とある山奥。夜に蠢く存在がいる。
それはヒトではなく、悍ましい、この世に居てはならない怪物だった。
よく見れば、その生き物の足元───足かはわからない。翼で飛び、触手を伸ばしている───に、人が倒れている。
怪物に襲われたのだろう。脳漿をぶち撒け、四肢はあらぬ方向に曲がっている。
既に、事切れている。
「なにしとんねんこの
青年が怪物の前に立ち塞がる。
子供から大人に差し掛かる、少し幼さも残る男だった。
「
その相貌には怒りが張り付いている。盛り上がった筋肉も相まって金剛力士像のようだ。
「分かり合おうとは言わない。失われた命がある以上許せないが、逃げるなら我慢する」
怒りを全身で発露させていながらも、青年は冷静に怪物に呼びかけた。
キキ、グチャ。怪物は次の獲物を見定めている。青年の話など聞いていない。
「………まあ、宇宙人に言っても通じねえか」
───怪物が襲いかかる。
肉食獣のような素早さ。触手で、或いは別の凶器によって青年は襲われるだろう。
そして、死ぬのだ。既に転がる亡骸のように。
───瞬間、怪物の身体が千切れる。
「仕事だ。お前達を
その後、山は燃えた。木々は全焼し、山頂部はあろうことか爆発し一部が消失した。
警察は放火、及び
「何度も言いますが、後処理はもう少し気をつけてください」
「手加減しようものなら何をされるかわからん。俺も気を付けてはいるんだが………」
「貴方の活躍は評価します。だからこそ、私たちは貴方と協力関係を結んだのです」
「“あの方”も貴方を信頼していますよ」
「親愛なる同僚、カルビノール」
俺は通りすがりの高校生、遠藤
突然だが、俺は普通じゃない。
明らかに生物的な限界を越えた圧倒的なパワーや感覚などを備えた、スーパーマンなのだ。
最初は正直言って、呪いのようなものだった。
優れた聴力は町中の音を聞き、嗅覚は人物の意思を嗅ぎ分け、味覚はあらゆる雑味を感じた。
視覚は星々の地表を映し、触覚は未来すら受容するほど過敏で、第六感は俺に『答え』を教えた。
普通にいらない。人間として生きていくには十分すぎるどころか逆に不便だ。
何が悲しくて他人の生活音や感情を感じ続けなければならないのか。
あと飯が不味く感じる。空気中の埃すら感じ取れてしまう俺が悪いのだが。
俺は俺なりの苦しみを抱えながらも、その生き物か怪しいほどの性能を持ち続けた。
そしてある時、気付いたのだ。
───宇宙人が、いる。
───それだけでは無い。地底人が、魚人が。
人では無いモノが、大勢いる。
これは俺にとって喜ぶべき話だった。
今までは、俺以外に俺のような存在が居なかった。少なくとも、俺の周りには居なかった。
だが、
異なる肉体構造。現行人類よりも発展した文明。
もしかしたら、俺は“仲間”なのかもしれない。
たまたま人間のカタチをしているだけで、彼ら
こそ共に生きるべき存在だと。そう思った。
………しかし、現実は非情である。
上機嫌で接触した俺に対して、彼らが行った行動は『攻撃』だった。
「………あーあ」
期待があった。それは願いだった。祈っていた。
カタチの違いを越えて仲良くなれるのでは無いか。俺にも、仲間がいるのでは無いか。
淡く愚かなその幼い妄想は、敵対という現実によって完璧に破壊された。
───感覚が告げる。相手はこちらを殺す気だ。手加減や葛藤など欠片も無い。
───感覚が告げる。どうやら、人間を生贄にして呼び出したいモノがいるらしい。
───感覚が告げる。如何に言葉を尽くしても、俺たちが共に生きる未来は訪れない。
───冷静な頭が判断を下す。駆除するべきだ。
悲しくて、とても残念で、少し泣いた。
少し泣いて、仕方が無いので彼らを追い出すことにした。
殺すほどじゃない。少なくとも、宇宙人だからという理由で殺そうとは思えなかった。
だから追放。
「え?偶然見つけた人間を拷問?」
「え?身体を乗っ取る?」
「え?親玉が召喚されたら文明が終わる?」
お前らそんなのばっかじゃん。追放どころではない。残念だが、殺すしかない。
しかし、相手も生物ではある。困ったことに、殺せば死体が出るのだ。
その死体の処理、あるいは宇宙人にやられた人間“だったもの”の処理をしなければならない。
跡形もなく消すようなことも出来ないわけではないが、せめて被害者は埋葬したい。
単なる一般人である俺(少なくとも社会的には一般人)には、埋葬などうまく出来ない。
故に、その道のプロに任せたかった。
「というわけで。俺が外来種を駆除するから、
その処理を任せたいんだ」
社会の裏表関係なく活躍する組織がある。超人的な感覚を持つ俺は当然それを知っていた。
彼らが非合法的な───暗殺などの行為を躊躇わないことも知っていたし、それを隠す能力があることも知っていた。
「其方側にとっても、アレらは邪魔だろう?」
人を操り思い通りに動かす組織。彼らの組織も、人ならざる存在について把握していた。
それを利用すべきではないことも、組織のボスは理解していた。
だが、怪物達はそんな事情も考えず人間を襲う。組織の人間だとしてもそれは同じだった。
触れることすら憚られる存在がこちらに敵対してくるというのは、組織にとってとても面倒だった。
「分かりました。貴方の手伝いをしましょう」
機械音声で『ラム』と名乗った彼は、俺の話を聞いて受け入れた。
「念の為、貴方には偽名を使ってもらいます」
「何にする?蒸留酒から取るのか?」
組織の幹部は酒の名前がついている。特に蒸留酒は男につけられる法則がある。
「いいえ。貴方は
「
「ふんふんふーん」
雨の中、鼻歌を歌いながら歩く。今日は休日で学校がなく、駆除仕事だけをしていた。
雨は好きだ。特に風が吹いているとテンションが上がる。
クラスメイトに話したら『証拠が雨に流されちまうから俺は好きじゃない』とか言われたが。
「………あれ?」
散歩をしていると、ずぶ濡れで頭に怪我をしている少年を見つけた。
───軽い脳震盪を起こしているが、命に別状はない。
「え、遠藤!なんでここに!」
名前を当てられた。
───彼はクラスメイトである工藤新一だ。間違いなく本人だ。
「驚いたな。どういう手品だ?」
怪物によるものなのだろうか?
───否。ジンが飲ませた薬が原因だ。
「そうか………ふむ」
子供になっている。普通に考えて、簡単には戻れないだろう。
───対抗する薬を飲まなければ戻れない。
そうなのか。ならば、工藤新一としての戸籍などは利用出来ないだろう。
───ジンは彼が死んだと思っている。もし生きていることがバレれば周囲も危険だ。
俺が匿えばどうだろう。親友とまでは言えないが、友達ではあった。
───彼が大人しく隠れ潜むことは無い。事件を解決し、真実を見つけるだろう。
「これだから探偵って連中は………」
───工藤新一は暴くだろう。隠された罪を。
未明の闇の中にあるものを。
怪物に、触れてしまうだろう。こいつは少々度が過ぎた知りたがりだ。
「………風呂入れ、工藤。まずはそれからだ」
それでも。
彼が悪人ではないことを、俺は知っている。
遠藤覚
暗記力や計算力などは優れているが、頭を使う推理は苦手。
必要な情報は捉えられるが、「………つまり?」となってしまう。
超人的な感覚で証拠を見つけられるので、お助けキャラとしては優秀。
もしもの時は勘で犯人を見つけるので、詰み防止キャラでもある。