トライアド・シュークリーム 作:もちむぎ(はーめるんのすがた)
タイトルをpixivと変えました。キング作品のシルバーバレットを読んだからです。
中身には特に関係ないです。
BB団はこういうお仕事でお金を稼いでいます。はっきり言ってクソです。
市街地を、かわいい黄色のデザインのバスが走っている。
珍しい事ではない。この国だって、人をバスが運ぶ。酪農家が家畜を運ぶように、人だって、運ばれる。
バスはなにかの施設用のようで、行き先が表示されるような循環バスとは違う。一直線にある所へ向かっていた。
バスには、運転手を除いて二人。
1人は黒髪で、人目で高級品とわかるドレスで着飾った、おしとやかそうな少女。
もうひとりは、パーカー姿で眼鏡をかけた大人しそうな茶髪の少女。
2人とも、それほど珍しくない格好だ。上流階級には未だドレスが根付いているし、パーカーを着た子どもだって、珍しくない。そういうふたりが一緒にいることも。そういう諸々の混沌を、国教会がなんとか纏めているのだから。
乗客が2人きりなこと。2人が一番後ろの席で、カーテンを閉め切っていることを除けば。
何も、珍しくないのだ。
程なくして、バスは教会が併設された国営孤児院のひとつ。その近くの、少し空いたスペースに止まった。丁度、ドライバーが休憩の為にバスを停めて良いポイントだった。
「エンジンは回しておきなさい。帰りにもたつくのはごめんですわ」
「お疲れ様っす。ちょっとかかるんで、寝ててもいいっすよ。その方が自然だし。……あー。絶対外寒いじゃないすか。やだなー」
運転手は小さく頷き、シートベルトを解いて少し深く座椅子によりかかる。アイドリングのまま、バスは停まっていた。
二人は、バスを降りた。
ざく。ざく。ざく。ざく。
降って間もない、さくさくと柔らかい雪を踏み締めて、二人──ルサンチカとアメリアは孤児院の正門に立つ。教会と併設されたその建物は、華美ではないが小洒落た造りで、安心感のある、柔らかい空気を持った造りだった。
すぐに、門の傍に詰めている守衛の警備員が顔を出す。
来客といえば教会関係者か、養子縁組で来る大人。あとはボランティアぐらいのものだ。
今日は来客予定もなく、2人ぐらいの年頃の少女が来るとは、考えにくい。警戒心そこあったものの、パッと見てなにか別の建物と間違えたのだろう。そう思った。
「どうかしましたか?」
「ここ、グラント孤児院で間違いないっすか?」
開口一番、アメリアは訊ねる。にこやかで柔らかい、人好きのする声だった。
「ええ、そうですけど。……珍しいなぁ、君たちみたいな若い子が……なんのご用事かな?」
「わたくし達、小さい子たちと遊んであげたいんですの」
「そうそう。読み聞かせとかお昼寝とか、大得意っすよ!」
「昼寝はあなたが好きなだけじゃありませんの。……いきなりでごめんなさい。入っても、よろしいかしら?」
「……いやあ。良い事だけど、ちゃんと話を通してからじゃなきゃ駄目だよ。事務局に連絡して、OKされたらまたおいで」
変わった子ども達だ。 そう思いつつも、ルサンチカの身なりの良さと二人の空気が、なにか事情があるか──例えば、世間知らずのお嬢様が、少しやんちゃな友だちと遊びに来たのだろう──少し感心していた彼は、そう判断した。
「ですって。残念だけど、しょうがないっすね」
「そうですわね。それなら仕方ありませんわね」
二人は顔を見合わせて笑う。歯をあまり見せない、品のある笑い方だった。
やっぱり、なんということはない。ちょっと変わった子どもが、大人に諭される。素直にそれを聞いた。それだけの、かわいいものだ。
無邪気なふたりの笑顔に、彼は肩に留めた無線機を思い出す。人の良い彼は、良い子達だと感じた彼女らを、事務局に繋げてあげようと思っていたのだ。
ざく。と。
アメリアの手が、警備員の喉に指を突き立てる。
三人とも、時を止めたように笑顔のままだった。
警備員は声を出すより、笑顔が驚愕に変わる前に。
喉の骨と血管、神経の束を抉られ、笑顔のまま雪中に崩れ落ちた。
一瞬の事だった。 雪に顔を埋めて崩れ落ちた警備員の下で、少し時間を空けてじわじわと、彼から流れ出た体温が雪を赤く染めて溶かしていった。
「いい人そうだし、一人くらい見逃してあげたのに。まあいいや。行きましょっか」
一人の老人を置いて、二人は建物に入っていく。 少しずつ、また雪が降り始めていた。
ルサンチカ・デ・ベルフェゴール。
アメリア・デ・ヴェルトロ。
彼女たちは、
国教会に弓引くもの。人の大敵。
『BB団』の、幹部である。
──────────
「いやー。広いし綺麗だし、いいとこっすね。いいなー。将来子ども産まれたらこういういいとこ通わせたいなー」
「学校じゃありませんのよ。貴女わかって言ってますの?」
──事務室のドアを開け、二人は廊下に出ようというところで少し立ち止まる。
「そういや、バイトくんたち上手くいったっすかね」
「さあ。道具なんですから、囮ぐらいはこなしてもらわないと困りますわ」
「うーん、期待できないっすね。今日のは特におバカでしたし!」
なんてことの無いように談笑する。
同時進行で、2、3人雇ったバイトをこの近くの商店で暴れさせていた。併設された教会の代理屋は、そちらにいるだろう。ここの代理屋が1人だけなのは把握している。
事務室は、つい先程までの騒ぎがうそのように静まり返っていた。全員が、力無く椅子に座っている。眠っているのでも、気絶しているのでもない。前面が赤く染った服がそれを物語っていた。
「思わぬ副収入っすね。お嬢の商売上手ー」
「……本当は道案内を残したかったかったのですけれど。まあ誤差ですわ誤差。切り替えていきますわよ」
「はーい」
二人は事務室を出て、廊下を歩いていく。
ルサンチカの手にあるカバンは、ファクトリー謹製の冷凍バッグになっている。事務員から失敬した売り物を手に、彼女たちは院内を歩き始めた。
そうやって、話して少し進んだ時だった。
静かな廊下の空気を音と熱が裂いて、はるか後方から小さな鉛の塊がアメリアの後頭部を射抜き──血と脳漿に濡れたそれを、反射的に彼女は掴まえた。
「
「あら」
2人が振り向くと、丁度事務室の前辺りに、一人の若い男が立っている。
まだ若い。20歳になるかならないかと言うところだ。そんな青年──この教会に雇われた『代理屋』ミゲルは、震える手で銃剣のついたライフルを構えている。まだ暖かな銃口は、薄く煙を吹いていた。
「お、お前ら……び、BB団だな!!ここの人達に何をした!?」
「何って……。今見てきたんでしょう?見てわかりませんでしたの?……あぁやだやだ。育ちの悪さが出ますわね」
「痛ったいな〜……いきなり人を撃っちゃいけないんすよ?お母さんに言われなかったっすか?」
二人のため息混じりのその言葉が。自身の、一番底を支える部分を踏みつけたその言葉が、ミゲルを却って落ち着かせた。それが彼が、若くして一人でここを──自身の育った場を任される所以だった。
……殺す。確実に殺さなければだめだ。ここで育つ家族を守る為に。
この二人は、ここで殺す。
──ミゲルが引き金に指をかけると同時。それを見ていたルサンチカは、相方に保冷バッグを投げ渡す。
「パス」
「ほいきた」
そして、ミゲルが彼女の心臓に狙いを定めて射抜こうとするのと同時に、得物の傘を手に駆け出した。
一。腕のそばを抜けていく。
二。微かな動揺でブレて、逆に避けた先で顔へ掠める。大した傷ではない。
三をミゲルが撃つ前に、ルサンチカは傘を振り上げる。素早く彼は自身の獲物を槍として、振り下ろされる一撃を受け止めた。
重い。そして速い。
先程相手取った雑魚とは違う。頭に登っていた血が全身に巡るにつれ、彼は彼女らが吸血鬼らしい服を──日を避けるような服を着ていない事に気がついた。
普通の吸血鬼ではない。
真祖に近い、貴族種。
それを認識しながらも、彼は攻防の手は緩めない。経験と責務がそうさせた。傘自体は、恐らく素材が凝っているだけの──
──攻撃を捌くうちに、一瞬ルサンチカのはためく黒髪の合間から、背後が見えた。
「ばっちこーい」
──認識した時には、既に遅かった。気の抜けたアメリアの声と共に、膝に蹴りが入る。
本来は曲がるはずの角度への蹴りが、弾丸のような真っ直ぐの蹴りが膝を撃ち抜く。人狼の血を微かに引き、並大抵の吸血鬼には傷のつけられないはずの鋼の脚は、アルミ箔のように破れた。
一瞬、思考が止まる。皆の顔が頭をよぎる。
決して、長い一瞬ではない。彼を咎めるものはいない。生き物なら当然の反射だ。
その程度の間だった。
その間を割いて、黒い高級品の傘が眼前に迫る。
腰の入ったスイングが目の前のボールを打ち抜き───廊下の果てに、何かが吹っ飛んで行った。
「ナイッショー」
「思っていたより
微かに血の着いた傘を、目の前に転がるミゲルの亡骸から拝借したハンカチでぬぐい去る。傘も、ましてアメリアも大した傷ではなかった。
「あー!いっけないんだー。人のものとったら泥棒っすよー。お嬢ハンカチ持ってるでしょー!」
「嫌ですわよ
「およ?」
……通りがかりの職員が、抱えていた書類を落とす。落としてしまった。
その音に振り返る2人と目が合う。静かに逃げれば十分間にあう距離だったが、不運な彼女は声を出せず、目の前の惨状と2人組を飲み込めずに固まっていた。
2人は顔を見合わせる。
道案内は、手に入りそうだ。
──────────
「いやー。良かった良かった。働き者の職員さんのおかげで、ちまちま仕事せずに済むっす」
「そうですわね。
……職員に先導させながら、2人は廊下を歩いている。
無論、何もなしに歩かせはしない。ルサンチカの左手が背中から一体化するように入り込み、肝臓に指を這わせ、逆らうようなら軽く食い込ませる。
丁度、手をはめて動かすパペットのようにして、職員を歩かせていた。
「あっ、ブルブラくんの絵があるっすよ。ちびっ子に人気あるんすねー」
「……何がいいのかわかりませんわ。あんな不細工な着ぐるみ」
「えー?デザイナーさんと、文字通りご
「それで出来るのがあれなら、えらく安い血ですこと……。……着きましたわね」
二人は目的の、遊戯室の前に到着する。ルサンチカの手が引き抜かれると、彼女は咄嗟に、ドアを開け皆と共に逃げようとした。それがどれだけ困難で非現実であろうとも、ここでの時間がそうさせた。
その背中から再び手が伸び、今度は心臓に指が触れる。
「なに助かる気でいるんですの。仕事は終わってませんわよ。……アメリア。あとは頼みますわ」
「あーい」
アメリアはドアに手をかける、操り人形は、それを見ていることしか出来なかった。
「みんなー!こんにちわー!」
底抜けの明るい声だった。ちょうど、ボランティアの学生が慣れない子供たちに親しみを持ってもらう為にするような。そんな声だった。
子どもたちは思い思いの遊びの中、急に現れた声に少し驚きの目を向ける。いつもは朝に話があってから人が来るのに。
「んー。いい子いい子!いやー教育って素敵っすね!……おねーさんは、皆を迎えに来たっす!ここにいるみんな、外にあるバスに着いてくるっすよ!」
必然、子どもたちは急な事にざわめく。当たり前だ。各々の幼い疑問が部屋を満たし、だんだん騒がしくなってくる。
アメリアは軽く握り拳を作り、笑顔のまま声を上げた。
「静粛に、せーしゅくに〜!こういう時はどうするのか、職員さんに教わらなかったっすか〜?」
一度火がついた子供は、そう簡単には黙らない。まして、明らかにアメリアは異質だった。そういう事を、教えられ、理解している子どもたちなのだ。
「んー。しゃあないっすね。脅かしたくないんすけど。……はいみんな注目、ちゅうもーく!!おねーさんの言うこと聞けない悪い子はどうなるか、今から職員さんが教えてくれるっすよ〜!!」
今度は、強く握り拳を作る。それを合図に、ルサンチカは右手にある哀れな人形を押して、部屋に入らせた。
異様な光景に、一斉に子どもたちは黙り込む。
いつも笑顔でいるはずの職員さんが、怯えている。その背中には腕が続き、絵本で見たお姫様のような人が繋がっていた。
「バスに乗るまでも、バスに乗ってからも!みんないい子で着いてくるんすよ〜!!いい子にしてないとー……」
アメリアは笑顔のまま、オーディエンスを眺めている。不自然な程に、優しい笑顔だった。
静まり返った部屋に、聞き慣れない空気を割るような音がした。
その音を発する、硬く握りこまれたそれはルサンチカの手にある職員に真っ直ぐ向かい──子どもが無邪気に人形を壊してしまうように。
「……こう!」
打ち抜かれた首が、髪で弧を描いて飛んで行った。
この日初めて、アメリアは返り血を顔に浴びた。
花が咲いたようなその笑顔は、眉ひとつ歪んでいなかった。
こわいですね。
あとサブタイトルこれもうスティール・ボール・ランじゃんと書き終えてから気が付きました。たまたまです。