【第1部完結】吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。   作:あんみつ炙りカルビ

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連続投稿3日目です。
3章も残り3話! 後はエピローグ、wiki、そしてある死神の独白でお終いです! 良ければ最後まで付き合ってください! お願いします!


歴史に名前を残すのは

 吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、モフガルド・ニャンディアス3世、キミリア。人間の頃の名前はヤマト。

 透明感あふれる世界で2人の半吸血鬼がぶつかり合う。魔力強化はなくても亜人同士の殴り合いは簡単に人を殺せる威力に満ちていて。

 

「グッ、ガッ! こ、んの!!」

「無駄が多い。繋ぎが甘い。だから、こうなるんだよ!」

 

 ロジェは身体をわずかに引き、その拳へ触れる。真正面から受け止めるんじゃなく、掌を当てて、ほんの少しだけ軌道をずらして横へ逃がすように力を流す。

 

 先程から、偽物勇者の攻撃はそんな彼女によって空を切るばかりだ。それを見て、更に攻撃の速度や拳を早めるが全てが紙一重で見切られ、踏み込みに合わせて回した腰から弾丸顔負けの拳が奴の顔をかちあげる。

 

「魔法が強い奴ほどボクの夢想伝播って刺さるみたいだね」

「くっそ、くっそ、くっそ!! 狡いだろうが!! 魔法なしで殴り合う!? それでも魔法使いか!?」

「好きなだけいいなよ。魔法が使えない、なんて事態を想定してなかったキミが悪い!」

 

 圧倒的な実力差、それがなければ成り立たない。少なくとも、肉弾戦においてはロジェの方が確実に上だ。

 加えて、彼女の世界もこの闘いに味方している。太陽が照らすこのウユニ塩湖のような世界が。

 

「ッ!? どこに!?」

「後ろだよ」

「このっ、なんだよ、それ!? 魔法じゃないのか!?」

「違うっ! キミが馬鹿にしてきた歴史の集大成がこの歩法だ!」

 

 太陽の光を吸収して魔力や体力を回復する半吸血鬼と、太陽の光に灼かれながらでは動きの精彩にどうしても差が出てしまう。

 そして、ロジェは魔法が使えなくてもルノワール一族が繋いできた歴史が、生み出した歩法があるのだから。

 

 吾輩の視界には、ロジェの体が沈み込んだ気がしたと思えば水音に反応した奴とは真逆の方から踏み込む。意識するよりも早く、踏み込んだロジェの肉体に奴が漸く反応した頃にはもう拳が肝臓を打ち上げていた。

 

「がっはっ!!」

 

 苦悦に顔を上げれば、そのがら空きの側頭部に右拳が叩き込まれ、左の拳が顎を揺らす。それでもふらふらの手打ちの拳を出すが、カウンターとして右手の掌底が鼻っ柱をへし折った。

 

 鼻血と涙により、余裕なんて消えた顔がどんどんと絶望に染まっていく。手を出しても当たらない。代わりに相手の攻撃は半吸血鬼でも回復を有するほどに重く、鋭い。

 

「い、やだ、嫌だ! 負けたくない………負けたくねえ!!」

 

 上半身の防御を固める。腕で顔を隠すが、ロジェはそれを見ると冷静に動きを変えた。手打ちの連打を維持したまま、重心だけをわずかに落とし、踏み込んだ足でつま先を踏み抜く。

 

 悲鳴を上げるよりも早く、ロジェは意識が下に向いた瞬間を狙い、空気を切り裂くような鋭い蹴りを顔面にお見舞いしていた。

 衝撃に、目を白黒させた奴が水面を吹き飛び、何度も転がっていく。

 

 格付けは済んだとばかりに、帽子の汚れを払うロジェ。実際、ロジェが使うからこの世界は強いところがある。あのフィジカルが1番活かせる世界で強みを押し付ける以上、競り勝つには基礎能力の高さがものをいう。

 

 つまり、どれだけ努力してきたかが如実に現れるのだ。偽物勇者の方はわからないが、ロジェが頑張ってきた姿は吾輩よく知っている。

 

「まだやる?」

 

 ロジェの歩みに、奴は曲がった顔を再生しながら立ち上がる。焼ける肌に加えて、魔力もない以上は奴の再生力もそろそろ底をつくだろう。

 だというのに、奴の顔からは笑みが消えない。まるで何かを待っているようで。

 

「ああ。俺の勝ちは揺るがない………お前は知らないだろうが、夢想伝播には弱点がある!」

「魔力を消費するから長い時間、展開できない。とかなら、無駄だぞ。主が知っている魔女がどうだったかは知らんが、ロジェにそれは無意味だ」

「…………は?」

「クラウン。敵に自分の切り札の説明をしないでよ」

「悪い。まさか、その程度の事を弱点と言ってるわけじゃないよなって」

 

 弱点という弱点ではない、が正しいか。それこそモルガナとかは魔力タンクでゴリ押しするし、逆に数秒展開して自分にバフをかけるだけの魔女もいる。

 

 ロジェの場合は、0にされるまで吸われた魔力が自動で世界を維持する魔力に変えられるのだ。その為、燃費で見れば魔女達の中で遥かに優れている。

 

 まあ、弱点はあるにはあるんだけどなぁ………あるからこそバトルものって攻略し甲斐があるわけだし。

 ただ、偽物勇者にして見れば唯一の希望が途絶えたようだ。ロジェが近づく度に奴は後ろへ下がっていく。

 

「逃げるの? 自分が不利になったら、逃げるんだ。聖女勇者って」

「逃げるわけじゃない! 戦略的撤退だ!」

「どっちでもいいよ………ボクはもう、キミの正体を知ってる。今更、惨めで無様な真似を晒したって印象が悪くなるのはキミだけだ。【影牢】のシアン」

 

 誰それ?? もう、アレだな。勇者一行はマジで吾輩関与して無さすぎて話にならない。ただ、聖女勇者が恐らくは"仮面"の魔女エリスっぽいのは間違い無さそう。この時代だと子孫が仲間として出てくるんだろうか?

 

 吾輩の疑問とは違って、近寄るロジェの顔には哀れみに満ちていた。それを見て、顔を背けた偽物勇者………シアンはすぐに顔を上げて虚勢を張る。

 

「ッ!? な、何のことかな? 俺は聖女勇者エリス・シアン・ウルタール! 魔王を倒して世界を救った男だ!」

「本当にそれでいいの………? 歴史は勝者を語るって言うけど、この世界である限り、ボクがキミに負ける余地はない。正体がシアンだってわかった以上、キミは犯罪者として名前が残るんだよ?」

「だから、なんだ? 俺の事を知って何になる!? 知ってるんだよ、こっちは! 民共は理由を知らない、聞きたがらない。歴史を自分の都合のいいように解釈して、悦に浸る! そんな奴らに話す必要などない!」

「だからッ! ボクがッ! 聞くって言ってるだろ!! いつまでも他人の影にいるから、誰もキミを知ろうとしないんだ! 悪名でも、汚名でもいいから、キミの話を聞かせろよ!!」

 

 遂には胸倉を掴み出したロジェに、吾輩も驚きを隠せない。ただ、熱意だけは離れた吾輩にも伝わってくる。あとは、シアンがそれに応えるかだけだが、

 

「俺は………僕は、エリス・シアン・ウルタール!! 魔王を倒して世界を救った勇者であり、勇者一行を殺す為に蘇った執行者だ!! それ以外に名前なんてない!!」

 

 シアンは覚悟を決めたように顔を上げると、ニヤリと笑ってロジェの顔面に拳を叩き込んだ。ロジェはそれを顔で受け止めると、悲しそうに目を伏せる。

 

「キミは選んだ。自分を語るよりも、他人を騙ることを。なら、ボクも容赦はしない。初代の同胞だから話くらいは聞きたかったよ………シアン」

 

 殴られた腕を掴むと前蹴りを放つ。シアンの口から飛び出す血を顔に浴びながらも、ロジェは腕を離さず、更に顔を開いた手で掴むと臓器を吐き出させるような勢いで蹴りを放ち続ける。

 

 シアンは何とか腕を振り解いたが、追撃の頭突きを受けると足に来たのか膝をついてしまう。その隙を見逃すロジェではなく、振り抜かれた爪先が頭部を打ち抜く。

 

 水平に吹き飛ぶシアンに歩法で走り込み、先回りすると回し蹴りで空中に吹き飛ばす。空に浮いた奴は身動きを取ることも出来ない。

 そして、そこに向けて空を蹴る義賊が1人。吾輩が考えたロジェの歩法………天駆。空を蹴って移動する、もう魔法だろそれ!と読者に滅茶苦茶ツッコミを入れられた歩法。

 

「これで、最後だよ!」

 

 上空から飛翔したロジェの膝蹴りがシアンに突き刺さる。そのまま空を足場に拳や蹴りをお見舞いしながら、落下速度に合わせて加速していく。

 シアンからは血が噴き出るばかりで、肌が焼けていた煙もなくなって来ている。再生力の限界が近いようだ。

 

 地面が近づく。決着も近い。最後に拳を鳩尾に叩き込んだ、ロジェが虚空を蹴って空中で前方宙返り。加速した落下の勢いと共に、威力が集中したかかと落としが──

 

「加速同調・熾天!」

 

 着弾し、同時に世界が破壊される。透明な世界は虚空に消え、現実へと回帰する。胸部が見てわかるくらいに凹んだシアンは口から血を溢してるようだが、まだ生きてるらしい。半吸血鬼しぶとすぎない?

 

「………はあっ、ふうっ! 終わったよ、クラウン」

 

 荒れた息を吐き出して、整えたロジェに頭に乗せられてシアンの下へ向かう。今にも三途の川を渡りそうな男は、吾輩達を見ると悔しげに血を吐き出した。

 

「また、負けた………のか」

「ああ。お前の負けだ。シアン」

 

 それだけ聞いて、奴は忌々しげに宙を見上げた。

 

「どうしてだ………どうして、俺は、僕はそうなれない? ルドルフ、エリス、ラケシス………なぜ、僕は勇者になれなかったんだ?」

 

 それに対する答えは吾輩は持ち合わせていなかった。彼を知る吾輩ならともかく、今の吾輩は伝聞でしか知らないからシアンの死に際の言葉に返す事はできない。

 

「キミは、あの時間違えたんだよ。最後まで自分ではない誰かで戦おうとした。でもそれって、負けても()()()()()()()()って言い訳しちゃうんじゃないかな」

 

 ロジェの話に、シアンは黙って聞いていた。何かを言いたげだが、気力や体力がない為に。

 

「ボクの周りには宝石みたいにキラキラしてる人がいっぱいいた。そんな人達はどんなに辛くても、必ず自分で勝負の舞台に立ってたよ。ボクもそう。キミを倒す為に、ロジェスティラ・ルノワールとして」

「なら、僕が………シアン、として戦っていたら勝っていたと?」

「少なくとも、あそこ迄は圧倒的な戦いにはならなかったんじゃないかな」

 

 どうだろうか。ロジェがあの世界を作った段階で勝ちの目はほぼなかったと思うが。シアンもそれがわかっているのか、皮肉気に笑うと、

 

「そうか………なら、それは次に活かすとしよう」

「………次?」

「ッ!! ロジェ!! 白の絵の具だ!」

 

 影が動いて、ロジェの足元に這い寄るとその体を縛りつけようとする。吾輩の言葉に反射的にロジェも絵の具を使おうとして、手から()()()()()()()()()()が溢れ出す。

 

「ッ!? 何これ!?」

 

 くっそ、ここで夢想伝播の使用後のデメリットが発生するか!?

 

 夢想伝播のデメリット………それは、魔法が変質する事。夢想伝播を発動していた時間分、魔法が変質する。

 具体的に言えば、ロジェの絵画の魔法は………()()()()()()()()を生み出す魔法に変わってしまうのだ。

 

「何だか、分からないが………逃げるにはいい機会みたいだな」

「この、待てっ!!」

「ッ! ダメだよ、クラウン!!」

 

 ロジェの体を縛り付けて、悠々と影に沈んでいくシアンに吾輩も飛びかかるが、目の前に浮かんだ黒に飲まれてしまう。

 その勢いのまま暗闇を抜けると、そこは城の天辺で吾輩の体は重力に捕まり、人が蟻のように見える高さから落ちていく。

 

 やらかした、と後悔した頃には吾輩に取れる手段はなく、数秒後に激突する地面から、まるで触手のように死者の手が伸びるのが見える。その新鮮な命を搦めとるように。

 

 即死は間違いない。今回ばかりは吾輩が悪い。勇み足すぎた。

 それでも、ロジェの成長した姿を見られた。後悔はない。

 

「全く、今回も………悪くなかった」

 

 そして、吾輩は目を閉じて、衝突の瞬間を──

 

 

 

「姫様あっ!! 足場よっ!!」

 

 

「摩天楼っ!!」

 

 

 

「なっ……」

 

 吾輩は見た。嵐すら道を空けるような速力で大地を踏み越え、石畳を駆け抜け、瓦礫を蹴り飛ばして空から降って来る翼を持たない猫の元へと走る紫髪の騎士の姿を。

 

 立ち昇る柱達から感じた。盲目も同然だった暗い目蓋の裏に浮かべたその笑みを絵に描き起こせるほど愛しい存在を。

 

「まだよ!!」

 

 烈風を掻き分け、逆風を切り裂き、暴風をねじ伏せ、騎士は一陣の神風となって空から落ちる猫へと手を伸ばす。

 彼女は認めない。無慈悲な神が押し付けた残酷な結末など、ただ美しく終わる悲劇を認めないとばかりに手を伸ばして。

 

「まだ終わりじゃない!! 今度こそ、貴方の世界を終わらせない!!」

 

 だから彼女達は破る。悲劇を、破滅を、絶望を。

 

「今度こそ──!!」

 

 騎士は走る。魔女が生み出した柱の山を登り、かつて手放した存在を今度こそ、その手で掴むように手を伸ばし、彼女は跳ぶ!

 彼女の腕が墜落する吾輩を受け止めたその瞬間、2人の声が重なって聞こえた。

 

「「必ず、貴方を死なせない!!」」

 

 そのまま柱を蹴って、柔らかく地面に着地して、そのままの勢いで転がる吾輩と騎士………アルチナの下に焦燥に駆られた勢いで近づくモルガナの姿があった。

 

「良かった、クロ………今度は無事で………!」

「ああ、もう、良かった………本当に、良かったっ!!」

 

 2人が流す涙が熱い。感じられる暖かさが何処か辛い。何処か居心地が悪いと思っている自分がいる。

 多分それは、吾輩が2人に悲しまれるような価値がないと思っているからだと。

 

『ボクはルノワール一族【五代目】ロジェスティラ・ルノワールだからね!』

 

 けれど、その居心地の悪さに向き合おうと思った。ロジェも壁を乗り越えて成長した姿を見せてくれたのに………吾輩だけ何も変わらないのはおかしいと思ったから。

 

「モルガナ、アルチナ」

 

 2人の名前を呼ぶ。大事な人になってしまった2人を見上げる。生き残ってしまった、と考えてしまう吾輩だけれど、この言葉だけはちゃんと伝えるべきだと思ったから。

 

「──ありがとう、吾輩を助けてくれて」

 

 吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、モフガルド・ニャンディアス3世、キミリア。人間の頃の名前はヤマト。

 助けられた命だ、この命くらいは少しばかり価値を見出してもいいかもしれない………なんて、吾輩は抱擁により絞め落とされながら思うのだった。




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