吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。   作:あんみつ炙りカルビ

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社交界デビュー

 吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、タンゴ、モブガルド・ニャンディアス3世、キミリア。人間の頃の名前はヤマト。

 さて、いよいよ帝城にて夜会である。着いて早々、部屋に案内されてティアやセレナ殿は長旅の汗を流して、用意していた衣装に袖を通していく。

 

 セレナ殿がお召しになっているのは、シンプルな濃い翠色のイブニングドレス。ドレス自体は地味な仕立てで主張が少ないが、それでも隠しきれない容姿の良さを一層引き立てている。

 隣に立つムサシ殿も恐らくは騎士団の礼服なのだろう。アルチナが以前着ていた服によく似ている。ただ、少しばかり豪華さが勝るというか。銀のカフスや首元につけられた宝石などいるのだろうか。

 

 逆にティアはもっと可憐さを全面に押し出した、淡い翠の光沢のある生地で、肩口が露出しており、裾はフリルが何段も重ねられ大きく広がっている。ちょっと大人っぽさを意識したのだろうが、子供が背伸びしてる感が否めない。

 

「よく似合っていますよ、お嬢様達」

「あら、ありがとう。そうやって女性達を口説いてきたのかしら?」

「黙秘権を行使する」

「タンゴ様もよく似合っていましてよ!!」

「………………ありがとう」

「滅茶苦茶、葛藤してるじゃないっすか」

 

 そして、吾輩。はい。メイド服ですが、何か? しかもよりにもよってミニスカのメイド服である。しかもご丁寧にガーターベルトに編みタイツ付き。アルチナが帝国によくいるメイドそっくり。と太鼓判を押して、吾輩をベッドに押し倒したのを思い出した。

 

『ますたぁ〜可愛い〜まるでえっちな作品のヒロインみたーい』

「どうして吾輩は可愛く生まれてしまったんだ………」

『女の子にグーで殴られてもおかしくない台詞』

 

 脳内に響くウルテマさんにより、首輪で喉仏を隠して声もすっかり女の子らしい丸みを帯びた声に変更されている。どうにか虚無顔を維持したまま、吾輩はティアの隣に立つ。

 

「セレナはムサシ君に任せる。ティアとタンゴ殿は私から離れないでくれたまえ。特に会場に入ってからはタンゴ殿は呼び捨てにする。扱いが雑になるかもしれないが許してほしい」

「構いませんよ。それよりはティア殿の方が心配ではあるが」

「失礼ですわ! 私を誰だと思ってらっしゃいますの!」

「お嬢様になりたい系一般人?」

「大体合ってるっすね………」

 

 そして、ロンド殿に連れられて会場入り。流石は帝国の夜会、並ぶ料理や来ているドレスからしてやはり王国より異界より、つまり吾輩に馴染み深い光景だ。

 

 以前、スピンオフ作品が有名になったことで漫画家達が集うパーティーも概ねこんな感じだったが、こちらは異世界。いるのが貴族ということもあり、ご令嬢や令息の皆さんも自身の父親と一緒に挨拶回りに忙しく、「ゆっくりご歓談」という雰囲気ではない。

 

「ムサシ様。お初にお目にかかります。こちらは私の娘でして、挨拶をなさい」

「帝国に()()()()に続く2つ目のダンジョンが出来るとは。しかも金貨が取れると聞いています。どうです? 我が商売に投資するのは」

「私、男爵家のものです! 何でもします! どうか私を娶ってはくださいませんか!?」

 

 特にムサシ殿は入って早々、様々な人間に絡まれていた。自分の家と繋がりを持とうとする強かな者や欲に目が眩んだ人間、皺が浮かび出した令嬢というには過ぎた女性など様々だ。

 

 吾輩達もロンド殿に付き従い、有力な伯爵・子爵勢と会っていき一時間ほど経って、挨拶回りが一通り済んだ頃、別室に待機していたゲスト勢のご登場となった。

 

 司会の女性が、錬金道具の音響機器を通して声を流す。

 

『さて、お集まりの皆様。今宵の夜会には、特別なお客様をご招待しております。まず1人目はかの帝国の後継にして巷で話題の新魔術を開発した──アルトリウス・E・ドラグラウン殿下です! 盛大な拍手にてお迎えください!』

 

 楽隊による優雅な音楽が響き、大広間への入り口に照明があたる。そこから腕を組んで現れたのは、かたや銀髪の美少年と茶髪の美少女騎士。なるほど、どちらも吾輩には見覚えがある。

 

 銀髪の美少年は言わずもがな、茶髪の美少女騎士こそアートというヒーコシセンター家のご令嬢なのだろう。ただ婚約者でもないのに、腕組みしてるのはいかがなんです?

 

『続きましては、五聖騎士の長たるキャロル家の後継! レオナール様でございます! アルトリウス殿下と共に魔族の七元徳に勇敢に立ち向かった英雄の1人! 紛い物ではない勇気ある英傑とは彼のことです!』

 

 軽やかに入ってきたのは、モノクルをつけた赤茶色の髪をした男性だ。こちらはアルトリウスよりも年齢が高め、大学生くらいだろうか。

 

「ご招待いただきありがとうございまぁす!! 私こそが、キャロル家の後継筆頭!! レオナール・C・キャロルでございまぁす!! 以後、お見知りおきを」

 

 だというのに、喋り方が胡散臭い。何というか、こうエセ執事感がぱない。礼は綺麗だし、作法はしっかりしているのだろう………あれがアルチナの弟に当たるとはなぁ。

 

『そして、最後に登場するのはこの方! 家畜牧場から成り上がった稀代の天才音楽家! ネヴィア・ワルツ・オクタヴィア様です!! 彼女の音の調べはまさに異界からの施し! 皆様はなんと幸運か!『異界の姫君』たる彼女が本日も演奏していただけるそうです!』

 

 最後に現れたのは薄紅色の女性。年齢はティアよりちょっと上くらいみたいだ。だというのに、マーメイドドレスを着こなす姿に子供のような少女らしさはない。

 

「初めまして、皆様。私はネヴィアと申します。神々が住むとされる『異界』から降りてきた………音楽の神でございます。皆様には是非私が生み出した音楽を楽しんでいただければ。そして、どうか私を牧場から引き取ってくださったオクタヴィア家を盛り立ててあげてください。それでは早速ですが、私が私である為の証明をいたしましょう」

 

 愛想笑いも立ち振る舞いも、マイクパフォーマンスも堂に入ったものだ。そんな彼女はドレスを翻すと、楽隊の方に近づき、空けられたピアノの前に腰掛ける。

 

「それでは行きます。私の代表曲『子犬のワルツ』」

 

 さよなら、ショパン。貴方の曲は彼女の代表曲となったようです。もうちょっと複雑な顔をしろ。さも当然のように自作品として弾くんじゃない………いや、違う。

 

 おれは──聞いたことがある、この演奏を。

 体の細胞が沸き立つような音の暴力を。

 

 明るく跳ねるような元気さを表現しつつも、中盤には優雅な曲調に変わる。転がり回っていた犬がすまし顔で歩き出すような音を超えて、最後には軽やかに盛り上がり、終わったと感じた瞬間に音楽をかき消すほどのどよめきと拍手が、大広間に響く。

 

 誰もが納得するだけの演奏だった。認めざるを得ない天才だった。

 その中心に立つ少女はそれが当然であるべきだとばかりに、優雅な礼をしている。

 

 ──その礼に見覚えがあった。

 

「流石は異界の姫君ね………今回は芸術の神様ってところかしら」

 

 吾輩の意識はセレナ殿が感心したような拍手に引き戻される。つい吾輩も拍手をしようとして、その手は隣に立つティアに止められた。その顔はいつもの能天気さとはかけ離れて──真っ青だった。

 

「大丈夫ですか、レディ?」

「………あ、わ、私」

 

 吾輩が跪き、彼女の手を取る。震えてる。冷や汗でべったりとした手のひら、息も荒く、目の前の事から目を背けようとして………逸せない。

 

 その感覚をおれは知っている。

 

「──天才ですよ、彼女は。貴方よりずっと」

「───ッ!!!」

 

 ()()。おれ達、凡人がたった2文字で片付けた天から与えられた才能の持ち主。おれならば漫画の世界、ティアならば音楽の世界で自分達の前を突っ走る者達。

 

『師匠の漫画はまるで写真を見ているみたいだ。ワクワクもドキドキも、その前段階の匂いすら伝わって来ない。私に書かせてくれないか? この子達をもっと読者に味合わせてあげるよ』

『あんたはキャラ達の核に自分の劣等感を織り込んで作る分、人物描写は上手いんだけどね。彼女の方が、その感情の表現に背景の空気感含めて描写力が段違いに高いわ』

 

 スピンオフ作品を描いて、数年。自分でも上手くやれてる方だと思っていた。オリジナルの才能がなくてもアレンジの才能があれば漫画家として食っていけると。

 

『はじめまして、黒猫戦艦先生。早速だけど、私の作品を読んでくれないかい?』

 

 

 ──勝てない。

 

 

 

 その天才に、おれは食われた。自分が凡人だと改めて思い知らされた。

 その時に感じた敗北を、ティアはいま覚えてしまった。

 

「………慰めて、くれないんですの?」

「やる前から諦めるな、なんて言うのは本当の怪物を目にした事がない奴らだけですよ。本物は、やる前から格差というものを教えてくる」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それが吾輩が彼女に詰め込んだ設定だ。彼女では勝てないことを吾輩は知っている。

 

 吾輩の言葉を聞いたティアは今にも泣きそうだ。それは間違いではない。泣いて逃げ出して天才とは別の道を模索するのも悪い話ではない。

 

「だけど、それでレディは納得できますか?」

 

 それで、諦めがついたなら………吾輩は漫画家なんてやって来なかったがな。

 

 サッカー選手になりたい癖に、自分には才能がないからなんてほざいて『自分にプロにはなれないから』と基礎練習する事やプロの試合を分析するとか、夢を目指す為の技術も今よりもっと上手くなるように身につけようとする努力もしない。

 

 出来ない理由を探し続ける弱い自分の言葉に納得してはならないんだ。

 

 ………いかん、熱くなった。落ち着こう。今の言葉はティアには聞かせられない。もっと柔らかく伝えなくては。

 

「もし、これからもピアノを続けるならばきっと貴女は彼女と比べられ続けるでしょう。そして、周りは天才に挑む凡人を嘲笑います。無駄な努力、諦めが悪い、言葉は違えど貴女が歩く道を更に地獄に変えていきます」

「それ、は………」

「だからこそ、自分が納得するまで努力をしなくてはなりません。私は常に自分の人生の最高点を更新し続けようとしています。満点を目指すのではなく、常に以前の自分を超えていくつもりで」

 

 この辺りはロジェにも伝えた言葉だ。ロジェと同じように目指すべき背中が、超えたい存在が目の前にいる。

 ロジェと違うのは、才能。実際のところ、メンタルが足を引っ張っているだけでロジェの才能はルノワール一族でもずば抜けているのだから。

 

 逆にティアには天才と戦うためには才能がたりない。天才の2番手に着く秀才なのだから。同じ舞台で戦っては負けるべくして、負けてしまうだろう。

 

「天才に唯一、凡人が追いつけるのは納得するだけの努力と周りが認める自分の"武器"です」

「武器?」

「そうです。天才と同じ舞台で戦う為の武器。唯一それならば、天才を殺す事ができる。そんな武器をレディは探さなければなりません」

 

 おれだったらアレンジの才能。みたいに何かしらの武器を特化させて、その勝負の舞台だけで勝つ。でなければ、天才には勝てない──美雨の奴に勝ったのはそのたった1回だけだったのだから。

 

 吾輩の言葉にティアは頷き、何故か見つめ合っているアルトリウスとネヴィアを見ると涙が溢れそうだった目を乱暴に擦り、前を向く。

 

「私、負けたくありませんわ」

「ええ」

「だからこそ、今は学びます。彼女の音を覚えてそこに自分を近づけますわ──私があの天才を喰らうために」

 

 その目に楽観的な彼女はいない。彼女の一挙一動を見逃さないとばかりに目を見開く渇望の怪物が生まれようとしていた。

 

 吾輩は猫で──「やあ、カマセ・ヤロー。初めて見たけど、可愛い女の子連れてるんだね。ああ、悪いね。可愛い女の子を見るとつい口説きたくなっちゃうんだ」ある。は?

 

 聞こえてきたのは、吾輩達の斜め前。ムサシ殿とセレナ達を囲む貴族達が我先にと逃げていく列の先頭だ。

 

「………お初にお目にかかります。アルトリウス殿下。自分は五聖騎士『砂塵の騎士団』で若輩ながら団長をやらせてもらってます。ムサシ・バーン・ツーウンユと申します。それとこちらは自分の婚約者、セレナです」

「なんだ、婚約者だったのか。駄目だろ? 騎士なら俺みたいな悪い虫が寄りつかないようにしっかり守ってやらなきゃ。じゃないと、ほら。誰かに取られちゃうからね」

「うーん。それって私の事だったりする? アルくん」

「アート………」

「久しぶりだね、ムサシくん。うーん、君は変わらないんだね。残念」

 

 いつの間にか、彼らは近づいてきていたらしい。アルトリウス殿下とその傍には茶髪の女騎士、そして背後には何故か太鼓を叩いてるレオナール殿ととっても見覚えのあるメイドと意地悪そうに微笑うネヴィア殿だ。

 

「君もアートみたいに、彼に飽きたら慰めてあげるからいつでもおいで。ベッドの中で熱く語り合おうじゃないか」

「………気持ちだけ受け取っておきます。では私達は父に呼ばれてますのでこの辺りで失礼させていただきます」

 

 にっこり笑ってウインクしたアルトリウス殿に、ムサシ殿の額に青筋が走ったのが見えた。セレナ殿も分かっているのか、綺麗に貼り付けた仮面の笑みで話を切り上げようと礼をするが、彼は話の切りところを知らないようで。

 

「あ、それとも男として自信がないなら筆おろしをさせてあげようか? ()()()()()()()()()()()()()()()

「───あ゛?」

 

 名前はクロ、おはぎ、クラウン、タンゴ、モブガルド・ニャンディアス3世、キミリア。人間の頃の名前はヤマト。

 やめろ、ムサシ挑発に乗るな! 頼むから、今ここで殺し合いだけは勘弁して!! ほら、セレナ殿も頭抱えてるから!




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