皇国と王国が戦争を始めるにあたって、皇国は多額の金やアイテムを注ぎ込み、多くのマスターを雇い入れた。
【獣王】【魔将軍】【英雄王】、皇国が誇る三人の超級に、【大教授】を始めとした凖超級のマスター達が参戦を表明する。
対して王国は報酬の類は提示せず、マスターの自主性に任せた。
結果として王国は戦争に参加しないマスターが多くなり、戦力的に厳しいものとなった。
しかし、王国側には“魔法最強”を謳われる【大賢者】、騎士団を率いる【天騎士】、報酬など無くとも参戦したマスター達が居る。
勝敗がどうなるかはまだ分からないと、多くのティアン達は思っていた。
王国騎士団に所属するテオドールもその一人、レベル上限という才能の壁に打ちのめされながらも不断の努力を重ね、王国を守る盾として戦争に臨んでいる。
しかし、そんな努力も覚悟も、何の役にも立たなかった。
空を覆い尽くす悪魔の軍勢を指揮する超級、【魔将軍】ローガン・ゴッドハルトの情報は得ていた。
特典武具を捧げることで神話級悪魔を使役することを可能としている恐るべき相手だと。
「──何だ、何なのだ……あれは……!?」
しかし、眼前の光景は聞いていた情報とはまるで違う。
それは七〇メテルを超える体躯、四つの腕と蝙蝠の翼、莫大なHPと超級職奥義相当の魔法を行使する存在。
──千を超える神話級悪魔の軍勢が、取り巻きの悪魔数千を引き連れて現れたのだ。
「……れ、連絡が来ました! 皇国との各戦場にて神話級悪魔の軍勢を確認したと……!!」
それは絶望的な知らせだった。
王国と皇国の交戦区域は大まかに三箇所に分かれている。
その全てに神話級悪魔の軍勢が現れたというのだ。
【魔将軍】は悪魔の召喚にコストを支払わなければならない。
戦場全域で合計数千体の神話級悪魔、それ程のコストを一体どうやって用意したというのか。
例えローガンに皇国が動かせる全ての資産を与えたとしても、これ程の数を揃えることは不可能な筈。
その疑問に答えてくれる物はおらず、王国側の戦力は阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
◆
「《多重召喚》《コール・デヴィル・ゼロオーバー》」
ヴェルゴが手をかざすと大量のゼロオーバーが召喚され、各戦場に飛び去っていく。
【英雄王】の奥義によって【魔将軍】のスキルを習得しているが、本来なら莫大なコストを要求する神話級悪魔を大量に召喚することは難しい。
──どんなカラクリかといえば、そもそもコストを支払っていないのだ。
召喚コストを低下させる装備品を、呪いのアイテムとして作り出すことで性能を引き上げ、《暗黒騎士の加護》で呪いのデメリットを性能として上乗せする。
アリアドネに製作方法を演算させ、超級職のスキルを用いて造り出された強力な呪いの装備を、超級職のスキルで強化して運用することで召喚コストを100%低下させることに成功したのだ。
『【大賢者】の方面に向かわせた個体は何体か討伐されましたが、作戦行動に支障はありません』
「あ、【獣王】に潰された。ミンチよりひでぇや。……あ、ひき肉使った料理食べたくなったからレシピ考えといて」
『かしこまりました』
偵察用モンスターを通して戦場を俯瞰するヴェルゴ。
呑気な会話をしているが、ヴェルゴからすれば最早作業でしか無い。
神話級悪魔を《軍団》スキルの上限まで呼び出すだけの簡単な作業、流石に飽きもする。
そもそも、超級であるヴェルゴからすれば、相手に超級が居ない時点で勝敗は既に決まっていたようなもの。
既に頭の中は晩御飯の献立を考えている。
「ローガンの方は、うお!? 死にかけてる!?」
取り巻きの悪魔を召喚していたローガンだったか、神話級悪魔を召喚している犯人だと騎士団に誤解され、【天騎士】による奇襲を受けていた。
悪魔の軍勢を消すために、【黄金之雷霆】に跨った【天騎士】が、まさかの単独で神話級悪魔の軍勢を駆け抜けてローガンに奇襲をかけたのだ。
ヴェルゴが召喚した悪魔は、ローガンの召喚した悪魔と違いステータスが強化されていない。
さらに、攻撃をして来なければ無視して前進するように命令していたことが仇になる。
AGIも4万程であり、体躯も巨大なため、【黄金之雷霆】の速度と神話級悪魔の行動方針を見抜いた【天騎士】よって突破されてしまった。
「まずいな、ローガン本人の武力は大したことがない」
ヴェルゴはローガンがやられようとどうでもいい、寧ろローガンが負けた後で【天騎士】を捉えて超級職の情報を引き出すつもりであり、心配していたのはその点である。
ローガンは召喚した複数の伝説級悪魔で応戦する。
しかし、【黄金之雷霆】に跨る【天騎士】を捉えられない。
結果として、追い詰められたローガンが自身で神話級悪魔を召喚し、【天騎士】を叩き潰した。
アレでは蘇生も出来ないだろう。
仕方がないので王国を征服した後でゆっくり調べれば良い考え、直ぐに興味が失せる。
そうして暇をしていると、【大教授】も国王を仕留めたと連絡をしてきた。
(もう直ぐ戦争も終わるか……あんまり面白くなかったな……)
そんな折、ヴェルゴに通信が来た。
「……何? 皇国軍の後方マスター部隊が壊滅した、だと?」
王国の【大賢者】や背後からの奇襲に備えた予備戦力のマスター達が壊滅したとの連絡が来た。
『調査用のモンスターを派遣しますか?』
「そうだな、何体か送って様子を───っ!!」
突如ら後方部隊に付けていた神話級悪魔がいきなり減ったのだ。
【大賢者】の《イマジナリー・メテオ》を撃ち込まれた時でも、ここまで減らされなかった神話悪魔がかなりの数倒された。
それどころか、今現在も減らされ続けている。
「悪魔だけじゃ無い!皇国軍を背後から食い破ってやがる……!」
偵察用のモンスターと視界を繋げると、後方部隊だけで無く、大きく迂回するように皇国軍が横側から壊滅させられている。
しかも、マスターの部隊だけを的確にだ。
偵察用モンスターに犯人を探させていると、赤い何かによってモンスターが粉砕された。
「王国の超級か、それともカルディナの横槍か?」
『どうしますか、マスター?』
アリアドネは迎撃に向かうか、一度隠れてから悪魔の召喚に専念するかを問うている。
何者かは知らないが、少なくとも神話級悪魔が足止め程度にしかなっならないのだ。
エンブリオとしてはマスターには避難してもらいたいと思っていた。
「いや、迎え撃つ。ちょうど暇してたし、───向こうも逃してはくれなさそうだッ!」
その瞬間、複数の
即座に《修羅道戦架》に登録しておいた呪いの武器を周囲に展開し、鎖を弾き飛ばす。
強化されたゼロオーバーさえ切り裂く呪いの武器の反撃を喰らっても、鎖は亀裂が入るだけで砕けては居ない。
「《恒星》!」
【炎王】の奥義《恒星》、単体威力ならあらゆる魔法職の奥義にて最強の魔法を多重発動して連射する。
ヴェルゴは強力な呪いの装備を《暗黒騎士の加護》更に強化しており、魔法の消費MPをゼロにしている。
その尽きることの無いMPから魔法が放たれる、まさしく《恒星雨》と言えるほどの物量だ。
例え神話級<UBM>であろうとも、致命傷は避けられないだろう攻撃。
だが、──強力な冷気によって全ての《恒星》が掻き消された。
相反するエネルギーがぶつかり合ったことにより、凄まじい暴風が吹き荒れる。
「へぇ……!」
ヴェルゴは素直に感心していた。
今の攻撃を相殺出来るほどの相手がどれほど居るか。
まだ見ぬ敵への警戒を引き上げる。
「アリア、敵戦力の解析と戦闘アシストを頼む」
『かしこまりました、マスター』
土煙の中から人影が現れる。
複数の鎖を垂らし、人の良さそうな笑みを浮かべる糸目の青年。
彼は複数の系統の装備をごちゃ混ぜにしたような、一見統一感のない装いだった。
だが、その装備から感じる存在感は尋常では無い。
全身に複数の特典武具を当たり前のように身につけているのだ。
「お前は……!」
『記録に該当有り、対象は──』
王国でヴェルゴが知っている超級は〈月世の会〉の教祖である扶桑月夜のみ、それ以外とは遭遇したことがない。
だが、それでも名前を知る超級は居る。
最も手の内がバレやすい決闘にて王国の頂点に君臨する存在。
「王国決闘ランキング一位。“無限連鎖”、【超闘士】フィガロ!」
孤高の探索者、王国最強の決闘王者であった。
「そういう君は、皇国決闘ランキング一位。“万能者”、【英雄王】ヴェルゴ・ファイヤフライだね」
皇国と王国の存亡を決する戦いで、両国の決闘ランキング一位、決闘王者が相対した。
「「─────ハッ!」」
言葉は要らない、此処は戦場。
合図もなしに両者武器を振るう。
激突した衝撃で周囲の大地が捲れ上がり、一面の荒野と化す。
この日、一人の観客も居ない荒野で、決闘王者同士による超級激突が始まった。