鋼鉄闘域(ゴーレムバトル)〜ホビーアニメ設定の貞操逆転異世界でオタク男子は希少種〜 作:白うに
祝杯と、勝利の余韻
ゴレリンピックの最終試合から数時間後。
ゴルディアス王国の代表チーム、タクト一行は宿舎へと帰り、ささやかな祝杯をあげていた。宿の店主が手配してくれた豪快な料理が、テーブルに並べられている。
タクトは体中に残る魔力の枯渇による倦怠感に耐えながらも、達成感からくる心地よい疲労に包まれていた。隣には、先ほど「責任を取れ」と宣言したローニャが、いつもの冷静さを失い、興奮した面持ちで頬を赤らめ、シャンパン…ではなく、上等なジュースを嗜んでいる。
「まさか、王都があんなことになっていたなんて…。タクトさんの勝利が、本当に国を救ったんですね。やっぱりタクトさんのロマンは世界を動かします!」
ローニャの声はいつにも増して熱を帯びていた。
テーブルの向かいでは、クローナがまだ眠そうに目を擦っている。【血染ノ外套】の発動と魔力の完全な枯渇は、彼女の心身に甚大な負担をかけていた。
「ん…、タクト…くん、眠い…。責任とって…。」
タクトはそんなクローナを、甲斐甲斐しく世話を焼いてあげていた。
ルッコの顔にも激戦の疲労の色は濃いが、チームの無事と勝利の喜びが、彼女を支えていた。
「ほら、クローナ、お肉もあるけど、まずはスープよ。体を温めないと。…まったく、寝ぼけた顔しちゃって。」
ルッコも優しく、クローナの口にスプーンを運ぶ。
そして、別の席では、ニクスがもくもくと目の前の料理を吸い込んでいくかのように食べていた。彼もまた魔力を使い果たし、肉体と精神の両方が限界に達していたが、表情を変えることなく補給に専念していた。
ローニャは料理には目もくれず、魔導タブレットを操作しながら、今日の対戦相手について考察していた。
「レオニス王子はプライドが高すぎて、【マギウスカイザー】の動きを阻害しました。そして、サフィラさんの【龍鱗防護】を打ち破るためには、やはりタクトさんの全魔力収束しかなかった。プレーオフでは、同じ手は使えません…。」
ローニャの分析に、タクトは苦笑を浮かべる。
「ローニャ、今は飯を食べよう。今日は勝ったんだ。ゆっくり休んでから考えよう。」
タクトは大破した【アブソルトレイル】を収納した指輪を握りしめる。
「ニクス…、本当にありがとうな。お前の模倣は、最高のロマンだった。」
ニクスは箸を止めず、無表情なまま****頷く。
「お礼は不要。私はただ、タクトのロマンの結末を見たかっただけ。」
ルッコはクローナに寄りかかられながら、タクトたちに向かって小さな大声で言い放った。
「まだ、プレーオフが残ってんのよ!気を抜いてんじゃないわよ!」
クローナも寝ぼけた声で同意する。
「…うん。タクトくんとロマン…、いいよね…。」
彼らの間には、激戦を共に乗り越えた者たちだけが共有できる強い絆と、新たな使命感が生まれていた。
タクトは明日のプレーオフへの英気を養うため、肉を頬張る。
「そうだ。この勝利は、終わりじゃない。俺たちのロマンの物語は、まだ始まったばかりだ。」
宴は終え、タクトたちは長テーブルを片付け、今日の疲労を癒すためにベッドに向かう。
ルッコとクローナは一瞬で深い眠りに落ちた。
ローニャもタブレットを握りしめたまま寝息を立てている。ニクスは瞑想の姿勢で横になっていた。
タクトもベッドに倒れ込み、夢の世界に引き込まれそうになった。全てを出し尽くした心身が休息を求めていた。
「…プレーオフ、いつだっけ。」
その時、タクトの隣で横になっていたニクスが、静かに、はっきりと呟いた。
タクトの意識が、一気に現実に引き戻される。その言葉は、まるで天罰の宣告のように重かった。
プレーオフ。ゴレリンピックのトーナメントで勝ち上がり、最終の決勝に進出するための最終の壁だ。今日の激戦は、ただのリーグの最終戦に過ぎなかった。
タクトは青ざめた表情を浮かべる。
「…嘘だろ…。明日は休みだと思ってた…。」
ローニャはすぐにタブレットを再起動させ、情報を確認する。
「嘘じゃないです…。私としたことが…。明朝、午前中に試合が組まれています…。どうしましょう、タクトさん…。【アブソルトレイル】のコアはまだギリギリですが、【クリムゾンヘイト】は大破、ニクスさんのゴーレムも大きな負担を受けていました…。」
タクトは深く息を吐き、疲労に押しつぶされそうな体を無理やり起こした。彼の視線は、大破したゴーレムの指輪へと向かう。
「…やるしかないだろ。このロマンの物語を終わらせるわけにはいかない。ローニャ、ルッコ、ニクス、クローナ。今から深夜まで、修復作業を頑張るぞ。眠気は根性で乗り切る!」
勝利の祝杯の後、タクト一行は疲労と絶望の中で、過酷な夜を迎えることになった。彼らの新たなロマンの戦いは、まだ、始まったばかりだった。
夜明け前まで続いた、タクトたち一行の凄絶な修復と応急処置の作業は、もはや魔術と根性の結晶だった。
タクトは、大破した【アブソルトレイル】を収納した指輪を握りしめる手が震え、全身の疲労と魔力の枯渇が彼を襲っていた。ゴーレムの損傷はパイロットに直接負担をかけるため、その痛覚さえ魔力の枯渇となって残っているかのようだった。
隣に立つルッコとローニャも、寝不足と疲労で顔色が優れない。ニクスは中空を見つめながらで棒立ちとなり、感情を失ったように無表情を貫いていた。
「…【アブソルトレイル】は、何とか動くわ。でも、本調子には程遠い…。タクト、無理は絶対駄目よ。」
ルッコの声はかすれていた。
「分かってる。でも、行くしかないだろ。」
タクトは、覚悟を決め、フラフラとなりながらも、再びゴレリンピックのアリーナへと向かった。
観客席は昨日の戦いの熱気が残っているように静かだったが、新たな戦いへの緊張感が張り詰めていた。
午前中に組まれたプレーオフの試合。競技開始の時間が迫ると、アリーナのステージには不意に、一人の女性が現れた。
その女性は、ゾルディアーク帝国の皇女、ヴィオレッタ・ゾルディアだった。彼女は中央の演台に進み、静かに、しかし威圧的な声でマイクを握った。
タクトたちは、その圧倒的な威圧感に、思わず背筋を伸ばした。
「まず、ゴルディアス王国の諸君に、昨日の無礼を謝罪する。」
タクトは驚きを隠せなかった。皇女自ら、自分たちの敗北を認めたのだ。
ヴィオレッタは一呼吸置き、表情を変えることなく続けた。
「そして、今から行われるべきプレーオフについて、ゾルディアーク帝国は正式に辞退する。」
会場に再び大きな動揺が走ったが、皇女の威圧感の前で、観客は言葉を発することができなかった。
ヴィオレッタ皇女は、冷徹な目でタクトたちの控え席を一瞥し、辞退の理由を述べた。
「昨日、ゴルディアス王国で起こった施設への襲撃。これは、ゴルド公国とゾルディアーク帝国の一部の暴走した勢力が起こした戦争の火種であり、ゴレリンピックという平和の祭典の精神を冒涜するものであった。」
彼女は、自国の関与を公の場で認めた。
「皇帝の名の下、この戦争の責任の一端として、ゾルディアーク帝国チームはこれよりゴレリンピックのプレーオフを辞退する。そして、ゴルド公国の不正な関与をもって、鋼鉄闘域ギルドに正式な調査を要請した。」
レオニス王子の控え席からは、怒りと驚愕の叫びが微かに漏れたが、すぐに周りによって静められた。
タクトたちは、その意外な展開に言葉を失っていた。ゾルディアーク帝国が、自ら敗北と責任を認めたのだ。
「…帝国が…自ら引いた?」
タクトは呆然と呟いた。
ローニャはすぐにタブレットを操作し、新たなトーナメント表を確認した。
「今回の試合は、ゾルディアーク帝国の辞退によって消滅…。つまり、ゴルディアス王国は自動的に最後のプレーオフへ…。」
ルッコはその事実に目を見開き、すぐに安堵のため息をついた。
「嘘…、私たち、休めるの?あの地獄の連戦が…ないの?」
ニクスは表情を崩さず、静かに、深く息を吐いた。彼女にとっても、この休息は大きかった。
ヴァイオレッタ皇女は最後に、冷たい宣言を付け加えた。
「よって、ゴルディアス王国とスティア連合国の両チームは、このままゴレリンピックの決勝戦に進出する。決勝は明日、予定通りに行われる。」
皇女はそれだけを言い残し、静かにステージを後にした。
疲弊しきったタクト一行にとって、プレーオフの連戦が消滅し、決勝戦まで束の間の休息が与えられた事実は、何にも代えがたい天恵であった。彼らはこの休息を使って残された時間でゴーレムの修理と調整に全てを注ぎ込むことを決意した。
タクトは疲労の中で、決勝戦という新たなロマンの頂を見つめた。