神様の言う通り   作:ジム・クゥエル

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続き(のようなもの)

前日譚


神様は斯く語りき

私の名は、麻葉 雷光。

 

しがないメシア教徒だ。

 

と言っても、メシア教会の唯一神を信仰してはいない。

 

別に神さまなんか居ない、と言っている訳ではない。

 

血筋がら、幼少期から魔性のモノの存在を視てきたし、なんだかんだ世の中科学で説明できないことも多い。

 

宇宙を創ったのは神さま、とは思っていないが、何かしら人知を超えた強大なナニカが、何処かには存在するのだろうとは考えていた。

 

それをメシア教徒が「神」と呼ぶのかどうかは、私は知らないが。

 

 

メシア教会とは、その名の通り『メシア』つまり救世主到来による世界秩序の再構築と、それによって人々(メシア教徒)を救済してくれる『メシア教唯一神』の存在と、その御詞を教義として信仰・崇拝する、カルト―――失礼、新興宗教である。

 

解り易く説明すると、

 

『ウチの神さま超すげぇ!!これから逆らう奴ら全員ブッ○して行こうぜ!!教』である。

 

………多分、あまり間違ってはいないと思う。

 

 

さて、最初に言った通り、私はメシア教徒である。

 

しかし、私はメシア教会の神も、メシアも、教義も、何一つとして理解できていないし、信じてもいない。

 

ならば、何故信じてもいない宗教団体に所属しているのか、と言えば。

 

恥ずかしながら、金銭の為である。

 

 

今から遡ること数年。

 

私は高校進学に際して、進学費用の工面に難儀していた。

 

どうにか学力の担保はできたが、ウチの実家は借金まみれで、両親は全く当てにできなかった。

 

と言うか、それ以前に、両親との折り合いも悪く、頼りたくなかった。

 

だから、私は平日日中に働きながら通える、定時制や通信制の学校を探していた。

 

そんな折りに、中学の担当教諭から紹介されたのが、東京にある『品川区メシア神学校』だった。

 

男女共学、全寮制で、高い就職率を誇ると言う。

 

だが何より私の目を惹いたのは、『条件を充たした受験生は、受験費用及び合格後の入学費用が無料』と言うところだった。

 

条件の内容は、

 

 

1:受験希望者は必ず品川メシア教会に連絡し、入信手続き(無料)を済ませること。

 

2:合格後、新入生はすべからく寮に入り、卒業までの3~4年間、外界との接触を絶つこと。

 

3:在校生は毎年、メシア品川教区で開講される『脳開発セミナー』を受講すること。

 

 

いや、メシア教徒の私が言うのも何だが、かなり怪しい話だと思う。

 

ただ調べてみると、学校そのものは確かに存在し、行政の認可を受けているらしいこと。

 

実際に条件さえ充たせば、学費の殆どが無料であることが確認できた。

 

 

胡散臭ぇえ………

 

怪しさと胡散臭さが、地雷源で手招きしながらタップダンスをしているのが容易に想像できた。

 

なんだよ『脳開発セミナー』って………

 

 

しかし当時の私は切迫詰まっていた。

 

金に汚い祖父母に、家庭を省みない両親。借金で回らない首。

 

何より、私にしか見えない、怪異。

 

火の粉の払い方だけが上達していく生活の中、初めて見えた希望………らしきもの。

 

すがりたくなった。文字通り、神様に。

 

 

今にして思えば、絶対に止めておくべきだった。

 

タダより高いものは無い。

 

旨い話には、必ず裏があるものなのだから。

 

 

入学手続きは非常にスムーズに行えた。

 

父母は金が掛からないと分かると、あっさりと願書にサインをした。

 

メシア教会の窓口も、『やけに』親身にアナウンスしてくれたし、学校側の後押しもあった。

 

受験も成績は充分で、ストレートに合格。

 

誘引の仕方に若干の強引さこそ感じたが、家から離れられるということも相まって、渡りに船だった。

 

入学後、しばらくは普通だった。

 

受験前の説明通り、学校は品川メシア教区内に敷地があり、寮もその中に含まれていた。

 

周囲の同級生達は、幼稚園・小学校からの持ち上がりがほとんどで、高校から編入した私は物珍し気に見られた。

 

学外に出られないことに不便を覚えたが、それに不満を感じるほどのストレスは無かった。

 

授業の内容も、もっと恣意的なものが含まれるかと思ったが、少なくとも私が自覚できるほどの何かは感じなかった。

 

 

ただ、不穏なものが一切無かった訳でもない。

 

 

私が学校見学をして、先ず感じたことは、「清潔な校舎だな」と言う印象だった。

 

それが実際に入学してみて、あまりに「清潔過ぎる」と感じるようになった。

 

床のビニールフロアは常にワックス掛けされているようにてらてらと艶めいていたし、窓ガラスなどには曇り一つ、指紋一つ無い。

 

天井に蜘蛛の巣の一つも有りそうなものだがそれも無く、空気には埃一つ浮かんでいない。

 

毎日多くの生徒や教職員が生活しているのにも係わらず、まるで生活感を感じない。

 

何より、それだけ美観を徹底して維持しているのに、私たち生徒は誰が清掃を行っているのか見たことがない。

 

学年主任の先生に訪ねても、「学校が契約している業者が行っているのではないか?」と、あやふやな返答が返ってくるのみだった。

 

 

清潔、と言うなら、霊的な面でもそうだ。

 

当時の私のレベルを数値化するならだいたい5~8くらいだったろうか。

 

幼少期から悪魔の存在を知覚できてしまった私は、生きる為に自らを鍛えねばならなかった。

 

今、思い出しても恐ろしい。

 

人喰いランドセルに、日本刀を持った自転車男、赤い靴の少女、赤いマントの怪人、はたもんばの妖刀。

 

花子さん、ブキミちゃん、テケテケ、ターボばあちゃん。頻繁に背後から奇襲してくる口裂け女の群れ………

 

私は自衛の為、学校の体育館で、ドリブルお化けを退治してレベルを上げていたが、夜道だけは絶対に出歩かなかった。

 

普通、学校や病院など人が集団で生活する閉鎖空間には、雑霊や不成仏霊の10や20は必ず見かけるものだと思っていたが。

 

進学してからと言うもの、霊障や怪異を直接目にすることは無く。

 

まるでキャンパスを無理矢理に白く塗り潰したような、奇妙な居心地の悪さを感じた。

 

 

それと、讃美歌だ。

 

校舎内に居ると、時折、音楽室から、視聴覚室から、教室のスピーカーから、讃美歌が聴こえてくることがある。

 

とある同級生は「聞こえない」と言い、とある同級生は「綺麗な声が聴こえる」と言う。

 

上級生の多くは聴こえるらしく、「聴いていると穏やかな気持ちになる」「勉強に集中できるようになる」と言う。

 

私はどうにも好きになれなかった。

 

別に歌声そのものが嫌いなのではなく。

 

なんと言うか、説明は難しいのだが、聴いていると頭の芯が痺れると言うか、神経の一本一本を指先で丹念に解されているような気持ち悪さを感じて。

 

眩暈がして、何度か倒れそうになった。

 

胃の奥が“えずく”のだ。

 

 

そんな訳で、私の新生活は、決して悪くはないのだが、目に見えない、得体の知れない「ナニか」が水面下で蠢いているような、不可解な静けさと共に、緩やかにスタートしたのだった。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「これが………年の新入生………リスト………ね」

 

「」

 

「………例………んに………べて、やはり………」

 

「マグ……………少…………カス………」

 

「」

 

「待て………一人………ストレス値………安定…いる生徒………」

 

「誰だ…………ああ、あの………」

 

「」

 

「編入組………カジュアリティーズ………素養の高い………はい」

 

「これは………ろい………セミナーも………」

 

「良いモザイクが………計画も………確かに」

 

「」

 

「はい…………そのように………必ず………」

 

「聖体拝領の…………んびを………」

 

 

 

 

「―――――麻葉 雷光」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

訳がわからない。

 

今、目の前で起こっているコレは現実なのか?

 

3時間前まで、行くべきか行かざるべきか迷っていた自分を絞め殺してやりたい。

 

来るべきではなかった。

 

最初から嫌な予感はしていた。

 

入学以前から決まっていた義務だからと、無理矢理に自分を納得させて。

 

しかし、やっぱり、断ればよかった。

 

たとえそれで学校を辞めさせられたとしても。

 

 

講演会は、万雷の拍手に包まれ、ボルテージは最高潮に達している。

 

参加者の皆は満面の、心からの笑顔。笑顔。笑顔。

 

私だけが、涙を流している。

 

感動から?

 

いいや、恐怖で。

 

あるいは、現実からの逃避。

 

 

皆、あれが見えないのか?

 

見えているのは、私だけ?

 

いや、私にも見えない。

 

少なくとも、その全ては。

 

 

それは光輝いていた。

 

眩しく、真っ黒に。

 

大きく、小さく。

 

収縮し、膨張し。

 

うねうねと蠢いて。

 

よく見えない。見たくない。

 

それは清廉で。

 

潔白で。

 

豪奢で。

 

可憐で。

 

絢爛で。

 

美しく。

 

死にたくなる。

 

吐き気がする。

 

眩暈。

 

耳鳴り。

 

頭痛。

 

混迷。

 

止まらない。

 

涙が止まらない。

 

呼吸が、できない。

 

 

空間が吸い寄せられる。

 

空気が。熱が。参加者達の呼気が。

 

会場の霊が、マグネタイトが。

 

それはまるで、全身を使って世界を喰らっているような。

 

錯覚、事実。

 

わからない。何も。

 

 

もう見たくない。

 

目を背けたい。閉じたい。

 

それができないなら、いっそ気絶してしまいたい。

 

 

逃げたい。逃げ出したい。

 

逃げるべきだ。今すぐ。

 

だけど、無理。

 

逃げられない。

 

だって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視られているから。最初から。

 

 

 

 

それと視線が絡んだ瞬間、私は動けなくなってしまった。

 

蛇に睨まれた蛙?

 

いいや、違う。

 

蛇も蛙も、より高次の生物の前では、所詮同じ土俵の生き物だ。

 

あれと私は、人間は、同じ土俵には立てない。

 

もし対等に列べる人間がいるとしたら。

 

それはもう、人間では、ない。

 

 

 

『動◼な』

 

 

 

声無き声が、空間に響く。

 

少女のような、小鳥のような、聖者の囀り。

 

それが私に向かって発しているのだと。

 

そう気付いた瞬間。

 

口の中に、ナニかが押し入ってきた。

 

それは大人の腕よりも太く、髪の毛よりも繊細に。

 

口から、耳朶から。

 

全身の孔と言う孔から針のように突き刺さり、体内に侵入してきた。

 

それは恐らくは、舌だったのだろう。

 

芳しく、艶かしく、おぞましい。

 

てらてらと、ぬらぬらと滴り、私の肉体を内側から冒してゆく。

 

眼球、咽喉、乳房、肺、心臓、胎内、性器。

 

大脳、前頭葉、海馬、髄、神経の一本まで。

 

なぞるように、こそぐように、私の隅々まで舐めとってゆく。

 

そして、吸われてゆく。

 

奪われてゆく。

 

代わりに私を満たしてゆく。

 

髄喜、快美感、多幸感、喜悦。

 

吸われ、奪われる、その代わりに。

 

私の中に、得体の知れない熱を残してゆく。

 

拒めない。

 

ゆっくりと、しかし確実に。

 

私は、自分がナニか別のモノに作り替えられていることを覚った。

 

 

 

『キミ は 天使/アクマ に なるんだ』

 

 

 

その言葉を聴き、私の意識は深い眠りに堕ちた。

 

やっと解放される―――

 

そんな安堵が、私を包み、受けとめた。

 

 

本当は何一つとして始まってすらいなかったと、この時の私は思いもしていなかった。

 

 

 

――――――――――――――――――――




モザイク

人造人間やデモノイドに近い、人工生命体。

先天的に霊的素養の高い人間に、高位の天使の霊基を重ねて作り替える。

『製造』された元人間は、人間としての意識を残したまま、より高い霊性を獲得できる。

所謂『守護』が降りたifのヒロイン'sような状態。

メシア教会に都合が良い人材を創る手段の一つ。
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