吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。 作:シャモロック
感想もどしどしお待ちしてます。
吾輩は猫である。名前はクロ。今は訳あってモルガナと名乗ってる。因みにペル○ナは出せない。
今は娘を追ってきた蛮族騎士達から娘を逃す為に奮闘中である。
「モルガナ………だと?」
「如何にも。吾輩はモルガナ。帝国の皇女たる生き残りだ。頭が高い、身を弁えろ」
サガワ団長の言葉に傲慢さを隠せず、返せば誰かが歯噛みするような音がしたが、その直後に腹を下した音にかき消されてしまった。可哀想にウンがないな。
「馬鹿な男どもだ。アルチナ元団長なら、行軍途中で酒を飲む事などしなかった筈だぞ。剣技も劣り、指揮能力も足りない。貴殿のような愚図がなぜ、団長になったか理解不能であるな」
「アルチナ元団長の事まで知っているのか………うごごご!」
「さて、吾輩の提案はただ1つ。今すぐ踵を返すがいい。吾輩は自らを雄の黒猫に変えたやつを探すので忙しいのだ。報告は嘘でも吐くがいい。まさかこの黒猫の首を持って帰り、始末したと言ってみろ。ついに狂ったかと思われるだけだぞ」
まずはジャブを打つ。これで帰ってくれるなら話が早い。腹を下しながらまともに理論立てて考えられる筈もない。今、考えられるのはどうにかして便所に行くか。解毒剤を探す事だろう。
「さあ、立ち去るが──」
「いや、お前モルガナじゃないっしょ」
急な浮遊感が体を襲う。気づけば地面から足は離れ、首元には煌めく刃が添えられていた。ちらりと、横を見れば目元まで髪で顔を隠した男が吾輩の首根っこを掴んでいる。いつの間に近づいて来たんだ?
「サ、サカイ………お前平気なのか?」
「ええまあ。俺、酒嫌いなんで。つか、普通勤務中に飲まないっしょ」
「そ、そうか………だが、よくやった! その猫を捕まえておけ! 後、解毒剤を吐かせろ!」
「いや、無意味っしょ。だって、こいつモルガナじゃないっすもん」
こいつ、吾輩の漫画に登場していない人物だ。確かに現実である以上、漫画の通りに行くとは思わなかったが………落ち着け、顔に出すな。ただの鎌かけだ。飲んでるふりをした冷静な奴がいたのは誤算だったが、まだ巻き返せる。
「馬鹿をいえ。吾輩がモルガナではない証拠でもあるのか?」
「まさか。アルチナ元団長や現団長の名前を知ってる事から可能性は高いっしょ。ただ、
落ち着け、揺さぶられるな。ただの確認だ。冷静になれ。
「馬鹿を言え。今の吾輩は黒猫だぞ? 情報を抜き取るなど容易い。貴様らの会話はずっと聞いていたからな」
「へえ、11歳にしては賢すぎるっしょ。なら、
「なっ!?」
馬鹿な、奴らとは真逆の方向に行くように仕向けた筈だ。それが何故こいつらと鉢合わせする事になる!? この森なら吾輩より詳しい村長もついてるんだ。そんな筈が!
「今、体を震わせたな? やはり、お前モルガナじゃないな? 恐らく、モルガナに仕える従者ってとこっしょ。忠義が裏目に出たな」
それが奴の鎌かけだと気づき、顔を歪める。
吾輩とした事がブラフに反応してしまった。であるなら、次善の策しかない。こちらを値踏みするサカイに向け、吾輩はしっかり目線をぶつける。
「となれば、下剤を盛って俺たちの進行を遅らせてる間に村人ごと逃した訳か。殿を務めるとは猫のくせにやるっしょ」
「………吾輩の負けだな。まさか酒を飲まない奴がいるとは思わなかった。吾輩が知る運命とはまた別な訳か」
「運命? まあいいけど、潔いね。まだ何か企んでる? 悪いけど、お前に関わってる暇はないっしょ。馬鹿な団長達は酒を飲んで自滅。残された俺は見事に姫さんの首を切り、手柄を上げて出世コース行きっしょ」
「ほう。手柄を上げたいのか。なら、どうだ? 吾輩と取引しないか?」
「誰が猫なんかと取引を………」
「吾輩、無限に金を生み出す能力があるのだが」
「っ!?」
なるほど、いい感じに野心がある騎士という感じか。であれば、吾輩の能力はブッ刺さるだろう。目元は隠れて見えないが、吾輩の言葉に興味が出たらしい。畳みかける。
「試しにやってやろう。いくら欲しい?」
「………金貨10枚だ」
「容易い、そら」
空中で腕を招けば、金貨が10枚彼の目の前に落ちて来た。彼はそのまま金貨を拾うと眺め、齧り、音を鳴らし、ゆっくり頷く。
「なるほど。確かに本物の金貨らしい………姫さんの首に加えて無駄遣いばかりの皇帝にいい手土産が出来そうだ」
「そう簡単にはいかぬか。だが、2匹の兎を追ってどちらも手に入れようなんざ甘い話じゃないのか?」
「何?」
「言った筈だ。吾輩は好きなだけ金を生み出す事が出来るんだぞ?
「まさか………いややりかねないっしょ。俺たちごと、金貨に埋もれて殺す気か!!」
「一度くらい思った事はあるだろう? 溺れるくらいに金を使いたいと。使わせてやる。三途の川には持っていけないがな」
やった事はないが、多分出来る筈だ。そういう認識が自分の中にある。ただでさえ、それなりの重さがある金貨だ。億を超える数が流れてくれば、ひとたまりもない。
だが、なるべくは避けたいな。森の中に潜伏する村人やモルガナはまだ避難できていない筈だ。巻き込まれるかもしれん。
「脅しという訳っしょ」
「さあな。ただ、モルガナを見逃せば吾輩は大人しく捕まってやろう。そして、帝国の国庫を潤してやろう。今のままでは遠くない内に滅びるだろうからな」
腹を下す音が響く中、吾輩とサカイが睨み合う。そして、悪臭が漂い出した頃、サカイは乱暴に頭をかきながら大きくため息を吐いた。
「分かった。その取引に乗るっしょ」
「っ!? 馬鹿な事を言うな! サカイ! 団長命令だ! さっさとモルガナを追え!」
「そしたら、クソ漏らした団長含めた俺たちごと金貨に埋もれて死ぬっすよ。かと言って、この猫斬り殺してもモルガナを捕まえられる保証はないっしょ。この村に来るまで、俺たち散々森の中を彷徨ったんす。この村で暮らす人間があの森を熟知してないわけがない」
「だが………しかし、みすみす逃すとは………」
「それに処罰を受けるのは馬鹿な団長達だけっすから、俺には関係ないっしょ。いや、今回の手柄で次の団長に近いのは俺かもしれないっすね」
「ふ、ふざけた事を………ごぎゅあっ」
「腹を下す馬鹿にふざけた事とか言われたくないっすね。でもまあ、逃げられても困るし、足くらいは切っておくっしょ」
剣が夕陽を反射し、オレンジ色に煌めいている。不思議と怖くない。いや、確実に痛いのだろう。吾輩、痛いのは嫌だが、娘が苦しむのはもっと嫌だ。
だから、これでいい。もう2度とモルガナには出会えないかもしれないが、彼女の未来を守れるなら安い買い物だ。
剣が、振り下ろされる。真っ直ぐな剣筋が吾輩の前脚に向けて振り下ろされる。そのまま吸い込まれるように吾輩の前脚へ向けて落ちていき、地面が盛り上がる。
………? 地面が盛り上がる?
「建築魔法!!『ソロモンの柱』!」
「がっ!!」
目の前の地面から弾け飛ぶように生成された柱が、サカイを吹き飛ばし、吾輩を後ろへ吹き飛ばす。数秒の浮遊感の後、慣れ親しんだ匂いがする腕の中に収まり、慌てて体を起こせば、泣いてる娘がそこにいた。
「何で嘘ついたんですか、クロ!」
「ば、馬鹿娘!! 何故戻ってきた!」
「パトちゃんが、クロが死ぬかもって話をしたから私、心配で………」
ぬかった。パトリシアが話を聞いていたのか。くそ、その優しさは美徳だが、余計な真似を。あまりにもタイミングが悪い。今の一撃でサカイが再起不能になっていれば、いいが………そうはいかんか。
多分、剣で直撃を避けたのだろう。砂埃が舞う中、汚れを祓い、砂嵐ごと吹き飛ばす騎士が、怒りの表情をたたえて立っていた。
「銀髪に青い目。なるほどなるほど、君がモルガナちゃんっしょ。"空"属性だから魔法は使えないと乳母から聞いてたが、嘘つかれてたかな?」
「貴方、誰なんですか! どうして私たちを狙うんです!」
「親の心、子知らずって訳かな? せっかく見逃そうと思ったのに、わざわざ来てくれたんじゃあ………手柄を上げるしかないっしょ」
「っ!! モルガナぁ!! 壁だ!!」
「太刀風」
吾輩の叫びに瞬時に、彼女は杖を大地に突き、壁を生み出したがそれを剣から飛び出した鋭い風が豆腐のように簡単に切り裂く。何てこった。あのサカイって騎士、あの団長より強いんじゃないか?
「な、なにあれ!?」
「説明はしてやるから、柱を出せ! 撹乱しないと直ぐに首が落ちるぞ!」
「う、うん! ソロモンの柱"72"!」
瞬間、村の地面をひっくり返す勢いで土の柱が聳え立つ。その速さは知能がない魔物なら反応できないが………目の前の男は風のように軽やかに躱していく。
「いいか、よく聞け! この世界は基本的に五属性の魔法が主流となってる。火、水、風、土の四大属性に加えてかなり特殊な空属性を含めた五属性だ。奴は恐らく風属性なんだろう! 剣から飛び出す鎌鼬に注意しろ!」
「太刀風!」
「そら来たぁ!! 壁だぁ!」
また壁を出して、直撃を防ぐ。くっそ、実戦なんてまだ魔物でしかやってないんだ。いきなり自分より経験豊富な騎士が相手なんて、無理ゲーにも程がある。
そもそも漫画だとあの団長達ごと出られない屋敷に閉じ込めておしまいだったんだ。サカイにもそれが通じればいいが………ダメだ、相性が悪すぎる!
「どうしよう、クロ! 全然当たらない!」
「だろうな! だが、止まったら死ぬぞ! 頑張れ!」
やはりというか、モルガナの柱を出す速度は速いがそれでも地面が盛り上がる前兆がある。ただでさえ機動力のある風属性の騎士なんて相性が悪いなんて話じゃない。
遠い未来なら、0.5秒で部屋を作れるモルガナだが今の彼女じゃ10秒はかかる。部屋さえ作り上げれば一生閉じ込められるのだが、あの速さでは閉じ込められない。
ただ………1つだけ方法がある。
モルガナを泣かせるかもしれないが………お前だけは守れる。
「モルガナ。今から俺の指示通りにしてくれ。こうなった以上、主が生き残るには奴を倒すしかない。吾輩を………俺を信じてくれ」
「うん。大丈夫、クロの事信じてるから」
大きく息を吐き、集中する。狙いは一瞬。外せばモルガナが死ぬ。振り絞れ、自分の命を。何の為にここまで頑張って来たかを思い出せ!
「太刀風」
「壁だ! たださっきより分厚くしろ!」
柱の数が少なくなり、隙間が出てくる。そこを縫って、鎌鼬が飛んでくるのをモルガナは壁を生やして、ガード。先程より、厚さを増やした事で切断にまでは至らなかった。
その間に吾輩は金貨を20枚程生み出し、粉末を入れていた袋に投入し、尻尾に括り付ける。
「そのまま四方に壁だ! 厚さは同じ!」
「うん、わかった!」
柱はもうない。誘うべきは、奴の攻撃。四方を囲み、モルガナへの攻撃を防ごうとすれば風属性の奴は当然のように狙ってくる筈だ。
「経験不足が否めないっしょ。頭上がガラ空き!」
「誘い込んだんだよ! モルガナぁ!!」
「ソロモンの柱!!」
モルガナの頭上、空からの急襲だ。剣を構えて鎌鼬を飛ばそうとするサカイにカウンターの柱をお見舞いする。空中にいる以上、逃げ場はない!
「………と思ってるっしょ? 韋駄天!」
「嘘、柱をかわした!?」
「集中を切らすな、モルガナ!」
「終わりっしょ! 太刀風!」
まさに紙一重、落ちてくる彼は空中で軌道を変えて柱を回避。そのまま空を蹴るようにして、こちらへ迫る。吾輩らに逃げ場はない。万事休す。
「………って思ってんだろ?」
「んなっ!?」
吾輩がやったのは簡単な事だ。伸ばされた柱を足場に奴の剣の軌道に身を躍らせること。近づいてくる風の刃に身の毛がよだつ。これは人の首なんて容易く切り落とせる剣だ。ただの猫が受ければただじゃ済まない。
──だから、受ける。
「ぎにゃああああああああ!!」
熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い!
叫び声を上げようと口を開いた瞬間、こぼれ出たのは絶叫ではなく血塊だ。せき込み、喉からこみ上げる命の源を思うさまに吐き出す。ごぼごぼと、口の端を血泡が浮かぶほどの吐血。ぼんやりとした視界に、吾輩の返り血を真正面から顔に浴びたサカイが見えた。
「うちの、娘に、手を出すなぁぁぁぁぁ!!」
理解した瞬間に遠のいていた意識が復帰する。奴の刀から受けた風の勢いを利用し、その場で回転。遠心力をつけた尻尾に括った金貨入りの袋を離脱しようとする奴の顎に向けて叩きつける。
「………ブラック、ジャックに、よろしくぅ」
重力に従い、落ちる体。サカイもまた脳を揺らされ、魔法の制御が利かずに落ちていく。そんな最中、見えた。今にも泣きそうなぐしゃぐしゃの彼女が。
感情の赴くままにこちらに駆けつけようとする彼女を吾輩は最後の力を振り絞って、押し留めながら、金貨を──1億枚発生させる。
ぱらぱらと落ちる金貨の雨の中、きっかり10秒。四方から巨大な壁が迫り上がり、屋根が出来ていく。
そんな中で、遠ざかる意識の首根っこを引っ掴み、無理やりに振り向かせて時間を稼ぐ。『痛み』も『熱』も全ては遠く、無駄な足掻きの負け犬の遠吠え………ならぬ負け猫の遠吠えだ。
「──モルガナ」
それでも、その僅かな時間稼ぎは、吾輩ごとサカイを部屋に閉じ込める前に、泣きじゃくる娘に、
「──あいしてる」
言えなかった5文字を伝えることが出来たのだった。
主人公が死んじゃったー。
話は変わりますが、猫って9つの命があるそうですね。
他意はありませんが。
次回はモルガナ視点。