鋼鉄闘域(ゴーレムバトル)〜ホビーアニメ設定の貞操逆転異世界でオタク男子は希少種〜 作:白うに
竜人の猛威:【暴風】の支配
ゴレリンピック最終試合、ステージ中央での激しい乱戦は一時の静寂を迎えた。ルッコとクローナは満身創痍ながらも、レオニスとミラリスのゴーレムを戦闘不能に追い込むという偉業を成し遂げた。
しかし、ゴルド公国チームにはまだ、規格外の力を持つ竜人族の少女、サフィラが残っている。
タクトとニクスは、ステージの上空、荒れ狂う風の渦の中心にいるサフィラの【オーブシェイド】を見上げる。
【オーブシェイド】は【暴風】を発動し、その嵐を【風向操作】で自在に操りながら、途轍もない速度で飛行していた。
「ハッハッハッハ!…お前たちの番だぞ、小童ども!私の力を思い知れ!」
高慢で傲然とした声でサフィラが言い放った。
ゼノンによるトラウマを克服した彼女は、本来の竜人族の強大な「在り方」を取り戻していた。
タクトは【アブソルトレイル】の噴射術式に魔力を充填しながら上空に向き、ニクスに指示を出す。
「ニクス!このままだとジリ貧だ!短期決戦で行く!」
「了解。タクトを信じる。」
タクトは【爆塵輝流】を最大出力で発動。【アブソルトレイル】の白銀の装甲が爆風と光の帯を噴射し、嵐を切り裂くように上空へと急上昇する。
ニクスの【アサルトフェリス】も【模倣】を発動し、タクトの【爆塵輝流】の加速をコピーしながら、僅かな遅延を伴って追従した。
【オーブシェイド】は上空から【宝晶弾】を並列で多重発動し、文字通り、鉱石の雨を降らせる。
タクトは【高速】を併用しながら回避に専念し、ニクスはハルバート『オルタヴァリス』を構え、迫り来る【宝晶弾】を叩き落とす。
「上手く避けているな。だが無駄だぞ、小僧ども!」
【宝晶弾】は単なる牽制ではない。タクトたちが回避に集中している間に、距離を取り、エネルギーを蓄積しようとしている。
タクトは回避を続けながら、一瞬の機会を見逃さなかった。
「ニクス!あいつの正面に道を作ってくれ!」
「…わかった、【模倣】…【風向操作】、発動。」
ニクスがサフィラの魔術を【模倣】し、【オーブシェイド】の進行方向に僅かな、一瞬の風の乱れを生じさせる。
その僅かな「間」に、タクトは【アブソルトレイル】のメイン武装、【熱閃】を発射。さらに【収束】の刻印を発動させ、威力を極限まで高めた。
収束された高熱のビームが【オーブシェイド】の胴体を直撃する。
ズドドドォォォン!
激しい爆発音と熱量がステージ全体に広がる。観客席からもどよめきが起こる。
しかし、爆煙が晴れると、サフィラの【オーブシェイド】はほぼ無傷で宙に浮かんでいた。装甲の表面が僅かに黒く、燻っているだけだ。
「無駄だ!小童!わが魔術【黒碧玉曜】は遠距離魔術へ干渉する!お前の熱線など、温いわ!」
サフィラの高笑いが響く。
「くそっ…!」
タクトは歯を食いしばる。【黒碧玉曜】は遠距離魔術への耐性を大幅に上昇させる防御魔術。タクトの最大の武器である【熱閃】が、ほぼ、無効化されてしまったのだ。
しかも、この一撃に、タクトはかなりの魔力を消費していた。【爆塵輝流】の改良で燃費は良くなったとはいえ、強敵相手の最大出力での発動は厳しい。
タクトは戦略を変更せざるを得なかった。
「ニクス!近接で行く!奴の懐に潜り込み、【龍鱗防護】の隙間を叩く!」
「…待って。【暴風】の圏内では不利…!」
ニクスの警告を聞かず、タクトは再び、【爆塵輝流】で急接近を試みる。
しかし、今度はサフィラが先手を打った。
【オーブシェイド】の周囲の【暴風】が一瞬で竜巻のような渦を巻き、【アブソルトレイル】と【アサルトフェリス】を外側に弾き飛ばす。
「度胸は買ってやろう!たが無謀な攻撃でわ我には届かんぞ!」
サフィラは【龍翼】で空中を自在に舞い、タクトたちの間合いを完璧に支配していた。
タクトは焦燥に駆られる。攻撃が全く、通用しない。
ニクスは静かに、タクトに警告した。
「タクト、もう魔力、殆ど無い。」
サフィラはタクトたちを嘲笑する。
「これで、終わりだ。小童ども!冥土の土産に我が奥義により沈むが良い!」
【オーブシェイド】が大きく、口を開く。内部に膨大な魔力が収束し、黒曜石とサファイアを混ぜ合わせたような、終焉のブレスが生成され始めた。
タクトとニクスはこのブレスを直撃すれば、間違いなく一瞬で敗北することを理解した。
「ニクス…、全てを賭けるぞ。」
タクトの瞳に、最後の覚悟が宿った。
「【アブソルトレイル】の魔力コアに、残っている、全ての魔力を集める。【爆塵輝流】のブーストと【光剣】の収束を同時に、極限まで行う。」
ニクスはタクトの意図を瞬時に理解した。それは機体のオーバーヒートを通り越し、術者にも甚大な負荷をかける、文字通り命を懸けた「特攻」だった。
「…無謀。」
ニクスはタクトに視線を送る。その目は濁りなく、友の想いを受け止めていた。
「分かっている。だが、これがローニャが俺に託した、クローナとルッコが開いてくれた、最後のロマンだ。」
タクトは心の中で、遠い戦線にいるミーサ先輩たちにも語りかけた。
(あなたたちが命懸けで作ってくれた好機。俺が無駄にはしない。)
タクトは【アブソルトレイル】の全身に刻まれた刻印から、残存する魔力を無理やり、コアへと集め始めた。白銀の装甲が紅く変色し、熱を帯びる。【光剣】を展開する槍杖には、未だかつてない高密度の魔力が収束していく。
サフィラの【宝晶龍ノ吐息】の充填が完了し、発射の体勢に入った。
「もはや、逃げ場はない!永遠に眠れ、弱者の子孫ども!」
咆哮と共に、終焉のブレスが放たれようとした時。
ニクスは最後の希望をタクトに託し、【模倣】で【追尾光弾】の魔術を展開する。
「【追尾光弾】!発射!」
幾筋もの光弾が【オーブシェイド】に向かって、うねるように追尾する。
サフィラは冷笑する。
「小賢しい!今更目眩ましが何になる!」
【オーブシェイド】は全く、動くことなく、周囲の【風向操作】の魔術を一瞬で複雑に展開させた。
【追尾光弾】は【オーブシェイド】に到達する直前で、まるで、見えない壁にぶつかったかのように方向を逸らされ、虚しく、ステージに着弾し、爆発した。
今一度、自身の最大奥義を放とうとした【オーブシェイド】の背後から声が聞こえた。
「目眩ましはね?目を眩ませるためにあるのよ!」
満身創痍、もはやまともな部分がコアと左腕くらいのルッコがそこには居た。
ニクスは【追尾光弾】を放った一瞬後、ルッコの方へ【超高速】で接近し、『オルタヴァリス』の重力操作と物理的なスイングでルッコの【クリムゾンヘイト】を打ち上げていたのだ。
【オーブシェイド】と【クリムゾンヘイト】は手が触れ合う距離にいる。
咄嗟にサフィラは【龍鱗防護】を展開するが、ルッコは振り絞った魔力で一つの魔術を発動させた。
「これで打ち止めよ!【契約】発動!」
ルッコの【契約】魔術が【オーブシェイド】を縛ろうと迫る。
「小癪な!そんなもの、我が【黒碧玉曜】の力で…。」
【黒血呪縛】
どこからか伸びてきた赤黒い鎖が【オーブシェイド】に絡みつく。
「馬鹿な!?あの小娘にそんな魔力はもう…!」
【クリムゾンヘイト】の影から黒い閃光が飛び出した。ニクスだ。
「ルッコの力はずっと見てた。【黒血呪縛】の再現は完璧。」
ニクスは【模倣】でほぼ完璧にコピーした【黒血呪縛】で【オーブシェイド】を拘束し、その魔力に乱れを生じさせた。
そして、何の抵抗も出来ないままルッコの【契約】が【オーブシェイド】に直撃した。封印したのは…、【龍翼】!
突如、移動魔術を失った【オーブシェイド】は【黒血呪縛】のせいで【暴風】の制御が覚束ずに、ステージに真っ逆さまに叩きつけられた。
「この我を地に落とすだと…、人間風情が…。だが…。」
よろよろと立ち上がる【オーブシェイド】。
最後の魔力を振り絞り、突撃の構えをするタクトの【アブソルトレイル】を確認すると、損耗してきている【龍鱗防護】を自身の前方に集め始めた。
あの程度の魔力で、自分の防御を貫けるはずはない。
そう、自分に言い聞かせたサフィラだが、その鉄壁の守りが「ミシリ」と何かに引き千切られた。
「綺麗な装甲ね…、ゴレリンピック土産に貰ってくわ…。」
ステージに倒れ伏していたルッコが、【オーブシェイド】の万全の守りを握り潰した。
それに応えるように、タクトの【アブソルトレイル】はボディの限界を超え魔力を掻き集め、コアが悲鳴を上げ臨界点に達した魔力を全て【光剣】に込めて突撃した!
「ロマンの全てを込めて!」
限界突破した【収束光剣】は、タクトの全身の魔力とローニャの知恵の結晶だった。タクトの攻撃は、ニクスとルッコが生み出した、一瞬の護りの乱れに乗り、【オーブシェイド】の最も魔力が薄い、肩と胴体を繋ぐ関節部に深く食い込んだ。
ズゥゥン…!
【龍鱗防護】を貫いたタクトの魔力は【オーブシェイド】の内部で炸裂し、ゴーレムの魔力供給の核を直撃した。
サフィラの【オーブシェイド】から青い輝きが失われ、黒曜石の装甲から激しい火花と閃光を噴出させながら、機能を停止させた。
「あ…、あぁあああああぁぁぁあ!」
サフィラは驚愕と怒り、そして、再び敗北を喫した屈辱の咆哮を上げ、そのままステージに倒れ伏した。