キング・オブ・ブレイバー   作:菌床

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キング・オブ・ブレイバー 

 

 <Infinite Dendrogram>というゲームが発売された。

 

 曰く、完全なるリアリティを保証。

 

 曰く、全世界単一サーバー。

 

 曰く、個別選択可能なグラフィック。

 

 曰く、現実時間とゲーム時間の乖離。

 

 発売当初は世界中の人間が誇大広告だと思い、購入者は殆どいなかった。

 だが、ごく少数の物好き達が実際にプレイすることで、これらの情報は真実だと知られることになる。

 

 そして、更なる情報が公開された。

 

 数千を超えるジョブの組み合わせ、スキル構成、それらを超える明確なオンリーワンを提供すると言ったのだ。

 それこそが〈エンブリオ〉。

 行動パターン、経験値、バイオリズム、人格に応じ無限のパターンに進化する。

 <Infinite Dendrogram>内における無二の相棒。

 これらの情報に世界は熱狂し、<Infinite Dendrogram>は瞬く間に覇権を取った。

 これは、そんなゲームを遊ぶ、一人の男の物語。

 

 ◆

 

 ■◼️〈皇国闘技場〉

 

 皇国の闘技場、隣の王国に比べるとやや見劣りするが、手入れの行き届いた施設。

 そんな闘技場は今日、多くの観客でひしめき合っていた。

 

 決闘一位の【魔将軍】ローガン・ゴッドハルトへの挑戦者が現れたのだ。

 

 いつもならば【魔将軍】に挑む者が居てもこれ程賑わうことは無い。

 “死闘英雄”のイライジャが挑むことは多々あったが、【魔将軍】の神話級悪魔には勝てず、現在皇国の決闘一位を賭けた勝負は悪魔召喚ショーの様相を呈している。

 おかげで皇国の決闘ランキング全体が活気を失ってしまった。

 ならば何故、これ程の観客が押し寄せているのか。

 それは、【魔将軍】に挑戦する相手が超級だからに他ならない。

 皇国に訪れた超級は餓竜事件で功績を上げた後、瞬く間に決闘ランキングを駆け上がり、ついに【魔将軍】に挑戦状を叩きつけた。

 

 ついに決闘王者交代か?

 

 そう考えたティアンだけで無く、多くのマスターもこぞって闘技場に集まっている。

 時期皇王の座を争った内乱、不作による食糧不足、餓竜事件などで陰鬱な空気が張り詰めた中、誰もが吉報を求めているのかも知れない。

 ハリネズミを抱えた女性、白衣を着た怪しげな研究者などが見つめる中、派手な演出と共に挑戦者が現れた。

 

 『皇国に訪れた新進気鋭の超級!“万能者”! 【英雄王】キング・オブ・ブレイバーヴェルゴ・ファイヤフラァァァァイ!!!』

 

 挑戦者は屈強な肉体に赤いラインの走った金色の全身鎧を纏い、複数の武器を背負っている。

 修羅の国天地にて超級職【英雄王】の座に就き、諸国を巡り、数多の冒険を乗り越えた男。

 その姿に会場の熱気は上昇する。

 

 『迎え撃つは皇国の決闘王者!“矛盾数式”! 【魔将軍】ローガン・ゴッドハルトォォォォォォォ!!』

 

 精悍な顔つきに大剣を背負った最終幻想的な男。

 悪魔の軍勢を指揮し、神話級悪魔を召喚することで神話級<UBM>とさえ渡り合える皇国の超級。

 単純な奴ほどヤバいエンブリオになるという説の代表的な存在でもある。

 

 二人が向かい合い、今、決闘の火蓋が切って落とされようとしている。

 超級激突、それは、超級職と超級エンブリオを揃えた理外の存在達の戦いである。

 餓竜事件で最も多くの【餓竜】を討伐し、現皇国で最大の広域殲滅能力を示したことで討伐ランキング入りも確実と目されている【英雄王】。

 クランランキング一位の〈叡智の三角〉に所属したことが判明しており、個人戦闘能力を競う決闘でさえも頂点に立つならば、三種類のランキングの頂天に立つ可能性がある。

 新たなる伝説の幕開けに立ち会えたのでは無いかと考える観客達のボルテージは天井知らずだ。

 

 『それでは!──試合、開始!!』

 

 ローガンが壁役にしかならないモンスターを呼び出し、神話級悪魔召喚のために特典武具を捧げるための詠唱を開始した。

 本来特典武具は破壊されても時間経過で修復されるが、コストなどに捧げた場合は完全にロストしてしまう。

 しかし、闘技場の決闘用結界内ならば、内部で起こった出来事は無かったことになる。

 それは特典武具の消費も例外では無く、ローガンはノーリスクで特典武具をコストに捧げ、神話級悪魔を召喚することで決闘王者に上り詰めたのだ。

 

 (アリア、このまま召喚を許した場合、俺の勝率はどの程度になる?)

 『その質問答える必要あります? なんて答えても召喚させるつもりでしょう』

 

 ヴェルゴは自身のエンブリオであるアリアドネに語りかけるが、そっけない態度で返された。

 

 (そりゃ興行なんだから、金払った分観客を楽しませるべきだろ)

 『そうやって油断して何度痛い目にあったか忘れたんですか? 記憶力にマイナス補正でも受けてるんですか?』

 (ひっでぇ言い草だな!? その場合、俺にマイナス補正与えてるのはお前になるんですけど!)

 

 エンブリオとの会話は外部には聞こえず、観客席からはヴェルゴが何もせず立ち尽くしているようにしか見えない。

 期待と困惑が入り混じった視線が集まるが、ヴェルゴが動く様子は無い。

 ローガンを倒すならば、神話級悪魔を召喚する前に倒さなければ負けてしまう。

 そう観客は考えているし、それが分かっているからこそヴェルゴは動かなかった。

 

 「──来たれ果てなき悪魔! 《コール・デヴィル・ゼロオーバー》!!」

 

 対するローガンは供物を捧げ終わり、神話級悪魔を召喚していた。

 七〇メテルに達する巨大、山羊の頭に四つの腕、巨大な翼。

 数万の物理ステータス、莫大なHPとMP、超級職奥義並の攻撃魔法とデバフを使いこなす神話級悪魔。

 そこにローガンによって数値が一〇倍化された強化を付与されれば、神話級<UBM>にさえ互角に戦える存在となる。

 

 (おおー、こりゃ立派だなぁー)

 

 呑気に驚いているマスターに対して、アリアは苦言を呈する。

 

 『どうするんですかマスター? 召喚されちゃいましたよ』

 (ん? どうするって)

 

 「──正面から倒すんだよ」

 

 そう言って兜の奥で獰猛に笑う。

 それは、獲物を甚振って殺す猫のようだった。

 

 (もう一度聞くぞアリア、俺の勝率は?)

 『未知の戦法を用いられなければ限りなく100%です』

 

 それと同時に、ヴェルゴの背負っていた装備品が宙に浮かび上がる。

 六本の武器が周囲に展開された姿に、会場から驚きと困惑が混じった声が上がる。

 天地の情報を持つものならば、一つの超級職のスキルを連想するだろう。

 そう、【阿修羅王】のスキル《修羅道戦架》を。

 

 『マスター、貴方を勝利に導きましょう』

 

 その瞬間、弾かれたようにヴェルゴが飛び出す。

 一瞬でゼロオーバーへ接近するが、それに反応したゼロオーバーが四本の腕でハエ叩きの如く潰そうとする。

 神話級<UBM>とさえ互角の戦いを可能とする莫大なステータスによる攻撃を受ければ、高レベルの耐久系超級職でも無ければ耐え切れないだろう。

 ローガンは叩き潰されるヴェルゴを夢想するが、それが現実になることは無かった。

 

 ヴェルゴを叩き潰そうとした四本の腕が、全て切り落とされたのだ。

 

 「……はぁ!?」

 

 ローガンが驚きの声を上げる。

 自身の最強の力であるゼロオーバー、その腕が半ばから無くなっているのだから。

 

 「──チィ!」

 

 舌打ちをしたローガンはすぐさま二体目の召喚に取り掛かるため、次の特典武具を取り出した。

 しかし、それはあまりにも遅すぎる。

 

 「おらおらおらおらッ! どうした? こんなもんか神話級!?」

 

 そこでは神話級悪魔相手に、残虐ファイトが行われていた。

 全身を切り刻まれ、羽がもぎ取られ、胴体が抉られている。

 そう、これまで多くの挑戦者を返り討ちにしてきた神話級悪魔が嬲られているのだ。

 

 「いいぞーやっちまえー!!」

 「ぶっ殺せー!!」

 「うわぁ、ひ、ひでぇ……!」

 

 観客達も歓声を飛ばす者が多く、良くも悪くも大盛り上がりだ。

 そんな観客を睨むローガンだが、冷静に詠唱を続ける。

 そして、いざローガンが二体目の神話級悪魔を召喚しようとした時。

 

 「ヒャッハーー!!!」

 

 世紀末モヒカンのような雄叫びと共に、神話級悪魔の首を引きちぎった。

 あまりにもスプラッタな光景に、会場中から悲鳴が上がる。

 

 「────」

 

 ヴェルゴはローガンの方をチラリと一瞥すると。

 

 「ヘイパス!」

 

 そう言って、消えかけているゼロオーバーの首を投げつけた。

 突然友人にボールを渡すような軽さで、小屋ほどもある巨大な首を投擲したのだ。

 

 (──強……! 早…、避……。 無理!! 受け止める!? 無事で!? 出来る!?)

 

 ローガンの脳内で様々な考えがよぎる。

 

 (──否──死)

 

 しかし、走馬灯のように加速する思考でも、無理なものは無理だった。

 どうすることもできないまま、ローガンは自分が召喚した最強の悪魔の頭を投げつけられて死ぬという、あまりにも屈辱的な負け方をした。

 

 『しょ、勝者……【英雄王】ヴェルゴ・ファイヤフライーー!!!』

 

 一瞬遅れて、会場は溢れんばかりの歓声に包まれた。

 皇国の決闘に新たな風が吹いたことを、多くの観客、そしてランカー達が喜んだ。

 

 こうして、皇国に新たなる決闘王者が誕生したのであった。

 

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