【第2部開始】吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。 作:あんみつ炙りカルビ
吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、タンゴ、モブガルド・ニャンディアス3世、キミリア。人間の頃の名前はヤマト。
レーザー事件から数日後。吾輩は馬車に乗っていた。ティアの膝の上で。なんと隣にはセレナ殿までいる。
座席正面にはロンド殿も同乗されていて、馬車の外にはムサシ殿が騎馬で周辺を警戒しつつ付き従っている。その他にもナツメ商会が抱える護衛の皆さんも前後についており、一見するとなかなかの大所帯となっていた。
そう。これは帝都へ向かう馬車である。あの家畜牧場や帝城がある場所である。このきっかけは1枚の招待状から始まった。
「社交の季節だから帝都に向かう。正直、面倒だとは思うが……これも貴族の務めだから仕方ない」
ロンド殿が言うには社交の時期は春と秋の二回。その季節になると、各地の領主や跡継ぎ、その親族などが帝都を訪れる。
貴族ならば春秋の二回とも参加するのが慣例らしい。公爵家ともなるとどちらか1回だけでいいんだとか。
これで皇帝への忠誠度の高さを見繕ったり、地方領主の力を削ぐことが出来る。要は参勤交代と同じようなものだな。ナツメ商会の領地から帝都までは片道3日の行程だ。かかる費用も馬鹿にはならない。
加えて帝都に最低10日は滞在しなくてはならない規則もあるので、約2週間の拘束がされてしまう。優秀な部下や家臣団がいなければ領主業務が滞るのは間違いない。
「ところで、みんなで来てしまったたけど……領地のほうは大丈夫なのか?」
吾輩がそんな話を振ると、それまで憂鬱そうだったロンド殿は少し不思議そうな顔に転じた。
「ん? 基本的なことはアリアが対応するし……町には町長やムサシ君が鍛えた騎士団の主力も残っている。ムサシ君の領地とは違って国境沿いに面してるわけでもないからな。王国からの奇襲を受ける心配はない」
「でも他の領主だと偶に革命が起きて乗っ取られることもありますわ。後は領主夫人の火遊びね」
「え? ナツメ商会は大丈夫なんです?」
「ふっ、甘く見ないでもらいたいな。妻はああ見えて、自分の立場を弁えている。というか何かあったらそいつは死ぬより酷い目に遭わせる。タンゴ殿、良い事を教えておこう。人妻に欲情するものはもれなく獣だ。であれば、人を襲わない為にも狩らなくてはならない」
あらやだ、お目目が据わってらっしゃいますわ。ムサシ殿もうんうんと頷かないでいただきたいですわ。前妻が奴隷だった亜人と駆け落ちした設定にしたのは吾輩の仄暗いものがあった事は否定しない。
というか自分の作品に思想を入れるな。って言ったけどNTRに関してはバリバリに私怨が入ってる。スピンオフでもNTRした奴らは大概酷い目に遭う。こういう所が吾輩、漫画家失格なんじゃないか?
「分かる。NTRは敵。慈悲はない。吾輩、純愛過激派なので」
「奇遇だな。私もだ。それに、そもそも革命が起きる理由は重税に飢饉による困窮。後は初夜権に対する反抗あたりか」
「しょ、初夜権!? そんな無意味な権利が生きてるんですか!?」
「貴族階級に許された特権の1つでね。金貨を1枚納める代わりに見逃すと言う内容だが、払える者の方が少ない。連れて行かれた恋人が帰って来なかったなんて尚更だ。だろう? ムサシ君」
何処か揶揄うように窓の外からムサシ殿に声をかけると、聞こえていたのか。凄く悪そうな顔をしている。ま、まさか初夜権を行使するという悪人らしいことをやっているというのか!
「ククク、俺は悪党っすからね………金貨を払えない奴は領主の館に呼び出してご奉仕してもらうんすよ。寝ずに丸一日させられて、くたくたになった奴を返してやるんすよね、惨めっすよ〜」
「そうね。ムサシの我儘な浪費家の母と幼児の弟の面倒を見せられたらくたびれるわよね。皆が予想よりは良かったけど………と微妙そうな顔をしてるのは確かに悪党らしいかしら」
「知ってた」
「つか、金貨一枚と引き換えに処女を貰えるって割にあわなくないっすか? むしろ、自分の体に金貨1枚の価値があるって考えるって大分烏滸がましい気がするっすけど」
「女の敵だぞ。その発言」
毛繕いをしつつ、これからのことを考える。長い時間ではあるが、いい機会だから少しばかりティアが辿る内容を振り返るとしよう。
既に外れてはいるが、本来のティアは天涯孤独の身である。分家筋に引き取られはしたが、そのままでは屋敷に軟禁。分家の御当主様(58歳 20を超える性奴隷持ち)の妻として迎えあげられるところだった。
それを嫌ったティアは社交界デビューにて、用意されていたピアノに触れて母親から教わった音楽を奏で始める。その素晴らしさに貴族達は彼女の後援を申し出たことにより、御当主様は迂闊に手が出せなくなってしまった。
そのまま彼女はあらゆる夜会やパーティーでそのピアノの腕を磨き、ある夜会でその音楽に惹かれたモルガナの弟………当時はアルトリウスではなかったが、彼の婚約者となる。
彼の婚約者となった事で帝都にある貴族専用の学校に通うことができ、寮付きなのでティアは取り巻きなどを作りながらも音楽にのめり込んでいった。亡き母との思い出を無くしたくなかったのだ。
しかし、ティア篇は悪役令嬢ものである。途中入学として、異界の魂を宿した女性………『異界の姫君』がやって来たのだ。彼女は瞬く間に、モルガナの弟に入り込み、ティアと王子を引き離してしまう。
音楽の面でティアよりも才能があったのが、いけなかった。ティアは婚約者を取られた事や音楽の嫉妬から彼女に強く当たるようになり、それがバレて婚約破棄となってしまう。
まあ、異界の姫君は姫君でティアのネガキャンや毒薬を用意して死なない程度に飲むなどの方法で嵌めたのは間違いない。後、古き良きカッターキャーとか。
だからってティアが悪いとは言わないが、両指切断は流石にやりすぎでは?とファンからも言われたが帝国の歪さの証明という点では悪くはない展開だったと思いたい。
今回は、吾輩がそれを防がせてもらうけどな。
吾輩がそんな悪巧みをしている間に、馬車は街道を進んでいく。帝都に着いたのは予定通り3日後の事だった。
「………毎回入る時には嫌な気持ちになるっす」
「ムサシ。そこは悪党なら『無様だな、貧民ども!』って高笑いするところよ?」
「それは雑魚の思考っすよ。悪党ってのは、弱者を馬鹿にするよりそれを嘲笑する強者の頭を踏み躙るのが最高なんすから」
「ふふっ、そうかもね」
ムサシ殿の回答ににっこにこのセレナ殿。どう聞いても、弱きを助けて強きを挫く捻くれた騎士様の言葉にしか聞こえない。
ただ、ムサシ殿がそう言いたくなる気持ちは分かる。
「貴族様!! 飯をください! 残飯で構いませんからああおああ!!」
「このぼろ布じゃダメなんです! もっとモフモフでふわふわでないと、ダメなんだ!!」
「………水を、ください。唾液でも、構いません」
──帝国では全てが明確に"区別"される。
貴族は何をしても構わず、錬金術師や役人などの一般人達はその無茶振りに応えて、貧民達はその皺寄せを受ける。
この国は中心に向かって貧困層、技術層、富裕層に分かれている。帝国の領域全てを巨大な壁で囲い、同心円状に3種の壁がある。
だから、社交のたびに貴族達は貧民層が住むエリアを通る。それに何の目的があるのかは貴族の中でも下の地位ほどよくわかっていた。
帝国では貴族にしか明るい未来はなく、一般人の未来はそうではない。
「………どうかしましたの? タンゴ様。お顔が暗いですわ!」
「ん、まあな。何でもないさ」
ただ、吾輩は外を眺めていた。ティアを救う為に、彼らに手を差し伸べない事を選んだ事から目を逸らしたくなかったから。
「………毎回、あそこを通るのは気が気でないな。以前に比べれば、ムサシ君がいるだけマシなんだが」
「下手な男爵家くらいならば、馬車を襲われる事すらあるっすからね。父もそれで亡くなってるっすから」
闇が深い会話を得て、抜けた先は欧州の古都を思わせるなかなかの人口密集地であった。郊外を除いて一軒家などはほとんど見当たらず、四階建てくらいの石造りの集合住宅がやたらと目立つ。
しかも、和洋折衷というか西洋建築をベースに和風の内装やエッセンスが見て取れる。あからさまに異界の人間達による再現が入ってるようだ。完全に和風の家が無いあたり、そこら辺は自重したのか。
それらの一階には商店や食堂などが入っており、道行く人々にも明らかに職人風の人間や薬草を持った錬金術師達などが行き交い、活気がある。先程の貧民層などなかったように。ただ、明らかに物価が高い。
馬車の窓から露店とか見えるんだけど、価格が王国と比べて似たような野菜や果物のお値段が普通に5倍! ものによっては10倍である。
これでも貨幣経済の崩壊を防いだ事でまだ常識的な範囲に収まってるようだ。一時期は70倍とかあったらしい。正気か?
そして、メインストリートを抜けるといよいよ帝都の中心地。富裕層にたどり着く。とはいえ、スピンオフの知識はあるし、度肝を抜かれるつもりはなかった。
「………何だこりゃ?」
だから、漏れたのは呆れ声。そこに広がっていたのは、吾輩の知る帝都ではなかった。
「ここを訪れた貧民達は揃って言う。私達は"楽園"に来たのだと。だが、私にはどうしても──墓場にしか見えないのだよ」
天に聳え立つような摩天楼。大理石を積み上げて作られた大厦高楼の表面には金箔が貼られているのか太陽の光を浴びて輝いており、金の柱とも呼ぶべき建物が並び立つ。
その足元には現代社会にもありそうなお洒落な雰囲気のカフェテラスが並んでおり、貴族のご令嬢や奥様達が優雅にお茶を楽しんでいた。噴水も多くあり、何処から引いて来ているのか運河すらある。
だと言うのに、道路は舗装どころかツギハギだらけのガタガタで進むたびに馬車が跳ねてはセレナ殿が痛そうに腰に手を当てているし、運河や噴水は深緑色に染まっており、入ったら病気になりそうだ。
ランプは火を灯すタイプであり、王国とは違う。というかそれらしきランプもあるにはあるのだが、錆びついているのか機能を停止しているようだ。
「もしかして………整備されていないのか? この街全てが」
「正確には異界の人間達が作成した文化や文明を悪い方に改造してると言った方が正しい。そのせいで、整備方法も省略された結果、正しい保全を紛失してしまったのだよ」
「職人達は? すぐそこが職人街なんだから、腕のいい奴らくらいは………」
「貴族はお抱えの職人がいるからな。保全するよりは新しく作り直させるのさ。まだ使えるのに資材を捨て、保全業務を怠った結果がこの死んだ街なのだよ。墓場と呼んで何が悪い」
本来、設備全てに使用年数というものがある。特に工場などで毎日稼働する設備などは振動などでパッキンやらが摩耗し、水漏れを起こした結果、配線がショートしたりする。
それを防ぐ為にも、日常点検や定期点検などは必須であり、金がないからとケチろうとする上司は大概禿げてしまえばいいと思っている。吾輩、高校卒業後に妹の学費のために働いていた時、どれだけ保全しなかったことによる設備修理をやらされたか。
建築にも物理的な寿命はあるだろうし、劣化診断を行う者たちすらいないのならば、街はどんどん死んでいくだろう。
現代社会とは違い、ここには魔法や錬金術という便利なものがある。土やら水やらは魔法で用意できるから保全よりも作り替える方に気が向くのは仕方ない。
「ただ資材は無限じゃないだろうに………そんなんだから、アンオブタニウムは枯渇したんじゃないのか?」
「アンオブタニウムはね………だが、帝国は
「………………気が乗らないにゃあ」
堀にかかった大きな跳ね橋にいくつも突き出た石造りの尖塔、延々と続く高くて立派な城壁には、白黒のシンプルな国旗が多数翻っている。
ザ・ファンタジーのお城を前にしてテンション上がらないのはきっとこの国のせい。この後に控えることもあるが。
「待て。何者だ」
「ナツメ侯爵家のものだ。皇室から招待を頂いた為、参画した。通らせていただきたい」
「では招待状と、規則のために馬車の中を確認させていただきたい」
ピクリとムサシ殿が肩を振るわせたが、特段気にせずに馬から降りて馬車の扉を開く。甲冑の騎士は馬車の中に顔を覗かせて、声を上げた。
「珍しいですね。ナツメ侯爵様。貴方様は
「無論だとも。しかし、娘が偉く気に入ってしまってね………仕方なく買い与えたというわけだ」
「よりにもよって、帝国では不吉と言われてる黒猫の亜人とは………まあいい。雌猫が中で盛らないようにだけ気をつけていただきたい。ではどうぞ、お通りください」
吾輩は
『帝城に黒猫がいたら殺される可能性が高い。それに、最初から亜人の奴隷で通しておけばいざとなった時に黒猫になるという手段も取れる。だから、貴方様に大変申し訳ないのだが………何か良い服はないだろうか?』
『ますたぁ。メイドなら、ウルが支援できるし、首輪を奴隷用にも見せかけられるよ〜。それに声もウルの声に出来るからメイドにしようよ〜』
ロンド殿のまともな意見と、脳内に響くウルテマの適当な意見を参考にメイド服を用意した。何でかわからないけど、滅茶苦茶出来のいいメイド服があったからね。何でかはわからないけど。
「………………」
「無言で泣かないで頂ける?」
吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、タンゴ、モブガルド・ニャンディアス3世、キミリア。人間の頃の名前はヤマト。
いや泣かせてくれ………吾輩、別に女装好きじゃないのに。どうして、どうしてこんな格好をしなくてはならないんだ。吾輩が何をしたって言うんだ。全て吾輩が悪いな………うん。
「タンゴ様、よく似合ってますわ!」
「ティア、トドメを刺さない」
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