悪魔が見つめるその先に   作:偶像崇拝

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いつも本当に助かってます。最後にチェックしても気付かないミスがあるのでありがとうございます!



第十五話

 気を失ったレゼを運び、その場から移動した。

チョーカーの所のピンを抜くと小さな爆発が起こって失われた四肢が再生する。本当に武器人間って不死身なんだと改めて実感する。

 ベッドへと寝かせて彼女の額へと軽く手を当てた。

初めて会った時から感じていたけど、秘密の部屋の出身者というだけあって稀に見ないほど強力な暗示がかかっていた。

余計なお節介かもしれない、でもレゼには笑っていてほしいからね。

 

「それで見たいものは見れましたか?」

 

「少しだけ」

 

「ずっとこちらを見ていたでしょ、フロスト」

 

「そう。でも少しだけ力の源泉を見れた気がした」

 

 僕の後ろに立っていたフロストに尋ねた。

レゼと戦っていた時に感じていた視線は主に3つ。

 

1つは別の時間軸のもの。

1つはフロスト。

1つはマキマさん。

 

マキマさんの場合は何かを通して見ていたのはわかっている。

 

「助けてくれてもよかったのに」

 

「必要ない」

 

 僕が武器人間と戦うのは初めてだった。

だからこそ、不死性を持つ相手に対してどのような戦いを見せるのかと彼女は観察したのだろう。そこであわよくば、僕の力の源泉を探ろうとしていたと。

 一緒に行動する理由が僕を観察するという部分が大きな割合を占めているからね。

フロストの選択は間違っていないけど、個人的には助けてくれてもよかったと思うな。そうなった場合はレゼが目を覚ますことは無いだろうけど……。

 

「なぜ助けた?」

 

「理解できませんか?」

 

「わからない。命を狙ってきた敵を助ける理由はない。むしろ、排除されて当然の敵。弱肉強食の世界で弱者は生き残れない」

 

「正しい指摘ですね。確かに命を狙った敵をどうして助けたと言われてしまえば、言葉を濁してしまいそうです」

 

 フロストの指摘は正しい。

本来、命を狙ってきた者を助ける理由はない。どうしてそんな人物を懐へと入れるんだと言われれば、それまでだ。

また命を狙われて、今度こそ殺されてしまうかもしれないと。

 

「暗い笑顔は似合わないから」

 

「理解に苦しむ」

 

「人とは必ずしも正しい選択をするわけじゃないんですよ」

 

「不思議。私にはできない選択」

 

 彼女には理解できないのも無理ないか。

フロストはその強さゆえに孤高と言われて群れることをしない悪魔だ。それは彼女が常に強者だからというのも理由の一つかもしれない。

 弱者の気持ちは強者にはわからないと言われることもあるくらいだし。

弱者側になったことのない者にはその気持ちを理解するのは難しいだろうね。でも強者故に理解できないという苦痛を味わう事もあるのかな。

 

「どうするつもり?」

 

「彼女次第かな。僕がしたのは深層心理にまで浸透していた暗示を解く手伝いをしただけ。目を覚ましたレゼが何を選んでも否定するつもりもありません」

 

「武器人間は歴史的にも数が少ない個体。稀な存在、故に欲しがる国々も多い」

 

「そうでしょうね。不死身であるという事は戦争などで死なない兵士として戦場へと投入すれば、それだけで脅威であることは間違いない。加えて武器人間でもあるので、変身した際の殲滅力は目を見張るものがある」

 

「国だけだといいですけどね」

 

「あの女、ずっと見ていた」

 

 目を覚ましたレゼがどんな選択をしようとも僕は止めるつもりはない。

フロストが言うように武器人間という希少性は欲しがる者達も多いことだろう。それにマキマさんも僕達の戦闘を見ていたからおそらく手を回してくる可能性もある。

 当然、フロストもその事に気付いている。

彼女から聞いた話では既にマキマさんの手中には武器人間が何人か支配された上で居るらしいし、レゼを欲しがる可能性は高いかもね。

 

「掌握する力は格下と見なされた時点で発動する。もし、小動物が不自然にこちらを見ていたら警戒すべき。小動物が目となり、耳となる」

 

「あの人も応用の効く能力をお持ちのようで羨ましい限りですよ」

 

「条件が揃わないと使えない欠点もある」

 

「欠点と言っても純粋の身体能力とかを込みにしてもハイスペックでしょ、マキマさんは」

 

「否定はしない」

 

 欠点というけど彼女よりも上、つまり格下と見なせない者達は少ないと思う。

一部の例外を除けば、彼女から能力発動中に命令を受ければ否定することもできずに支配されるだろうな。僕やフロストは別としても公安にいる岸辺さんとかは支配されていなさそうだし。

 もちろん、すべての者達の能力を使っているわけではないと思う。

仮にそんな事を可能とするならあの人の能力が凄まじいという証明にもなる。実際に僕は戦ったわけでもないから知らないけど、フロストならよく知っているはずだ。

 

「少し席を外す」

 

「わかりました。僕はまだ彼女が目覚めるまで見ておきます」

 

「保険を掛けておく。与えられた天命に逆らうことの結末を知りたくなった」

 

 保険をかけておくっていったい誰に?

彼女の視線の先には眠っているレゼの姿がある。ふむ、理解できないと言ってくれた割には何か思うところでもあったのかな。

 手を開くと氷で形成されたブローチがある。

胸元へと取り付けると彼女は部屋を後にした。僅かに冷気が漏れる氷で作られたブローチに触ってみると溶ける気配のないフロストにしか作れない特殊なものだとわかる。

 

与えられた天命に逆らうことの結末?

 

「……信じられない。どうして私を蘇らせたの?」

 

「聞いていたんでしょう?」

 

「馬鹿だよ、お兄さん。私を蘇らせるメリットなんて氷の悪魔が言ったように危険しかないのに」

 

 フロストが部屋から居なくなり、眠っていたレゼが言葉を紡いだ。

僕もフロストも彼女が途中から意識を取り戻して、こちらの会話を聞いていたことは知っている。呼吸や心拍を抑えてバレないようにしていたけど、僕らは見抜いていた。

 レゼの表情はすっかり落ち着いたものへと変わっており、瞳の奥に見えた暗い感情も薄れている。

本当の意味で自然体の表情をしており、作られた仮面は剥がれ落ちていた。瞳には光が宿り、掛けられた暗示も問題なく解けていた。

 

「それに余計なお節介までしてさ。本当に馬鹿だよ、お人好しだって言われるでしょ?」

 

「どうでしょうね」

 

「眠っている時にね、夢を見てたの。終わらない悪夢、悪夢はいつも同じ終わりを迎える」

 

 永遠に繰り返される悪夢ね。

僕は内容は知らない。暗示を解くための手伝いはしたけれど、その中身までは把握していない。それでも想像自体は容易についた。

僕は黙ってレゼの言葉に耳を傾ける。

 

「でもね、いつもの終わりと違ったんだ。暗闇の世界の中で光が差し込んで、失われた記憶を取り戻したの。忘れてはならない大切な記憶。お兄さんなんでしょ、私に何かしたのは?」

 

「僕はただ暗示を解く手伝いをしただけです」

 

「もうその言葉だけで十分だよ。皆の思いを私はいつしか封じてしまった。きっと、それは私が私を守るために無意識に行ったことなんだと思う。悲鳴を上げた心が守るために行った防衛本能」

 

「……」

 

「矛盾してるよね。守るために行われたことが自分を苦しめる悪夢になるなんてさ」

 

 言葉にして説明するのはなかなかに難しい事象だ。

ずっと見続けるという事はその事に対して強い意識が向けられているはずだ。レゼの中で希望の光として姿を模した何かが彼女の心を救ったということで良いのかな。

今のレゼの説明を聞く限りだと悪夢と解放について僕の姿を見たような言い方をしている。

 

「きっと私はレックス君に希望(ひかり)を見たのかもしれないね?」

 

「僕は……」

 

「何も言わなくてもいいの」

 

 するとレゼはゆっくりと身体を起こして僕の胸に頭を預けるように抱き着いてくる。

背中へと手を回され、僅かに震えている彼女を見て僕は軽く抱きしめ返してあげた。こういうのはあんまり経験ないから苦手なんだけど……。

 

「今はただこうさせてほしい。……Спасибо огромное(本当にありがとう)

 

「今なんて?」

 

「う、ううん。なんでもないよ、レックス君」

 

 レゼが何かを小さく呟いたみたいだけど、良く聞こえなかった。

僅かに聞き取れた言葉からあっちの言語みたいだったけど、部分的にしか聞こえなかったからよくわからなかった。

でも、彼女の言い方を聞く限りだと悪い意味じゃないのかな。

 

 

 小動物を介して私はレックス君の本格的な戦闘を見た。

一課の岸辺隊長が口にしていた同じ人間とは思いたくないと言った言葉の意味を理解できたんだ。確かに下手をすれば悪魔以上に身体能力が高いかもしれないね。

 ソ連の工作員の彼女が入国したことは知っていた。

マーク自体はしていたけど、想像以上に早く彼に接触された事で対応が遅れてしまった。彼女が傍に居ることで私は常に牽制をされている状態に近い。

 

「戦力の一人として手元に置きたいけど、厳しそうだね」

 

 私に気付いている以上、彼女は必ず保険を仕掛けるはず。

爆弾の悪魔になれる武器人間を手中に収めるのは難しいかな。それ以上に、レックス君自身が彼女に何かの保険を施しているかもしれない。

底が見えないと言われる実力は伊達じゃないか。

 

「目的達成への道のりはまだ遠いな」

 

 どうにかして彼を手に入れられないかな?

目の前に居るのに手を伸ばさないのは間違ってる。でも、そのためには大きな障害がある。

 

言うまでもなくフロスト。

私が欲しいものを持つ悪魔、あの時は焦ってしまったけど、今度はそうはいかないよ。彼女が対等だと認めたくないけど、この関係自体は私が望んでいた関係に近いのもまた事実。

 

「マキマさん、京都へと向かう準備が整いました」

 

「そっか、それじゃあ向かおうか」

 

 今日は京都で偉い人達との会食がある日。

面倒だけど、これも社会の付き合いというものなんだ。この食事会がレックス君となら私は喜んで行くんだけどな。

 すべては目的を達成するためのプロセスの一つだから行こうかな。

私が見ているということは同時に彼女もまた私を見ている可能性は高いんだ。それは小動物の目を通してでも同じことなんだ。

 

 

それほどまでに彼女の眼は特別なんだ。

本体の投影とは別で、本体の彼女は一度も死を経験していない悪魔。彼女もまた彼らと同じ死を経験したことのない存在なんだから。

 

 

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