トライアド・シュークリーム 作:もちむぎ(はーめるんのすがた)
ミルキーサブウェイとアウトレイジを見ました。
そんな感じで思いついてます。
ミルキーサブウェイ、もっと見たいな。監督は一国を築けるくらい増殖してください。
街と街とを繋ぐ駅には、必然人も集まる。そうすれば商業施設等も出来るし、宿泊施設だって集まってくる。
そこは、決して高級ホテルではない。帰りの電車を逃した者、仕事の関係で使う者、色めき立った男女……様々な人間が使う。そういうホテルだった。
「……ここ?」
「んー……合ってる合ってる」
……2人の若者が、606号室の前で足を止めた。
いかにもその辺で遊んで来たというような……普通の服装だ。こういうホテルを逢瀬の最後に使ったとしても、何も可笑しい事はない。
「え、てか本当にこんなとこ教会の人泊まるんー?もっといいとこ泊まりそうじゃね?」
女性……ボニーがそう言いながら気だるげに自分の爪を見る。……ネイルの色が気に入らないのだろう。目を細めて小さく唸る。
隣に立つ、デリバリーの紙袋を持つ男……クライドは、やはり少しだるそうにため息をついた。面倒な仕事をさっさと終わらせて、帰って一杯やりたいのだ。
「知らね。金ないんだろ」
そう言って、しゃがみこんで扉の下に腕で影を落とす。……微かに、明かりが漏れてきている。どうやら獲物はいるようだ。
「いるわ」
「違ったらどーすんの?」
「いや、俺らバイトだし。居るっつったのあの人らでしょ」
「あー。確かにあっちがわりーわ。ちゃんと仕事してほしーよねー。吸血鬼って常識ねーわ」
「……俺らもその仲間入りだけどな」
そう話す2人の口には──犬歯と呼ぶには長く鋭い一対の牙が並んでいた。
クライドは紙袋を開き、中から荷物を引っ張り出す。シワの着いた紙袋には、ケチャップの血を流し、ヒヨコに食われるハンバーガーのマスコットが描かれている。
それに反し、出てきたのは黒いポリマー製の拳銃だった。名前は知らない。この仕事の意義と一緒で、どうでもよかった。
「ん」
「うい」
さもカップルがドライブスルーでそうするように──クライドはボニーに手渡す。2人とも軽くスライドを引き、薬室にきらめく物を確認してから軽くスライドを叩いて戻した。
「じゃお願いしまーす」
「ういーす」
──そのまま、2人はお世辞にもプライベートを保つのに十分とは言えないそのドアを撃ち始めた。
このホテルの客室はシンプルな作りだ。真っ直ぐ行って、寝室があるだけ。入って右手に3点ユニットバスがあるが、壁が薄いので使っていたら廊下に音が聞こえる。
なので、特に考えなくて良い。1、2発撃って、悲鳴がすれば飛び込んで狙いをつけ撃つ。
声がしないなら、特に考えずに蜂の巣にしてしまえば良い。そのうち死ぬだろう。
いつもそう。特に考えず生きてきて、いつもそこそこ上手くいってきた。
すぐに、2人は17+1発を全て撃ち切る。引き金を何回か引いていたボニーは、癖で予備弾倉を込め、
「死んだかな?」
スライドを引いた。
「ここまで撃って生きてたらキモいわ」
「ね。帰る?」
「いや、写真撮って送んねえと金貰えないし。……あーめんどくせ」
「ねー。自分で見ろよって感じ。バイトつれーわー」
2人は更に頼りなく、風通しの良くなったドアを軽く蹴破る。
……すぐに、部屋の奥、ベッドの側に倒れる黒いコート姿の女が見えた。おそらく死んでいるのだろうが、黒く厚いコートを着ていて、遠目にはどんな状態かわからない。
仮に生きていても、直に殺せばそれでいい。いつも通り。いつも通りなのだ。
「いたね」
「……なんで黒い服着てんだよ、わかりづれぇな。……白い服着てこいよ……。……俺見てくるわ」
「うぃー……。あっ帰りカフェ行こカフェ。深夜営業してるとこあんの。フラペ飲むべ」
「……いや俺酒飲みたいわ。あと飯」
手癖で弾倉を叩き込んでスライドを引き、クライドはドアの残骸を踏み越え部屋に片足を踏み込もうとする。その背中に声がかかった。
「……じゃーコンビニ寄るべ。チキン食べようチキン」
「オッケ。さっさと済ますわ」
携帯を見だしたボニーから目を離し、クライドは部屋に視線を戻す。
腹も減った、喉も乾いた。さっさと仕事を片付けたかった。
女が、起きていた。
「は?」
……目の前の光景を疑うより早く、女──教会の代理屋、ティビア=ルーガルーは弾き出されたように突進し、ボニーとクライドの頭を掴んで壁に叩きつけた。
──ボニーとクライドが状況を理解するのに、数秒を要した。一瞬遠のいていた意識は、自身の頭を締め付ける万力のような指に引き戻された。
「は!?は!?なに、何こいつ!?」
「クソッ、バケモンが!!」
先に動けたのはクライドだった。指で押し潰され眩む視界の中で、引き金をデタラメに女──ティビアに向けて引く。
つつがなく発射された弾丸は、まっすぐ忠実にティビアへ向けて進み──その皮膚に食い破ることすら無く、ひしゃげて地面に落ちていく。
「何なにナニ何!?なんなのこいつ!?」
悲鳴をあげつつある頭蓋骨に、ボニーの甲高い声ががんがんと響く。
今までこんなこと無かった。俺たちは上手くやってきたはずだ。おまけに、美味い仕事に吸血鬼の『血』まで手に入れたのだ。これから俺たちはもっと──
破れかぶれに撃っていた弾丸が、運良くティビアの右目に命中する。
「ッ!!」
咄嗟の反射で、手を離し目を押さえた。今しかない。もう金なんてどうだって良い。
「やべえぞ、逃げろボニー!!」
──決して賢くない2人だが、本能的にそれぞれ別れて逃げようとした。
相手は怪物1匹。今の自分たちの身体なら、一人ずつなら逃げられるはず。
そう考えたクライドの身体は廊下を走り出し、遅れて視界が正面を捉えた。
……気取った、仕立ての良いスーツ姿の、黒人の伊達男。鼻歌混じりに近づく男を、クライドは焦りと苛立ちに任せ、銃の底で横殴りに押しのけようとした。
違和感を、持つべきだった。彼の愚かしさは、命運を分けた。
自身の手に、伊達男──ウィル=クロカンブッシュが手を添えたと気がつくと同時。
ずぶ、と、腋の下に何か冷たいものが入り込む。
……知っている。飲んだくれのクソ親父が、俺の顔に傷をつけやがった時と同じだ。
すぐにじわじわと──冷たい刃の周りが熱くなり、その熱が滴り落ちた。
「……は?」
咄嗟の事に疑問を抱き、腕に力が入らなくなったのを知覚したのとほぼ同時、男──ウィルは素早くナイフを突き立てる。
喉笛、肝臓、肺、心臓。ほとんど同時に、それらが血を吹き出した。
失血による、急激な脱力。如何に吸血鬼であっても、重要器官の同時破壊はすぐには動けない。まして──ウィルの預かり知らぬ事だが、吸血鬼になりたてで、しかも半端な血の混じり方をしたクライドの肉体では、再生も覚束無い。
「
血の泡を吹き藻掻く愚かな吸血鬼を、ウィルは祝福を施した弾丸で灰に返した。
「……へ?」
逃げようとしたのとほぼ同時、ボニーは銃声に振り返った。振り返ってしまった。
今まさに撃ち殺され、人と違い死骸すら残らず灰と化したクライドの姿が、揺れている視界のピントを合わせる。すぐに、混乱と滲む涙が視界をぼやけさせた。
わからない。
わからない。どうすれば。
どうすればいいの、くらいど。
おにいちゃん
ずっと兄に、クライドに任せてきた。それが楽だったし、それを信頼していた。クソみたいな家を捨て、二人でやってきたのだ。やってこれていたはずなのに。いつも通りのはずなのに。
混乱の中、ボニーの身体は脳に比べて賢かった。すぐさまこの場を逃げ出し、かつこのホテル自体から最速で出て、隠れられる経路──すぐ側にあった窓をぶち破り、外へ飛び出していく。
「こんばんは」
──背筋をそっと撫でられるような、耳元に唇が触れるような、ぞっとする優しい声だった。
拒みたい現実の連続でかけられた、その甘く蕩けるような声に、ボニーは無意識で、空中で体ごと振り向いていた。
少年だった。壁に、それこそドラキュラ伯爵のように。しなやかな身体を預け、片脚の膝に頬杖をついて、当然のように腰掛けていた。
その手にはなにか骨のような質感の棒が握られていて、どうやらそれは自身の背後まで伸びているようだった。
──美しい少年だった。今までの人生で、見たことの無い人間だった。
ふと気がつくと天上に月が満ちていて、気持ちのよい夜風が吹いていた。驚く程、穏やかな夜が広がっている。
その風が少年の黄金色の髪をたなびかせ、少女のように愛らしく美しい顔が、笑みを作る。その瞳は紅く、今までクライドが、兄が向けてくれたような柔らかい笑みだった。
「……
緊張と恐怖を忘れるような、心の底にどろりと入り込むような、クリームのようになめらかな声。それに意識を奪われたボニーは──
──少年……アルノ=サントノーレが手にしていた鎌の刃が、既に首を半分ほど通過していた事にも気が付かなかった。
そのまま、何一つ気がつくことなく重力に任せて落下していき──ひとつの小さな灰の塊と、大きな灰の塊が街路に落ちていった。
「おいおい。大丈夫か?ルー」
……足元の灰を乗り越えて、ウィルは片目を押さえた友人の元に歩み寄る。その言葉と空気に、どうやらそこまでの心配は無いようだった。
「……すまない、しくじった」
……ティビアが顔から手を離すと、ひしゃげた弾丸は右目の瞼から剥がれて、床に転がっていく。瞼には、かすかに掠れた痕だけが、傷とも呼べない痕跡を残すばかりだった。
「気にすんな。……あーあ。右のまつ毛全部抜けてるぜ、ルー。しばらく表出れねえぞそれは。色んな意味で注目の的だ」
「えっ。……ぇあっ、な、なんということだ……そんな……」
軍服のコートから、手鏡を取り出す。お世辞にもかわいいとは言えない、丸っこい狼のマスコットが描かれていた。
己の惨状に青ざめる彼女をよそに、破られた窓からアルノは軽やかに廊下へ入ってくる。
「お前ずっと外にいたのか?下で待ってるんだと思ってたぜ」
「風が気持ちよかったし、月が綺麗だったから。もっと近くで見たかったんだ。……それにほら、ちゃんと仕事出来てたでしょ?言った通り出てきたし」
「確かにな。ギャンブルなら大勝ちだ。老後まで安心だぜ。……吸血鬼ってのは、そんなに満月がいいのかね。それにお前ダンピールだろ?もっと人に歩み寄れよ」
「うるさいなー。僕のは好みの問題なの!……後から吸血鬼になると、ついつい陽の光が恋しくなるんだよ。月の光なら焼けないしね。……それこそルーは遠吠えのひとつでもしたくなるんじゃない?ねえルー。……ルー?もしもし?」
アルノが振り返ると、ティビアはその大きな体を縮こまらせていた。その背には、先程までの怪物の姿は無いようだった。
「……私の、まつげが……」
「もー。可愛いつけまつげ買ってきてあげるから」
「それも良いが、たまにはお前ら俺のセンスで染まってみろよ。良いぜ?サングラス」
オレンジのサングラスを指で軽く押し、白い歯を剥いて笑うウィル。しかし、その顔はある気づきによって固められた。
「……どうすっか。この窓と部屋の惨状は……皿でも磨くか?」
「…………経費?経費で落ちる?」
「……3人でシスターに怒られよう。私は腹を括る……」
三人の目が、今や見る影もなく穴の空いた窓、扉、部屋、そしてティビアが凹ませた壁を満遍なく捉える。すぐに、地の底まで届きそうなため息に変わる。
心地のよい涼し気な夜風が、風通しの良くなったホテルの廊下を流れていった。
「……あっちゃ〜……バイトくんやられました。
少し離れた、ビルの屋上。そこから、ホテルを見つめるふたつの影があった。
「当たり前といえば当たり前ですわ。バイト程度、使い捨てですもの」
「わーきびしー。……いやでもなんの役にも立たなかったっすね。やっぱダメっすねー。その辺のを適当に雇うと……」
両手で双眼鏡のように輪を作っていた影が、ため息混じりに手を落とす。丁度給水塔が影を落とし、詳しい素性はわからない。声だけは両方とも女性で、どうやらひとりは傘を持っているようだった。
「下賎の血にハナから期待していませんもの。数打ちゃいいんですのよ。たまに当たりの
「言うっすねえ。いやー。でもまあ結果金は浮いたからラッキーすね!罠潰しにバイトくん達使う程度で済みましたし。帰りましょ」
「ええ。次も次も、その次も。削って削って、最後に立ってりゃこっちの勝ちですわ」
……ふたつの影が、そのままビル屋上から消えていく。跳ぶでもなく、落ちるでもなく。
夜の闇にそのまま溶けていった。
モブ敵の名前がそのまま過ぎます。そう思います。
あったかい感想をお待ちしてます。あっ温度感高いのはやめて前職でトラウマですあっあっ