トライアド・シュークリーム 作:もちむぎ(はーめるんのすがた)
BB団のお仕事編続きです。
BB団は倫理観ミジンコ以下なので、人の命がかかっててもこんな感じです。でも、こういう倫理観終わってる敵組織はちょっと好きです。ヨークシン編の幻影旅団も好きです。以降も好きですけどね。ヨークシンの雰囲気が好きです。
「……誰かさんが汚してくれたおかげで、結局着替え探しで時間食いましたわ。どうするんですの、今日の野球中継見逃したら」
「やー面目ないっす。一般的な職員さんの耐久性を見誤ってたっす。業務上過失致死ってやつっす」
……外からの印象を変える為、職員の制服を着た二人は、子どもたちと共に揺られている。道中で見た凄惨な有様に、もう誰も口を開こうとはしなかった。
逃げられるとも、思えなかった。
「……ん」
運転手──ベルベット・レ・ペデストロイカはサイドミラーを見やる。後ろを流れる車を縫って、見覚えのある影があった。
「お嬢、メガネ」
「なんすか……あっウノって言ってない!今言ってないっすよお嬢!!」
「だーっ、やかましいですわよ!!大体オンラインでウノを言うもなにも……なんですの」
「騎士団です。追ってきてます」
同時に2人が後方に視線をやる。──白馬に乗った、白銀の鎧を纏う騎士。
国教会の古びた処刑具、代理屋の影に隠れつつある存在──騎士団の一人が、バスを追っていた。
「呆れた。
「うひょー!ほらみんな見るっすよ!正義の味方のご登場っす!」
二人の言葉に、周囲はかすかに希望を見せた。騎士団の名前は知っている。今も国教会に属している、選りすぐりの騎士たちだ。絵本で見た、彼らなのだ。
「どうします」
「面倒ですわね。どうやっても足が着きますわ。このままマーケットにも行けませんし…………ちまちまやるだけ無駄ですわね。あなたは運転に集中なさい。走りながら考えましょう」
「了解。一旦街を出ます」
「よろしくてよ」
勤勉に、忠実にベルベットはアクセルを踏み込む。違法改造されたバスは、獣のごとき唸り声を上げ走り出した。
車体全体がけたたましいうなりを上げて、街路を走っていく。外の景色は忙しなく流れ、強烈なGがバスの中を抜けていき、3人を除く全員が椅子に押し付けられる。
ベルベットはアクセルを踏みしめ、バスはどんどん街を置き去りにしていく。
それを追う騎士は、自身の愛馬を軽く蹴り急かす。
街はみるみるうちに遠ざかっていく。それでも騎士は引こうとせずに齧り付く。その姿は獲物を追い、仕留めんとする獅子の如しであった。
「がんばれー!」
「たすけてー!」
「いけいけー!ここで負けたらかっちょ悪いっすよー!」
最後尾の席の子供たちに混じり、アメリアは熱い応援を送る。周りは気にする余裕もなかった。
「貴女どっちの味方ですの!!……ああもう。こんな事なら、あの代理屋の銃拾っておけば良かったですわ……」
「いや、うち火気厳禁なんで。やめてください」
「お黙りなさい!」
バカ真面目に答えるベルベットを軽くはたき、ルサンチカは自分が座っていた窓から外を見る。
……馬は勢いを衰えず、その引き締まった肉体を躍動させる。白銀のたてがみと騎士は、流星の如くバスを追ってきている。その差は、確かに縮まり始めた。
バスと馬はじりじりと距離を詰め、山間に突入する。急でこそないが、その坂は確かにバスの足を微かに遅めた。
騎士は、機を見逃さなかった。並々ならぬ鍛錬を詰んだのは彼だけではない。彼を載せる愛馬も、百戦錬磨の勇なのだ。
ここまで走っていてもなお、脚を溜めていた白銀の馬は、力強く舗装されたアスファルトを蹴り砕き、一気に詰めていく。
「ちょっと!馬相手に追いつかれてますわよ!?」
「もう限界まで踏んでます。これ以上は無理です」
あくまでも、ベルベットは冷静に返す。ここまであの錆の浮いた騎士が粘るとは思わなかった。彼女の耳は、自身の
「……これは乗ってきますね。小回りはあっちが上です」
「ちっ!ちょっとアメリア!いい加減……」
「ひゅーひゅー!かっちょいいっすー!行けー!負けろー!しねー!……あだだだだ!!髪!!髪はさすがにライン越えっす!!乙女の魂っす!!」
子どもたちも、自分たちを追う騎士の勇気が乗り移ったように、自分たちに混じったアメリアを蹴ったり髪を掴んだりして、懸命に応戦する。血は繋がらなくとも、家族の仇相手に皆戦い始めた。
迂闊に手を出して商品に傷もつけられないため、アメリアはもみくちゃにされていた。
「……何馬鹿な事やってるんですの!!!」
「お嬢。来ます」
瞬間、ついに騎士はバスに並ぶ。勇気ある誰かが開けた窓を足がかりに、騎士は鋼の獣の背に飛び乗った。
ずん、とバスが揺れる。鎧だけではない。鍛え上げられたその肉体が起こすその揺れが、凄まじい風圧がかかっているはずの天井を駆け抜け、迷うこと無く運転席を目指す。
「!」
一瞬早くベルベットが首を縮めると同時に、つい先程までそこに彼女が被っていた帽子が、轟音と共に屋根を貫いた剣に貫かれていた。
「……まずいですね」
「当たり前でしょう!!振り落としなさい!!」
「いや、このバススピード出てると下手に左右に振れないんです。横転します」
「なんで!?」
「趣味でドラッグレース用のエンジンを積みました。スピード重視で装甲も
「いらん事全部乗せしてくれましたわねこのバカ!!!」
もみくちゃにされていたアメリアは、やっとの事で子どもたちの塊から抜け出す。傷こそなかれ、どちらも疲労していた。
「ひ、酷い目にあったっす……眼鏡、眼鏡……。あれ?なんか屋根の風通し良くないっすか?」
何度か串刺しにされ、一部を切りつけられて外の強風が吹き込む天井から、風の轟音にも負けない力強い騎士の声が響き渡った。
「……全員シートベルトを付けて掴まれ!!」
一瞬の、驚くべき出来事だった。
ベルベットは、窓越しに剣が車体を貫くのを目撃した。
そして、その人の極致まで練り上げられた膂力が支えた投擲は、バスを地面と縫いとめた。 前方に突っ張り、バス全体が持ち上がりかける。
「!!やば……!!」
咄嗟に、アメリアは後方に手を伸ばす。自分達がわざわざ出張って手を汚してまで手に入れた商品を、無意識に手が追ったのだ。
その刹那。 天井にできた裂け目に、騎士の手が突き立てられる。3人が思わず見上げた時────バスの天井を力任せに引き裂いて飛び込んできた騎士の拳が、ちょうど子どもたちと三人の間に落ちる。
限界を超えた鍛錬と信仰に裏打ちされた剛力の拳が、バスを真っ二つに叩き割った。
後部が持ち上がる前に、切り落とされた前方部が、三人を乗せて宙を舞う。 子どもたちは、名も顔も知らぬ騎士の言葉通りにシートベルトや手すりに掴まっていた。
激しい揺れとともに、後部車体が叩きつけられる。騎士は子どもたちが投げ出される前に、割れた車体の間に入り込み、後半大部分を力づくで持ち上げ抑え込んでみせた。
その衝撃の全てを乗せて、ルサンチカたちを乗せた前方部は、ドラッグレースのスピードそのままに、崖から転がり落ちていった。
「───あー〜!!!バイトはクソの役にも立たないし!!服は汚れたし!!マーケットに流すはずの
「すみません」
「いやでもあれは向こうがおかしいっす。物理法則が乱れてるっす」
「黙らっしゃい!!」
───2日後。数多あるBB団のアジトのひとつで、アメリアとベルベットはルサンチカに詰められていた。
「幹部2人にドライバーまで用意して、あれだけ手間隙かけて金もかけた仕事の成果が、たった数人ぽっちの内臓しか売り物になりませんでしたわ!!おまけに野球中継は見逃したし!!」
「録画すれば良かったじゃないですか」
「あ゛ぁ!?」
「なんでもないです」
ベルベットの言葉に苛立ちを隠しきれず、ルサンチカは机を叩き壊して蹴り飛ばす。乗っていた新聞を引っ掴み、怒りの矛先とばかりに床へ叩きつけた。
「『騎士団長お手柄 孤児院を襲った悲劇』……いやー。あれだけ殺したのに一面はあの人なんすね。いやあ明るいニュースだなあ!!」
「刷っているのが騎士団直轄ですし。……団長か。道理で」
「道理もクソもあったもんじゃありませんわよ!!赤字も赤字、大赤字ですわ!!時代遅れの老害の分際で、わたくし達に恥をかかせるなんて!!いつか全員まとめて
ルサンチカは地団駄を踏み、床が軽く悲鳴をあげる。
一面には、騎士団長の活躍と、児童は怪我こそすれども全員生還。……そして、その影にある多数の死者への追悼文が記されていた。
こうして、BB団の仕事がまたひとつ、無辜の血を多く流し、無為に帰す形で失敗に終わったのであった。
冷静に考えるとお嬢は騒ぐばっかりで何もしてませんね。