不戦勝のポケモントレーナー   作:ぼくの友達

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4話目まで開いてくださり嬉しい限りです。

感想を書きたいと読者に思ってもらえる様なそんな文章を書けるようになりたいです。稚拙な文章です。
テキトーに読んでください。


4)また、そうであった。

 シンオウ地方は比較的寒冷な地域である。しかし、昨夜は珍しく暖かい夜だった。202番道路でのバトルを終えた私は、疲れた体を休めるため、簡易なテントを張って野営することにした。星が瞬く空の下、ポケモンたちの鳴き声が遠くで響き、風は穏やかに草を撫でていた。眠りは深く、静かだった。そして、朝。目を覚ますと、テントの中はまだ薄暗い。動こうとした瞬間、隣に柔らかな重みを感じた。コリンクだった。彼女は丸くなって、私の寝袋の中で身を寄せていた。小さな体が、微かに上下している。寝息は静かで、耳はぴくりとも動かない。いつの間に入ってきたのかは分からない。けれど、その姿はあまりにも自然で、まるで最初からそこにいたかのようだった。私はそっと手を伸ばし、彼女の頭を撫でた。柔らかな毛並みが指先に心地よく、コリンクは微かに身をすくめて、また眠りに落ちた。私ももう一眠りできそうだ。

 目覚めた瞬間、私は自分の身体が妙に軽いことに気づいた。まるで寝ている間に誰かにマッサージでもされていたかのように、血の巡りが良く、関節のひとつひとつが滑らかに動いた。昨夜の疲れが嘘のように消えていた。それもあって、私は機嫌良くテントの片付けを始めた。

 朝の空気は澄んでいて、草の匂いがほんのりと鼻をくすぐる。ふと振り返ると、コリンクがこちらを見ていた。その瞳は、どこか誇らしげだった。胸を張るように背筋を伸ばし、尻尾をゆっくりと揺らしている。

 

「……なにか、いいことでもあった?」

 

 問いかけると、コリンクは一歩前に出て、私の足元にぴたりと寄り添った。 そして、鼻先で私の足をつつく。その仕草は、まるで「昨日の夜、私がそばにいたからでしょ?」とでも言いたげだった。電気タイプのコリンクと触れ合っていたことで、微細な電気的刺激が筋肉の緊張をほぐしたのだろうか。コリンクは、得意げに尻尾を高く掲げた。その姿は、まるで誰よりも役に立っていると誇示するようだった。

 

 

 なぜか、コリンクはモンスターボールに入ろうとしなかった。何度か促してみたが、彼女は首を振るだけで、私の足元にぴたりと寄り添い続けた。仕方なく、そのまま一緒に歩くことにした。

 目の前には、広大な草むらが広がっている。朝露に濡れた葉が陽光を反射し、風が通るたびにさわさわと音を立てる。

 これだけ広ければ、ポケモンとの遭遇は避けられないだろう。

 

 草むらが揺れた。早速、野生のポケモンが姿を現す。

 コリンクだった。もちろん、色違いというわけではない。通常色。だが、野生のコリンクの体格は私のコリンクよりも大きく、目つきも鋭い。

 私は、足元にぴたりとくっついていたコリンクを前に出す。バトルに参加させるためだ。

 野生のポケモンから逃げられないということは、あまりない。このカツミからなら、問題なく逃げることもできるだろう。けれど、コリンクの様子が違っていた。彼女の瞳には、不安が滲んでいた。体を低く構えながらも、何度もこちらをチラチラと見てくる。野生のコリンクは、高圧的な声を発していた。その鳴き声には、嘲りが混ざっている。

 コリンクは、何度もこちらを振り返る。「どうしたらいいの?」その瞳が、そう訴えていた。

 私は、ふと考える。もしかして、この相手に、何かされたことがあるのではないか。色違いの体。小柄な体格。そして、怯えるような反応。それだけで、何かを悟るには十分だった。

 私は、そっとコリンクの背中に手を添えた。彼女は小さく震えながらも、私の手に身を預ける。

 

「大丈夫。負けることはないよ」

 

 その言葉に、コリンクはゆっくりと前へ進み、バトルに参加する。

 私は思った。このバトルは、彼女のためにある。 彼女が、自分自身を取り戻すためのバトルだ。

 

 

 お互いに特性“威嚇”が発動し、空気が張り詰める。野生のコリンクの鳴き声は、挑発的で、どこか嘲るようだった。それに対して、私のコリンクは怯えたように立ち尽くしている。攻撃は下がった。けれど、問題はステータスではない。彼女は何度もこちらを振り返る。瞳には不安が滲み、耳は伏せられ、尻尾は揺れもせず。「どうしたらいいの?」その視線が、そう訴えていた。

 私は、そっと声をかけた。

 

「大丈夫。耐えてくれさえすれば、君は何もしなくてもいいんだよ。 相手が勝手に自滅するんだから」

 

 その言葉は、戦術的な指示であると同時に、 彼女の心を守るための盾でもあった。コリンクは、じっと私を見つめた。その瞳に、少しだけ光が戻る。彼女は、ゆっくりと前を向いた。震えながらも、踏み出す。

 野生のコリンクは体当たりをする。私はコリンクとエロっちゃまに攻撃の指示は出さなかった。何度も交代を繰り返して、耐えて、回復して、また耐えて。 私のコリンクは攻撃を受けても、決して倒れず、ただじっと耐え続けた。

 それは、戦いというより意志だった。逃げず、諦めず、ただそこに立ち続けること。そして今。何度目かの攻撃を受けたその瞬間、野生のコリンクの動きが、わずかに乱れた。体当たりをしない。代わりに、荒々しい動きと共に、体をぶつけてくる。

 悪あがきだ。

 私は、すぐにそれを理解した。PPが尽きたのだ。もう、使える技がない。野生のコリンクは、自らの体を傷つけるように攻撃し、その反動で自傷ダメージを受けた。野生のコリンクは目に見えて焦り始めた。しかし回復の手段が少ない野生のポケモンにとって、既に対処のしようがない。一方で、私のコリンクは静かに立っていた。勝利を、確信していた。かつての怯えも、過去の傷も、今はもう遠い。目の前の敵が、かつて自分を傷つけた存在だとしても。今の彼女には、もうそれが些細なことのようであった。ただ、静かに立ち、ただ、静かに相手の自滅を見つめていた。

 そして、何故かこちらをチラチラと見てくる。その瞳には、ほんのりとした期待が滲んでいた。

 

「……ご褒美欲しそうやね」

 

 私は、思わず笑ってしまった。このバトルは、ただの勝利ではない。彼女が過去と向き合い、乗り越えた証。ならば、与えない理由はない。

 

 気づけば、野生のコリンクは自傷ダメージで瀕死になっていた。技を使い果たし、悪あがきの反動で体力を削られ、ついに膝を折る。その様子を見た瞬間、私のコリンクは勢いよく駆け寄ってきた。尻尾を揺らしながら、足元にぴたりと寄り添い、「褒めて、褒めて」と言わんばかりに体を擦り寄せてくる。

餌のため、それは分かっている。けれど、それでも愛らしい。

 私は笑いながら、彼女の頭をよしよしと撫でまわす。毛並みは柔らかく、温もりが指先に心地よい。そして、特製の餌を差し出すと、コリンクは嬉しそうに頬張った。すぐに食べ終わると、いつものように私の指をぺろぺろと舐め始める。その舌は、餌の名残を探しているようでいて、 どこか私のものという印を残そうとしているようでもあった。ひとしきり舐め終えると、今度は体を私に擦り付けてくる。頬、背中、尻尾、全身を使って、私に触れてくる。まるで、マーキングするかのように。「これは私の人間だから」と、誰かに見せつけるように。

 

 エロっちゃまだけがニックネームを持っているのは、少し不公平な気がした。旅の仲間として、コリンクにも何か呼び名を付けよう。そう思い、私は考え始める。すぐに「ヤクチュウ」なんて案が頭に浮かんだ。もっと、彼女らしい名前があるはずだ。私の指をぺろぺろと舐めながら、コリンクはチラチラとこちらを見ている。

 そういえば、コリンクが好きな特製の餌は、ミツハニーが集める蜜を主成分としている。甘くて、香り高くて、彼女はそれを食べるといつも尻尾を揺らして異常に喜ぶ。

 ――ハニー。

 ふと、その言葉が頭に浮かんだ。綺麗な黄色い体。

 

「ハニー」

 

 そう呼んでみた。すると、コリンクはぴたりと動きを止めた。瞳が揺れ、ぽろりと涙がこぼれた。

 私は、少しだけ焦った。嫌だったのかもしれない。他の名前を考えようとしたその瞬間、コリンクが、私の目の前でジャンプし始めた。何度も、何度も。私の思考を邪魔するように。

 

 「ハニーでいい?」

 

 問いかけると、コリンクは大きく鳴いた。その声は、肯定の響きを持っていた。そして、私の周りを跳ね回り、尻尾を振りながらはしゃぎ始めた。まるで、名前をもらえたことが嬉しくて仕方がないかのように。嫌がっていない。 むしろ、喜んでいる。私は、そっと彼女の頭を撫でた。

 

「これからよろしくね、ハニー」

 

 その言葉に、ハニーは満足げに目を細めて、私の手に頬を寄せた。その仕草は、まるで名前をもらえたことへの感謝と、私への信頼の証のようだった。

 ひとしきり戯れあった。頭を撫で、尻尾をくすぐり、指を舐められ、体を擦り寄せられ。ハニーが満足するまで、私はその甘えに応え続けた。

 その間、エロっちゃまは少し離れた場所で、静かに佇んでいた。

 疎外感に悦びを感じているような、奇妙な満足げな表情。

 流石である。

 なんやかんやあって、やる気に満ちているハニーは、先へ進もうと私のズボンの裾をくいくいと引っ張った。その瞳は輝き、尻尾は高く掲げられている。 まるで「次は私の見せ場だよ」と言わんばかりだった。私は笑いながら荷物を背負い直し、ハニーの後を追おうとした。

 その時だった。

 

「僕とポケモン勝負しよう! フフン! 僕が勝つけどねー!」

 

 短パン小僧のカツミが勝負を仕掛けてきた。

 その自信満々な声に、私は肩をすくめながらハニーを前に出す。ハニーは、名前を呼ばれたことに嬉しそうに鳴き、尻尾を高く掲げた。カツミも、得意げにモンスターボールを投げる。現れたのは、コリンク。そのコリンクは、ハニーを見るなり、妙に気取った仕草を始めた。前足を揃えて座り、尻尾をふわりと揺らしながら、鳴き声に艶を乗せる。

 アピール、だろうか。

 ハニーは一瞬きょとんとしたが、すぐに顔を背けた。その様はどこか冷ややかだった。

 バトルが始まる。お互いに特性“威嚇”が発動し、攻撃が下がる。私は、すぐにエロっちゃまを呼び出す。彼は相変わらず、疎外感に悦びを感じているようだったが、「僕の出番……来ちゃった?」と、それはそれで妙に嬉しそうだった。エロっちゃまはカツミのコリンクの“威嚇”を受けるたびに、どこか嬉しそうに「もっと罵って……」と呟いているような表情をしているが、見なかったことにしておいた。

 何度か入れ替えを繰り返し、カツミのコリンクの攻撃を十分に下げる。これまで通り、悪あがき自滅作戦を行う。

 私がハニーを繰り出すたびに、カツミのコリンクは妙に格好をつけて攻撃してくる。前足を高く振り上げ、鳴き声に艶を乗せ、尻尾をふわりと揺らす。少し微笑ましい。だが、ハニーはというと、まるでどうでもいいような顔をしていた。攻撃を受けても、表情ひとつ変えず、ただじっと耐える。その姿は、まるで「はいはい、終わり、次の攻撃は?」と言っているかのようだった。

 交代のたびに受ける攻撃から、カツミのコリンクの技構成が見えてきた。体当たり(PP35)、睨みつける(PP30)、電気ショック(PP30)。電気ショックは特殊技。“威嚇”では威力を下げられない。だが、電気タイプの技である以上、こちらも電気タイプのハニーを出せば、タイプ相性で威力を半減できる。それにより、ダメージを最小限に抑えることができた。

 ハニーは、何度も攻撃を受けながらも、じっと耐え続けた。その瞳は、どこか遠くを見ているようで、カツミのコリンクのアピールなど、まるで眼中にないようだった。

 合計95回。

 カツミのコリンクの攻撃を、ハニーとエロっちゃまは耐え抜いた。

 ここまでの長期戦にもかかわらず、二匹はどこか余裕を見せていた。エロっちゃまは「もっと罵って……」と悦びを噛みしめ、ハニーは、攻撃を受けながらも、まるで攻撃を受ける順番を待っているだけのような顔をしていた。一方で、カツミとそのコリンクは、ぐったりと辟易していた。これまでに無い長期戦に、体力も気力も削られ、カツミの顔には、どこか悟りを開いたような静けさが漂っていた。僧になる時も近いだろう。

 そして、ついにその時が来た。カツミのコリンクの動きが、明らかに乱れ始めた。荒々しく体をぶつけてくる。悪あがきだ。技のPPが尽きたのだ。自らの体を傷つけるような攻撃。その反動で、自傷ダメージを受ける。二度、三度。そして、最後の悪あがきを繰り出した。 その体はふらつき、反動で地面に崩れ落ちる。

 静寂が訪れた。

 ハニーは、一歩も動かず、それを見つめていた。まるで、勝利の瞬間を待っていたかのように。

 カツミは、回復も何もしなかった。ただ、静かにその光景を見つめていた。その顔には、敗北の悔しさではなく、何かを悟ったような静けさが宿っていた。既視感のある光景だった。

 

「すごいね…君」

 

 カツミの口からぽつりと、言葉がこぼれる。

 

「僕、ずっと“強さ”って、強い攻撃をすることだと思ってた。でも、君のポケモンは、違った。耐えて、耐えて、耐えて……それで勝ったんだね」

 

「なんかさ……僕、今まで“勝ちたい”ってばっかりだったけど…… 君を見てたら、ポケモンバトルの可能性が、ちょっと分かった気がする」

 

 一呼吸とは思えないほどに、ポケモンバトルについて語ったカツミは、ふっと笑った。その笑顔は、少年らしくて、どこか僧侶のような穏やかさを帯びていた。勝敗を超えた何かを掴んだ者だけが持つ、静かな光。彼は、コリンクをそっと抱き上げる。カツミは、静かに一礼する。深く、丁寧に。まるで、戦った相手だけでなく、バトルそのものに感謝を捧げるように。その背中は、修行を終えた僧侶そのものであった。

 

 ハニーは、私の足元で尻尾を揺らしていた。エロっちゃまは、どこか物足りなさそうに地面を見つめていた。

 背後から聞き覚えのある元気な声が聞こえた。

 

「……いいバトルだったね!」

 

 振り向くと、ルミが立っていた。風に髪を揺らしながら、少しだけ首を傾げている。

 

 私は、少し笑って答えた。

 

「悟りを開いた少年が一人、ここを去っていったよ」 

 

 ルミは目を瞬かせる。

 

「……何言ってるの?」

 

 ハニーは、ルミの方をちらりと見て、私に体を擦り寄せてきた。まるで、「私の忘れて無いでしょうね?」と言っているかのように。

 ルミは、そんなハニーの様子を見て、ふっと笑った。

 

「……名前、つけたんだね」

 

「うん。ハニー。甘えん坊で、黄色くて、蜜が好きで―― でも、強くて、誇り高い子だよ」

 

 ルミは、静かに頷いた。

 

「……すぐそこのコトブキシティに泊まってるの。今日は、もう戻るつもり」

 

 その言葉に、私は少しだけ名残惜しさを覚えた。 この短い時間の中で、彼女との距離は確かに縮まっていた。

 ルミは、ポケットから端末を取り出すと、私に向かって軽く差し出した。

 ハニーは、私の足元で尻尾を揺らしながら、ちらりとルミを見上げる。その瞳には、少しだけ警戒の色が映っていた。

 

「連絡先、交換しようよ。次に会う時、ちゃんと連絡できるように。それに色々知りたいし」

 

 その声は、いつものようにさらりとしていて、けれどどこか優しかった。

 私は頷き、端末を取り出す。画面越しに表示された名前を見て、私は思わず吹き出しそうになった。

 

「ルミ・ザ・サイキョウビッパ(仮)……強そうだね」

 

 私がそう言うと、ルミは少し照れたように笑った。

 

「昔、弟に勝手に登録されたの。変えようと思ってたけど、なんかもう慣れちゃって」

 

「じゃあ、次にバトルする時は“ルミ・ザ・サイキョウビッパ(仮)”に挑戦するってことやね」

 

 私がそう言うと、ルミは肩をすくめて笑った。

 

 「その頃には、(仮)が取れてるかもね」

 

 夕陽が差し込む中、画面の文字が妙に眩しく見えた。

 ーー僧、サイキョウビッパだった。私はレポートに書いた。




4話も最後まで読んでくださりありがとうございます。

ポケットモンスターダイヤモンドパールをプレイしていた頃を思い出しながら書いています。当時はストーリーよりもバトルして、勝つ、を楽しんでいました。今はどちらかというと、勝ち方とか勝つ過程に楽しさの重きを置いている様に感じている今日この頃です。

学業に励む学生を見ていると、今の私が失った何かを思い出せる様な気がします。ナルトのオオノキの気持ちです。
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