【第2部開始】吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。 作:あんみつ炙りカルビ
吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、モブガルド・ニャンディアス3世、キミリア。人間の頃の名前はヤマト。
神様は吾輩が嫌いなのだろうか。吾輩の責任ではありますが、吾輩の隣を譲らないこの美少女を解放してやってください。
「あっはっはっは! うちの娘が偉く気に入ったみたいじゃないか! セレナ。その人が例の家庭教師さんか?」
「はい、母様。それと、言葉遣いが乱れてますわ。もっと淑女らしく振る舞ってくださいませ。ティアの成長に悪影響ですわ」
「おっと、失礼。こほん。この度は助けていただきありがとうございます。私はアリア・マチ・ナツメ。ナツメ商会の当主。ロンド・リン・ナツメの妻です。とはいえ、元は酒場の歌姫でしかないからね! 砕けた態度で接してくれて構わないよ!」
「母様………」
深緑の髪をしたティアを成長させ、やさぐれさせるとこうなるって容姿の淑女とは程遠い豪快な笑い方に吾輩は愛想笑いを返しながら、脳内から設定集を引っ張り出してくる。
アリア・マチ・ナツメ。スピンオフ時では死亡している人物。本人は酒場の歌姫なんて言ってはいるが、なんとびっくり血筋を辿るとキュービン家に辿り着くという歴としたお嬢様である。
「そんな事では、また夜会で揶揄されますわ。ナツメ商会の女は品がないと」
「構わないよ。好きなだけ言わせておきな。私の教育方針は『自分の足で生きていく』だからね! セレナが剣の道を選んでも、商会を選んでも私は応援するさね!」
からからと愉快げに笑ってはいるが、目線はあまりにも冷ややかだ。鎧を解いて武装を解除してはいるが、代わりに猫耳と尻尾という亜人の象徴たる姿が見えているのだから。
「亜人はお嫌いかな? ミセス・ナツメ」
「………まあ、嫌いさね」
「母様!!」
「構わないよ、セレナ殿。主らの事だ。吾輩の事も調べ上げていたのだろう? 多分、モルガナ・シュレディンガーの夫は亜人である。夜明の錬金術師クロスの血縁であるとか」
『血縁じゃなくて、本人だけどね〜』
ウルテマはシャラップ。暇だからって脳内に語りかけるんじゃない。えっ? 吾輩がモルガナやアルチナと愛を育む姿もずっと見てた?? そうかそうか。話し合いの余地はあるかな? 何か欲しいものとか。
「気持ち悪いのは承知だ。もし、亜人たる姿が嫌ならば」
すかさず黒猫の姿に変わると、ティアがビクッと体を震わした。ごめんな、びっくりしたかい? とりあえず毛皮は撫でていいよ。あっ、尻尾を掴むのはやめて。
「こちらの姿で接しても構わない。人間として振る舞うのが嫌ならば猫として振る舞おう。それでも信じられないと言うならば、首輪をつけても構わない。どうだ?」
まあ、アリア殿が亜人を毛嫌いする理由はわからないでもない。何せ、帝国では亜人の性奴隷を侍らせる者達が多くいる。何故ならば都合がいいからだ。亜人は亜人同士でしか子を成せない。
それを知ってか、帝国にいる亜人たちは貴族のご令嬢にすり寄る者たちが多い。貴族のご令嬢達も政略結婚で子供を産んだ後は、亜人と遊び呆ける者たちがいるくらいだ。
亜人は数が少ないが………家畜牧場で無限に増やす事ができる。戦線で負けた魔族と人間を掛け合わせる事で。
「誓って、吾輩は主達に触れない。そもそも吾輩には2人も妻がいる。これ以上は抱えきれないからな」
『嘘つけー。これから先も増えるぞー』
脳内の無慈悲な宣告は無視して、猫の姿で頭を下げる。アリア殿は腕組みをしたまま、こちらを見つめているとやがて諦めたように大きくため息を吐いた。
「いや、こちらこそ悪かったさね。元々、私も賛成だったよ。今更文句つけるなんて女々しいったりゃありゃしない。ただし、娘達に手を出してみな。その毛皮剥がして上着にしてやるさね」
ホッと胸を撫で下ろしたセレナ殿。ティアはよくは分かってなさそうだが、とりあえず吾輩をモフる事に決めたらしい。こらこら、毛がドレスに着いちゃうぞ。
「身内が失礼を致しました。その………クロス様で宜しいのですよね?」
「王国民は吾輩をそう呼ぶ。とはいえ、秘密で国を出てきているからな。迅速に戻る手段があるとはいえ、内密に頼む」
「………ああ、なんて事」
色々と計算違いだったのか、そもそも黒猫の吾輩をなんだと思っていたのか。モルガナの父代わりで猫にされた元人間のくらいだったのだろう。その正体は亜人でした!は流石の彼女もびっくりか。
まあ、そうなるように方針を決めてましたからね。だってこの2週間に不思議な箱庭で野宿をする際に転移扉で毎夜モルガナ達の所に帰っていたからな。いつの間にやら転移扉が実装されてて驚いた。あれ、主の夢想伝播を経由しての移動ですよね??
「領民から聞いてた喋る黒猫でも常軌を逸してるのに、それがかの夜明の錬金術師の正体………? 私達は爆弾を抱え込んでません?」
「どうも。傷1つついた瞬間、戦争になるかもしれない爆弾です。よろしく」
セレナ殿の顔色が真っ青通り越して、真っ白である。母親がこんな感じで妹がまだ12歳とかだとすると彼女にかかる責任は凄いとは思う。
今にもふらっと倒れてしまいそうではあるが、胸元を締め直す動作をすると吾輩に向き直る。もしかしたら、それが彼女のルーティンかもしれないな。
「く、クロス様………その、可能であれば帝国内では別の名前を名乗って頂くことは可能でしょうか?」
「当然だな。吾輩の名前は些か有名すぎるらしい。だから元々、別の名前を名乗るつもりだったが………特段こだわりもないからな。主らが好きに決めていいぞ」
「そんな恐れ多い………!」
「適当にクロとかでいいさね」
「母様、そんな安直な!!」
完全に飽きてるらしいアリア殿は投げやりに名前を決めるが、残念ながらその安直な名前で妻から呼ばれてる吾輩なのである。ネーミングセンス壊滅なユニよりはマシなのでヨシ。
「〜〜っ! 決まりましたわぁ!!」
そんな中、吾輩の肉球をぷにぷにしていたティアがいきなり叫んだかと思うと吾輩の脇下に手を入れて持ち上げる。腰がのびーるした吾輩に対し、彼女は目を輝かせて、言う。
「タンゴ!! タンゴはどうですの!」
「タンゴ………? それってあの踊りことですわよね? もっと、オニキスとかノクトとかの方がいいんじゃないかしら。ティア」
「いーやーでーすーわ!! この殿方の名前はタンゴですわ! 私が決めましたの!! タンゴがいいですわ!!」
「またこの子は駄々をこねて………」
「まあいいさね。呼び易くていいじゃないか」
という訳で吾輩の名前はタンゴ。黒猫のタンゴである。昔懐かしの童謡が流れてきそう。
「ククク、仲睦まじい所悪いがついたっす。ようこそ、黒猫さん。ここがナツメ商会………またの名をナツメ
吾輩の名前が決まった所で馬車が止まり、小窓からムサシ殿が顔を覗かせる。ティアに抱き抱えられたまま、歩くナツメ邸の敷地は、改めて見ると広大だった。
強固に張り巡らされた防護壁。町との境界には堀と橋を作り、侵入者をいれないような構造に。裏は山地であり、領主の館は町の中心部にあるようだ。壁の上には常駐の警備兵がいるようで、ムサシ殿が敬礼を交わしている。
広々とした牧草地を抜けて、水源だろう小川にかけられたごく短い橋を渡ると、その先には多くの民家が立ち並び始めた。大通りはレンガで舗装されている。けっこう大きめな町だ。
「流石は伯爵家。結構大きな街なんだな」
「………タンゴ、1つ訂正させてもらうさね。今のナツメ家は伯爵じゃない、侯爵家さ。この間、爵位を頂いたばかりさね」
「………はい?」
何それ知らない。えっ、事実上は五聖騎士の一族が公爵家を牛耳ってるからその次に偉い地位にいる事になるじゃないか。また吾輩の知らない設定が出来上がっている。
「ち、因みに何でそんな事に?」
「ふっふっふ! よくぞ聞いてくれましたわ!! 実は帝国経済は崩壊寸前でしたの! 先代皇帝が悪い金貨をがっぽがっぽ作ったせいで、悪い金貨が帝国に蔓延したからですわ!」
「補足させていただくと、質の悪い金貨を作成した事による費用の削減による遊ぶ為の費用………失礼。友好費の確保が目的のようでした。ですが、悪貨が市場を回り、めっきが剥がれだすと通貨の価値は暴落。物価は跳ね上がりました」
「流れていた良貨を疑い、あるいは質の良い良貨を溶かして売るって事になったわけか。アルチナの時に費用が馬鹿にならなかったから知ってるさ」
純金から金の配合率を落とせば、落とした分だけの費用が浮く。品質を落とす事で、発行する通貨の量を増やし、不足する財源に充てる悪改鋳と呼ばれる政策だ。
それをスピンオフ時のティアは防いだというわけだ。指を切断され、追放された彼女に残されたのは財を全て持っていかれたナツメ商会だけ。そこから彼女は帝国を見返す為に、モルガナに頭を下げて協力を依頼するのだ。
「大変でした………本当に。市場に流通する悪貨を推定し、悪貨の交換に乗じる事を公布して交換。それを計算した値になるまでひたすら続けていく根気のある作業ですわ」
「しかも、皇室の失態を尻拭いしてるってのに明らかにされるのを嫌がって妨害ばかりしてくるのがムカついたさね。クソが」
「母様。言葉遣い。ですが、まだ助かったのはムサシに与えられた領土にあるダンジョンが帝国産より遥かに質の良い金貨を生み出していた事。ムサシが率いる騎士団が協力してくれた事ですわね」
「ククク、俺は悪の騎士っすからね。帝国の失態を尻拭いしてやれば、奴らに恥をかかせる事が出来るっすからね………」
「帝国に忠義を誓う騎士の鑑だろう、それは」
「義兄様は悪党に向いてませんわ!!」
はいはい、分かったわ。スピンオフではモルガナによる錬金術で解決してたけど、この世界だと吾輩が生み出した1億枚の金貨とモルガナから聞いた吾輩の墓代わりに建てたという【黄金劇場】があったから、ナツメ家はスムーズに経済崩壊を防いだ訳だな。
通りで
………バタフライエフェクトって凄いな。
「ってな訳でさ、その功績が【ヒーコシセンター家】に評価された事。義息子の司令官だった侯爵家当主が戦場から逃げ出した挙句に情報を魔族に売って死んだ事から降格。私達が上がったわけさね」
「ククク、俺は悪の騎士っすからね………俺たちを敵に売り渡してのこのこ逃げ出した司令官達を追わせるように情報を流して挟撃する形にしてやったっす。これは悪い奴の戦法っすよね、セレナ」
「ええ、とっても」
吾輩、ムサシ殿は悪党に向いてないと思う。あんなに爽やかにクククとか笑う青年が悪党なわけあるか。いやまあ、顔に傷とかあるし、パッと見は無骨な傭兵感あるけども。
セレナ殿も何だか楽しそうですね。最悪な未来よりかは確かに丁重に扱ってくれることは間違いないわけだが。ティアとも相性が良かったのだから、姉のセレナと相性がいいのも当然か。
「さて、ついたさね。ここが私達の屋敷だよ。ほら入った入った」
「そんな軽々しい感じでいいんですかね、後は吾輩人間になった方がいい?」
「やめていただきたいですわ。父様も亜人嫌いですので………」
左様で。礼儀の面から言ってちゃんとした格好の方がいいかと思ったが。とりあえず吾輩は抱き抱えられたまま、立派なお屋敷へと入っていく。外観も立派だが、中も豪華だ。
吾輩の雑な審美眼でも、壊したりしたらとんでもないことになりそうな壺やら絵画やらが廊下にならんでるし、赤い絨毯には誇りやしわすら見つからない。
「父様。セレナです。お客様をお連れしました」
「入りたまえ」
渋い声の許可が降りるとムサシ殿が扉を開く。中では窓の外を眺める男性がいた。ムサシは胸に手を当て、臣下の礼をし、セレナとティアはドレスの裾を上げてカーテシーを行う。アリア殿は気にせず、中央にあるソファに体を沈めた。この人、無敵か?
「よく来た。私がナツメ商会及びナツメ家当主、ロンド・リン・ナツメ………だ。席に座りたまえ。交渉の時間だ」
振り向きながら、自己紹介したが吾輩の姿を見て若干固まった。しかし、流石は商会の主人。一切、驚愕をおくびに出さずに席に座るように促された。
吾輩はティアの腕元から抜け出すと、ソファに座る。その両隣に姉妹が座り、背後にムサシ殿が立つ。対面には腰掛けたロンド殿と足を組んで背もたれに体を預けるアリア殿だ。
「お初にお目にかかる。名前は………」
「タンゴですわ。父様」
「そうか。タンゴ殿。遠路はるばるよく来てくださった。此度はこちらの依頼を受けていただき感謝する。何分、こちらも切羽詰まっていてね。不本意だが脅すような形になってしまい、申し訳ない」
「構わない。セレナ殿からお土産も頂いた事だしな」
探られている、何となくそう感じた。喋る黒猫という謎の存在を確かめようとしているようだ。姉妹の片割れは気の毒そうに父親を見ては、口を開こうか迷って、
「父様! タンゴはかの夜明の錬金術師クロス様ですのよ! もっときちんとした謝礼を用意した方がよろしいですわ!」
もう片方が爆弾に火を付けて投下した。セレナ殿の顔がFXで有り金全て溶かし切った顔になり、ロンド殿は暫く目をぱちくりさせた後に眉間を揉みながら天井を見上げて、肺の空気を全て吐き出すようなため息を吐くと、
「作戦時間を要求する」
「許可します」
吾輩はムサシ殿と一緒に部屋から放り出されたのだった。
吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、タンゴ、モブガルド・ニャンディアス3世、キミリア。人間の頃の名前はヤマト。
再び、部屋に入れたのは30分後であった。
お気に入り・感想・高評価ありがとうございます! 励みになります!
どしどしください! 待っています!