悪魔が見つめるその先に   作:偶像崇拝

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第十二話

 レゼと色々な場所へと遊びに行った。

水族館、動物園、遊園地など彼女が行ったことのないという場所へと行ったりした。地元の祭り会場で花火大会が開催されると聞いて一緒に花火が見える丘へと足を運んでいた。

 

「ここはね、マスターから教えてもらったとっておきの場所なんだ」

 

「他の人達も知らない絶景スポットらしいですね」

 

「そっ! ここならお兄さんと二人っきりで花火を見れると思って」

 

 ここから見える景色は確かに夜景と相まってとても美しい光景が広がっている。

もうすぐ、祭りの目玉である花火大会も始まって夜空に綺麗な景色が描かれて思い出に残ることだろう。夜景を楽しみながら花火を待っているとレゼがこちらへと向き直っていた。

 

「お兄さん、私に言ってくれたよね。悪魔が当たり前に存在する世界に平穏な場所は少ないって」

 

「言いましたよ」

 

「私、ずっと考えてたんだ。お兄さんは争いごとが嫌いなのは知ってるし、平穏に過ごしたいっていう願いを持ってる。でも世界がそれを許してくれない。悪魔をこの世界から消し去ることは難しいと思うの。でもね、平穏な場所はあるんだよ」

 

「……」

 

 真剣な表情で告げるレゼを見つめながら僕は耳を傾ける。

確かに彼女の言うように悪魔をこの世界から消し去ることはおそらく不可能に近いだろう。それが出来るとすれば、一つの存在だけだ。

僕はレゼの言葉を黙って聞く。

 

「私が今まで訪れた事のある場所に悪魔も近寄らないっていう場所があるの。そこなら安全だし、悪魔に襲われる危険もないんだよ」

 

「悪魔も近寄らない場所?」

 

「そうだよ。私が一緒に連れて行ってあげる。それに私も一緒だから、一人にはさせない。ねぇ、私と一緒に平穏な生活を送ろう?」

 

 もし、この言葉が真実であるなら非常に興味を惹かれる話だ。

嘘と真実が入り混じった言葉、すべてが嘘ではないし、すべてが真実というわけでもない。レゼの気持ちも混ざっているのは聞いていて感じとれる。

 

「それにね、私はお兄さん、ううん、レックス君の前なら私は本当の私で居ることができるの」

 

「本当の自分」

 

「作った私じゃなくて虚像じゃない本来の私。きっと今感じているこの気持ちは嘘じゃない」

 

「……」

 

「私はレックス君の事が好き。あなたの前でなら偽りのない姿を晒すことができるの」

 

 そう言ってレゼは僕の両手を掴んで自身の胸元へと引き寄せる。

上目づかいで見つめられ、頬の赤らみも瞳が潤み、すべてが本心であると錯覚してしまいそうになるだろう。ただの一般人ならば……。

 徐々にレゼの本心が表へと出始めているのは間違いない。

語ってくれる言葉の全てが嘘だというつもりもないし、きっと本当の気持ちも言っている。僕の前では本当の自分を晒すことが出来るというのも。

 

「僕もあなたの事は嫌いじゃありませんよ」

 

「ほんと! じゃあ、一緒に……」

 

「でも、嘘つきですね……レゼ」

 

「え?」

 

 僕の言葉にレゼは少しだけ硬直した。

今の流れからすれば、一緒に来てくれると思ってしまってもおかしくない。僕はゆっくりと掴まれた両手を離して彼女から少しだけ離れた。

 

「私は嘘なんて、何を言ってるの?」

 

「僕と一緒に色々な場所へと遊びに行ったり、あの喫茶店で一緒に過ごした時間は嘘じゃない。レゼの言葉に本心が出ている事も感じています」

 

「レックス君、私が君が好きなのは本当だよ?」

 

「嘘と真実を織り交ぜて、本質を掴めなくする話術。嘘も周りが信じれば、それもまた真実となる。レゼ、僕が本当に君の目的に気付いていないと思っていますか?」

 

「……」

 

 過ごした時間は決して嘘じゃない。

でも、そのすべてが偽りでなく真実であるということは誰にもわからないんだ。過ごすうちに彼女の事がわかって、どの国の工作員であるということはすぐにわかった。

 初めて会った時から裏側の人間だってことは気付いていた。

今の世界ではこういうことが当たり前に行われていると知っていても実際に目にするとなんとも言えない気持ちになった。

 

「そっか。レックス君は気付いちゃったんだ」

 

「僕の身柄を確保して国へと連れ帰る」

 

「そこまでわかっちゃったんだ。あーあ、上手くできてると思ったんだけどなぁ。そう、私はお兄さんを篭絡して国へと連れ帰る任務を与えられた工作員なんだ。その様子だと私がどこの国から派遣されたかも気付いてるの?」

 

「ソ連の工作員でしょ」

 

「正解だよ、レックス君」

 

 しばらく沈黙を保った後でレゼは降参だと言わんばかりに大きなため息を吐いた。

口から語られたのは僕に接触した目的と自身が何処の国の工作員であるかという問いかけ。僕の答えに対して正解だと少しだけ笑いながら答えていた。

 

「そのまま気付かずに一緒に国へと向かえればよかったのに」

 

「だからレゼとは一緒に行けない」

 

「私も本当はこんなことをしたくないんだけど、篭絡が失敗したから仕方ないんだ」

 

 ごめんねと言いながらレゼはナイフを逆手に持って僕へと向けた。

その刹那、僕の正面に居た彼女の姿が目の前から消える。普通の身体能力じゃないな、これは。訓練だけでなくてもしかすると……。

 今は無駄な思考をするのはやめておこうか。

後ろか、僕もナイフを取り出して死角からの一撃を受け止める。

 

刃同士が触れ合ったことで火花が散った。

 

「受け止めるんだ? やっぱり、実戦の経験が豊富なんだね!」

 

「そんな笑顔で言われても困りますよ。僕を国に連れ帰るんじゃなかったんですか?」

 

「そうだよ? 私の勘が告げてるの。お兄さんは無傷で連れ帰るのは不可能だって! それに生きてさえいれば回復させる手段は用意されてる」

 

「怖いなぁ、ほんとに」

 

 頸動脈をいきなり初手で狙ってくるのは暗殺者の動きなんだけど。

大量出血によるショックを狙って、僕の動きを封じる算段かな。それにしても本当に国に尽くすための教育を施された一人か。

 心を決めたら一切の容赦がなくなるんだね。

さて、こちらも女の子だと思って油断していると命取りになるのは必須か。切り結び、夜空に上がる花火を背景に僕とレゼの戦闘が繰り広げられる。

 

「このままじゃ、埒が明かないなぁ」

 

「だったら諦めてくれると僕は嬉しいんですけど」

 

「それは無理だよ。だって私はっ……痛っ」

 

「僕もこういったことは極力したくないのは同じですよ」

 

 ナイフ捌きは本当にプロ以上に感じる。

でも、プロ以上であっても隙がない訳じゃない。足元の小石を蹴ってほんの一瞬だけ彼女の視線を誘導、その瞬間にナイフの柄でナイフを持つレゼの右手を強打する。

 手から離れた獲物を遠くへと蹴り飛ばした。

これで武器を隠してないなら無力化できると思うんだけど、たぶん素手での戦闘も当然訓練を受けているよね? 

 

レゼにナイフを向けるが怯えた姿は見せず、むしろこちらへと踏み込んでくる。

工作員というだけあってやはり、対人戦闘にも慣れているし、当然狙ってくるのは急所。それにサンボとシステマの動きも組み込まれている感じだ。

 

「捕まえた!」

 

 女性特有の身体の柔らかさを活かした動きでナイフを持つ腕を掴まれてしまう。

そこを起点として身体を半回転させて回し蹴りを放ってくる。僕は掴まれていない方の腕で蹴りの側面を叩いて蹴りの軌道を変え、レゼの地面に接している片足を蹴る。

 

「お兄さん、いい加減に……」

 

「倒れないか」

 

 バランスを崩した瞬間にレゼが僕の腕を離して片手を地面についてバク転して距離をとる。

一緒に過ごした時間が長いと少なからず、情というものは湧いてしまう。う~ん、どうしたものかなぁ。手合わせしたことで現状の技量自体は把握できたけど……。

 

チョーカーから見える丸いピン。

なぜか、あれが気になって仕方ない。

 

「ほんとに、最悪だよ」

 

「それには同意しますよ」

 

「お兄さんのせいだよ? はぁ、計画が滅茶苦茶だ」

 

 レゼが僕の方を見て深いため息を吐く。

そして彼女は僕がずっと気になっているチョーカーから見える丸いピンへと指を掛ける。

 

「ぼんっ」

 

 そのピンを引き抜いた瞬間、彼女の首元から赤い閃光と同時に爆発を引き起こした。

爆炎と共に全身が爆発したレゼの姿に自爆かと一瞬思ったけど、先ほどまでの言動と表情からそれはあり得ないことは容易に想像がついた。

 爆炎と爆風によって周囲の木々の一部がなぎ倒される。

爆発の中心へと目を向けると僕はすべての状況を理解することになった。

 

「そういうことですか。レゼもまた、デンジ君と同じ存在か」

 

 吹き飛んだ身体が再構築され、契約している悪魔と見られる姿へと変貌した。

頭部が航空爆弾を模したものとなり、導火線状のもので編み込まれたようなオペラグローブ、ダイナマイト状のものが連なっているエプロンに見えるものを身に付けている。

 

「驚かないんだね?」

 

「まぁ、知り合いにレゼと同じような存在がいますので」

 

「へぇ、私と同じ? それってチェンソーみたいなのかな?」

 

「そうですね」

 

「そう。上層部の情報は確かだったかぁ」

 

 レゼのこの反応はやはりデンジ君の存在を既に掴んでいる可能性が高い。

彼がその姿で戦ったのは確かフロストから聞いた限りだとまだ少ないはずだ。蝙蝠、蛭、永遠の悪魔の計三回のはず。

つまり、このうちの何処かでソ連のスパイが姿を確認して情報を持ち帰ったという事になる。

 

レゼの口ぶりはそれを確定させるものだった。

 

「こんなことはやめましょう、レゼ」

 

「だったら私と一緒に国へと向かおうよ。そうすれば、私はレックス君に酷いことをしなくても済むんだよ?」

 

「田舎のネズミが好きだと言ったのは嘘だったんですか?」

 

「それは本当だよ。私は田舎のネズミが好き、その気持ちは変わらない。でもね、状況がそれを許してくれないの」

 

「はぁ、ほんとに生きづらい世の中ですね」

 

 止まる気はないんだね、レゼ。

互いの状況がその選択を許さない状況か。彼女が僕を諦めない限り、終わらなそうだけど諦めてくれるはずもないよね。

レゼがデンジ君と同じ存在だとして、どの悪魔なのかは想像するのは難しくない。頭部の形や導火線状のグローブとかダイナマイト状のエプロン、この情報を組み合わせると……。

 

おそらく爆弾の悪魔だろうな。

 

「さぁ、始めようか」

 

「恨みますよ、ほんとにもう」

 

 僕はナイフを収めて本来の獲物である刀を鞘から抜いた。

平穏を望む一方で戦いに巻き込まれる日々に口から出た恨み節は許してほしい。既にさっきの爆発で誰かが通報をしたかもしれないから時間に余裕はないかな。

 

 

 

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