ヒロ曰くエマの日   作:緋色鈴

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宴の後に答え合わせを

 

◆◆◆

 

楽しい時間は、楽しい時間だったからこそ、あっという間で。

 

数刻を経てエマの誕生日会は終わり、そこで皆とは解散となったのだった。

 

彼女たちとの再会で満たされた気持ちはあったものの、当然名残惜しい思いもあった。

そして、彼女たちにはそれも筒抜けだったようで。

去り際の別れの挨拶に、誰もが笑顔と共に「また」と付け加えてくれたのが、エマは何より嬉しかった。

 

 

そうしてエマは店を出て、すっかり夜となった外を、ヒロと共に歩いていた。

 

「楽しかったね、ヒロちゃん!」

「ああ。それなら良かったよ」

 

ヒロが然りと頷き返してくれる。

最寄りの駅までヒロは付き添ってくれるとのことだった。

 

「でもヒロちゃんの帰り道って、こっちじゃないよね?」

「女学生が夜道を一人で歩くのは正しくない」

「ボクも今日で同い年になったのに・・・」

「エマは危なっかしいからね」

 

当たり前のように言うヒロに、エマは「そ、そうかな」と頬を掻く。

ヒロのそういうところは、相変わらずだった。

とはいえその物言いを甘んじて受け入れてしまうのは、また一方でエマの相変わらずなところでもある。

 

「でも、ほんとに、みんなに会えて嬉しかったな・・・みんな元気そうだったよね?」

「ああ、私もそう思うよ」

「良かった」

 

エマは気を良くして、手の平を合わせながら今日の感想を口にしていく。

 

「アリサちゃんがあんなに歌上手かったなんて思わなかったなぁ」

「ああ。とはいえ彼女は納得いかなかったようだが」

「あはは。レイアちゃんに対抗意識を燃やしちゃうだけ凄いよ」

「言えている」

 

ヒロも口端を上げて笑ってくれる。

 

「また会えるかな?」

「ああ・・・と言っても、次の幹事はハンナに任せるけれどね。みんなでお茶会がまだだと意気込んでいたから」

「わあ、楽しみ!ヒロちゃんも来てくれるんだよね?」

「それは、もちろん」

 

ヒロがそう言ってくれて、本当に安心した。

彼女達との絆はエマにとって、きっと自分が思っているよりもさらにずっと、大切なものだから。

そしてそれはヒロにも、また。

 

暫しの沈黙があってから。

エマはふと、ヒロを呼んだ。

 

「あのね、ヒロちゃん」

 

 

◆◆◆

 

呼びかけられて、ヒロはエマを見やる。

すると話を切り出した側であるはずの彼女は、何故か目を泳がせた後、誤魔化すように笑って言った。

 

「あ、その、えっと・・・ア、アンアンちゃんのドッキリには・・・びっくりしちゃったね」

「・・・ああ、なんというか、それも相変わらずだったな」

 

それは先の話題の続きで。

そのことを思い出して呆れ混じりにそう言ったヒロに、エマも苦笑している。

洒落にならない類のたちの悪い冗談をかましたアンアンの所業に、案の定エマは肝を潰していた。

ミリア監修のおかげで、アレでまだしも穏便だったらしいというのが始末に負えない。

本人から事前に聞いていなければ、あるいは多少やんちゃが許される宴の空気でなければ、ヒロは本気で説教をしたかもしれない。

 

「でもそれも、パーティの出し物のつもりでやってくれたなら・・・その、嫌われてはないみたいで、良かったなって」

「なんの心配だ。誕生日祝いまで来ておいてそんな人はいないよ」

「うん、そうかもしれないけど」

 

しかし聞けば、アンアンには一度()()を抱かれたこともあるのだそうで。

どうして恨まれ、どうして殺されずに済んだのか。

いまどきの女子が語るにはあまりに剣呑な思い出話をしながら、エマは淡く笑う。

 

耳の痛い話だった。

 

「・・・ボクたちの関係って、不思議だよね」

「え?」

 

一瞬どきりとしてヒロはそちらを見やるが、それは思い過ごしだった。

 

「誰かが誰かを・・・恨んで、恨まれて、憎んで、憎まれて・・・殺して、殺されたのに。みんな生きて、みんなで笑えるなんて」

 

嗚呼、とヒロは音なく息を吐いて、そして頷く。

まったく、同感だ。

そして、反感もある。

 

「皆、分かっているさ」

「うん」

「それに、()()()()じゃなかった。そうだろう?」

「・・・うん。そうだよね」

 

皆の魔法が折り重なって、今は皆の記憶にだけ残る、あったはずの時間。

そこで生まれたのは決して、悲劇だけじゃなかった。

 

エマは自分が励まされてばかりだとでも思ったのか、何か意気込むように先を続ける。

 

「あとね、こうしてこんなこと話せるのもヒロちゃんのおかげなんだって、今は知ってる。みんな感謝してるんだよ」

「それは実行者がたまたま私だったというだけだ。そして私がそう在れたのは、皆のおかげだった。私こそ皆に感謝している」

「ヒロちゃんてば・・・」

 

エマは謙遜だと受け取ったらしいが、それは純然たるヒロの本心だった。

皆と出会っていなければ、今ここに自分はいない。

エマがそれでいいと言ってくれなければ、ヒロはここにはいられなかった。

励まされ、救われて、そしてそのことに感謝しているのは、間違いなく、ヒロの方だった。

 

そうして、また少しの間があって。

 

「あのね、ヒロちゃん」

「うん?」

 

先と同じニュアンスで、エマが再び口を開いた。

今度の彼女は、ふっと口端を緩めつつ、その先を紡ぐ。

 

「今日は本当にありがとう」

「・・・どういたしまして」

「すごく嬉しかった」

「なんだ、畏まって」

「うん、ちゃんと言葉にしておかないとって思って」

 

少し恥ずかしそうに、エマは言う。

きちんと感謝を伝えることはなるほど、正しいことだ。

それならヒロも、何故か少し面映ゆい気持ちになっているとしても、きちんと聞き届けるのが正しい姿勢だと思った。

 

そしてエマが言いたいことはそれではなく、なんならこれまで全部の話題が長い前置きなのだということも、なんとなく分かっていた。

 

「・・・嬉しかったのはね、今日一緒にお出かけしてくれたことと」

「ああ」

「もちろん、とびきりの誕生日プレゼントを用意してくれてたこと」

「うん」

「それに・・・」

 

僅かに、上目遣いになって。

 

「――――好きって言ってくれたこと」

 

ヒロは自分がどんな表情を浮かべるのが正しいのか、まったく分からなかった。

そして結局どんな表情をしたのかも、まったく分かっていなかった。

 

何故ならその台詞は確かにその時は、嘘のつもりで吐いて。

最初にどうしてもそんな苦い想いが湧き出してしまう一方で、今こうしてエマと視線を交わして、改めて思うこともある。

別に迷うことはなかったのかもしれない、と。

本当に嘘なのかという問いに、今なら答えが出せる気がした。

 

「だからね、これもちゃんと言葉にするよ」

 

嘘も貫き通せば真実。

それはもともとヒロの持論でもある。

 

「ボクは――――」

 

それなら、それは。

真実になっても構わないか、という気がしたのだった。

 

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