吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。 作:あんみつ炙りカルビ
黒猫が悪い男だと伝わればいいなぁ。あと、他人の視点だからこそ黒猫が全く見せていなかった面も観れると思うんですよね。
ロジェスティラは激怒した。必ず、かのクソボケ猫を解らせなければならぬと決意した。
ロジェには恋愛がわからぬ。ロジェは、天才義賊である。王女の化粧士として働き、黒猫と仲良く暮して来た。
けれども新たな魔女の追加に対しては、人一倍に敏感であった。
「すっごいですわっ! これが私の顔なんですの!?」
ぶっちゃければ、自分を差し置いて抜け駆けされるのではないかと気が気ではなかった。
まだ12歳との事だから。彼の好みからは大きく外れているけれど、成長したら分からない。それに今の段階でクラウンを好き好きという感情を隠さない美少女をどうして警戒しないというのか。
もう病気じゃないかな?と思うクラウンの命を担保にした取引として、やって来た彼女は今は魔女達の館と化してる旅館の一室にて生活してる。
ピアノや貴族のお茶会などあれば、黄金劇場と繋がる転移扉にて送る事が決まっているけど、それ以外はこちらで暮らしつつ、魔法の勉強をしてるんだよね。
………その面倒を何で、ボクが見なきゃならないんだろう?
旅館の一室で積んでた本を読むボクに対して、ティアさんは魔法で光の玉を泳がせているし。
「クラウンは、モル姉と魔導列車の試運転に行ったし……ボクにどうしろと」
「ロジェスティラ様! 他には!? 他にはありませんの!?」
「アッ、ハイ」
感極まる彼女は薄く化粧をしていた。ボクの仕事が知りたいと話しかけて来たから、言葉にするより良いと体験させてあげた。上手く話せなかったからじゃない。ほんとだからね?
ミストに勧められて始めた仕事だったけど………案外、性には合ってたみたいだ。人の顔って、持っている色合いが違うから、活かすべき色合いも違ってくる。
例えばモル姉もアル姉も肌は白いけど、モル姉は雪のように白い肌に対してアル姉はうっすらと小さな傷が分かる陶器の肌みたいに個人個人で印象も雰囲気も変わってくる。
じゃあ、地肌の色を生かして、下地と相性よく透明感を出すには?
よく考えたら唇の色や形だって人によって違くない?
目の際から瞼までどう色を重ねればいい?
顔に自然な立体感を持たせるなら? 人の目はどこに集中する?
その彩り方も魅せ方も、きっと違うはずなんだ。そしてそれらをまとめ上げ、元々そうであったかのように自然なものとして見せるには?
人の肌を絵に見立てて、色を重ねていく作業はボク自身の魔法にも繋がりが深くて追求していくたびに新しい発見があるのが楽しかった。
自分の顔で練習して、今ではモル姉に対して錬金術で化粧品を作ってほしいっておねだりをするくらいには。
「どう?」
「すっげえですわ! 舞台女優みたいですの!」
「良かった」
「だから、ロジェスティラ様も綺麗なんですのね!」
「ありがとう」
褒めてくれるのは悪くない。彼女はもしかして悪い人ではないのかも。
「私もロジェスティラ様みたいに綺麗になって、妻の1人になりたいですわ! 彼の奥様になるにはどうしたらいいんですの? ロジェスティラ様」
撤回。彼女は無自覚に人の悩みを踏み抜くようだ。
「………違うよ」
「えっ?」
「ボクは、別に、彼の妻じゃない………」
「やっべ、ですわ」
彼女の質問はボクが聞きたいくらいだよう!!
「て、ティアさん。ボ、ボクってそんなに女の子らしくない?」
「そんなわけありませんわ! 顔立ちはかっこいい系ですけど! 体つきは雌っぽくていいと思いますわ!」
「め、雌とか言うなよ………そりゃ、背も伸びて胸もおっきくなったけどさ」
昔に比べたら色々な意味で成長したと思う。特に身体はかつてミストから吸血鬼の血を飲んで成長した時と同じだろうと。
おかげでルーフェンさんに下着の新調をする羽目になったし………あ、あんな破廉恥な下着まで渡されるとは思わなかったけど。
「少なくとも、クラウンの好みだとは思うんだけどなぁ………」
「タンゴ様はデカパイ主義者ですのね!」
「うん。確かにそうなんだけど、もう少し言葉を慎まない?」
一応、侯爵令嬢とは聞いてるけどとてもそうとは思えない。ボク自身も働きはじめはそうだったけど、結構上の人って礼儀作法やらを見てるんだよね。ミストの護衛兼化粧士として認められた時も見苦しくない礼儀作法が出来てたからだし。
「あと、クラウンも割と礼儀作法はしっかりしなさいって言ってたし。本人もモルガナに教わってきちんと覚えてたから」
「な、なんですって!?」
「ボクが来た当初は食事の作法とか知らずに手づかみだったけど、その時もやんわりと嗜められたし」
「そ、その辺りなら完璧ですわ! 姉様に嫌ってほど叩き込まれてますもの!」
「言葉遣いは?」
「………………」
黙ってしまった。自分でも言葉遣いが宜しくないのは分かっているらしい。ボクも女の子なのに、ボク呼びしてる事は見逃してもらってるくらいだけど、流石に彼女の思った事をすぐ口にする癖は直したほうがいいと思う。
「とりあえず、クラウンの前では一般的なお嬢様を装ったら? キミの近くにいいお手本がいるじゃないか」
「姉様ですわね………うぐぐぐ、わかり、ましたわ」
「慣れたら、夜会でもその態度をすれば良いと思うよ。時折、素のキミが漏れるくらいはクラウンも好ましく思ってくれるだろうしね」
まあ、でもボクには一切手を出してくれないんですけどね。出会った当初は分かるよ? ボクもまだ子供だったし、むしろその年齢で手籠にしようとする変態じゃなかったからいいけど。
でも、でもさあ! あんなに濃い日々を駆け抜けた癖にボクには何にも無いのはおかしく無い!?
そりゃね? 妻2人もいて手を出すのがクラウンの性格じゃないのは分かってるけど、もう少しなんかこう………あってもいいじゃん!
「タンゴ様は帝国貴族みたいに手当たり次第に手を出すわけじゃありませんのね? 変わり者ですわ〜あれだけの名誉や権力をお持ちなのに使わないだなんて」
「そこがいいんじゃないか」
「ロジェスティラ様も重症ですわね! 因みにどんな所がお好きなんですの?」
「す、好きな所!? え、えーと、ま、まずは………ボクの夢を最前線で応援してくれるってところかな。だから、ボクはルノワールの五代目を名乗れる自信がついたわけだし………私生活で言うなら、趣味を一緒に楽しんでくれるとこ?」
この3年間ですっかり、本を読むことが趣味になったボクは連邦国からよくユニティさんの新作を仕入れてた。彼女に思うところはあるけれど、作品に罪はなかったし、何より面白かったから。
ただ、ミストの挨拶回りで連邦国に行った時に知った。連邦国ではあまり、ユニティさんの小説が読まれていないことを。
正確に言えば、小説ではなく絵と文章が一緒になった
コミカライズと呼ぶそれはユニティさんの物語を漫画にしたものらしいけど、実際に分かりやすいとは思ったし、活字よりかは取っ付きやすいから文字の読み方が分からない子らでも雰囲気は伝わるからだと。
でも、活字を読んで想像するわくわく感や深い心理描写がないのは寂しかったからボクは漫画より小説派だった。
「連邦国の亜人って、小説より漫画を好むからさ………その点でちょっと合わなくて。でもクラウンはきちんとボクが進めた小説を読んで感想を言ってくれるし、次回の考察にも付き合ってくれるから」
「………いい人ですわね」
「うん。だから、ボクはあの人がいいんだ。それに半吸血鬼のボクは姉2人よりも遥かに長く生きるし、クラウンも亜人だからボクなら最期まで寄り添ってあげられるから」
ティアさんの言葉に頷いた。連邦国の亜人達はその、言ったら悪いけどやっぱり結構押しが強くて、後は強いが正義!みたいな風潮もあったからその辺りも合わなくて。
だから、許されるなら………ボ、ボクを妻に迎えて欲しかった。ルノワール一族の復興のためにも、そ、そのぉ〜子供は、いっぱい産まなきゃだし。
クラウンの事だから、過去に色んな人を誑かしてるとは思うけど亜人たる彼の子供を産めるのは亜人しかいない。
「だから、ボクじゃ………ダメなのかなぁ?」
口をついて漏れ出た言葉にティアちゃんは不思議そうな顔をする。
「それを、直接伝えればいいんじゃないですの?」
「………………それが出来たら苦労はしないんだよなぁ」
「なら、先に私が彼の妻に立候補致しますわ! それならいいんですのね?」
「ッ!? それはダメっ!!」
「なら、さっさと告白してブチュってしてベッドで合⭐︎体!すれば良いんですのよ! 私、タンゴ様の事はまだ詳しくは分かりませんけど………人の好意を軽んじるようなお方ではありませんのでしょう?」
確かに一理ある。モル姉もアル姉も2人の方から迫って、絆されたクラウンがその好意に応えたからだ。そうでもしないと、クラウンは良き隣人みたいなクソボケをするのはこの3年間で知ってるじゃないか。
目の前のティアちゃんを見て、クラウンを納得させられる理由を思いつき………勝負はこの時かと感じた。
というか、情けないボクの事だからこの機会を逃すとズルズル後に後に流してくような気もするし。
「や、やってやろうじゃんか。ルノワール一族の名にかけて!」
「告白にかけられる先祖の名誉はどうなんですの?」
いいもん。きっと初代様も喜んでくれるはずだから。ともかく準備をしなくては。今夜は感想会の約束だし………あ、あのえっちな勝負下着も引っ張り出さなきゃだし、でもその前に温泉に入った方がいいかな?
ついでにティアさんにも入り方教えておこう。
こ、今後は1人で入ってもらう機会増えちゃうかもだし。
「1人でくねくねしてて気持ち悪りいですわ」
「うっさい。ほら、温泉の入り方教えてあげるから行くよ」
「私、湯船嫌いですわ〜」
「クラウンはお風呂好きな綺麗好きだよ」
「頑張って好きになりますわ!!」
「単純」
とりあえずティアさんに温泉地入り方を教えて、いつもより念入りに体を洗って、軽く化粧をする。がっつりすると気合いが入り過ぎてるように見えちゃうから薄く自然に。
服もいつもと同じ風に。潜入する上で、相手に危機感を抱かせないのは義賊として当然だ。けれど、彼が見えない抱かない所に刃を仕込み、いざとなったらそれを使う。要するに勝負下着を下につける。
紺色のレースがあしらわれた可愛らしさに妖艶さが滲むそれを身につけて見たけど、す、スースーする………嘘でしょ、姉2人ともこんな下着つけてクラウンの下に行ってるの? 痴女なの?
すっかり夜も老けて、クラウンも帰って来たらしい。ボクもティアさんに断って彼の部屋へ向かった。
下着に慣れないけれど、その感覚は顔には出さない。筋肉痛になりそうな心臓の鼓動も。ゆっくりと本を持って、クラウンの部屋の扉を叩けば、ゆっくりと開かれた。
「いらっしゃい。待たせたか?」
「う、ううん。大丈夫。むしろ、疲れてるかもなのに、いいの?」
「問題ない。吾輩よりもモルガナの方が忙しかったくらいだからな。何せ、試運転時にアースラット軍団と舞踏対戦をする羽目になって、何故か吾輩の猫ダンスによって勝利を得たくらいだし」
「感想会よりすっごく気になる話題やめてよ」
相変わらずのとんちきっぷりに苦笑しながら、彼の部屋に入る。旅館に与えられた彼の私室は案外殺風景で。作業用の木の長机と床に直で座るための座布団と、二、三人で寝ても問題ないくらいのベッドだけだ。
「お茶とお菓子を用意するから、待っててくれ」
机に広げられた紙を片付けるクラウン。連邦国の特産品である白くて綺麗な紙だ。ただ書かれているのは、魔導列車に関するものではなく………幾つかの線によって分けられた紙面。
「………漫画?」
そうだ。連邦国で見た漫画だ。慣れた手つきで描いたのが分かるくらい線や吹き出しの配置に迷いがない。だけど、それだけだ。人物や台詞は一切無い。書きかけ………というより、そこで止まってしまっただけのような。
「気にするな、ただの手慰みだ」
ボクの呟きにクラウンはそう答えるけど、その横顔には確かに憂いがあった。一瞬だけ見せた普段のクラウンじゃない影が差した顔にボクは思った。
なんか、すっごいえっろいなって。
誤解なき風に言うけど、絶対姉2人もクラウンに邪な目を向けてるからね。服の襟ボタンを外した時とか、アル姉は自分の背が高いことをいいことに舐るように見てるし、モル姉はたまに腕まくりした二の腕をジッと見てる時もあるし。
だから、ボクがクラウンをえっちな目で見るのは何もおかしく無い。おかしくないったら!
ボクに石を投げていいのは、夜みたいな黒髪をお風呂上がりだからあげて見えるうなじや部屋着からうっすら見える鎖骨に邪な感情を持たなかった人だけが投げてよね!
「どうかしたか? ロジェ?」
「クラウンは、ボクをどうしたいの?」
「? 幸せになってほしいが」
柔らかく微笑むと、一気に女性っぽく見えるクラウンはボクの前に茶色の物体と緑の液体が入ったグラスを差し出す。茶色の物体は焼かれた生地のようで、アル姉が大好きな餡子を挟んでるみたいだ。
「どら焼きって奴でな。帝国で小豆が手に入ったから、餡子を作ってそれを利用した試供品だな。それと、連邦国から仕入れた緑茶………紅茶で使う茶葉の若い葉を使ったお茶だよ」
匂いは甘い。おずおずと口に運ぶとふっくらとした生地が歯を受け止めて、餡子の甘さが舌先にガツンと来る。生地があっさりしてる分、餡子の甘さが引き立つようで。
「美味しいっ!」
「そっか。焦らずに食べるといい。おかわりは2個くらいならある。主も気にいると思って多めに用意したんだ」
クラウンも緑茶を啜る。ボクも啜ると、苦味が来るけどその苦さが甘さを洗い流してくれる。ペロリと1個食べちゃうと、すぐにクラウンがもう1個用意してくれた。
「魔導列車って地下に通るんだよね? 地上だと魔物に襲われるからって。そこで縄張りに踏み込んだって事?」
「まあな。あの土竜………アースラット軍団はどうも新たな魔物だと思ったらしい。奴らに地下を掘られて揺らされちゃあたまったもんじゃない。そこで吾輩が対話のために猫の姿で踊ると奴らも対抗して踊り出してな。最終的には一種の祭りみたいだったよ」
「でも、認められたんでしょ?」
「最終的には吾輩を魔導列車の親分って認識したらしく、奴らも縄張りから引いてくれたし………しかも地下の警備までしてくれるようになったからな。人を魔族扱いしたのは許さんが」
「あははは。実はクラウンは魔族でした〜とかそれこそ国を揺るがす一大事じゃない? 大地を揺らすアースラットだけに」
「上手い。どら焼き一枚」
追加されたどら焼きをつまみながら、クラウンと今日あったことを話していく。ティアさんに化粧をした事や、アースラット軍団に猫ダンスで勝利した事。小さな笑い声や朗らかな空気の中で彼と過ごすこの時間が何よりも好きだった。
「それで、クラウン。読んでくれた? ユニティさんの大人気の連作『金冠を被った黒猫』の最新作! 主人公の死神少女の乙女心にボク、きゅんきゅんしちゃった!」
「うん、読んだし面白かったが………何故だろう。主人公と相棒の黒猫に既視感しかないんだよな。ユニの夢小説じゃ無いんだよな??」
「?? これは恋愛小説だよ?」
がっつきたいけど、焦らない。2つの意味で。まずは牽制に恋愛小説の内容語りから始まる。どこかで見たような黒猫………多分、目の前のクソボケ猫とユニティさんの妄想を形にしてるんだろうけど、今は都合がいい。
「連邦国に行った時はさ、亜人の皆はあんまり理解してくれなかったんだよね。小説より、漫画って人が多くて。クラウンみたいにこんな感想会よりもボクを口説くことが多くてさ」
「ロジェは美人さんだからな。今からでもあしらい方や将来の為に経験は積んでおくといい。落ち着く前に遊んでおかないと、最終的に見る目がなくて酷い男に捕まるからな」
「なんか、実感籠ってる?」
「元彼女がな………ああ、寝取られた奴なんだけど。最終的には自分の営みを同人AV、絵に残されてしまって挙句には成人前に双子を妊娠して父親は逮捕って末路を辿ったらしい」
「予想より、悲惨だね………」
クラウンはボクよりは恋愛経験がある。というかボク達魔女は碌な恋愛経験がない。アル姉なんて肉体ばかり求められたって言ってたし、そんな中にクラウンみたいな人が来たら刺さって抜けなくなると思うんだ。
だって、今のボクがそうだもの。
「でもいいよね。自分の"好き"を共有してくれる人ってさ。しかも自分の夢を応援してくれるなんて。そんな人、探してもそう簡単には見つからないよね」
「だな。吾輩もそういう奴には覚えがある。そういう人は大事にした方がいい………いついなくなってもおかしく無いんだからな」
遠回しに語れば、彼もまた思い返すように呟く。きっと彼が語るのは亡くなった元お嫁さんの事だよね。モル姉やアル姉曰く、魘される事は少なくなったらしいけど、それでもたまに悪夢に苛まれてるみたいで。
だから──ここが勝負時だと思った。
「ねえ、クラウン。ボクは死んだりしないよ」
ゆっくりと本題を前に言葉を募る。素直に口に出すには恥ずかしいから。
「ボクは半吸血鬼。他の人より死ににくいし、昔より強くなったよ」
キミがボクを見放さなかったから。ずっと応援してくれたからと感謝の想いと一緒に。
「ねえ、クラウン。ボクは──キミが好きだよ」
彼の目が見開かれたけど、そんな事気にしていられない。
だって高鳴る心臓部の音がキミに聴こえてしまいそうなくらいで。ボクもいっぱいいっぱいで余裕なんてないから。
「連邦国に行って、亜人の皆と交流して思ったんだ。皆、いい人だったよ。でもキミより推しが強いし、キミより清潔感がないなんて。キミを基準にして考えてるボクがいた」
立ち上がって彼の座る場所に向かう。胡座を書く彼の上に逃がさないように向かい合うように座り込み、腕を彼の後頭部に回した。
「クラウンはきっと、自分以外の人と幸せになってほしいなんて。思ってるかもだけど………ボクは半吸血鬼。モル姉やアル姉よりも長く生き続けるんだ。それこそクラウンの言う通り、将来はキミよりいい人に出会えるかもしれない」
「そ、その通りだ。ロジェ。吾輩は既に2人も妻がいる。こんな女ったらしより、きっとお前を大事にしてくれる人が………!」
「でも、今のボクはクラウンが好きなんだ。今はキミがいい。ずっとボクを信じてくれたキミがいいんだ。例え、将来キミよりも素晴らしい人がいたとしても………クラウンと恋人になった関係は生きると思うんだ」
欺瞞だ。将来はわからないけど、今のボクはクラウン以外に浮つくことはない。当の本人が女たらしなのは思うところはあるけれど。
それでも、恋愛経験がないボクにとって素敵な男性がクラウン基準なんだから。これから先も彼を基準に考えることになるだろう。
「だからね、クラウン。責任、取ってよ」
キミにあの日、牧場から逃げていなければきっとボクの男を見る目は普通だったのに。キミと過ごしたこの数年ですっかりぐちゃぐちゃになっちゃった。
「明日も明後日も1ヶ月後も、1年後も、10年後も………ずっーと一緒にいよ?」
人の気持ちも知らないで。幼い女の子を揶揄って楽しかった?
叶うかどうかも分からない夢をずっと応援してくれて、時には手助けしてくれた人に16歳の女の子が恋なんてしないって思ってる?
これも、ぜーんぶ………クラウンが悪いんだからね?
「──ボクの心を盗んだ責任、ちゃんと取って貰うんだから」
部屋な中に沈黙が降りる。クラウンの目には戸惑いと焦りが見え隠れしているけど、正直こちらも余裕はない。多分、ボクの顔は真っ赤だろうから。
達成感に汗で服が張り付いていて、気持ち悪い。今にも口付けできそうな距離に彼がいるのが、心臓に悪い。
「一つ勘違いしてるよ、ロジェスティラ」
衝動的に吸い付いてしまいそうな薄くて形の良い唇から漏れたのは、訂正の言葉。望まない答えなら塞いで黙らせようかと思ったけれど、彼の顔は覚悟を決めた男の表情をしていた。
「きみは責任を果たせって言うけれど、きみも責任を果たさなきゃな」
「責任………? なんの?」
「とんでもないものに点火させた責任」
クラウンの手がボクの髪を触り、頬に触れる。おっきくて暖かい手。顔は女の子みたいなのに、こういところは男の人なんだなぁって思わされる。
意識的にその手に頬擦りしながら、問いかけたボクに彼は真面目な声で答えた。
「おれは、異界では物語………いや、漫画家だった。連邦国で流行ってるような漫画をな」
「え? でも、クラウンが漫画を描いてるとこなんて見たことなかったけど」
「隠してた。人物も台詞も何も浮かばないただの紙面を漫画とは呼べないからな。正直言って、それでいいとも思ってた。他にも優先すべきことはあるわけだしな」
クラウンが言うには王国で腰を落ち着け始めたこの3年の間に、書き始めたものみたい。確かに今まで娯楽に手を出せるほど落ち着いてなかったもんね。手慰みって言ったのも腑に落ちた。
「いい機会だとも思ってた。そんなもんに現を抜かすこともないと。けどな、ロジェスティラ。君の努力を見ているうちにこれでいいのかと思った。君が夢に向けて健気に頑張る中で、俺は………このままでいいのかと」
クラウンの手はすごく優しい。言葉にできない感謝が込められているようで、ボクもゆっくりとその手に自分の手を重ねた。
「夢は叶ったつもりだった。漫画家になって、それなりに有名にも。けれど………俺は『自分の漫画』で漫画家にはなれなかった。それはまだ夢半ばなんじゃないかって」
「うん、それで?」
「だから………また始めることにした。小さな事からコツコツと。自分の中の面白いを形にする。そんな途方も無い作業を」
彼の声には燻りが滲んでいた。さっきの漫画を見る限り、きっと上手く行ってはないのが見えたから。それでも彼は筆を折らずに、また書き始めた事も。
「きみの頑張りが、俺の燻っていた魂に火をつけたんだ。その責任は取ってもらわなきゃな」
クラウンがよく言っていた、自己の最高点を更新するためにまた歩き出したのだ。そのきっかけがボクの頑張りだなんて………凄く、嬉しい。
彼はボクの顔を見ると満足そうに笑い、そして蠱惑的な声でボクに囁いた。
「『そしていつか──貴方の心を盗んでみせる』だっけ?」
「!? そ、それって!?」
「きみの頑張りはずっと見てたよ。そして、その甲斐あってきみはルノワール一族の当主に相応しい女性になった」
彼の手が後頭部に回されて、引き寄せられた。こつんと額を軽くぶつけて、吸い込まれそうな彼の鳶色の瞳にボクの期待に満ちた顔が映る。
「ロジェスティラ。きみの頑張りに──おれの心は盗まれたんだよ」
彼の瞳に瞼が降りる。寄せられる体は全力で抵抗すれば、抜け出せるなんて容易だけれど………ボクは抗うことなく目を閉じる。
──初めての口付けは、餡子の味がした。
『すごい、クラウンの体ってボクと全然違う。やっぱり男の人なんだね』
『んっ、んんん………! は、はあはあっ………はぁ、ほんとに、おっきいね。せっかく入れても、直ぐに出ちゃう』
『えへへ、しちゃったね』
以上が「和菓子無血開城〜素敵な歳上お兄さんにリードされてのあまあま初体験〜」のサンプルになりますが、以下のリンクから何かをすると私のやる気が点火しダウンロードできるかもしれません。
えちちコンロ
感想ありがとうございます!励みになります!
どしどしください! 待っています!