鋼鉄闘域(ゴーレムバトル)〜ホビーアニメ設定の貞操逆転異世界でオタク男子は希少種〜 作:白うに
ゴレリンピック最終試合、壮絶な死闘の末、タクトの【アブソルトレイル】が竜人族サフィラの【マギウスカイザー】のコアを貫き砕いた瞬間、観客席から地鳴りのような歓声が巻き起こった。
試合終了のゴングが、鳴り響く。
ゴルディアス王国チームの劇的な勝利だ。
大破寸前の【アブソルトレイル】はステージの中心で力尽きたように立ち尽くす。タクトはその後ろで全身の疲労と魔力の枯渇に耐え、意識を何とか保っていた。
そんな中、魔力を絞り出して、刻印の光が弱々しくなっているルッコのと、辛うじて歩いてくるニクスが、タクトの傍に寄る。
意識を失っていたクローナは、魔力の流れの変化と歓声で微かに目を覚まし、勝利を悟って安堵の表情を浮かべる。
ルッコは大破した【クリムゾンヘイト】を労りながら、タクトに向かって満面の笑みで叫んだ。
「やったわね、タクト!」
タクトはかろうじて右腕を上げ、ルッコに応える。その様はまるで英雄の凱旋のようであった。
ゴルディアス王国チームのメンバーは全員が魔力枯渇寸前の状態だったが、互いの顔を見合わせ、喜びを分かち合った。
控え席から、ローニャが小さな体に似合わぬ驚異的な速度でステージに駆け寄ってくる。
ローニャはタクトのそばまでたどり着くと、そのままタクトの首に抱きつく。
タクトは予想外の行動に驚き、疲労で動かない腕を宙で彷徨わせた。
ローニャの吐息が、タクトの耳元に届く。その声は小声だったが、強い決意に満ちていた。
「…責任、取ってください。タクトさん!」
タクトは混乱する。
「え?責任?何のことだ、ローニャ?」
ローニャはタクトから離れ、少し、頬を赤らめながら続けた。
「私の日常を、私の世界を、あなたが『ロマン』でめちゃくちゃにしたんです。勝手に私の心をこんなに熱くして…!この責任、あなたが全て負うんですよ!」
タクトはこの少女の言っていることが、勝利の興奮と疲労で全く理解できなかったが、その強い眼差しに込められた真剣さだけは感じ取った。
「…分かった。よく分からんが、俺にできることなら何でもする。約束だ。」
タクトは力を振り絞り、ローニャの頭を優しく撫でた。
「タクトくん。責任って何の話?」
タクトの背後から底冷えするような冷たい声が静かに響いた。それは、会場の熱気のなかでも衰えないほどの圧力を感じさせるものであった。
クローナだ。確かさっきまで疲労などで寝ていたはずたが、何かを感じ取って目覚めたらしい。
そのやり取りを見ていたニクスは、いつもの無表情を少し崩して静かに笑い、ルッコは自分も参戦しようと飛びかかろうとしていた。
満身創痍のチーム一行は、ちょっと誤解があったが、互いを称え、最後には笑い合った。
一方、ゴルド公国チームの控え席は大いに荒れていた。
レオニス王子は敗北を受け入れられず、怒りに任せて半壊した【マギウスカイザー】のボディを蹴りつける。
「馬鹿な!この私が、あんな小僧に…!ありえん!このゴーレムが悪いのだ!帝国め、不良品を寄越したな!」
レオニスの罵詈雑言は止まらない。彼の顔は屈辱で歪み、王族の威厳はどこにも残っていなかった。
トリスは茫然自失の状態だった。絶好のタイミングでの奇襲が成功したと思ったら、いつの間にかゴーレムを見失い、無様に右往左往していた。彼女は自身の存在理由が崩壊したような感覚に襲われていた。
ミラリスはビクビクとしながらも、ステージから落下した自分のゴーレム【イゴールクネア】を優しく労い、指輪に収納した。
「ごめん、イゴール…、私がもっと上手なら…。」
普段の粘着質な笑みは消え、ただ、自分のゴーレムを勝たせて上げられなかった不甲斐なさに満ちていた。
そしてサフィラ。ステージから這い出した彼女は、全身を震わせていた。ゼノンに敗北した時のトラウマが再発し、覚醒したはずの竜人の矜持は再び粉々になっていた。
「ふぇえ…、もう、いじめないでくださいぃ…。私はクソ雑魚トカゲですぅ…。」
サフィラは再び自我崩壊を起こし、周囲の誰にともなく助けを求めていた。竜人族の威厳は跡形もなく消え去っていた。
これにてゴルディアス王国チームのプレーオフ進出が決定し、ゴルド公国チームの全敗が確定した。
一つの試合が、一つの国の運命を分け、人々の心を永遠に変えた。
氷と砂塵の終焉:敵軍の急な撤退
ゴルディアス王国の魔導力発電所の攻防は、未だ極限の状態にあった。
ティナリスの氷精型ゴーレム【クリスタルリリス】が【大霧氷域】と【魔力凍結】で戦場を支配し、ゾルディアーク帝国の【デミマギウス】の進軍を一時的に鈍らせていたものの、帝国軍の物量は尽きることなく、凍てついた装甲を擦り合わせながら前進を続けていた。
ミーサの【ノーブルルージュ】とセバスチャンのゴーレムは、その氷の壁の隙間を縫い、レイピアと超硬度のワイヤーで敵を確実に仕留め、生徒たちの防衛線を支えていた。
牛鳥型ゴーレム【こむたん】の柔らかなボディに隠れるクリムも、マルノの【フランソワ】の【犠牲】による痛々しい戦闘も、チュニのによる激しい主張も、限界を迎えていた。
(もう、限界…。ティナリス様の援護があっても、この物量は…。)
ミーサの心に撤退の二文字が再び、よぎった。
その瞬間だった。
戦場を覆っていた激しい銃声と魔術の轟音が、まるで糸が切れたかのように一斉に止まった。
【デミマギウス】の部隊は停止し、その動きは統率を失ったかのように揺らぐ。そして数秒後、ゾルディアーク帝国のプレイヤー全員が一斉に指輪の魔導映像を確認していた。
「な…に?」
ミーサは混乱する。戦場に突然、訪れた静寂は、これまでの狂乱と対比され、不気味でさえあった。
次の瞬間、【デミマギウス】の全機が一糸乱れぬ動きで後退を開始した。その撤退は迅速で、一切の逡巡がない。まるで『敵』を失ったかのように、一斉に踵を返し、ゴルディアス王国の領土から遠ざかっていく。
ティナリスが冷静な声で全隊に通信を送った。
「追撃は不要!魔力を温存し、警戒を維持せよ!…状況を確認する。帝国軍の魔導通信が急に活発化した後、全軍での撤退が確認された。」
ミーサはハッとする。ゴレリンピックの最終試合の結果だ。
タクトたちが勝ったのだ。王国の命運を賭けた二つの戦いは、公国の要請を受けた帝国軍が発電所を抑え、王都の防衛機構を停止させようとした瞬間、タクトの奇跡的な勝利が魔導通信で帝国の指揮系統に伝わり、全軍に撤退命令が下されたのだ。
一つの『ゴレトル』の結果が、現実の戦場に直接、影響を与えた。
最前線で戦っていた学徒兵たちも、この事実を悟り、歓喜と安堵が入り混じった感情で崩れ落ちた。
チュニは【サームス】から発せられる放電に少し巻き込まれながら、丸メガネを曇らせ、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら叫んだ。
「くっ…!結局、タクトが勝った!やはり、正義はこの手にあり!うわああん!」
チュニは陰謀論者の旗を一時的に降ろし、純粋な勝利に泣いた。
マルノは【フランソワ】の近くで過呼吸を起こしていた。【犠牲】と【自動回復】で極限まで酷使した体は震え、精神は既にボロボロだった。しかし、勝利の報が届くと、彼女は全ての呪詛から解放されたかのように、静かに涙を流し、そのまま、深い眠りに落ちた。
エルの【シルバースティンガー】はもはや装甲が剥がれ、飛行も困難だったが、エル自身は両手を突き上げ、勝利を叫んだ。運の悪さを乗り越え、彼女は珍しく勝利を掴んだ。ブンブンと腕を振っていたら、たまたまそこにあった岩にブレードがぶつかって折れてしまった。
クリムは涙を流しながら【こむたん】を優しく、優しく撫でていた。
「こむたん、生きてるよ…!偉いよ…!もう、危ないことはしないからね…!」
サティはアイドルの本能で動いていた。【ジャンピー】から魔導カメラを起動させ、自身のゴレチューブのチャンネルに向けて、満面の笑顔で叫んだ。
「見てくれてありがとう!サティ、負けませんでしたにゃん!タクトくんたちも大勝利です!みんなの応援、届いたよ!…あれ?これ、戦闘の映像も流れてる…?ふぇぇ…。」
ミーサは【ノーブルルージュ】と共に、静かに遠ざかっていくゾルディアーク帝国軍のゴーレムの群れを見つめていた。
彼女の心は、安堵と、誇りで満たされていた。タクトがロマンで勝った。そして生徒たちが勇気で王国を守り抜いた。
ミーサは深く、深呼吸をすると、全隊の魔導通信に接続した。
「全隊、お聞きなさい!」
彼女の声は戦場の喧騒の後の静寂に響き、疲弊した学徒兵たちの心に突き刺さった。
「オーホッホッホ!!!」
ミーサは高らかに、いつものように笑った。
「貴様たちの奮闘、お見事でしたわ!私たちは勝ちました!ゴレリンピックでタクト様たちが、そして、この戦場で貴様たちが!ゾルディアーク帝国は退散し、この国は守り抜かれたわ!」
ミーサは【ノーブルルージュ】を伴い、損傷した状態でも堂々と、戦場の中心に立つ。その姿はまさしく、誇り高き貴族令嬢のようだった。
「これにて、ゴルディアス王国の勝利を宣言します!貴様たちの勇気と献身に、心より感謝します!学院に、胸を張って帰還致しますわよ!」
王国軍からの連絡もなしに、その場の流れで勝利を宣言しているミーサだが、そんな事を疑問に思う者は誰一人いなかった。勝利の号令が響き渡ると、学徒兵たちは疲弊を忘れ、歓声をあげた。彼らの心は、一つのロマンの勝利によって繋がっていた。
セバスチャンは静かに、ミーサの勝利の姿を見つめ、一礼した。
「この光景を見るために、このセバスチャンは存在します。お嬢様の勝利は、世界の勝利です。」
発電所は損傷を負ったが、ゴルディアス王国の未来は、二つの勝利によって確かに守り抜かれた。