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「蓮見てめっ、
「はっはっは!悔しければもう一曲勝負といくかい?」
「上等だ絶対に吠え面かかせてやる!!」
「あはは・・・主賓そっちのけでカラオケバトルは、どうなのかなあ~・・・?」
「ううん、ぜんぜん良いよ!むしろもっと聴きたいな!」
「あら、エマさんも歌って良いんですのよ?はい次どうぞ」
「ええっ、ど、どうしようかな・・・?」
「いやあ~有名タレントの生歌が聴けるとは。ファンなら感涙モノでしょうね!」
「ふ、シェリーくんも感動してくれたのかい?」
「はい、感動している
「んぐ、本当に君というやつは・・・!」
「歌で心が動く奴じゃねーですわよ、このお方は」
「誰がド級モンスター音痴ですかー!」
「言ってませんわ」
エマの周囲はとても賑やかで、実に楽しげだ。
ヒロは、それを端っこの席で眺めていた。
そして自分と同じ側には自然と、およそそういう騒ぎの方を好まない面々が座っている。
マーゴ、ノア、アンアン、ココ、ナノカの五人だ。
(牢屋敷でもこんな分かれ方をしていたな、懐かしい)
平常ならアリサもここに並んでいそうだが、今の彼女はレイアに焚きつけられて完全に燃え上がっていた。
同じく普段はこちら側のミリアがそれとなくその間で緩衝材を担っているあたり、こういう場での空気の読み方は流石といったところか。
レイアは明らかに自分が歌を披露したくて、またその場に適度な盛り上がりが欲しくてやっているのだが、まあ、宴の華は煌びやかな方が良いとも言える。
(私ではどうにも格式ばった進行になってしまうからな。適材適所だろう)
企画者のヒロとしては、彼女たちが楽しくやっているのを眺めていられるのは実に微笑ましかった。
しかしそれとは別に、ヒロには先程から気になっていることがあった。
「何故みんな私と目が合うとニヤニヤするんだ?」
部屋に入ってエマを祝った面々。
そんな彼女たちは、何故か決まってその次に後ろにいるヒロの方を見やり、皆同じような顔をしたのである。
それは少し時間が経った今になっても、顔を合わせるたびに同様だ。
今日の主役はエマだろうに、とヒロはそのたびに首を傾げていた。
言いながら、近くの面子を見やる。
するとその視線を受けたココは、再び口端をにんまりと吊り上げた。
「いや~・・・だって、そりゃあ、ねえ?」
「・・・ん、ん。私からはノーコメントとさせて貰うわ」
思わせぶりに目配せをしてみせるココと、なんだかわざとらしい咳払いを挟んでそんなことを言うナノカ。
不可解な反応だ。
それそのものに悪質さのようなものは感じられなかったが、かといってあまり気持ちの良いものでもなかったので、怪訝な顔をするヒロ。
果ては、服か髪にゴミでもついているのだろうか。
ヒロがそう勘ぐって自分を調べ始めたあたりで、何者かに、くい、と袖口を引っ張られた。
振り向くと、そこにはアンアンがいる。
何故かどことなくドヤ顔をしている彼女は、ひょいと慣れた仕草で手に持ったものをヒロに見せてくる。
彼女の声量では何を言っても部屋内の喧噪に掻き消されてしまうので、その対策なのだろう、アンアンはいつものスケッチブックを持参してきていた。
そして、そこに書かれている文字はこうだ。
『おめでとう』
「は?」
なにがだ、とヒロは本気で困惑する。
今日が誕生日なのはエマで、ヒロはなにを祝われる覚えもないのだが。
そんなヒロの反応も想定済みだったようで、アンアンは既に書いておいたらしい次のページをめくってみせる。
『マーゴに訊け。奴が主犯だからな』
「主犯・・・?」
この場ではおよそ聞くとは思っていなかったワードに、ヒロは疑問符を浮かべるばかり。
ほくそ笑むアンアンは言いたいことは言ったとばかりに頷いているので、分かった上で楽しんでいるらしい。
一応、手がかりをくれただけ由とするべきか。
「・・・とりあえず分かった、マーゴに訊けば分かるんだな。ありがとう」
「あ、まて」
口の形だけでアンアンがそう言ったのが分かったので、席を移動しようとしていた姿勢から向き直るヒロ。
彼女はその後もなにか喋ろうとして、途中から案の定よく聞き取れないと分かったのか、急いで次のページに何事かを書き殴り、ずいとそれを見せてくる。
『ついでにミリアにわがはいが呼んでいたと伝えてくれ。あとでエマのやつに一緒にイタズラを仕掛ける約束をしているんだ』
「あ、ああ・・・内容は知らないが、ほどほどにな・・・?」
『ノアのお墨付きだ』
ニヤリ、と笑うアンアン。
アンアンの悪戯を遠因として大変酷い目に遭ったことのあるヒロとしては、エマが気の毒というか、内心戦々恐々とする話なのだった。
とりあえずアンアンの助言に従ったヒロは、マーゴとミリアの傍ににじり寄っていき、声をかけようとした。
皆の視線と態度が妙に生温かいものである、その主犯らしい彼女への質問のためである。
「あら、おめでとうヒロちゃん」
しかし気づかれた途端に同じことを言われて、ヒロは額を押さえる。
どう見ても、ヒロの反応を楽しむためにわざと言っている。
隣にいたミリアも気まずそうながらも苦笑いを浮かべるので、事情は知っているらしい。
「ちょっと待て、マーゴ、説明してくれ。みんなして、一体何の話をしているんだ?」
「あらあら、誰も教えてくれなかったの?」
「キミが主犯だそうだ」
「主犯だなんて、ひどいわ。私は降って湧いた幸運を手放さなかっただけよ」
「・・・良いから本題を言え」
「うふふ、焦らないの」
焦らしている側が言うと腹立たしいが、ここは我慢だ。
ヒロが目を細めていると、マーゴはその前に、とまだ前置きを挟む。
「エマちゃんとのデート、楽しかったかしら?」
「・・・・・・表現にはいくらか訂正を必要とするが、一旦、ああ、と返答しておこう」
「ふふ、それは良かった。ここまでエマちゃんを誘導したこともお疲れ様。それでね」
マーゴは頷いて、ようやく事の真相を語り始めた。
「あの時、お互いに確認の電話をしたでしょう?」
それはエマが離れているうちにヒロがかけた電話のことだ、と思い当たる。
カラオケ店での全員集合と部屋の飾り付けが滞りなく進んでいるかどうか。
そして、ヒロがちゃんとエマを連れてこられそうかどうか。
レイア相手だとなんだか大仰な物言いの解釈で時間を取られる気がしたので、事務的なやり取りに終始するためにヒロはマーゴに連絡をした。
そして飾り付けは滞りないが、一部の到着が遅れるかもしれないとのことで時間を調節しようと会話したのを覚えている。
そしてそこへエマがやってきたので、ヒロは最低限の伝達は済んだと話を切り上げたのだが。
その経緯を思い出しながら頷き返すと、マーゴは実に楽しそうに言った。
「あの時、あなたは通話を切り忘れていたのよ」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
「・・・・・・・・・なんだって?」
「しかも途中でスピーカーに切り替えてね。おかげでエマちゃんの声もはっきり聞こえたわ♡」
咄嗟にスマホをポケットに突っ込んだ時、終話のボタンを押したつもりだった。
だが、途中で対話を打ち切るという慣れない動作だったためか、誤って違うボタンを押してしまっていたらしい。
「・・・そちらからは、切らなかったのか?」
「ええ。むしろ途中からはこっちもみんなに聞こえるようにしたわ。マイクはミュートよ」
「・・・一応訊くが、何故そんなことを?」
「うふふ、そうね。主犯だなんて言われるとしたらその事でしょうね・・・だって面白そうだったんだもの。そして実際・・・ね?」
そして、その含み笑いである。
それでは彼女たちがヒロのことを見て何故誰もが意味深な反応をするのかは、自明だ。
その後の会話までスマホ越しでずっと聞こえていたのなら、そう。
ヒロからエマへの告白の一部始終も、彼女たちには筒抜けだったのだ。
流石に、絶句せざるを得なかった。
「えーっと・・・ご、ごめんね~ヒロちゃん。偶発的な盗み聞きは法律では盗聴にはあたらないんだけど、もしプライバシーの侵害を訴えるなら、おじさんも相談に乗るからさ・・・」
「・・・ありがとうミリア。考えておこう・・・」
こういう時はミリアの心遣いが頼もしく、そして同時に心に刺さりもする。
マーゴはくすくす笑っている。
「あら怖い。でも罪作りなのはむしろヒロちゃんの方じゃないかしら?」
「なに?」
「誰彼構わず愛を囁くだなんて・・・ねえ?」
「・・・誤解だ、マーゴ」
かつてマーゴに対しても似たようなことを口にした事を思い出し、ヒロは呻いた。
あの時とは状況も理由も違うし、マーゴも明らかに承知の上で言っている。
ただそれもまた必要悪だったのだから、という言い訳をヒロが口にするのは、それこそ少し、罪深い気もした。
「あら、それじゃ私とのことは遊びだったのね、哀しいわ・・・」
「いやそれは・・・マーゴ・・・」
「ふふ、冗談よ♡」
弱った声を上げるヒロを見て満足したのか、マーゴはころりと表情を変えて微笑んでいた。
「・・・・・・ちなみに法律上は二股も罪には問われません・・・」
「・・・誤解だ、ミリア」