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果たして、効果は覿面だった。
「ちょっ・・・ちょ、ちょっと待って!?」
「何を待つというんだ。私のこの気持ちはもう抑えられない」
「うえええっ?!いや、だってそんな急に・・・」
「急じゃないさ。ずっと前からそうだった」
「ずっと前からそうだったんだ?!」
目がぐるぐるしているエマ。
「今日一日、私も楽しかったが、そこには自分のわがままもあったのかもしれないと思ってね。自分本位で連れ回してしまったことに少し自責の念を感じていたんだ」
「えっ、それは!そんなことはないよっ・・・ないけど・・・!」
「それでなにかキミに不穏なものを感じさせてしまったのなら、それはきっと・・・私がこの気持ちを隠しきれていなかったのだろう。だからこの際、明かすことにした」
「え、ええっ・・・」
「キミは感受性が高い。そのせいで伝わってしまったのだろう?私のこの・・・恋心が」
「いや、それは・・・でも・・・あの・・・・・・そうなの、かな・・・?」
すらすらとそんなことを言うヒロ。
エマは明らかに呑み込み切れていないが、徐々に絆されつつある。
ヒロはその反応に手応えを感じる。
自分の吐いた
(彼女はその人の好い性格のせいで、そもそも己の手元に根拠とする材料が全く無ければ相手の言い分を強くは否定できない)
(つまり、他者からはどうしてもその可能性を否定しきれない【偽証】・・・心理的な
この局面では勢いが重要だと判断し、ヒロは畳みかけた。
「それとも、私がキミを好きだということに何か問題があるのかな?」
「それは・・・えっと、その、ヒロちゃんがボクを好きだ、ってことに・・・問題は・・・」
エマの脳裏にはきっと選択肢が浮かんだ事だろう。
【問題はある】
【問題はない】
ヒロから見て数瞬、しかし多分、エマの中ではかなり長い時間、葛藤があった。
そして、頬を赤らめた彼女の答えはといえば。
「ない、かな・・・?」
おずおずとエマはそう言った。
(・・・よし)
それは事実上の彼女の敗北を意味していた。
実のところ、それは正直、今のヒロとしてはどちらでも良かった。
そもそも、そこに悩んでいる時点でエマはヒロの術中に嵌っている。
エマはヒロが何か隠し事をしているという一点で疑っていたので、ヒロはそれをはぐらかすために「別の隠し事をしていた」という嘘をついた。
中身は突拍子もない内容の方が動揺させやすくて良い。
案の定エマはそっちの真偽に気を取られ、最初の方の気づきが本当にこの事についてだったのかという所まで気が回っていない。
ヒロの目論見通り、本題から目を逸らされたのだ。
(・・・それにしても話を誤魔化すためとはいえ、私は何を言ったんだ・・・)
ヒロはふと我に返って、今更ながらに思った。
(かつては永遠に嫌いだなどと言ってしまった口で、よくも言えたものだ)
などと自虐的に思いつつ、一方でヒロは少し戸惑う。
(おかしいな・・・私まで顔が熱い)
自分が思ったより平静でないことに気がついたのだった。
(誤解が解けた今、私はエマのことをもう嫌ってはいない・・・好きだというのも嘘じゃない。だがそれは・・・)
今のヒロは明らかにそういうニュアンスで言ったので、エマも完璧に固まっている。
狙い通りだったのだが・・・何故かヒロの方もこそばゆい感覚に苛まれていた。
エマがあまりにも本気にしているので、逆にその空気にあてられたのだろうか。
(本当に【偽証】・・・でいいのか?いやいや、落ち着け)
同姓同士の恋愛など「正しくない」と中学時代以前のヒロなら一刀両断していただろうが、ある程度見識を広めた今はそう言い切ってしまう事の方が正しくない、という理解はなくもない。
・・・ただ、それを自分に当てはめるかは別問題だ。
(しかしエマが問題ないと言うのならそれは実質・・・いやそもそも話を逸らすための策で内容は別に)
だんだん自分でなんの言い訳をしているのか分からなくなってきたヒロは、ぶんぶんと首を振って頭を冷やそうとした。
(いや、今このことを深く考えるのはよそう。なにか正しくない・・・なにかが
そんなヒロの内心の葛藤を知ってか知らずか、エマは上目遣いでこちらの様子を窺っていた。
撫でられ待ちの仔犬みたいなその顔を直視できなかったヒロは思わず顔を背け。
「ともかく、そういうことだ」
とだけ言う。
「そ、そうなんだ・・・ヒロちゃんって、そういうのもサラッと言えちゃうんだね・・・」
ついー、と同じように視線を横に滑らせながらエマもそう呟く。
なんとなくの気まずさが場を支配していたが、ヒロは自ら一旦それを振り切り、とにかくそれを利用して話を進めることにした。
「とにかく部屋は取ってあるんだ、そろそろ行こう」
「えぁっ?!へっ、部屋っ?!」
「カラオケに行こうと言っただろう?」
「あっ!!そっ、そうだよね!!」
顔を真っ赤にして何やら混乱中のエマは、先の疑いなどすっかり忘れて大人しくついてきてくれるようだった。
思わぬ舌戦を必要としたが、どうにか漕ぎつけたとヒロは判断する。
一先ず胸を撫で下ろしてから、気を取り直し。
――――さて、あとは。