悪魔が見つめるその先に   作:偶像崇拝

14 / 33
戦闘描写が難しい……。



第十三話

 レゼが爆弾の悪魔へと姿を変え、レックスは得物である刀を鞘から抜いた状態で対峙する。

彼女の指先と足元から見えるオレンジ色の火花を視界に捉え、レックスは身体の重心の位置を僅かに変えて鋭い視線を向けていた。

 

夜空に一際大きな花火が上がり、綺麗な花を咲かせる。

それが合図となって動きを見せた。

 

 レゼがレックスへと向けて指を弾くとオレンジ色の閃光と共に火花が飛ばされた。

それを見た瞬間に僅かに目を細めた彼は自身の居た場所から距離を置く。それは本能的なものか、それともこれまで積み上げてきた戦闘による勘なのかは本人しかわかり得ない。

 

「やっぱり、そういうことか」

 

 レックスがそう呟いた瞬間に先ほど居た場所が大きな爆発を起こした。

先ほどの火花はいわゆる着弾地点で爆発を引き起こす遠距離攻撃に相当するものだと瞬時に判断を下す。その爆発と別の爆発音が聞こえ、視界にレックスへと瞬間的な加速で接近するレゼの姿を捉えていた。

 

「よそ見するのは頂けないよ?」

 

「全くほんとに嫌になる」

 

 レックスは確かにレゼが足元で爆発を起こして、その爆発と爆風を利用して瞬間的な加速を引き起こしている姿を確認していた。

一気に接近を許した彼は振るわれる拳を流れる動きで回避する。しかし、彼女もまたただ拳を振るっているわけではなかった。

 拳を振るった瞬間に肘の後ろで小規模爆発を起こすことで拳を振るう速度を急激に加速させている。

それでもレックスはその動きを目で追って反応し、最適解と思われる動きで身体を反応させているのだ。拳が振るった時に一瞬だけ見える隙にレゼの胴体へと蹴りを入れて強制的に吹き飛ばす。

 

「本当に人間なのかな?」

 

「僕は正真正銘の人間ですよ。耐久力もさっきの比じゃないのは当然か」

 

 レゼの胴体を蹴った瞬間に近接戦による打撃は有効ではないとレックスは瞬時の判断を下した。耐久力の上昇に加えて打撃を打ち込んだ瞬間に爆発を起こされる可能性を危惧したのだ。

 レゼも自分の動きを視界に捉えてから反応されていることを理解していた。

見てから反応できるという事は攻撃の始動を確認され、それから対応されることになる。つまり後出しに近いレベルでの対策を可能とされてしまうと。

 

 彼女が知る人間の限界の神経伝達速度すら超えているかもと思ってしまう。加えてそれに対応できる身体能力も備わっているのだから厄介この上ないだろう。

 

「やめませんか、レゼ。僕はあなたと戦いたくありません」

 

「もう無理だよ。始まってしまった戦闘を終わらせる手段は互いに一つしかないの」

 

「……」

 

「……」

 

 戦いをやめようというレックスに対してレゼは無理だと告げて戦闘態勢を解かない。

もはや戦いを途中で中断する方法は一つしか存在しないという事は互いに理解している。それでも出来る事なら戦うことなく終えたいと言うのがレックスの思いでもあった。

 己の手に持つ獲物に映る自身の顔をしばらく見つめた後、小さく息を吐いた。一度、閉じられた瞳が開かれる。

レゼはレックスの姿を見た時、僅かに悪寒に近いものを感じとった。何かがおかしいと本能か、何かが訴えかけている。

 

「えっ……」

 

 その刹那、突如として彼女はバランスを崩してしまう。

痛みと共に襲ってきたのは左の膝から下の感覚がなくなっているもの。視線を下へと向けると斬り落とされた左足とそこから流れるようにおびただしい血。

 すぐに左足を再生させるが、斬られた瞬間を捉えることができなかったのだ。

もう一度レックスへと目を向けると刀から血が滴っている。つまり、自分が確認できない速度で振るわれた一閃によって足を斬り落とされた事になる。

 

「これは想定外かな」

 

 瞬時に状況を把握したレゼは足元に落ちた左足をレックスの方へと蹴り飛ばした。

ちょうど、二人の間の中間点を過ぎた場所辺りで左足が大爆発を起こして互いの姿が爆炎で見えなくなる。指を連続で弾いて火花を飛ばし、周囲に無差別爆撃を引き起こす。

 花火の音がカモフラージュとなり、あまり目立っていなかったがこれだけ連続で爆発を引き起こした事で下の祭り会場に居る人達にも気付かれてしまう。

 

「点でも線でも駄目、面制圧じゃないと効果なしかな?」

 

 足の裏で爆発を引き起こして、その爆風を利用した高速移動でレゼが空中を旋回しながら見下ろしている。

爆炎で姿が見えないレックスに面制圧による無差別爆撃で仕掛けるが姿を確認することは出来ていない。全面に対して行われた爆撃の威力を物語るように木々が燃え盛り、まさに爆心地のようになっている。

 

「氷の悪魔が興味を抱くのがよくわかる。少なくとも私が知る人の限界を遥かに超えてるもの」

 

「喜んでいいのか、良くないのか、困る言葉ですよ」

 

「誉め言葉だよ?」

 

 爆炎の中から姿を現したのは服に付着した土埃を払うレックス。

服自体は汚れているが、爆発によるダメージを受けたような感じではなかった。それを見たレゼはますます人間離れしていると素直に称賛を送る。

少なくとも自分が知る人間でレックスを図ることは不可能だと。

 

「心臓に悪いことはやめてほしいな」

 

「やるしか道はないか」

 

 レゼが足の裏側を爆発させ、急加速と方向転換を繰り返して一気に距離を詰める。

縦横無尽に動き回り、レックスに狙いを定めさせないように撹乱し、そのまま彼の足元へと拳を叩きつけようとする。

 居合の構えを取り、完全にカウンターを狙うレックス。

鞘に納められた刀が解き放たれようとした瞬間にレゼがもう一段階、爆発によって急激に軌道を変え、加速力を得た事で狙いがブレる。

 

「っ……まだ!」

 

 レゼの軌道が急激に変えられた事で放たれた居合は狙いよりも数㎝ズレてしまう。

それでも片腕を切断する事には成功しており、片腕の代償としてレックスの足元へとミサイル状へと変化させた足を叩きつけることに成功していた。

直撃と同時に高火力による大爆発を引き起こし、爆心地にはレゼの姿しか確認することが出来ない。

 

「信じられない……人間やめてるよ、レックス君」

 

 今の一瞬、レゼは信じられないものを見たと言葉を呟いた。

右腕を斬り落としたレックスはすぐに次の構えを取っており、後方へとステップを踏んで彼女ではなく地面へと一閃を放っていたのだ。それによって大きく切り取られた土塊が爆発前に浮き上がっていた。

 爆発したと同時に大きな土塊に足を乗せ、爆発の爆風を利用して大きく距離を取ったのだ。

一瞬の判断で行われた出来事はレゼをしても人間業ではないと冗談なしに語っている。

 

加えて心臓にナイフが深く突き刺さっている。

その攻撃がどの瞬間に行われたものか、レゼは把握できていなかった。

 

「うわ、何だこれ」

 

「爆弾でも落ちたのかよ?」

 

「見ろ、あれが連絡があった爆発の犯人だ」

 

 その時、車に乗った3人組の武器を手にしている男達が姿を現した。

戦闘跡を見た3人は口々に目の前の光景を口にするが、その中心にいるレゼを指さして連絡にあった爆発を引き起こした犯人だと断定する。

右腕を再生させながら彼女は男達を視界に捉えるとすぐに正体を看破する。

 

「民間のデビルハンターかな? 悪いけど、今は時間がないの」

 

「うお、喋ったぞ。こいつ強いぞ」

 

「19時33分、戦闘を開始する」

 

「警戒しろよ」

 

 レゼはナイフを心臓から抜いて振り返り民間のデビルハンターへと言葉を紡ぐ。

喋った事で通常の悪魔よりも強い個体であると判断して各々が武器を構えるが、彼女の前では無力に等しかった。パチンと指を弾くと接触面から火花が飛び、彼らの元へと閃光と共に着弾する。

 後ろにある車のガソリンへと引火したことで一瞬にして火の海になる。

爆発の影響をもろに受けた三人は物言わぬ遺体へとなってしまう。彼女はその場所へと歩み寄ると倒れている男の一人の首筋へと鋭い牙で噛みつき、血液を摂取する。

 

爆炎によって視界を遮られているがレックスが居るであろう方向を見つめて再び、爆発と爆風を利用して高速移動を開始した。

 

 

 爆弾の悪魔らしきものへと変化したレゼの耐久力は高い。

爆発を利用して大きく距離をとった僕は下に見える爆炎をジッと見つめていた。先ほどから一回だけ大きな爆発が起こったけど、途中で見えた民間のデビルハンターとの戦闘になったのかな。

 

「これが不死身と言われる所以か」

 

 爆炎を見つめながら刀を抜くとふと視線を感じた。

この視線の方向は東の45度方角から見られている。爆炎から視線をその方向へと向けると薄っすらと目のようなものが見えるけど、この感じは別の時間軸から見られている感じだ。

この場所には存在していない……。

 

その存在と視線を合わせて僕は言葉を紡ぐ。

 

「覗きかな? あいにくだけどそういうのは好きじゃない」

 

 刃先で軽く指を切り、刃の側面に血を塗る様に指を沿わせる。

一瞬だけ鈍く光ったことを確認して僕はこちらを視ている存在に対して刀を一閃した。……見られている感覚が一つ消えた。

ボンッという音が連続して聞こえ、こちらへと何かが近づいてくる。

 

いや、何かじゃなくてこれは間違いなくレゼだろう。

爆炎の中から姿を現したのはやはり彼女だった。僕の前に着地するとこちらをゆっくりと見据えていた。

 

「簡単な任務のはずだった。氷の悪魔が傍に居ても人間である事には変わりない。だから連れ帰ること自体は難しいことじゃないって」

 

「……」

 

「篭絡を狙って近づいた私の方が心を乱されるなんて……。いつから気付いていたの? 私がソ連の工作員だって――レックス君」

 

 レゼの独白を僕は黙って聞いていた。

それはまるで罪の告白を聞いているようで彼女の心に宿った思いの吐露のようにも感じる。僕と過ごすうちに制御された凍っていた心が解け始めたのか。

彼女の言葉に対して僕も答えを返すべきだろうね。

 

「初めて喫茶店で出会った時からどこかの国の工作員だとは気づいていましたよ」

 

「初めから?」

 

「そう。でも、その国がどこかまではわからなかった。少し調べてソ連であることや"秘密の部屋"の出身者であることもわかった」

 

「そっか。私は初めから失敗しちゃってたんだね」

 

 素直に初めて見た時から工作員であることは気付いていたと答える。

巧妙に隠されていたけど、痕跡自体は残っていた。僕自身が各国のスパイや監視を受けていることは知っていたからその逆を行う事も難しくはなかった。

まぁ、本当に秘密の部屋が存在していたとは思わなかったけど、過去にどこかの国がそれを突き止めてから報道が無かったし、すぐに誤報扱いされたみたいだから真実はわからなかった。

 

でも、何もなければ噂も流れないから真実だとは感じていた。

 

「工作員と気付かれずに作戦遂行を行うという点では失敗でしょうね」

 

「私はお兄さんの掌で踊らされていたってことかぁ」

 

「それは違うよ。確かに工作員と気付いていたけど、僕はレゼに対して真摯に向き合ったつもりだよ? 嘘偽りない気持ちで答えたし、フロストの事で言葉を濁しただけ」

 

「……」

 

「楽しいと思えない相手といろんな場所へと行くわけないでしょ」

 

 そう、僕はレゼに対して一度も嘘をついていない。

その環境に対して思う事が無かったと言えば噓になるけど、レゼという一人の人間として接したつもりだ。国のために尽くす戦士としての教育を施された彼女に娯楽の経験はなかったと思う。

それに僕みたいなタイプとはもしかしたらあまり対峙したことが無いのかもしれない。

 

「どうして……。私は国からの命令であなたを連れ去ろうとしたんだよ? 今だって生きてさえいればいいって襲い掛かってるのに。そうなる可能性をわかって、私と一緒に過ごしていたって理解できないよ」

 

「それは可能性が高いだけであって絶対じゃない。だから僕は低い方の可能性を信じてみたくなった」

 

「……おかしいよ、そんなの。敵である私を信じてみたい? 馬鹿なこと言わないで! そんな……そんなことできるはず……ないよ」

 

 僅かに後ろへと後退するレゼの拳が強く握られているのが見える。

まぁ、僕の言葉は彼女からすれば信じられないものだろうね。国からの命令は絶対で失敗すれば、処分されるのが常の世界。

 そんな環境で生きてきたレゼからすれば、嘘を言っているようにしか聞こえないだろう。

常識で考えるならそうだ。でも、時には常識が正しいとは限らない場合も存在するんだ。

 

「そんなの信じられるわけないよ。それを認めたら私は……」

 

「もう一度いいます。レゼ、僕はあなたと戦いたくありません。これ以上、僕にあなたを傷つけさせないでほしい」

 

「……もう私に勝ったみたいな言い方をするんだね?」

 

「戦いは動揺したままで勝てるほど甘いものじゃない。その迷いが一瞬の判断を遅らせ、死という結果を招くことになる」

 

 この戦いを途中でやめさせるのは無理そうかな。

僕がレゼを傷つけたくないと言うのは本当だから致命傷を外しているんだけど……。デンジ君と同じ存在と考えると致命傷を与えても蘇生することができる。

 それでも僕の良心が痛む。

心が揺れているけど、どうすればいいのか判断を下せずにいるのかな? 任務の失敗が処分されるという結果を招くから退けない状態であるのか。

 

「私をこれ以上、惑わせないで」

 

「説得は無理ですか」

 

「うるさい、うるさい、うるさい!」

 

「ん?」

 

 急に頭を押さえてうるさいと叫んでいる?

これはもしかすると……何かが頭の中で呟いてるのかな? よくある例えで言うなら上官の言葉が頭の中で繰り返されるとか。

 深層心理にまで落とし込まれているなら秘密の部屋の出身者は本当の意味で国のための道具だ。

任務を達成させるためなら命を落とす事すら計算された本当の意味で国に尽くす兵士。そのための教育が徹底されてるのかな。

 

「失敗は死、生き残るためには任務を遂行するだけ」

 

「困ったなぁ。仕方ないか……」

 

 声から抑揚が消えたレゼが足元と手元を爆発させることで爆風を利用して縦横無尽に動く。

完全に無力化するしか落ち着かせる方法はないか。フロストから聞いた話を基準で考えると血が足りない状態へと持ち込めば、完全に無力化することが出来るはず。

 

「ごめんね、レゼ」

 

 どれだけ加速してもその場から消えるわけじゃない。

如何に速かろうとも僕はレゼを視界に捉え続けている。攻撃は最大の防御というように相手に反撃させる隙を見せなければ、攻撃する手段を奪うことになる。

小型のミサイル状の爆弾を飛ばし、絨毯爆撃を行い広範囲を爆撃。

 広範囲の爆撃から一点特化の爆撃を使いこなし、こちらに攻撃の機会を与えない方法は理に適っている。

死が遠い存在である彼女は守りを捨てることは大きなリスクとはなりにくいことも関係しているだろう。

 

だからと言ってそれが誰に対しても正解であるとは言えない。

 

 

さっきの僕の一太刀に反応できなかった時点で僕の一閃は防げない。

 

「痛っ……えっ?」

 

「許してとは言わないよ」

 

「ごふっ……」

 

 レゼにとっては意味がわからないだろうね。

痛みと共に失ったのは自分の四肢、それが同時に失われたことで出血量は片腕を斬り飛ばした時の比じゃない。戦闘によって生み出されたクレーターの中心に彼女が倒れ伏す。

レゼの血によって地面は赤く染まり、その傍に僕は彼女の血で滴る刀を携える。

 

そして僕はレゼに対して……。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。