に陥れてる。俺たちが勝てば、それが歴史に残るぞ。笑い話にすらならない邪悪な怪物として」

「ッ、ふうぅ〜………やれやれ、呆れてものも言えないよ。彼女が来たからって粋がってるのかい? さっきまで俺にいいようにやられてた癖に」

「よく言うな。割と追い詰められてただろ」

 

 クラウンは気にした素振りもなく、言葉を連ねるけどシアンは大きく息を吐いて言葉を返した。両方とも譲らない舌戦だけど、2人ともこれ以上は埒が明かないと思うはず。その場合、我慢が効かないのは、

 

「やれやれ、俺が勝ったらお前たちの物語は虚飾まみれ、汚名に飾った最悪の笑い話にしてやるさ、ルドルフ! そして君が作った国もぶっ壊して、俺が憧れたあの帝国のような強さを持つ国を生み出した偉大な王様として後世に名前を残すとしよう!」

 

 やっぱりシアンの方だった。押し寄せてくる漆黒の掌、津波のように視界を覆い尽くすそれ。すぐにクラウンを抱えて逃げようとするけど、逃げ道すら塞いでボクたちを丸ごと呑み込もうとする。

 

 死。それが頭を掠めた瞬間、

 

「ロジェ、お前を信じてる」

 

 黒猫がボクの腕の中から見上げていた。あの日、やらかしたボクの被害者が、ボクなら何とか出来ると信じてる。胸の内が、熱い。思わず抱きしめたクラウンが、ボクの胸にいるからじゃない。

 

『そっか。なら、応えてくれ。特等席で見てるからな』

 

 彼が見てる。クラウンがボクを信じてる。モル姉やアル姉でもない、他の誰でもないボクの事を特等席で見てくれている。

 今でもボクは自分が嫌いだ。でも、そんなボクを信じてくれる人がいる。そんなボクでも確かに助けられた人がいた。

 

「大丈夫だよ、クラウン」

 

 負けたくない。シアンは言っていた。歴史に描かれるのは勝者だけだと。なら、勝とう。こいつに。勝って、後世に伝えなきゃ。初代の仲間だった男の末路とそれに勝った一族の姿を。

 

 ボクが()()()ルノワール一族の未来を!! 

 

「だって、ボクは──」

 

 それを口にする。今まで言葉に出来なかったそれを正しく認識して、背負う為に。ここから、その肩書きと共に未来に進む為に!

 

「──ルノワール一族【五代目】ロジェスティラ・ルノワールなんだからね!」

 

 脳裏に描くのは最高の自分。失敗なんて1回もしない、常に完璧な自分。ユニティさんの助言を思い出す。これに必要なのは、確固たる自信。

 

「夢想伝播」

 

 ──自分なら出来るという揺らがない意志だ。

 

 暗闇がボク達を押し潰そうとする刹那、影が霧散する。いや、違う。変わっていく。変化していく。漆黒の世界が、透明感溢れる光の世界に。

 気づけば、ボクは立っていた。城なんてどこにも無い。切り替わった世界に、ボクが変えた自分の世界に。

 

最大解放・透明鏡水(オーバートップ・クリアマインド)

 

 ぴちゃぴちゃと足を動かす度に水音が鳴る。見渡す限り、鏡張りのような湖が広がっていて、そのど真ん中に立っていると生きてる実感がなくなるみたいだ。遙か向こうに見える山まで、世界が曖昧に溶け合って混ざってる。凄く綺麗なのに、現実だと思えない。

 

 これが、夢想伝播──夢と想いを形にして伝える事で世界を変化させて、自分の世界、という芸術品を生み出す切り札。

 

「これは………クラウンが説明に困るのも分かる気がする」

「だろ? しかし、ロジェの夢想伝播はウユニ塩湖モチーフとはいえ実物はより透き通ってるな………」

 

 ボクの苦笑にクラウンも水をぱしゃぱしゃしながら、世界を確かめている。シアンはそんなボク達に対して腕を組んでいた。世界が切り替わった事に対しての驚きは見られない。まるで一度経験があるみたいで。

 

「………やれやれ、その段階の魔女だったとは。ミュウの世界に似てるけど、あっちは白黒だったね。けど、こちらはどこまでも透き通る世界という訳か」

「驚かないんだね。ボクは凄く驚いてるけど………それで? 降参するつもりはある? もうとっくに気づいてるんじゃない?」

「………ええ、()()()()()()()()()。魔力強化すらままならない。やれやれ、そういう事ですか」

 

 ボクの魔法は絵画。物質を絵の具に変えて色彩感覚を具現化する魔法。そして、この世界は色の中でも特殊も特殊。

 ()()()()()()()()に満ちた世界。多分、この水がその絵の具そのものなんだと思う。完成度的には体感7割。でも今はこれで充分。

 

「透明だから何色にも染まる。その感覚の具現化だよ。ボクと君の魔力を吸い上げて、強制的に0にする世界。ここを脱出するには、ボクを倒さなきゃならない。意味、分かるよね?」

「………やれやれ。勘弁してくれよ。魔法抜き、魔力強化なしで肉弾戦に優れた半吸血鬼と殴り合う。これだから無頼漢は嫌いなんだ」

 

 ボクはクラウンを置いて、彼に近づいていく。彼もまたボクに近づいていく。両者共に、それ以外に手段はない。詰まるところ、理屈も言葉ももういらない。

 

「互いに魔力0、武器は拳のみ、勝者はただ1人」

「勝った方が歴史を紡ぐ。これはそのための戦い」

「そうだね。つまり、最後は御託抜きの」

 

 拳を握る。振り翳す。互いに半吸血鬼、回避も無しで直撃する。たたらを踏みながらも互いに口から血を吐き、鼻から血を吹き出して、睨みつける。

 

「「殴り合いだ!!」」




※因みにこの透明絵の具を飲み込ませると人格さえも吸収します。特に他意はないし、多分闘いに出ることはない。

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