吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。   作:あんみつ炙りカルビ

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3章完結! そして1部【スカイクラッドの目覚め】編終了です!
次回は皆んなお待ちかねのロジェのwikiです!


託された物を抱えて

 吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、モフガルド・ニャンディアス3世、キミリア。人間の頃の名前はヤマト。

 息を弾ませながら吾輩は青々とした芝生を歩いていけば、徐々に薄紅色に染まり出す。目の前に広がるツツジの花畑。

 

 その場所にはひっそりと佇む墓地がある。かつてあった悲劇に立てられた慰霊碑。それを中心とする墓地に新たな名前が付け加えられていた。

 

『アゼル・ファウスト』

 

 片膝をつき、持参した花束を供える。既に墓前に置く場所はほとんどない。それだけ多くの方が彼の死を慎み………真実を知ることなく、ただ彼の事を思っていた。

 

「やあ、君も来てくれたのか。ヤマト君」

「ガゼルさん」

「ははは。一昨日も片付けたばかりなのに、たった2日でこれさ。全く、死んでからも迷惑しかかけないんだから。父さんは」

 

 息子は墓に刻まれた名前を指でなぞる。たった1人の父の名を。

 

「聞いたよ。ヤマト君。君が、死んでなお操られていた父さんを止めてくれたようじゃないか。ありがとう。おかげで父の名誉は守られた。最後まで面倒をかけさせてすまないね」

「………大した事なんてしてないですよ。それに、おれもとても世話になってましたから」

 

 アゼル卿は、三羽鴉による凶刃にやられた。という事になった。生き残りの幹部達3人が牢屋の中で示し合わせたように、シアンが総帥であると語ったからだ。

 

 シアンが逃げた以上、王国をゆらがした事件の責任は彼らに集まる。死刑は免れない。だというのに、彼らはどこか爽やかに笑っていた。

 

「………父は、言っていた。これからは私の後を追うなと。国家錬金術師の資格を得てからね。それでも、あの人は自分にとっての憧れであったし、超えたかった人だった」

「ガゼルさん………」

「ヤマト君。自分は怖いんだ。今はまだ、いい。毎日ここに来て偲ぶ時間は変わらないから。ただ、1年後はどうだ? 今より偲ぶ時間は減っているかもしれない。数年後には、偶には顔を出すか。くらいに思っているかもしれない」

 

 風が冷たくなってきた。空を見上げれば抜けるような青空だというのに。ただ、気温だけが、忘れ物のように残っていた冬の訪れのように場違いに冷たい。

 

「父の、肉親の死をそんな風に片付けてしまっていいのだろうか」

 

 風に消えそうな声で、彼は言った。答え合わせを求めるような問いかけに、吾輩は首を横に振る。

 

「おれも、嫁を失ってから………あいつの事は常に頭の片隅にいます。何なら、『いつまで悲しんでんの? 馬鹿なの?』とか言ってそうで」

 

 それでも、ふとした時以外に彼女の姿が見えなくなって来ているのを自覚したのはいつからだったか。

 多分、モルガナが成長していくに連れて、毎日が慌ただしくなって来てからじゃないかだと思う。

 

「おれは、清廉潔白な人間じゃありません。彼奴が隣からいなくなっても世界自体は続いていく。どうしても、日々は続き、新しい出会いや別れ、そして大切な繋がりは生まれてしまうんです」

 

 この世界に来てから、少しずつ彼女の死に顔が浮かぶ時間は減って来ていた。新しく生まれた繋がりは、吾輩から過去を偲び泣く時間を少しずつ奪い、代わりに今の時を楽しむことを与えた。

 

「その事に、おれは罪悪感を抱く事もあります。ただ、そればかりに悩んでいられるほど人生は長くもないって事もわかっています」

 

 吾輩は29歳で事故に遭って死んだ。嫁は27歳だった。まだまだこれからだって時の死が、今も後を退いていても。

 

「だからこそ、やらなきゃいけない使命がある事が良かったとも思うんです。ずっと腐り続けるよりも、後悔しながらでも歩いていける方がきっと、まだマシじゃないかって思うから」

 

 吾輩の答えに、ガゼルさんは遠くに目を向ける。暫くして、彼はまた吾輩に目を向けると小さく笑った。

 

「………全く、もう目印の背中はないというのに、これから先も歩くのは大変だろうな」

「でも、だからこその人生では?」

「違いない。どうだい? この後、お昼でも」

「ああ、申し訳ないですがこの後に見送りがあるので………また今度どうですか? 金はおれが持ちますので」

「よっ、英雄。それなら、いいお店を探しておこう」

 

 ガゼルさんと笑い合って、吾輩は会釈をしてその場を離れる。暫く歩いて、墓前の入り口まで戻ると入り口近くに少女が僅かに背筋を丸めて立っている。

 

 吹き付ける風に、身を縮めて、それで彼女が待つのは自分だろう。彼女の人の良さに少しばかり相好を崩して、声をかけた。

 

「お待たせ、ロジェ。行こうか」

「あっ、う、うん。話はできた?」

「ああ。とはいえ、まだ語りたいこともあるが………また次回の機会にするよ。今回は時間があるからな」

「そうだね。うん、きっとそれがいいと思う」

 

 ロジェは1()2()()()姿()()()()。あの戦いの後、魔力を限界まで吸われたせいかロジェは一晩ですっかり元の少女に戻っていた。とはいえ、本人は別に惜しくはなかったようで、今日も元気に過ごしている。

 

 全てが終わってから、目まぐるしい日々だった。吾輩達は王宮で称賛され、勲章を授与された。『黄道十字勲章』と名前がつけられたそれは謂わば名誉貴族の証としても効果があり、代表として何故か吾輩が受け取る事になった。

 

 まあ、国の目論見からして英雄を名誉職に置いて厄介な帝国民達を管理してほしいという願いもあるのだろう。

 とはいえ、それを得た事で子爵貴族位の扱いはされるようなので、王国で3人が過ごしやすくなるなら素直に貰っておいた。

 

「ロジェも、ティーガーとは話は出来たのか?」

「うん。ボクなんかに頭を下げてた。これまでの非礼と謝罪を心から………って。周りが見ても納得するしかないくらいに」

「そうか。しかし、転属とはな………しかも帝国との最前線」

「ティーガーさんが自分から志望したんだって。自分にはまだ、外の世界を知らなすぎるから見て来たいってさ。代わりに、本隊の人達が戻って来るとか? アル姉が治した人の中に諜報部隊の隊長もいるから戦力的には寧ろ上がるって」

 

 勲章を得た後、ティーガーは吾輩達に頭を下げて来た。すっかり牙が抜けた虎のように大人しくなっていたが、彼女の考えは悪いものではない。寧ろ、吾輩たちが怪しすぎる。

 

「王国の戦力低下もある程度は目処がつくか………()()()()なんて有り得ない奇跡が起きたのが気になるけどな」

「やっぱり、それってあり得ないことなの?」

「あれだけ怪物が暴れ回っていて、普通はありえないだろうよ。そんなのが出来るとしたら、怪物を超える質のいい軍勢を持ってないと話にならない」

 

 そして、それが唯一できる魔女を2人知っている。片方はモルガナだが、こんな手段を彼女は取らない。となれば、必然的にもう1人の方に絞られる。

 

「あっ、やっほー! 3世! ロジロジ〜! もしかして、見送りに来てくれた感じ!? うっわ、マヂで感謝感激飴アラモードなんだけどっ!」

「ユニ」

 

 正門近くの乗り合い馬車待ち場所で、青髪を揺らしながら、手を振る彼女は吾輩の呼びかけに、挙げていた手を下げるとゆっくりと眼帯を下げた。

 伏せられた目は今から叱られるのを怖がる子供のよう。つまり、彼女も勘付いたのだろう。誤魔化さないのはいい事だが。

 

「………気づいちゃった?」

「だから、ここにいる」

「うんうん、そうだね。あーあ、誤魔化し切れるかなって思ったんだけどな〜! でもまあ、やっぱり3世だよね。なあなあにせず、ちゃんと怒りに来てくれた」

「こちらとしては、笑顔で別れたかったんだけどな………率直に聞くぞ。ユニ」

 

 彼女の目線が吾輩を向く。帽子を押さえて、逃げ出したくなる気持ちを抑えた。吾輩、叱るのも怒るのも怖い。意味がきちんと伝わらなければ、ただ相手に恨まれるばかりだから。

 

 モルガナのように可愛い我儘くらいならいい。けど、ユニの場合はそれだけじゃすまない。悪事に加担はしてないのだろう。ただ、きっと彼女は選択肢を増やした筈だ。

 

「どっから書いてた? この物語の結末を」

()()()()()()()()()()()

「………えっ?」

 

 やっぱり、とため息をつく。目の前のユニの瞳が揺れる。唯一、隣で聞いていたロジェだけが目を白黒させて、叫んだ。

 

「ちょ、ちょっと待って………!? つまり、三羽鴉がボクを襲った事に、3世が人間になった事も………ファウストさんが死ぬ事も、全部………?」

「うん。ウチがそうなるように()()()()()()()()。3世から言われてたのは『三羽鴉を潰して奴隷を解放してあげて欲しい』『出来れば、ロジロジの力になって欲しい』って2つを言われてた」

「待て、主は吾輩と初めて会った時には吾輩の指示で『三羽鴉を使って、ロジェを鍛えるって』」

「違うよ、3世。あの時は『三羽鴉、ウチの支配下に置いていいから潰してこい』って言ったの。決して、三羽鴉を利用しろなんて言ってない。そもそも3世はそんな悪どい事言わないでしょ?」

 

 だから、勝手に解釈した。と彼女が呟くより早く、ロジェの蹴りがユニの鳩尾に突き刺さった。仁王立ちしたまま、地面を滑った彼女は口から血を溢すが、ロジェはそれだけじゃ収まらなかった。

 

「じゃあ、何!? この国に被害を齎した遠因はユニさんだったって事!? それをしたのが、ボクを鍛えるため!? そんな事の為に………!?」

「それも、違うよ。ロジェスティラ・ルノワール。貴女のはついで。物語の本流とは別についでに済ませておくかってくらいの伏線回収だよ。王国を危機に陥れたのは貴女の為じゃない」

「なら、何の為だ?」

「──言えない」

「それが許される一線は超えてるんだぞ、ユニ。そして、吾輩がわからないとでも思うのか?」

 

 吾輩が描いたユニティ・ブバスティスはダウナー系メンヘラギャルだった。()()()()()()()()()()()()人間達が滅べばいいと思ってたし、何なら魔女達に馴染むにも時間がかかった。

 

 最終的に、連邦国にて漸くモルガナに忠誠を誓い………以降は狂信者とも呼べるっぷりの全肯定モルガナマシーンになっていたのだ。

 もし、もしもだ。100年前に吾輩が、ユニの悲劇を防いでいたとすれば………姫巫女たる彼女の忠誠は何処に行く?

 

()()()()()()()()()()()()()

「──流石は3世。だいたい合ってるのが、ウチの忠誠を預けるに値するお方だ」

 

 倒れるように膝をつくと、彼女は頭を下げて吾輩の手を取り、唇を落とす。赤く血で彩られた後は忠誠よりも悍ましい何かだと表していて。

 

「どういう事、クラウン?」

「ユニの目的は吾輩を人間にする事だ。モルガナに吾輩を人間にする方法を持ちかけ、賢者の石の作成に協力。そして、三羽鴉を使って吾輩を殺しかける。ついでにロジェも秘伝書を使って鍛え、アゼル卿が率いる三羽鴉ならシャリテーヌの血………高濃度の吸血鬼の血もあると踏んで、それをロジェに投与させた。違うか?」

「暴走ロジロジがあんなに強いとは思わなかったけどね。でも、おかげで2回目のシャリテーヌの血はよく馴染んだんじゃない? 1回目で投与した血に免疫が出来た。だから、2回目で暴走する事なく、ミスト殿下を救えた」

 

 アゼル卿ならシャリテーヌを追い払った際に、血を採取してる筈だ。自分の賢者の石の材料にならないかを研究する為に。

 そして、その血をワクチン代わりにロジェに投与。最初は暴走したが、2回目にもなれば免疫や耐性がつく。ルノワールの一族がそうしてきたように。

 

 そうやって彼女は魔女達と三羽鴉を使って、ロジェを鍛えるついでに吾輩が人間に戻るように舞台を整えた。では、何のために?

 多分、凄くくだらない事だ。指摘するのも恥ずかしい。自惚れるなと言われるかも。けれど、それが世界を救う事にも壊す事にも繋がる。いや、主人公にもラスボスにもなれる理由。

 

 

 

「ユニ………主も、吾輩の事が好きなのか?」

 

 

「──はい。貴方を魂の底から、愛してます」

 

 

 

 吾輩、もはや空を見上げるしか出来ない。隣でロジェが顔を真っ赤にして、右往左往してるような気がしてるが、もう気にする余裕もない。

 つまり、ユニは吾輩と………愛を交わしたかったと。猫の姿じゃ、やれる事は限られているから。

 

「だが、今回の件はその気持ちに応える気を無くすような事なのはわかってるよな? つまり、今回の件は吾輩と主の責任とも呼べる」

「ッ!? いやいやいや! 3世は何も悪くなんて………!」

「吾輩は別に猫のままでも良かったよ。これだけの被害を生むくらいならな。まさか、死人が0だから許されると思ってもないだろ?」

 

 100年前の吾輩にチョークスリーパーをかけてやりたい。何をしたら、吾輩はここまで重たい感情を抱かれるのだろうか。ただ、今回ばかりはロジェ達のように甘やかしてはならない事だけは分かっている。

 

 人間になれたからこそ、戦う手段も得られたが国を巻き込んだのは罰に値する。これをなあなあにしては、今後ロジェは同じ事を繰り返すだろうから。

 

「ユニ。今回は奇跡的に吾輩は助かった。だからこそ、言う。()()()()()()()()()()()()()()()。それを主の罰としよう」

「ッ!?! ま、待って!? それじゃあ、下手したら何百年も待たなきゃいけないって事!? それは、ちょっと、流石に!!」

「ユニティさん。ボクに言ってくれたじゃん。『1発殴って禊をした方が互いにとって1番スッキリするじゃん?』って。ボクも今はそう思うよ」

 

 ロジェの失望したような目に射抜かれて、吾輩に助けを求めるが今回ばかりは吾輩も赦しはしない。

 

「それが嫌なら、今ここで吾輩は主を育てた責任として自害するが、そちらがお好みか?」

「ダメッ!! それだけは、それだけは本当に………!! また汚名を被って死ぬなんて、いやぁ」

「クラウン、何したのさ。泣き出しそうだよ、ユニティさん」

「吾輩も知れるなら知りたい」

 

 涙目で足に縋り付くユニだったが、心を鬼にするとユニティは鼻をぐずぐずと鳴らしながら、頭を振ってゆっくり頷くとぼろぼろと泣き出してしまった。

 

「泣くくらいなら、最初からやるな」

「だっでえ゛………3世どいぢゃいぢゃじだぐでぇ。がぞぐになりだぐでえ………!」

「それで国を巻き込むなんて………クラウンって傾国の猫だったりする?」

「人類、皆、猫の奴隷ではあるんじゃないか?」

 

 とりあえず、ユニへの釘差しはこれでいいだろう。吾輩が数百年も生きられる訳がないし、魔女達を助けてたらまたどっかのタイミングで命をベットしなきゃならないだろうしな。再会はそこまで遠くはなるまい。

 

「まあ、これで暫くはお別れだな。ユニ。念の為だが、次はないからな?」

「はい………その、今生の別れなんで最後にちゅーぐらいしてくれない?」

「反省してないだろ、お前。ロジェ」

「せいっ」

 

 減らず口にロジェからの渾身の蹴りが彼女の尻に突き刺さる。鋭い音を立てて、膝から崩れ落ちた彼女に吾輩は額を押さえつつも、彼女の首に腕を回して抱き寄せた。

 

 先程までは罰だが………これはお礼だ。吾輩を人間に戻してくれた献身的な死神へのご褒美に。

 

「もし、また会えたらもう一度ちゃんと聞かせてくれ。聞いてやるから」

「──うんっ! だから、また会おうねっ! 3世!」

 

 彼女は吾輩の頬に唇をつけるとわざとらしく鳴らして、立ち上がる。そのまま無理して笑った顔で乗り合い馬車に乗り込んで行った。

 正門から馬車が旅立っていく。いずれまた出会うだろう。正直、吾輩もここから1回も死なない姿とか想像出来ないし。

 

 ………あと、あいつ()()()()って言ってたしな。多分何か足りてない答えがありそうだ。答え合わせは先になりそうだが。

 

「さて、色々あったが帰るとするか」

「色々あったで、済ませていいのかなぁ、これ」

「今回の事件は公にできない事が多すぎるからな。納得できなくても納得してやるしかないんだ」

「大人って汚いなぁ………」

 

 少女と並んだ自分の影が夕日を浴びて長く地面に映るのを眺めながら、彼女を待つ。歩幅は吾輩のそれよりも遙かに小さいから。彼女の小さな身体を急かさないように歩幅を調節する。

 

「今日のご飯って何かな」

「ご馳走だって聞いたぞ。旅館に移動して、たらふく食べていいらしい。お酒もいいのを揃えたってさ」

「ああ、クラウンが貴族になったからね………」

「名誉だから。領地とか何も貰ってないから」

 

 ここに来た当初を思い出す。あの頃に比べれば、ロジェも随分と気安くなった。勲章授与の時は噛み噛みだったし、ガチガチだったが、いずれそれもまともになるだろう。

 

「あっ」

「ん? ああ、串焼きか………おい、ロジェ」

「………あれくらい、別腹だって思わない?」

「あのなぁ………まあいいか。1本だけだぞ」

「やった! あ、ボクに払わせて! 報奨金出たからさ!」

 

 国から出た報奨金、金貨10枚の1枚を崩した銅貨を握りしめて買いに行き、彼女が買ってきたそれを受け取った。

 熱々で、噛むたびに弾ける油と肉の旨みがシンプルだが旨い。夕焼けの肌寒さの中、食べると言うシチュもまた乙なものだ。

 

 2人して建物の壁に寄り添って、串焼きを口にする。たった1本、あっという間に食べ終わってしまったのだが、何でか互いにその場を動く気がしなくて。ぼんやりと行き交う人々を眺めていた。

 

 崩れた建物から財産を探す持ち主らしき人物に、見回りのためか包帯や腕を吊るした軍人、復興のために汗水働く職人達を。

 王国に訪れた脅威に対して、乗り越えようとする強い人達を。

 

「なんか、いいよね。この景色」

「ああ。そうだな」

「こうやって見るとさ………みんな頑張ってるんだよね」

「頑張ってない人なんていないよ。ロジェもそうだろ?」

「クラウンもね」

 

 誰もが自分の前に現れた選択のどちらかを選んで生きている。今回の件も、選び、託し、抱えて皆んなが自分の人生を頑張ったからおきてしまった。

 

 それは褒めることであり、蔑むことではないと思う。自分の人生の最高点を更新し続けるために、人は努力を積み重ねていくのだから。

 

「ねえ、クラウン。ちょっと相談なんだけど」

「ん? どうした?」

「ほら、ボクってさルノワール一族の五代目になった訳なんだけど………やっぱり当主として復興について頑張らないといけないわけじゃないかって」

「そうだな。まあ、主なら出来るさ。あれだけの歩法にそれを支える矜持を忘れなければ大丈夫さ。それに、主は可愛いしな。亜人とはいえど、貰い手は多くいるだろうよ」

 

 その為にも姦淫の悪魔もとい不動明尊はどうにかしないとな。このままだとロジェの後継は蛞蝓になるし………待て、ロジェ。どうして、そんなじっとりとした目を向ける。そういうとこ? どういう事??

 

「そ、そうやって気軽に可愛いとか言って、人を勘違いさせて………そんなんだからユニティさんも狂っちゃったんじゃないの?」

「………まあ、否定はできない」

「だ、だからさ………責任とってよね」

 

 吾輩を見上げる彼女の瞳は潤んでいて。頬は熱したように赤く、夕焼けの色に負けていない。不味い流れだ。吾輩、これには経験がある。そう、嫁から告白を受けたのと同じ空気感!!

 

「あ、あのロジェ? ロジェさん? 責任とは?」

「………ルノワール一族の復興、それに協力して!」

 

 言ってしまった………なんて顔を彼女はしているが、吾輩は内心冷や汗ものだった。良かった。またいたいけな女の子からの告白や愛の言葉じゃなくて。そういうので良かった! 本当に!

 

 まあ、邪推は出来なくもないがロジェだからな。これがアルチナやモルガナ、ユニなら一族の復興(意味深)と捉えてもおかしくはなかったからセーフ。ロジェがまさかそんな言葉を秘めてるわけもあるまい。

 

「勿論。協力するよ。主の活躍を特等席で見るって約束したからな」

「っ!! えへへ、や、約束だからねっ!」

 

 壁に寄り添っていた彼女が前を歩き出す。晴々とした表情で、帰路を歩いていく。吾輩も彼女に連れられるように、その後を追った。

 

「ねえ、()()()さん」

 

 クラウンがおれの名前を呼ぶから思わず、足を止めて前を見る。夕陽をバックに彼女は何処か楽しそうに笑っていた。

 

「今はまだ、ボクは小さいし、内気だし、ちょっとだけ喧嘩が強いだけの女の子だけど………それでもいつかは成長して、2人の姉みたいな立派な魔女になりたい」

 

 胸に手を当て、宣言する彼女はもう立派な魔女だって言ってやりたかった。だけど、それを本人はそんな事ないって謙遜するだろうから吾輩はただ頷くだけに留める。

 

「そしていつか──貴方の心を盗んでみせる」

「………………ん?」

「だから、未来で待っててね! ヤマトさん!」

 

 先行くよー!と元気な声が徐々に遠ざかっていく。夕陽に向かって走っていく彼女を眺めつつも、脳裏は何かとんでもない事言われてないかとアラートが鳴り響き………

 

「明日のことは明日の吾輩に任せよう」

 

 吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、モフガルド・ニャンディアス3世、キミリア。人間の頃の名前はヤマト。

 鳴り響いていたアラームを切り、吾輩も彼女の後を追って帰路を急いだ。

 

 この世界の吾輩の帰る場所………モルガナのアトリエへ向けて。




1章 6話
2章 14話
3章 60話

ははーん。さてはまとめられない馬鹿だな私。という戒めもこめて匿名解除しました。今後ともよろしくお願いします。

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