吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。 作:あんみつ炙りカルビ
時間帯が変わればお気に入りや評価増えるかな?ってのもありますが
吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、タンゴ、モブガルド・ニャンディアス3世、キミリア。人間の頃の名前はヤマト。
ムサシ殿から聞いたことがないほどに怒りを孕んだ一言に、目の前の本人は何故か勝ち誇ったような顔をしている。
「やっぱり、人間って本当の事を言われたらキレるもんなんだな。勉強になったよ、童貞君。あ、でも人殺しは童貞じゃなかったんだっけ?」
「………失礼、先程のは咳払いでした。それで人殺しと自分を揶揄するのは構いません。自分が帝国を守る為に、挟撃による突撃を指示しました。その功罪については上の立場たる殿下には正しく判断していただきたい」
「有能な指揮官を囮に無能な騎士達で突貫するなら、猿でもできる。俺ならもっと上手くやれたさ。魔族の七元徳の1人『正義』を倒した事だってある。なっ? 友人C」
「おーっと? それはもしかして、私のことでしょおかあ!? 私にはレオナールという名前が御座いますけども! 貴方様の右腕のおつもりなんですがあ!?」
「馬鹿いえ。アルトリウス軍団のせいぜい、No.5くらいだよお前は。因みにNo.2〜4までは全員女の子なので悪しからず」
「ンンッ! 男女差別!」
わざとらしいレオナール殿の反応に皆でゲラゲラ笑ってはいるが、夜会でそれはあまりにもうるさいんじゃないか? 吾輩が知る王国の夜会ってもっと静かに腹の中を探り合う感じよ? 因みに吾輩滅茶苦茶腹芸下手糞。
正直言って、寒い内輪ネタで盛り上がってるだけな気もする。吾輩も魔女達といる時ってこんな風に見られてんのかなぁ。自分も人の目がある時はもうちょい声を落とそう。
そんな吾輩の自省を尻目に、ムサシがアート殿に目を向ける。その目は何か縋るような目で。
「アート………何故そうなったんすか? 昔はもっと、剣の腕を磨いて兄さんに負けないようにするって。
背中を嫌な汗が流れ出す。そう、そうだ。吾輩も何で気づいてなかったんだろう。吾輩達が返り討ちにしたサカイは彼女の兄なのだ。復讐を願うのは当然の筈。
加えてムサシはモルガナが育った村を領地にしてると言っていた筈………つまり、誰が殺したかの情報はもう漏れていてもおかしくはない。吐き出しそうな胃液を無理やり押し込み、流れを見守る。
ムサシ殿の言葉にアート殿は──
「うーん。
「………は?」
「だってさ、考えてみてよ。ムサシ君。復讐ってのは悪い事なんだよ? 誰かを殺したら誰かに恨まれてまた誰かに殺されて恨まれての繰り返し。生産性がないじゃない?」
「いや、それは確かにそうっすけど………そうじゃなくて!」
「それにね、アル君も言ってたの。1番の復讐は私が幸せを掴む事なんだって。復讐者なんてやったら、自分の幸せは掴めない。だから、精一杯自分らしく生きるって決めたの」
「自分………らしく? アート、それは、せっかく犯人がわかったのに………」
「やめて! 俺のために争わないで!!」
「うーん。アル君。それは女の子が言う台詞だよ?」
また寸劇が始まった彼らに対して、ムサシ殿は何かを言おうとして閉口する。そのまま冷ややかな目を向け、吾輩達を連れてこの場を後にしようとしたが、セレナ殿の腕がアルトリウスに掴まれた。
「セレナ。君はこちら側の人間だ。君のそのぴったりとしたドレスの上からでもわかる豊かな双子山………ではなく、君の知恵はアルトリウス軍団にないものを埋めてくれる。どうかな? そんな奴より、俺を選べ。セレナ」
「はあ………アルトリウス殿下。セレナは自分の婚約者で」
「………そんな事、急に言われましても、困りますわ」
待て待て待て! 何故、急にそんな乗り気になってるんだ、セレナ殿!? 頬を赤らめて満更でもない顔を向けるな! やばい、ムサシ殿が剣に手を掛けた!
「くっ、行くぞ! ティア! ロンド殿はここで待機を!」
「わかりましたわ!! 後詰頼みましたわー!!」
「あ、お前たち!」
すかさずティアを連れて割り込んで、、人差し指を唇に当てて物欲しそうに見つめながらセレナ殿の腕を取り、抱え込む。
「セレナ様。ずるいです。私にも、アルトリウス殿下と話をさせてくださいな」
「そうですわ、姉様。せっかくの私の婚約者ですわよ。挨拶をさせて欲しかったですわ。初めまして、アルトリウス殿下。私が貴方様に婚約者のティア・フーカ・ナツメでございます」
おい、分かってるぞ、ムサシ殿。背後から突き刺さってくる、何してんだこの人………みたいな目をやめろ。吾輩が身を挺して、セレナ殿をアルトリウスから引き剥がしたんだから、早く逃げろって。
ティアもらしくもなく、ご令嬢のようににこやかに笑顔を振りまけばアルトリウス殿下もセレナ殿から目を離し、ティアの体を頭から爪先まで舐るように見つめる。あっ、ティアの腕に鳥肌が。
「
「は、はい??」
「アルトリウス軍団は全員おっぱいが大きいのが入団基準でね。ネヴィア嬢は俺の目測なら半球型の柔らかおっぱいEカップだろう。つまり、採用だっ!!」
「やりましたっ!! ぶいっ!!」
「だが、君は見た限り鳥の骨と同じAカップ。ガリガリでいい出汁なら取れそうだがもちもちふっくらなセレナのFカップに比べたら下の下! 牛乳飲んで出直してくるといい!」
吾輩は………おっぱい星人である事を心の何処かで恥じていたのかもしれない。俺は果たしてここまで堂々と他人の胸の評価を口に出して言えるだろうか。後、こんなのがアニオリ主人公か。
ティアは失礼を通り越した態度にわなわなと震え出す。このままだと、爆発は間違いないので黙ってセレナ達の方へ押しやって、両拳を顎に添えて渾身のぶりっ子ポーズでアルトリウスに媚を売る。
「へーいいね、君も。亜人の奴隷みたいだけど名前は?」
「タンゴって言います! 素敵なご主人様募集中です!」
「うんうん、実にいい。見たところCカップかな? 掌に収まるちょうどいい大きさ。それくらいの大きさなら乳首でも遊べるし、一考の価値はあるな」
『ますたぁ。こいつ、きもい。撃ち抜いていい?』
『ダメに決まってんだろ』
黙ってなさい、ウルテマ。主の魔法のおかげで胸の膨らみを作ってるとはいえ、気を引けたのはチャンスだ。だからきゃぴきゃぴしてたウルスラを乗っ取るのはやめなさい。いきなり目が殺意MAXになるの怖いんだよ。
おっと、ティアは何も言うなよ。徹底抗戦の構えだ。さっきの吾輩は幻想だって思ってくれ。背中越しに指で早よ逃げろと合図を送ると、我に返ったムサシ殿が皆を連れて広間から出て行こうとする。
「いいな〜うちには優秀なメイド入るけど、亜人属性はいなかったからアリかもな。ウルスラも嬉しいだろ?」
「うん! ウルもうれしい!」
「えへへっ、やりました! タンゴ、超嬉しい!」
何故吾輩こんな事してるんだろうな。紗良の女装時の演技指導がここにきて役立つとは。彼奴の見様見真似はイカれてるけど、こういう変な時に刺さるのは何なんだ。
後、何でウルスラがいるんだお前。ウルテマの奴からは魔族に潜入してたんじゃないのか? もしかして、帝国に既に魔族が潜入してるのか? それとも先行してスパイしてるだけか?
………吾輩も情報引き出してみるか。
「アルトリウス殿下ってお強いんですねっ! あの『正義』に勝つなんて! どんな魔物だったんですか?」
「ただの鎧だったよ。ずば抜けた剣士だったみたいだけど俺の魔法と魔術──『召喚術』には無意味だったさ」
「召喚術………ですか?」
媚びっ媚びの声と上目遣いのコンボに気をよくしたのか、アルトリウスはつらつらと語ってくれる。こういう時は吾輩。自分の容姿に感謝したくなるな。
魔法はまあいい。魔族も吾輩の想定通りなら、きっと
「ああ。まだ実験的に騎士団に広げてるだけだからね。話が出て来ないのは当然か。これだよ。お近づきの印に1枚あげようじゃないか」
「………魔法陣ですかっ?」
渡された掌サイズの紙。そこに書かれているのはさまざまな文字や紋章が書き込まれた魔法陣だ。
「そう。これに魔力を流す事で精霊を召喚できるんだ。その際は召喚者に近い存在が選ばれるようになっていて、そのものと交渉することで契約を結び、精霊の力を扱うことが可能になる」
「つまり………『精霊騎士』って事ですかっ!?」
「精霊騎士………いい響きだ。よし、今度から『月の精霊騎士』って名乗るようにしよう。良くないか? 妾A、妾B」
「うーん、私はいつになったら正妻Aになれるのかなぁ」
「ウルもウルも〜!」
「アル様! 私も混ぜてよ。まずは妾からスタートかな?」
大丈夫か、これ? 吾輩が知る限り、
久しぶりに来たな。確認しようがない。ここは後でムサシ達と相談しよう………これ以上、周りの貴族達から露骨な不快感が伴う視線が集まる前に。
「しっかし、盛り上がりすぎたかな。俺に集まる視線が鬱陶しくなってきたな。ただ申し訳ない事にこれが、俺たちアルトリウス軍団なんだけどな」
「うーん。そうだね。私達は純粋に新しい出会いとかを楽しんでるだけなのにね」
「選ばれた者たちは皆、そういうのっ! 勝手なレッテル………前評判を貼り付けて知った気になるんだよっ! その癖、私達上位の人間達に周りを仕切れと期待するものなんだからっ!」
「仕方ないさ、ネヴィア。まっ、ゆるゆるっと皇帝らしくこなしてみせるさ。何故なら──選ばれない奴に生きている意味はない。それが俺の美学って奴だからな」
とりあえず高校生みたいな内輪ネタを繰り広げ出したところで、どう逃げればいいか考えていると肩を叩かれる。振り返ると、そこにはレオナール殿が立っていて、するりと腕を取られて耳元で囁かれる。
「今のうちにお逃げなさい。このままでは貴方は取り返しのつかないことになりますよぉ。ムサシ殿の奴隷なのでしょう? あるべき忠誠を間違えない事だ」
「えっ…………何というか、凄いまともな事をおっしゃっいますねっ」
「私の役目は見張りでございまぁす。私は皇帝より、五聖騎士を評価していますが故。特にムサシ殿は素晴らしい実力だと思っております。立場上、口が裂けても言えませんが」
「あっ、その、ありがとうございます」
さあ、お行きなさい。と背中を押されて吾輩も逃げ出す。確かに、情報も取れたし、引き際としては充分だろう。広間を抜けて皆を探すと、外に面した中庭に皆はいた。
「タンゴ!! こちらですわ!」
そこにいたのは、備え付けられたベンチに座る疲弊と困惑した顔のセレナ殿、それを挟むようにして肩を抱えるムサシ殿に手を握るティアがいた。
「セレナ殿。急にアルトリウス殿下に言い寄られて、その気になるなど何があったんですか?」
「その、タンゴ様。私にも分かりませんわ。ただ、彼に触られて声をかけられた瞬間に………」
「瞬間に?」
「その………この人の、せ、性奴隷にならなくちゃって」
「なんで???」
セレナ殿も自分が何でそんな発想に至ったかを理解できてないらしい。眉を八の字にしながらも、ムサシ殿の腕に抱かれてることには満更でもなさそうだ。見れば分かるくらいムサシ殿を好いてるセレナ殿がどうして?
「ムサシ殿」
「任せて欲しいっす。とりあえず彼奴の剣を爆弾に変えて、俺が遠征中に吹っ飛ばすっす」
「待て待て待て待て! 急に悪党らしいことをするんじゃない!! というか吾輩の呼びかけはそうじゃない!」
「なら、何なんすか? これは明らかにやり過ぎっす。奴は四属性使えるとかほざいていたっすけど、セレナにかけられたのは隠された空属性の魔法に違いないっすよ。若しくは錬金道具っすけど」
「だとしても、剣を抜くのは違うだろう? 腹立つ態度なのは理解するが、主が剣を向ければ帝国全てが敵に回る! 主だってそれくらいは分かるだろう!?」
剣に手を掛けている彼は今にも広間に戻りそうなくらいだ。あからさまな洗脳?催眠?どちらにせよ、碌では無さそうな魔法を使用してるが証拠はない。セレナ殿の発言程度では握りつぶされてしまうだろう。
「それがなんなんすか? 俺の命1つで皇帝の後継を消せる。ククク、悪党らしいじゃないっすか。あの戦争を生き残ったのも全てはこの時のためだったんすよ」
「それで、セレナ殿やナツメ商会に迷惑がかかるのがお前の美学か? だとしたら随分と温い美学だな」
広間へ足を向けていたムサシ殿が止まる。自分でも厳しい発言をしてるとは分かるが、ここでムサシ殿がわざわざ突貫する必要はない。
「
吾輩が知っているムサシ殿とは遥かに違う。ゲーム版の彼は『大切なものを守るため災いの中心へ飛び込み、正面からこれを打ち砕く』タイプの熱血主人公だった。
今の彼はこの現実で生きているうちに変わってしまったものだとしても、その奥底には吾輩の知る彼がいるのだと信じたい。だからこそ、こんな場当たり的に彼に命を賭けさせたくないのだ。
賭けるなら、吾輩のような無駄な命をオールインすべきだ。
「………………一理あるっすね」
長い間を経て、ムサシ殿が剣から手を離した。どうやら納得してくれ──
「だから取引っす。もし、それが不可能な場合は………お前の首をよこせ。ルドルフ・Y・クロス。お前っすよね?
──指先がこちらに向く。回転する岩の星が吾輩を狙っていた。
「………いつからわかってた?」
「最初からっす。俺がモルガナへ向けて魔法を撃ったのは力試しもありましたが、私怨もバリバリっす」
「そうか。なら、隠す必要もないな。あの村を領地として抱えてるなら、いつかはバレると思っていた──主の言う通り、サカイを殺したのは吾輩だ」
吾輩の命と引き換えにサカイを殺した。人を殺した忌避感はある、当然だ。それでも、あの時の吾輩はモルガナと天秤にかけてそれを実行した。
その選択から、吾輩だけは絶対に逃げてはならない。逃げちゃいけない。生まれた責任が、因果が今こうして巡ってきてるのだから。
「取引は受けよう。持っていきたければ持っていくがいい。この首はその程度の価値しかないのだからな」
「………随分と簡単に言うんすね。罠っすか?」
「馬鹿いえ。主ほどの価値ある人間の取引に使えるのが、吾輩
首をトントンと叩く。訝しむムサシ殿は吾輩の言葉に嘘がないと分かると、苦渋の表情を浮かべ………魔法を消した。
「サカイの兄貴には世話になったっす。元々の俺はヒーコシセンター家の子飼いの男爵家でしたから。たまたま歳が近かったアートの近衛候補として目をつけられてたっす」
「………そうか」
「サカイの兄貴から剣を教わって、あの日も帰って来たら教わるって約束をしてたっすから。その約束が果たされる事はなかったっすけど」
寂しそうに、言葉を紡ぐムサシにおれは無意識のうちに頭を下げていた。
「謝っても仕方ないかもしれないが………すまなかった。この通りだ」
「それは何に対しての謝罪っすか?」
「本来ならアート殿に頭を下げるべきだろう。だが、先程のやり取りを見る限り、本来の彼女でないとしたらこれも意味をなさなくなる。ムサシ殿なら正しく罰してくれるだろうと思ってる──おれがモルガナを守る為に、彼の命を奪った事についてだ」
仕方ないとはとても言えない。倒した相手には家族がいるなんて事は、アゼル卿の時にわかっているのだから。残された者たちが殺した相手をどう思うか、なんて事も。
ムサシ殿は何も言わない。今すぐ剣を振り下ろされてもおかしくはないが、
「………タンゴ殿、初めて人を殺した時にどう思ったすか?」
代わりに投げかけられたのは消え入るような問いかけ。顔に手を当て、何かを考えるようなムサシ殿に吾輩は頭を下げながらも小さく答える。
「──自分の中の何かが欠けたような気がしたよ」
吾輩の答えに、タンゴ殿は少し黙った後に
「そうっすか………自分も同じ気持ちでしたよ」
そう言って、吾輩の肩に手を置いた。
「サカイの兄貴が亡くなって、ヒーコシセンター家は跡取りを探す羽目になった。アートはあのままじゃあ、帝国の典型的な貴族を婿に迎えなきゃならないと毎晩泣いてたっす。当時の俺はそんな彼女を守りたくて、当主に直談判したっす」
頭を上げて欲しいっす、と言われて頭を上げればそこには無念や苦痛に苛まれた彼の顔があった。
「"候補に収まりたければ優秀さを示すでござるよ"と言われた俺は戦争に志願した。手柄を立てる為に、アートの旦那として彼女を守る為に。アートも約束してくれたっす。『兄さんの仇を撃てるように私も頑張るから。だから無事に帰って来たら結婚しよう?』って」
「それで主は戦争に出て…………」
「──後悔した。戦争に突入して初めて魔族を殺した。俺の顔を見つめながら怨み言を吐いた奴等を撃ち抜いた後にその場でゲロを吐いたっす。死にたくなくて無我夢中で戦って股が気持ち悪いと下を見たら気付かない間に小便漏らしてたっす」
生々しい戦争の体験談。アルチナとはまた違う悲惨さがその語り口からは滲んでいた。
「朝飯を一緒に食った戦友が死んで、荷物が片付けられて別人がその場所を使い始める。訓練中にサボって酒をご馳走してくれた没落貴族の上官は食われて、愛国心が暑苦しい女の同期は苗床にされた。魔族に対して欲情するが、強さだけはあった後輩は八つ裂きにされたっす。知ってる奴がまるで最初から存在しなかったみたいに消え失せた」
「………………」
「俺の隣で魔族に殺された奴の死亡報告書を書いた事もあるっす。泣きながら、震えながら描いた字、たった数百字程度。人が死んだのにその人生の全てが薄い紙きれ一枚。命ってのはこんなにも軽く儚い代物だと分かると全ての命に価値なんてないんだと思ったっす」
その言葉は吾輩の胸を深く抉った。
この世界を作った時に、大まかな戦争における戦死者をシミュレーションして描いた。吾輩にとってはただの数字が、彼にとっては人だったのだから。
「俺が出世したのは単に部隊で他の古参が死にまくって繰り上がっただけ。十代半ばの現場指揮官なんて笑えないっす。その頃になって漸く気づいたっす。アルチナ・L・キャロルが腰振るだけの娼婦ではなかった。勇敢で有能な騎士で、帝国が平和でいられたのは彼女がいたからだったんだと」
アルチナの抜けた穴は大きいと、改めて実感してももう遅い。地獄だけはまだまだ続いていく。
「最悪だったのは終戦間際の戦いだったっす。七元徳の『希望』ことエスポワールが率いる軍勢に囲まれて指示を仰ごうと慌てて本営を訪ねたら上級士官は全員いなかった。奴らは俺たちを見捨てて自分達だけ逃げ出したんすよ。呆然としながら『あぁ、俺は今日死ぬんだな』って悟ったっす」
帝国貴族のあるあるだと、アルチナは語っていた。勝てば自分の手柄、負けたら騎士達を切り捨てて後退する。その結果、帝国は徐々に魔族達に戦線を押されていったのだろう。
「自分が死ぬとわかったら、もう全てがどうでも良くなったっす。残っていた奴らに現状伝えた後、『華々しく派手に死んでやろうぜ!! 魔族のクソ共に帝国騎士の怖さを思い知らせてやれ!』と完全に自棄だった」
英雄の影がどんどん増していく。吾輩が知っている彼から、今の彼にならざるを得なかった理由がそこにはあった。
「逃げ出した貴族の情報をわざと魔族に漏らして、追いかける魔族が拠点を通り過ぎた直後に不意打ちをかましたっす。命も魔法も総てを吐き出す大盤振る舞い。死体となった魔族や仲間を俺が爆弾に変えて、回収しようとした魔族相手に戦場で花火を打ち上げまくりました。汚い地上の花火が散る中、ただ1人が俺の前にいた──『希望』のエスポワールが」
死兵となった彼らの威勢に魔族は負けたのか………加えて、仲間たちの死体を爆弾に変えられてしまっては隣にいる奴も爆弾かもしれないという疑念が過ぎる。肩を並べて戦うのは不可能だろう。
そして、対峙する魔族の司令官。希望のエスポワール。冥龍と呼ばれる黒い姿をした龍だ。リザードマンのような姿の設定だった筈。
「『ノヴァの血筋か?』とそう問われた後は覚えてないっす。ただひたすらに受け流して、斬って、爆発させて………その果てに『見事だ』と言われて衝撃と共に意識を失ったっす」
それが英雄と呼ばれた彼の戦場の活躍だった──つまり、吾輩がサカイを殺した事が周り回って彼を地獄に導いたのだ。
「………………ムサシ殿」
「気にする必要はないっす。確かにサカイを殺したのはあんたっすけど、地獄を選んだのは俺っす。戦場に行ったのは俺がアートと結婚する為。欲のために地獄を選んで、地獄の炎のような苦痛を味わって………俺には『灰塵』しか残らなかった。故に、俺は『灰塵の騎士』。仲間も上官も全てを無に帰して自分だけ生き残ってしまったただの弱虫なんすよ」
「それでも………きっかけが吾輩なら、主に報いてやりたいと思うのは間違いか?」
ムサシ殿は吾輩の言葉に少し思案すると真面目な顔で、吾輩に向き直る。
「なら取引内容に追加っす。察してはいると思うっすけど、ナツメ商会をあんたの魔導列車計画に噛ませて欲しいっす。ここから起きる利益は今までとは比べ物にならないはずっすから」
「いいだろう。吾輩の方からモルガナに話しておく」
「次に俺たちを鍛える人を紹介して欲しいっす………具体的に言えば、あの『死の刻印』に俺たちを鍛えるように仲介してくれないっすか?」
「ああ。それも吾輩からアルチナに伝えよう」
「そして、最後に………俺がサカイの兄貴への復讐を果たすのは違う。その権利はアートだけが持つものっすから。だから」
彼は手を差し伸べて、告げる。
「洗脳が解けたアートが望むなら、その命を彼女に委ねて欲しいっす。それを理由にあんたの妻達に帝国へ復讐をしない事。それを飲めるなら、互いに過去は水に流して手を組むっすよ」
無茶振りだ。要はアート殿に望まれたら死ねと言ってるようなものだ。
全く………吾輩以外なら、そんな取引飲めていないぞ。
「いいぞ、これで取引成立というわけか? アルトリウスを倒して、洗脳を解除して………アートに吾輩が復讐相手だと告げる。その後の判断を彼女に委ねると。そんな事をしても、彼女が主の方を向く事はないと思うぞ?」
「いいんすよ。俺はただ、昔に交わした約束を守りたいだけっす。ただの自己満足っすよ。復讐なんて、結局そんなもんじゃないっすか」
「言えてるな」
吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、タンゴ、モブガルド・ニャンディアス3世、キミリア。人間の頃の名前はヤマト。
差し出された手を握り、取引状態を受け入れる。そんな吾輩達にナツメ商会の美人姉妹は安心したように大きく息を吐くのだった。
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励みになります。どしどしください、待っています!