【第1部完結】吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。   作:あんみつ炙りカルビ

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幕間です。全4話くらいの構成でいきたい。
せっかく珍しくヤマトが生きてるので色々なキャラと絡ませたい。


幕間 黒猫の日常
プロポーズ大作戦


 吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、モフガルド・ニャンディアス3世、キミリア。人間の頃の名前はヤマト。

 傾けた杯に細やかな泡が立つ酒。とろりとした口当たりながら、微炭酸が口の中で僅かに弾ける。これはいい。食前酒にもいいが、さっぱりとした酒だ。蕎麦前に合いそう。

 

「店主。このお酒は?」

「ああ、それはウチの初摘み白麦で作った『氷騎士』って言う酒でね。麦の皮を丁寧に剥いて、冷気を持つ特殊な石でじっくり1年低温発酵させた代物さ。果物みたいな香りにさっぱりした後味が料理に幅広く合うってんでね。そんで、ヤマトさん。今日はどうする?」

「店主のおまかせで頼む。蕎麦は締めでな」

「毎度! ではごゆっくり!」

 

 店主が奥に戻ったのを見て、カウンターの隣に座る男に徳利のようなものを傾け、酒を注ぐ。彼はそれを見ると一口で煽り、体を震わせた。

 

「つっっっよいね!! このお酒!? クロはよくこんなの平気で飲めるね。やっぱり、僕は果実酒でいいや」

「まだまだ子供だな、ロンは。今、幾つだっけか?」

「18だよ。もう立派な大人なんだけどなぁ。お店だって持ってるし」

「吾輩から見たらまだ子供だよ」

 

 ロンに笑いながら、酒を口に含む。つまみは『灰土根菜の麦粕漬け』だ。麦の酒粕に浸かった根菜はまんま漬物で、ポリっとした歯ごたえと麦の甘味がたまらない。

 

「連邦国はどうだった? 多分、その前の入り口。『交易都市』で商売してきたんだろう? 変なやっかみは受けなかったか?」

「うん。事前にモナの友人のユニさん?が話を通してくれてたんだけど、あの扱いがね………余りにも丁重に扱われすぎたし、なんか連邦国の代表もユニティって名前だしで………もしかして」

「ああ。ユニは吾輩の教え子の魔女だからな。多分、そのせいだろ」

「やっぱり………おかげで僕とパティに寿命が縮んだじゃないか!! びっくりしたよ!! 強面の亜人達が揉み手で擦り寄る姿とかさぁ!」

「でも、品物が売れて良かったじゃないか」

「良かったけどさぁ!! ああもう、釈然としない!」

 

 出された果実酒を飲み干し、お代わりを求めるロンはお通しの麦粕付けを摘みながらも、ゆっくりと姿勢を正した。

 今日の飲み会はロンから提案されたものだ。たまたま連邦国に行っていた事で王国のゴタゴタから免れた彼は街の復興が落ち着くとこうして吾輩を誘ってきた。

 

「それで? 何か悩みでもあるのか?」

 

 ここからが本題だろう。吾輩に言うという事は亜人達と何かあったか? 吾輩からユニに働きかけて欲しいとかか? それならモルガナの方がいい気もするが………まさか、浮気とかじゃないよな?? 

 

「先に言っておくが吾輩に浮気を上手く誤魔化すコツとかは聞くなよ?」

「それは美女を侍らせてるクロには聞かないから大丈夫!」

「吾輩の評価が女たらしになってそうなのはだいじょばないが?」

「というか浮気じゃないよ、失礼な! その、ちょっとした相談で」

 

 ごにょごにょと言葉を探すロンだが、暫くすると小さな箱をカウンターに出してきた。というか見た覚えがある。吾輩もやったもん。それ!

 

「結婚の申込かぁ………それは確かにモルガナには言えんな」

「因みにモナは仕事中にもニマニマしながら、薬指にハマった指輪見てるからね」

「そんだけ喜んでくれてるなら吾輩も嬉しいが。つまり、ロンもパティにそれだけ喜んで欲しいわけか」

「だって、それはねえ………」

 

 確かに吾輩に相談するわな、それは。とは言っても、こんなのは素直に思いの丈をぶつけるだけだと思うが。ああ、でも王国特有の文化とかあるんかな?

 

「因みに王国だと結婚の申込をする際にしなきゃいけないこととかあるのか?」

「うん。絶対じゃないけど、風習って奴かな。王国って実力主義な所があるから、妻にしたい人に対して男はこれだけの物を用意できますよ。って見せないといけないんだ。例えば2人で住む家とか、高価な宝石がついた指輪とかね」

「なるほど男の甲斐性を見せつけなきゃいけないわけだ」

「後、王国は一夫多妻を認めてはいるけど、その度に風習を守らないといけないんだ。それに2番目や3番目の奥さんや子供に貧しい思いをさせるくらいなら白い目で見られる上、あんまり酷いと婚姻の解消をさせられるから気をつけてね」

「それは吾輩に対して愚問では?」

 

 指先に挟んだ金貨を上に弾く。吾輩からしたら、容易い事だ。だからってハーレムを増やしたいわけじゃないよ? マジでね。だから、店の聞き耳立ててる人も噂を流さないでね? 

 

「なので、僕もパティに用意してあげなきゃいけなくて頑張って指輪を用意したんだ。金貨1枚分だけど」

「自宅は店と兼用だもんな。まあ、いいんじゃないか? 後は何が不安なんだ?」

 

 開いた箱には小粒のダイヤが嵌められたシンプルな指輪があった。ロンはモルガナのアトリエ専属商人とはいえ平民としたら破格だろう。

 それに結局、吾輩が貰った研究施設用の建物はモルガナ改築によってロンとパティの商会【黒猫の宅急便】に変わって自分の店も持っていると言っていい。

 

 そんな彼が何を不安になっているのか。と思って問いかければ、

 

「け、結婚の申し込みってどうやるの?」

「普通に告白と同じでいいんじゃないか?」

「そんな素直な奴でいいと思ってるの!?」

「むしろ、奇をてらすなよ………一生からかわれるぞ、お前」

 

 『あんたはあたしが急かさないとプロポーズしてくれなかったしね〜』なんて吾輩のイマジナリー嫁が囁いている。

 『クロが私と家族になってくれるって言ってました!』と吾輩のリアル妻が騒いでいる。

 

 実際、一世一代の大勝負に余計なサプライズとか吾輩いらないと思うんだよね。だってそれで相手の気持ちが冷めたらもっと嫌だし。

 パティも普通にレストランに誘って素敵な食事をした後に、指輪を出せばいいと思うが………なんでそんな微妙な顔をする。

 

「相手の度肝を抜く為に結婚の申し込みをするわけじゃないんだからな? そこを履き違えるなよ? 相手の人生を貰いたいって言う告白でもあるんだからな?」

「うっ、そうだけどさ。じゃあ、クロはどうやって結婚の申し込みをしたのさ。あ、モナに対しては耳が痛くなるほど聞いたから昔のお嫁さんについてが聞きたい」

「彼奴こそ素直に告白したよ。10周年記念に温泉旅館でな。あんまりにも長い付き合いすぎて、吾輩がそわそわしてた事から逆算されたけども」

「えぇぇ………ダサ………」

「言うな………吾輩、彼奴に演技や嘘で勝てた事ねえんだよ」

 

 でもな。と吾輩は口にして。杯を傾ける。ここから先の話は少しばかり酒の力を借りないと話せないから。

 

「──それでも、紗良は喜んでくれた」

「サラ? もしかして元嫁さんの名前?」

「ああ。旧姓:江都賀紗良。吾輩と結婚してからは、黒須紗良か。指輪を嵌めた瞬間は今でも覚えてる。泣いて笑ってまた泣いて。彼奴にしては珍しく感情の表現ができてなかった事も」

 

『この時をずっと待ってたのよ?』

 指輪を嵌めて本当に嬉しそうに透き通るほどに綺麗な涙を流した君を今でもおれは覚えている。

 

「………もしかして、クロは今でもその人を?」

「………紗良のな、声がもう分からないんだ」

 

 大和先輩。なんて呼んできた彼女の声色はもう分からない。顔はまだはっきりしてるし、思い出もちゃんと抱えているけど、それもいつかは消えてしまうのだろう。

 

「それが、寂しくて少しばかり辛いんだ。永遠の愛を誓っても人間の体は永久には残らない」

「モナと、その………同衾しないのはそれが理由?」

「誤解させないように言うが、吾輩はモルガナを愛してる。価値なき吾輩を見出した彼女を幸せにしてやりたいと本気で思ってる。それでも、昔の女の気持ちを抱えたままの宙ぶらりんで手を出せるほど吾輩は軟派じゃない」

 

 クールぶっているのに、少しばかり抜けている彼女。

 興奮すると語彙力が少々残念になる彼女。

 類稀な錬金術の才能と魔法の才能を持ってなお、帝国民のように驕らずに日々を研鑽する彼女。

 

「モルガナは吾輩には勿体ないくらいの伴侶だよ。そんな彼女が選んでくれた吾輩が自分の価値を否定するわけにはいかない──モルガナの男を見る目は間違っていると言わせない為にも」

 

 少なくとも、今回ばかりは生き残ってしまった。ならばその命を助けた2人の魔女を否定しない為にも自分の価値を否定してはならないと吾輩は思う。

 

 徳利を傾けるが、酒はもうなかった。名残惜しいが時間もそろそろいい頃合いではある。店主に手を挙げると、蕎麦を茹で始めてくれた。それを締めにしようと思う。

 

「自分語りが過ぎたが、ロン。主はこれからパティの人生をもらって生きていく。そして逆にパティも同じことが言える。生活様式も違う2人が家族になるんだ。結婚した後、日常のズレや細かいところで不満が溜まっていくことだってある」

「そうだね。他の人にも言われたよ」

「ご飯を菓子で済ませるな!とか洗濯する際に服をバラせ!とかお茶碗の裏の滑りまで洗いなさいよ!とか言われる事も増えるだろう」

「凄い、まるで実際に言われたみたいだ!」

「お黙り。とはいえ、そんな些細なことで喧嘩して喧嘩するのも馬鹿らしいし、長引かせて気まずい気持ちにもなりたくないだろう? そんな時には」

「そ、そんな時には………?」

「2人のお金を出し合ってどデカい饅頭を買え」

「なんで??」

 

 現代風に言うならパーティーサイズのアイスやバケツにたっぷり入ったケンタッキーのチキンとか普段買わない心と胃がワクワクするタイプの食べ物がいい。

 

 馬鹿みたいなサイズで食べきれなくても、雑な会話のきっかけにはなるし、無言で並んで食べ続けても間は持つから結構アリだと吾輩達は喧嘩後のルールにしてた。後、お腹いっぱいだと人は優しくなれる。

 

「まあ、これは参考例だけどな? ロンにはロンの。パティにはパティに人生がある。ズレも不満もちゃんと話し合え。察して欲しいはお互いに甘えにしかならない。それでも甘さも苦味も混じり合いながら年月を込めて深まった絆が、とびきりの愛になるもんだよ」

「このお酒みたいに?」

「ああ。吾輩は紗良と10年はかかったけどな」

 

 そして、これからモルガナと重ねていくつもりでもある。

 

 区切りよく吾輩達の前に蕎麦が置かれ、湯気立つ蕎麦を前にしてロンは最後の果実酒を吾輩の空の杯に注いだ。

 

「乾杯しようよ。クロ」

「何にだ、ロン?」

「ん〜。お互いの新しい生き方に?」

「なるほど。そいつはいい」

 

 最後の一杯を掲げ、グラスを軽くぶつけて笑い合う。

 

「結婚おめでとう。ロン」

「婚約おめでとう。クロ」

 

 一気に飲み干して、2人して空のグラスをカウンターに置いた。

 それが男同士のちっぽけな飲み会の終わりだった。

 

 吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、モフガルド・ニャンディアス3世、キミリア。人間の頃の名前はヤマト。

 今度はモルガナと2人で来よう。きっと今日と同じくらい素敵な酒を飲める気がするから。




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