吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。   作:あんみつ炙りカルビ

93 / 100
明日の投稿があるかは進捗次第です。
無ければまたいつも通り月曜日12時投稿です。


ナツメ商会の悪巧み

 吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、タンゴ、モブガルド・ニャンディアス3世、キミリア。人間の頃の名前はヤマト。

 再びムサシ殿に肩に乗せてもらって入った先では、胃を摩るロンド殿と背中を摩るアリア殿。顔を覆うセレナ殿とこの世の終わりを見たような姿である。ティアは元気に紅茶を飲んでた。主のせいだよ?

 

「………座っていただけるかな? タンゴ殿」

「あ、はい」

 

 先程とは違い、丁重に席に案内される。言葉尻も優しい。何故だろう、吾輩が急に偉くなったような気分になってしまうから是非やめていただきたい。

 

「さて、話を続けさせてもらおうか。それでタンゴ殿はこの国を滅ぼしに来たのかな?」

「どうして??」

「違うのかい? 聖女勇者の一員たる貴方が皇帝の血を継ぐモルガナ嬢を選んだ。帝国騎士の転換になり得る女性だったアルチナ嬢を迎え入れ、ルノワール一族の末子も手駒にしたのは………革命を起こすためでは?」

「それはぁ………最終目標であってぇ。帝国側が、変わって下されば吾輩なんもしなくていいわけでぇ。打首だけは勘弁していただけないか?」

 

 吾輩、そんな物騒な真似はしないよ? 吾輩の使命はティアの魔法を鍛えて、迫る最悪の未来を乗り切る為だよ。ただちょっとモルガナとアルチナがまずは帝国の国力を削るとか、難しい話をしててぇ。吾輩猫だから分からなくてぇ。ちゅーで誤魔化されちゃってえ。

 

 吾輩はソファの上で平伏する。猫界における“ごめん寝”と呼ばれる神聖なポーズである。

 

「いや、貴方がかのクロス殿であるならば止める事もない。王国を設立し、法国ではかの有名な大聖堂と劇場の制作に携わり、連邦国の礎を築き、巫女姫に全てを託した。【文明王】とも呼ばれる貴方様の事だ。いよいよ帝国に光を与えにきたわけですね」

「へえ、そんな凄い人がいるんですね。会ってみたいな」

「何で他人事なんすか」

「タンゴ様、凄えですわ!!」

「ティア、言葉遣い」

 

 背後に立つムサシ殿が困惑の声を漏らし、ロンド殿は苦笑する。同席していたティア殿が、興奮を隠さずに吾輩をお膝の上へと抱えあげた。ああ、せっかく着替えたお部屋のドレスに抜け毛が!

 

 いやいや、そんな伝説を吾輩がする訳ないじゃんか。王国の歴史書とかクロス殿のレシピとか見せてもらったけどさぁ、単に吾輩にそっくりの字が書いてあったくらいだしな。

 

 内容もせいぜい上下水道整えて、錬金術の指導と教育をして、食べ物の自給自足できるようにして、温泉掘り当てて、特産品とか作れるようにして、自衛手段持たせたくらいらしいからな。そんな偉大なことしてないって。

 

 偉大すぎるだろぁ………頼むから吾輩ではない事にならねえかなぁ!! 重たいよ、責任が!!

 

「貴方様が何故、猫の姿になり亜人になっているのかは分かりませんが………というか喋る黒猫の正体が夜明の錬金術師だとはこちらとしても予想外でしかないのだよ」

「吾輩、自分の価値は無いもんだと思っているんだがそんなになのか?」

 

 マジか、こいつ。という目でセレナ殿が見てくる。ロンド殿は机に何かの瓶を置いた。胃薬らしかった。持病持ちなのだろうか。

 

「聖女勇者一行の名前で有名なのは【聖女勇者】【夜明の錬金術師】【泡沫の付与術師】の3人だろう。それぞれが法国、王国、連邦国の象徴とされている。帝国にも聖女勇者の一員はいたんだがな………」

「ルノワール一族がそうだろう? まあ、ロジェの扱いを見れば帝国では聖女勇者一行は真っ当に扱われてなさそうだが?」

「その通りだ。それを踏まえてクロス殿に気をつけていただきたいのは、帝国貴族達は自分が一番偉いと思っていることだ。それも爵位に関わらず」

「地位の意味を成してないのでは?」

 

 吾輩の返答に黙殺されては、帝国の内部事情も薄々は察する事が出来る。きっと貴族同士で足の引っ張り合いが起きているのだろう。

 

「故に自分達の利益だけを求めて、味方に引き込むための誘惑………懐柔策を他の貴族達はとってくるだろう。貴方様はどうやら、胸元が豊かな女性がお好きなようですからな」

「ははは、何のことかさっぱりだ。吾輩、猫だからわかんにゃい」

「ムサシと一緒ですわね。好みの女性が『胸が大きな面白い女』でしたわ」

「初対面のこといじらないで欲しいっす………」

 

 いやあ、あっついあっつい。吾輩の性癖が国を超えてバレてるのが恥ずかしくて熱いわけではない。もこもこの毛皮が厚いだけだ。それ以外はない!

 

「そ、そういう扱いはちょっと遠慮したいですね………」

「であるならば、普段は黒猫姿でいた方がいい。我々は亜人が嫌いでな。こちらの心の安寧のためにもそうして頂けたら助かる。ただ把握はしておきたいから1度だけここで姿を見せてくれないか?」

「ええ、勿論。よいしょ」

 

 空中で1回転し、人間姿でソファに座るとロンド殿が目を見開いた。そして、失礼と呟くと葉巻を取り出し、火を付けて一息つき、

 

「クロス殿は、その………同性しか愛せないと?」

「吾輩は男だ。誰がなんて言おうとな」

「そ、そうか。だが気をつけた方がいい。その、帝国にはそれくらいの顔の良さであれば男だろうと関係ない貴族はいるからな………」

 

 吾輩の恒例行事をやり遂げた後にお尻辺りが怖くなりそうな話を聞いて、吾輩はすぐに猫に戻った。ティアはすかさず抱えた。逃がさないようにがっしりと。

 

「さて、こちらからも質問はいいだろうか。アルチナから聞いていた限り、ナツメ商会は亡命をするつもりだったのではないか? だが、結果は違う。帝国から何か言われたのか?」

「………私達が、貴方達を脅すような形を取ってまで来ていただいたのはそれが理由なのです。恐らくですが、その動きがバレて先手を打たれた。私達が自由に動く為に片付けた仕事を功績として、褒賞を与えて首輪を嵌める。沈む泥舟の犠牲者を増やすように」

 

 葉巻を潰して火を消すと、ロンド殿は瞑目した。

 

「帝(・)国(・)は(・)も(・)う(・)持(・)た(・)な(・)い(・)。魔族との戦争で国庫は空になり、天候の不順により今年は不作でどこも領民を食わせるのがやっとの筈。我々はまだ連邦国と繋がりがある為、まともに供給は出来てはいるが………」

「何(・)か(・)が(・)あ(・)れ(・)ば(・)直(・)ぐ(・)に(・)崩(・)れ(・)去(・)る(・)と。経済崩壊を防いでなお、この始末か。アンオブタニウムは? あれがあるならばまだ国を建て直せる筈だ」

 

 ロンド殿はそこで口を閉ざし、軽く肩をすくめてみせた。吾輩は唸ってしまう。つまり、帝国には自分達で国を回せる力がもうないと言ってるようなものだ。

 

 そんな奴らが狙うのは、王国の「領地の制圧」とか「恒常的な支配」とかではなく、もう単純に「食料の略奪」だろう。とにかく糧食が不足しているため、王国が誇る小麦、まずこれを強奪してくるはずだ。

 

 遠くから侵攻してきて、兵にのんびり収穫をさせるよりは、現地の人達が苦労して収穫した小麦を横から強奪したほうが効率が良い、という狙いだと予測する。

 

「そうなっては不味いが故に連邦国からも食料の手配を申し込んでいるが、やはり足元を見られて多額の支払いを求められている。しかし、国にそれを支払う余裕はない」

「だから、戦争の準備をする。今はそれが進んでいると」

「ええ。だから、公爵家は私に首輪を嵌めた。今、戦争を起こしたら勝つことは出来るでしょう。ですが、後に続かない。それこそ、魔族や法国に狙われてもおかしくはない。何とかしろ、上から言われるのはずっとそれだけだ」

 

 それに、とロンド殿は続ける。ティアを見ると、再び暗い顔になった。

 

「皇帝が息子………アルトリウス殿下の婚約者にティアを選択してしまった。皇帝からの直々の言葉に我らが逆らえば飛ぶのは私の首だけでは収まらない。ティアを人質に我らは逃げられなくなってしまった。故に我らは無理してでも延命をさせねばならないのです」

「そうか、それは仕方ないな………しかも、アルトリウス、か」

 

 アルトリウス。皇帝の後継者。つまり、モルガナの弟に当たる人物。吾輩は作(・)成(・)し(・)た(・)こ(・)と(・)が(・)な(・)い(・)が(・)、(・)知(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)キ(・)ャ(・)ラ(・)だ(・)。

 吾輩が最終話までのカウントダウンを行っている間に進んでいたアニメ2期、そのオリジナル主人公がその名前だから。

 

 『魔女集会で待ってるわ』のアニメ1期はスピンオフ通りに戦闘描写を持ったことで成功した。概ね好評であり、スピンオフの終了間際、アニメ2期が決定したのだが運悪く吾輩は最終話までの執筆に加えて紗良との時間を大事にしていたのだ。監修まで手が回らなかった。

 

『じゃあ、俺が見てやるよ! 古き良きアニオリを入れた最高のアニメにしてやる!』

 

 何故、どうして?と聞いたが、きっと何かしらのしがらみがあったのだろう。監修及び脚本家として『フリーダム・メイソン』が手がけたらしく、アニオリキャラの設定を寄越せと言われて、ゲーム主人公で使えそうな設定を渡したのだ。

 

 その結果、大失敗した。視聴者達が求めるのは魔女達の可愛くてカッコいい姿なのに、出てくるのはアニオリ主人公とそれを褒めるだけの魔女達ばかり。1期とは違うキャラ達に不満が上がり、公式サイトは炎上した。

 

 終いには2クール予定が1クールで品質向上の為に無期限延長に入り、そのまま企画はポシャった。吾輩や弟子さえも宇宙を後ろに抱えるくらいにはぐだぐだであった。

 

 しかし、だ。仮にアルトリウスが本当にアニメ2期のオリジナル主人公であるならば………この3年間で考えていた仮説は合っているのかもしれない。

 

 即ち、この世界はメ(・)デ(・)ィ(・)ア(・)ミ(・)ッ(・)ク(・)ス(・)o(・)r(・)リ(・)メ(・)イ(・)ク(・)後(・)の世界ではないかと。吾輩が亡くなった後、権利は会社が引き継ぐようになっていた筈だ。時代が過ぎればリメイク作品だって出ていたかもしれない。

 

 その際にゲーム版やアニメ版の世界線を織り込んだ可能性もある。不動編集長は息子に甘かったからなぁ………箔付けや自分達が亡くなった後のために仕事を作ってあげたのかもしれない。

 

 そうなると怖いのが、フリーダム・メイソン作の主人公がいる可能性だ。奴が作るならば、欲に満ちた自己投影の塊を作る筈………いや成長してまともな主人公を作成してる可能性もあるのか?

 

 とにかく、今まで微妙に吾輩の認識とずれていたのはそれが原因かもしれないな。となると、今後は奴が生み出した主人公と対決する可能性があるのかもしれないのか。

 

 気を引き締めていかないとな。

 

「それで、吾輩はどうしたらいい? ティアの呪いを解く。それは全力を尽くそう。そして?」

「可能であるならば殿(・)下(・)の(・)口(・)か(・)ら(・)婚(・)約(・)破(・)棄(・)を(・)宣(・)言(・)さ(・)せ(・)て(・)い(・)た(・)だ(・)き(・)た(・)い(・)。ティアの魔法がまともになれば、家名も相まってより良い家系に嫁入りさせることも可能だ。それこそ連邦国でも構わない。どうかね、タンゴ殿も? 立候補してみるかい?」

「ははは。吾輩2人妻がいますので遠慮します」

「冗談だとも。そう固くならなくていい。とりあえず貴殿には、明日からティアの呪いを解くことに集中いただきたい。部屋は用意いたしましょう。何かご要望があれば可能な限り応えよう」

「あ、それなら庭が近い部屋がいい。吾輩は錬金術師だ。ある程度素材を育てられる場所がいいのだが………」

「なるほど………なら直ぐに用意させるとしよう」

 

 冗談だと、ロンド殿は笑っていたが多分本気だったな、あの目は………多分、連邦国が冗談でどうやら第一候補が吾輩らしい。

 吾輩が夜明の錬金術師である事(疑惑)やモルガナを嫁にしてる事から革命を実行しようと平穏に暮らそうと旨みがあると思われてそう。

 

 吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、タンゴ、モブガルド・ニャンディアス3世、キミリア。人間の頃の名前はヤマト。

 吾輩は吾輩なりに全力を尽くすだけだ。ただ、モルガナの言う通りなら………吾輩って魔法すら作り変える事が可能なんかなぁ。

 

 

 

*

 

 

 

「それで、君の目から見て彼はどうだ? ムサシ」

 

 時刻は夜。すでに太陽は西の空の彼方へ沈み、空にはやや上弦の欠けた月がかかる頃、その密やかな報告は行われていた。

 

 中央には来客を出迎える応接用のソファとテーブルが置かれ、奥には部屋の主専用の黒檀の机と革張りの椅子が配置されている。

 黒檀の机には書類と羽ペンが散らばり、すぐ傍らにはまだ湯気の立つカップがほんのりと柔らかな香りを漂わせていた。

 

 一見して執務室、と判断できるそこは昼の時間に打ち合わせをした場所だ。革張りの椅子に腰掛け、最初の問いかけを作ったのはアッシュグレーの双眸に宿した柔和な面持ちの男性、ロンドだ。

 

 問いかけは呟くような声量だったが、机の前に立つ相手には過不足なく確かに届く。そうで無ければ、戦場では生きられなかったと彼は自負しているから。

 

「共に旅をして2週間。概ね、彼の実力と人格面は評価できるのではないかね」

「ククク、そうっすね。人格面は自己評価が低めな分、他人の意見を素直に認められる好人物っすね。倫理観も申し分なし。3人も女性を囲んでる割には1度も人間に戻る事はなく、セレナにも手を出す事はなかったっす。ティア嬢が危機に陥るまではずっと猫でいたくらいっすから」

「実力はどうだ? 有名な夢幻の金貨はともかく、伝承に伝わる黄金の鎧を使っていたのだろう?」

「ええ。現時点で俺と同等だとは思うっす。相性の差で俺が有利っすかね。鎧も爆弾に変えてしまえばいいっすから」

 

 そうか、とロンドは呟く。想定外ではあったが、いいことでもあった。かのモルガナを導いたのが夜明の錬金術師であり、妻に迎えたとなれば上手く扱えば帝国を倒す旗印となれるかもしれないからだ。

 

「ムサシ。お前の目から見て、モルガナはどうだ?」

「彼女っすか? 交渉くらいでしか話してないっすけど、今の皇帝や後継よりは遥かにマシである事は保証するっす。そうでなければ、かのアルチナ嬢が支えるわけがないっすからね」

「質問を変える。彼女なら帝国を変えることは可能か?」

「………彼女が進めている魔導列車計画。あれが三ヶ国で回るようになれば、流通に革命が起きるっす。つまり、兵站の面でも役立つのは間違いない。内政までは分かりませんが、今の『停滞』を望むより『変革』を好むのは違いないっすね」

 

 受け流しきれなかった痛みを思い返し、ムサシは苦い顔をする。一度剣を合わせただけで分かった。総合力ならともかく、剣士としての実力は彼女の方が格上であると。

 それに、自分の岩星をあの距離で先回りし、蹴り飛ばす少女も侮れない。恐らく彼女がルノワール一族の末裔なのだろう。

 

 その2人を従えている………恐らくは黒猫を頂点にしてその下にモルガナが来て、部下にアルチナとロジェが来るような組織の構造を無意識か意識的に作り上げているとムサシは推測する。

 

「そうか。わかった。悪いがセレナとお前には引き続き、監視を続けて貰いたい。亜人である以上、信用がおけない。亜(・)人(・)と(・)駆(・)け(・)落(・)ち(・)し(・)た(・)前(・)妻(・)を引き摺るこんな私を臆病だと笑うか?」

「笑わないっす。俺も幼(・)馴(・)染(・)を(・)後(・)継(・)に(・)寝(・)取(・)ら(・)れ(・)た(・)ん(・)す(・)か(・)ら(・)。だから、俺は悪堕ちしたっす!」

「悪に堕ちた人間はそんな風に笑わんよ………まあよい。私としても信じてみたいとは思っている。クロス殿が見出した女性は歴史に名を残す、今までの歴史が証明しているからな」

「ククク、聖女勇者に泡沫の付与術師は勿論。法国の歴史上唯一の女教皇『セーラ』。たった100年で荒れた島を娯楽の島に変え、豊かさを育んだ巫女姫『ユニティ』など歴史上の著名な女性を見出したとされてるっすもんね」

「ティアもまた、そうなのだろう。願わくばそれが幸せに繋がるのであればいいのだが」

 

 窓の外には黒猫が、穴を掘って何かを埋めているのを見下ろし、執務室の幕を引く。受け入れた黒猫が幸福を運ぶのか、それとも不幸を持ち込んだのか。それを天秤にかけて、ロンドは信頼できる騎士に命令を下すのだった。




お気に入り・感想・高評価ありがとうございます! 励みになります!
高評価いただけると、執筆速度が上がりますので待っています!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。