【第2部開始】吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。   作:あんみつ炙りカルビ

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美少女を助けた事で惚れる展開の描きやすさよ………あまり使えない諸刃の剣とも言う。恋愛って積み重ねだと思うんですよね。


ツーアウトってところか

 吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、モブガルド・ニャンディアス3世、キミリア。人間の頃の名前はヤマト。

 帝国に行く当日の朝である。という訳だから、そろそろ手を離そうか。モルガナ? いや? しょうがないロジェ頼む………嘘だろ、ロジェの腕力に勝つのか、主は。

 

「姫様〜昨日の語らいの時には『寂しいですけどちゃんと笑顔で見送りましょう。それが良き妻としての役目です』ってキリッとしながら言ってだじゃない」

「やっぱりいやですぅぅぅ。クロとおわがれするなんでぇぇ!」

「こんなモル姉見たことないや。というか見たくなかった」

キャラ崩壊にも程がある(我が妻がとても可愛い)

「惚気が隠しきれてないよ、クラウン」

 

 アトリエ前で馬車を待たせているセレナ殿達も困っている。昨日の首輪の件からして、念入りに下調べをしていたのだろう。残念だったな! これが天才錬金術師の真の姿だ!

 

「ぐすっ………良いですか、クロ。荷物は私が用意しましたからね。まずは錬金術師の勉強用の本に、お腹が空いても困るので食料1ヶ月分と飲み水。後は調合用の素材に、『不思議な箱庭』も用意しました」

「馬車に入り切らないからもうちょい減らそうか」

 

 アトリエの入り口からすら出せそうにない鞄から必要なものだけを『金食い虫』を改造した『貯金箱』へと放り込んでいく。

 国家錬金術師の資格を得てからモルガナと共に『入れる物に対する貨幣を入れなければ物を入れられない』という性質を改造。『容量まで入れる事は可能だが、出す際には対価の貨幣がいる』というように作り変えた。

 

 これにより、より吾輩専用になってしまった感はある。普通の人は大量の宝石を入れてもそれを出すための金貨は払えないだろうしな。

 

 因みに夜明けの錬金術師が作成した『玩具箱』はそもそも用途が違うので当然だが、玩具箱は金食い虫のように金を入れる必要がない。

 ただ代わりに『玩具シリーズの武器及び素材しか入らない』という性質がある。要するに武器庫の『玩具箱』と倉庫の『貯金箱』である。

 

 まあ、玩具箱を貯金箱に入れるのは可能なんですけどね。

 

「よし、これで本当に準備完了だな!」

「後は、モル姉を引き剥がすだけだね。アル姉手伝って」

「おはぎ先生がいない日々を思うとため息がでるわねえ」

 

 全員で準備を終えて、吾輩の背中にずっと顔を埋めてるモルガナをなんとか引き剥がして漸く吾輩は馬車に乗り込んだ。

 

 鼻を赤くし、泣きそうな顔で手を振る彼女に後ろ髪を引かれるような思いだが心を鬼にして手を振る。

 馬を走らせ、モルガナ達の姿が小さくなり、彼女達の姿が見えなくなるまで吾輩は手を振り続けた。

 

「随分と仲がよろしくて」

「帝国貴族からしたら珍しい光景か?」

「ええ、とても。殿方は手など振らず、淑女は馬車が見えなくなるまで頭を下げて上げてはならない。そう叩き込まれるのが当然なので」

「貴族としてはだろうな。でも吾輩、猫だし。その辺りは緩めで行きたい。ガチガチに縛ったところで反感を招くし」

 

 セレナ殿は吾輩の対面、ムサシ殿は御者として手綱を握っているらしい。彼女はそんな軽い雑談を交わした後、胸元の何かを締め直す素振りを見せ、目つきが変わった。

 

「では、契約内容を改めて確認させていただきます。ナツメ商会及びナツメ家の依頼として『ティア・フーカ・ナツメの呪いの解除』こちらを求めます。対価としては『アンオブタニウム100g』。異論はありますか?」

「ある。対価に『帝国出身の3人の所在を明らかにしない』を織り込め。その話はすでにモルガナとアルチナから行ってるはずだが?」

「これは、失礼。失念してましたわ。他に何か聞いておきたい事があればどうぞ?」

 

 わざとらしい声で契約内容書き換えようとしてるのは、強かというべきか、交渉事に吾輩が向いてない事を知って仕掛けてきているのか。

 両者だろうなぁ………両者だよなぁ。こういうのはユニが得意だから彼女にいて欲しいって切に願う。自分で接近禁止令出しといてあれだが。

 

「主らはどこまで何を知っている?」

「そのような不明確かつ不明瞭な質問にはお答えかねますわ」

「………モルガナの血についてどこで知った?」

「それはムサシの領民からですわ。貴方は知らないのでしょうけど、突如生まれたダンジョン………『黄金劇場』がある領地はムサシに与えられた領土ですの。彼は私の騎士でありながら、子爵家当主ですのよ」

 

 っ!! ということはモルガナ、パティ、ロン達が育った村は丸ごとムサシに与えられたわけか。漏らしたのは恐らく村長だろうが、それを責めたりはしない。命あっての物種だ。

 

 だがなるほど、そこまではゲーム通りか。ゲーム主人公たるムサシは七元徳の1人を撤退させた後、英雄として領地と女を下賜すると言われていた筈だ。そこでムサシは幼馴染の女の子を指名したが、拒否される。という流れ。

 

 そこまでが戦闘のチュートリアルとあらすじを兼ねているがそれはさておき、その流れが同じなら、

 

「では何故、主が婚約者に? ムサシは他に望んでいた女の子がいた筈だ」

「あら。それはご存じなのね。ええ、ムサシは当時皇帝の後継の教育係、剣の師匠として雇われていた『アート・ディアナ・ヒーコシセーター』。貴女達を襲った騎士『サカイ・ダニー・ヒーコシセーター』の妹と言ったらいいかしら?」

「サカイ………あの時、吾輩達を襲った騎士か! だが、何故? 吾輩の記憶が正しければ『ヒーコシセーター』は五聖騎士の1つの筈だ。男であれだけの腕が立つならば、わざわざモルガナを連れ戻す雑用などする必要はなかった」

 

 五聖騎士。帝国を守る5つの星にして騎士の家系。どれもが公爵家であり、各属性を割り当てられた騎士団の団長も務める。

 

 太陽の騎士【サンマーク】 雨の騎士【キュービン】

 嵐の騎士【ヒーコシセーター】 砂塵の騎士【ツーウンユ】

 そして、天空の騎士【キャロル】以上だ。

 

「それは単に汚名返上の機会を得たからよ。貴方もご存じなくて? ある女騎士が、当時の騎士団長候補たちを軒並み倒して団長候補に名乗りを挙げたことを──アルチナ・L ・キャロルの存在を」

 

 ………うん。まあ、ね。褥の上でのピロートークでそんな話を聞いた覚えはあったよ? 出過ぎた杭を打つ為に丸一日がかりの総がかり戦。という建前でアルチナを蹂躙し、集まった観客の前で全て踏み躙るつもりだったらしい。

 

 結果? 魔族の七元徳倒せるような奴が負けるわけないだろとだけ言っておく。

 

「当時子供の私はそれを見て………魅せられたわ。美しくも力強い刃の輝き。返り血や泥に塗れようと消えない宝石のような煌めき。お金を幾ら注ぎ込んでも買うことの出来ない美しさがそこにはあったわ!!」

 

 口早に言い切り、色っぽく吐息を漏らすセレナ殿の頬は興奮からか余り赤く染まっており、嘘は無さそうに見えるが………そこにそんな繋がりがあったとは。

 

 吾輩が知る限り、()()()()()()()()()()()()()()()()筈だったからな。

 

「もしかして、セレナ殿はアルチナのファン………推しなのか?」

「推し。ふふ、異界用語で言う『人に薦める程気に入ってる人物』の事ですね。正しくその通りの意味ですわ。だからこそ、私も始めましたのよ?」

 

 立て掛けてあった日傘の持ち手部分を手に取ると、回す。カチッと音を立ててゆっくりと引き抜かれたそれは1mはありそうな剣。エストックに近い形状のそれは仕込み剣のようで全て見せる事なく、日傘の中に仕舞われた。

 

「それで質問の答えがまだでしたわね。ムサシが望んでいた女の子は既に皇帝の後継………アルトリウス殿下に身も心も盗られていた。私は傷心していた彼の栄誉と領土、それと剣技目当てで政略結婚しただけですわ」

「話だけ聞くと最低過ぎる」

「あらこれが帝国における結婚の流れでしてよ?」

「そんなんだから、色々な所に恨みを買うことになるんだろ………」

 

 元を辿ればそうあれ、と執筆した吾輩が悪い。という話になるのだが。特にティア編なんてそうだろう。1〜3章での帝国による被害を被った魔女たちに感情移入させてから殴りやすい敵しか出てこない帝国編。

 

 ファン達からは『ティア鬼つええ! このまま帝国ぶっ壊しちまおうぜ!』って散々ネタにされてたくらいだし。

 毛繕いしながら考えに耽る。果たして吾輩は帝国でどこまで何が出来るのだろうか。優先は魔女たち、それは間違いない。

 

 けれど、本気で困ってる人達が目の前にいたら吾輩は彼らを見捨てる事ができるのだろうか。

 

「どうかしましたか? 気難しい顔をして」

「いや、なんでもない。吾輩寝るわ。まだまだ旅路は長いもんな」

 

 体を丸めて眠る体勢に入る。事実、旅路はまだ長い。馬車で2週間かかる旅なのだ。体力は温存するに限る。何せ、魔物達が出てきてもおかしくはないのだ。何があったら対処できるようにしておきたい。

 

 といっても、なんだかんだ言って、旅路そのものは順調に過ぎていった。

 

 王国領を出て帝国領に入ろうとしたりする際に、などちょっとしたトラブルがあったがナツメ商会の家紋とセレナ殿の存在でおおよそは無事に片付いた。それはつまりナツメ商会の名は帝国で知れ渡っている証明だった。

 

 もちろん、それはそれで新たな火種を呼び込むことにもなりかねないのだが………今回の旅路では良からぬことを企む輩とは出くわさなかった。

 何というか拍子抜けではある。1週間は吾輩も警戒していたが、次第に錬金術師の本を出して勉強に勤しみ、帝国目前では読書に没頭するくらいには何もないのだから。

 

「あら、錬金術を嗜むのかしら?」

「こう見えて国家錬金術師の資格持ちだぞ。まあ、モルガナには遠く及ばないが」

 

 懐かしい話だ。具体的には10話くらいで纏まりそうな資格の試験だった。学科試験は問題なく、高等学校までの計算が出来るのであれば余裕で受かる。ただ、発想力を確かめる。という名で開始された試験は思い返せばただの頓知勝負だった気がしないでもない。

 

 実技試験の方が大変だった。吾輩、本当に0→1を作るのが苦手であり、結局は既存の錬金道具を改造するという結果に落ち着いた。色々言われはしたが、効率が上がるのは確かだったのでギリギリ通ったようである。

 

「錬金術は奥が深い。暇なら勉強しておいて損はないからな」

「あら帝国貴族は暇ならば遊び呆けるのが普通でしてよ。遊び呆けられるほど、自領は発展していて、その当主たる自分は賢いという表明になりますの。お馬鹿ですわよね」

 

 セレナ殿は錬金道具らしきティーポットから紅茶を注ぎ、口元に運ぶ。優雅なティータイムを楽しむ貴族らしい振る舞いではあるが、その口から漏れる言葉は自嘲気味だった。

 

「全くだ。それなら吾輩は読書を薦める。読書はいいぞ。情報を仕入れて、正しく言語化して感想を伝えることが出来れば伝達力に困る必要はないからな」

「若しくは剣ですわね。女が剣を振るうのは野蛮だの泥臭いだの言われてはおりますが、美食と音楽と男に溺れていては肉体は肥えていく一方。剣はいいですわよ。振るだけで運動になりますもの。乗馬のように広い場所もいりませんし、持ってこいですわ」

「それは極論な気もするが。スタイルがいい女の子はいいよな」

 

 うちの魔女たちもそんな感じだ。モルガナは基本、座り仕事だが気分転換に素材を刈りに魔物討伐とか行くしな。アルチナとロジェは自分の肉体の研鑽を欠かさないから良し。

 

 まあ、ロジェは読書が好きなのもあってユニの新作を買ってはゴロゴロとしている。たまに吾輩におすすめしてくるのもあって読んでみたりするが、ちゃんと面白くて徹夜でロジェと感想回もした事があるくらいだ。

 

「あら、ムサシと同じことをおっしゃるのね。ムサシも私が腕組みをしたりすると面白いくらいに視線が釣れますのよ。面白い男でしょう?」

「でしょうね」

 としか言えないが吾輩は全力で本に目線を向けている。この旅路の中でセレナ殿がやり手の商人であることは薄々と理解した。だって雑談で情報を抜かれてる気がしないでもないもの。

 

 タチが悪いことに彼女は自分の美貌を分かってて、やってる節がある。不味い、このままだと吾輩がただのおっぱい星人だとバレてしまう。

 

 話を逸らそうと顔を上げた瞬間、馬車ががっくんとつんのめる。吹き飛ぶ吾輩の体。受け止められたのはセレナ殿の胸元。母なる大地を思わせる豊満に衝撃を吸収されつつ、彼女に抱えられた。

 

「な、何ごとだ!?」

「あら。異常事態? ムサシ?」

「何も気にする必要はないっすよ。優雅にお茶でも楽しんでくださいっす」

 

 御者台に繋がる小窓を開けると、ムサシが馬を宥めて降りてるのが見えた。吾輩はセレナ殿の胸元から抜け出すと小窓を抜けて御者台に降り立つ。

 そこに広がっていたのは恐竜の群れ。ジュラシックパークで見たことあるような恐竜達が涎を垂らして向かってきている。

 

「魔物………竜種か!? ムサシ殿、吾輩も力を………!」

「待ちなさいな。ふふ、私の騎士がいれば何も怖いことなどありませんわよ」

 

 吾輩も力を貸そうとしたのを止めたのは、セレナ殿だった。彼女は危機的状況下にも関わらず、呑気に紅茶のおかわりまで入れてる始末だ。余程の信頼があるらしい。

 

 気持ちはわかる。もし、ムサシが吾輩の知るゲーム主人公と同じ実力ならば。

 

「ククク、本能に従うしかない哀れな獣達よ。俺が悪党の美学って奴を教えてやるっす──ノヴァ流【シューティング・スター】」

 

 大地を揺らすような踏み込みで、迫って来ていた魔物に近づくと反射的に振るわれた爪を受け流し、体制を崩し、急所を貫く。一連の動作は洗練されていて、見ていて気持ちの良いものだった。

 それを見て背後から飛びかかろうとした魔物に対してはノールックのまま、掌だけを後ろに向けて、

 

岩星(ロック・スター)

 

 星型の岩を撃ち出し、魔物の身体を引き裂く。恐れを成して、遠距離から何かをしようにも驚異的な命中率でそれすら防いで行くのは素晴らしいというしかない。

 

「流石は英雄と言うべきか?」

「ふふふ。私の騎士はそれだけじゃないわよ。あの程度であれば、騎士団長なら誰でもできる。彼が特別なのはここからよ」

 

 知ってる。とは口にはしなかった。何故なら、彼を作り出したのは吾輩なのだから。受け太刀の剣に、土属性の魔法だけではない。第三の武器。

 起源は原作の黒魔女にて主人公がエリスと戦う時にいきなり目覚めた事からそれの辻褄合わせで織り込んだ内容!

 

「ククク、逃げられると思うなっす」

 

 逃げ始めた魔物達の集団へ指先を向けるムサシ殿。指先には回転する星型の岩。

 

「【岩星・超新星(ロックスター・ノヴァ)】」

 

 打ち出されたそれは怖気付いた魔物達の中心へ着弾すると、一拍を置いて閃光と砂煙が舞い上がる。空から落ちた爆弾のように恐竜の群れ全てを巻き込むような大爆発。

 

「あれこそが、私の騎士の空属性魔法【触れたものを爆弾に変える】魔法。ごく稀に生まれる()()()()()()()()()()()使()()。それが彼、【灰塵の騎士】ムサシ・バーン・ツーウンユ。私の婚約者よ」

 

 岩の防護壁に馬車が囲まれてなお、腹の底まで響く振動に吾輩は身震いしながら、ゲーム作成の事を思い出していた。

 

『黒須師匠。ゲーム主人公がなよっとしてるのはよろしくないんじゃないかい? 元戦場帰りの騎士であるなら、きっと彼は腹筋は割れてるし、二の腕ももっと太くていい筈だ。あと、傷があるとなおいいと思う!』

『自分の趣味を投影しようとしてないか? その結果が、原作ゲームなのは知ってるだろう?』

『無論だとも。仮に私が全力で趣味に走るなら主人公は可愛い男の娘でメインヒロインは黒髪高身長デカパイデカケツで主人公を少年呼びするお姉さんにするけど構わないかい?』

『ダメに決まってるが?? ミステリアスなおねショタ………と見せかけて擬似百合百合でいたいけな少年の性癖を捻じ曲げたい欲望が見て取れるんだよ! ただし、主人公の容姿はアリだ。設定はこちらで変更するから、イラスト起こしてくれるか?』

『ふっ、流石は師匠だ。仕方ない。そうさせてもらうとするよ』

 

 なんか馬鹿弟子との下らないやり取りしか出て来ねえ………彼奴、油断すると二重の意味で性壁に刺さって抜けなくなるキャラとか出してくるからな。

 

 それはそれとして、自分と弟子によって生み出されたキャラはまごう事なきいい主人公になったとは思う。原作ゲームというラインが明確なのもあって、外れを避けてただひたすらに仲間思いで熱い主人公をイメージしたからこそではある。

 

 まあ、つまり何が言いたいかというと、

 

「大丈夫っすか。怪我はないっすか?」

 

 屈託なく笑う好青年のようなその騎士はカッコよかった。吾輩なんかよりも遥かに。命を賭けなきゃ舞台に上がれない吾輩よりもよっぽど。

 

「ああ。すまない。おかげで助かった。吾輩達は怪我はない。ありがとな」

 

 ささくれ立つような心のざわめきを無視して、猫らしくにゃーんと泣く。無駄に争う必要もない。お互いに仲の良い関係の方が都合がいいのだから。

 

「しかし、あの地竜の群れは何だったんすかね。まるで何かから逃げてきたみたいな」

「ムサシ。それ異界用語で言う『フラグ』という奴ではなくて?」

「同感。何だか、吾輩もいやーな予感がしてきた」

 

 逆立つ毛皮が示すようにそれほど遠くない場所で魔物の咆哮が聞こえてきた。同時に巻き起こる砂埃。目視できる距離まで入って漸く気づいたその魔物の頭は3つに別れており、全ての頭が1つの馬車を目指して進んでいる。

 

 馬車を運転、というか振り回されてる。何とか手綱を持ってはいるが恐慌のあまり、暴れる馬を制御できていないらしい緑髪の女性とそれにしがみつく小さな少女を見た瞬間、セレナ殿が小さく息を呑む音がした。

 

「ムサシ!! 今すぐ、あの馬車を助けなさい!! あれは──母様の馬車よ!!」

「ッ!? 何で、奥様の馬車がこんなとこに!? ということはあの小さな子はティア嬢っすか!?」

 

 一気に声を荒げたセレナ殿にムサシ殿が急いで指先を向けて、岩星を撃ち出す。3つあるうちの1つへ直撃するが、仰け反りこそしたが止まらない。余程硬い鱗を持っているようだ。

 

「なぜ爆発を使わないの!!」

「あの距離じゃ威力を上げると巻き込むからです! くっそ、間に合うか!?」

 

 その間にも三頭の地竜は残った2つの頭を持って対象へ大きく爪を振り被るが、そこに躍り出る猫耳を生やした男が1人。

 

「ムサシ殿のおかげだな。仰け反りのおかげでギリギリ間に合った」

『おっけー、ますたぁ。スカイクラッド起動準備できてるよー』

「仕事が早いな、ウルテマ」

『ますたぁの事だから、走り出すのは予想ついたしねー』

 

 ──その爪を吾輩は金剛石の爪で受け止めた。

 

「スカイクラッド起動。撃ち抜く!」

『豪雷一閃、発射〜!』

 

 身に纏った黄金の鎧が唸りを上げて鎧の表面に浮かぶ蒼白のラインが魔力を雷へと変換する。そのまま腕の先がスライドし、発射口から電磁加速された黄金が口内を突き破り後頭部を粉砕しながら貫通した。

 

 力を失った片方の頭が地面に激突、慣性の法則に従い地を滑る。双頭になった地龍はバランスを崩して地響きを立てながらその場に倒れ込もうとする。

 

「ウルテマ。何かいい技はあるか?」

『こんな巨大な相手にはこれだよね〜【白雷水晶(ライトニングクォーツ)】』

 

 鎧の肩から何かがパージされた。小さな飛行機のようなその3つの機械は倒れ伏した地竜の真上で回転を始め………バチバチと嫌な音を立て始めた。

 

「やばい………! ムサシ殿!! 防護壁を!!」

「ッ!? よくわからないですが、分かりました!」

 

 ムサシ殿が地面に手を付き、恐竜の周りに土の壁が迫り上がる。それを確認してか、帯電していた飛行機が一瞬光ったかと思うと目も眩むような閃光が空と大地を繋いだ。

 

「ぬわああああああああああ!?」

『相変わらずすごい威力だね〜これでエリスの神滅の八割だもんね〜』

「エリス、これ以上凄い技あんの!?」

 

 独特な調べを咆哮の如く響き渡らせ大地に突き立った光の柱は、直径五十メートルくらいだろう。光の真下にいた地竜を一瞬で蒸発させ、凄絶な衝撃と熱波が周囲に破壊と焼滅を撒き散らす。

 

 防護壁に囲まれてなお、余波で吾輩が吹き飛ばされそうなのだ。故に失念していた。

 

「──あっ」

「ティア嬢!!」

 

 余波により吹き飛ばされた馬車から小さな体が空に舞う。ムサシ殿の叫びと同時に吾輩はその脚を持って、空に舞う彼女の体を抱える。

 全身を使って、腕の中に収めた彼女に傷1つないように柔らかく着地する。腕の中にいる彼女は恐怖からか震えていた。

 

 ツインテールにされた新緑を思わせる髪色、成長すればとびきりの美人になりそうな少女に吾輩はヘルムを外して、優しく笑いかける。

 

「お怪我はありませんか………レディ?」

 

 彼女こそがティア。"調律"の魔女にして、原作主人公が執着した妖精の如き少女。吾輩は知っているが、彼女は吾輩を知らない。その配慮から、貴族である事を踏まえて、そう呼んだのだが………

 

「あ、ありませんわ………名前も知らない素敵な貴方様」

 

 潤んでトロンとした視線に見つめられた吾輩は自らの失策を感じとった。

 

 吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、モブガルド・ニャンディアス3世、キミリア。人間の頃の名前はヤマト。

 やめるんだ、ティア。吾輩をそんな目で見ないでくれ。ただ吾輩は、追われていた君たちを助けて、吾輩のせいで吹き飛んだ君を助けただけだから!

 




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