悪魔が見つめるその先に   作:偶像崇拝

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第十七話

 氷の悪魔が行動を共にする人間と岸部さんから教えられたレックスという男。

敵意さえ向けなければ、基本的に友好的だと氷の悪魔を説明された時、俺は信じられなかった。確かに公安には比較的に協力的な悪魔は居る。

 それでも悪魔は悪魔だ。

人の苦しむ姿や死ぬ姿を見て喜びを覚える奴らの方が圧倒的に多い。こちらに協力してくれるのは別の目的を満たすための手段、もしくは契約によって対価を貰えるからだ。

 

 岸辺さんをして同じ人間だと思いたくないと言わせたのはなぜだ?

俺は実際に戦っている姿を見たことがないからはっきりとした言葉にすることはできない。傍で見ていても戦闘が得意そうにはぱっと見は思えないからだ。

 

「アキ君、その刀以外に武器は?」

 

「持ってない」

 

「それは不用心ですね。寿命を使う武器と狐の悪魔だけでは危ないです。先ほどの光景を見た限りでは協力してもらえなさそうですし。これを貸してあげます」

 

「これは?」

 

「僕の武器の予備です」

 

 渡されたのは鞘に入っている刀だ。

長さは俺が使っている呪いの悪魔であるカースから渡されたものとほぼ同じものだ。持ち手がかなりしっくりと来る見た目の割に軽い刀。

 

「その刀は誰にでも使いやすいタイプのものです。だから初めて持った人でもしっくり来ていると思います。僕の本来の得物を貸してあげても構いませんが、おそらく扱いきれないでしょうから」

 

「あんたの本来の得物……」

 

 こちらに敵意を向ける相手から視線を外さずに渡された刀の説明を受ける。

レックスの本来の得物と言われて、鞘に収まっている刀を見ると何かを感じた。一瞬だけ鞘から刀が途中まで抜かれ、刃が見える状態になると視線を外せなくなってしまう。

 通常の刀じゃないと本能が悟ってしまう。

あれはただの刀じゃない、何か悍ましいものを感じた。カチンと鞘に収まると俺は深く深呼吸をして呼吸を整える。

 

「まぁ、今回は使わなくても大丈夫そうですね。僕はあそこにいる武器人間の相手ではなくて他の相手ですから」

 

「わかっていると思うが極力殺しは避けてくれ。拘束して情報を手に入れたい」

 

「わかりました。アキ君も頑張ってくださいね」

 

 俺の注文に対して少し面倒だという表情をするが了承の意を見せた。

検討を祈るという言葉と共にレックスの姿が視界から消える。

 

は? 消えた?

 

「う、撃て!」

 

「どこに居るんだ!」

 

 銃を持った男達は急に姿が見えなくなった奴の姿を探している。

その刹那、ドンっという音と共に相手の一人が壁へと叩きつけられていた。呻き声と共に聞こえたのは銃の発砲音だ。

 ちょうど、四人の真中へと姿を現したレックスは蹴り飛ばした事で宙を舞っていた銃を手に取っていた。

迷うことなく相手の両膝と腕を撃ち抜き、相手を確実に無力化している。現れた奴に一斉に引き金が引かれ、銃弾を撃ち込まれるが当たっていなかった。

 

「無駄な時間を過ごすのは嫌いなので倒れていてください」

 

「いでぇぇ!」

 

 一人、二人、三人と四肢に銃弾を撃ち込んでいく。

銃口を向けられても恐れる姿一つ見せず、銃弾が放たれる前に手で銃口の向きを変えて別方向へと撃たせていた。

 

「アキ君、職務を全うしてくださいね」

 

「わかってる!」

 

 身体能力は間違いなく岸部さんを超えている。

撃たれたわき腹が痛むが、動けないレベルじゃない。直撃ではなく掠っただけなのが幸いしたな。日ごろの鍛錬に感謝しなきゃな。

 今ならレックスに視線が集中している。

近くの敵に接近し、回し蹴りを叩き込んで吹き飛ばした。壁に激突したことでそいつは意識を失う様子が見てとれた。

 

あとは……。

 

「あんた、いい動きをするね」

 

「お前が襲撃をさせたリーダーだな」

 

「答える義理はないね。蛇、尻尾」

 

 赤い服を着た女がリーダーであることは間違いない。

距離を詰めようと走り出すが、女の言葉に不意にその場にしゃがみ込んだ。

 

その刹那、頭上を白い巨大な蛇の尻尾が通過するが、僅かに軌道を変えたことで肩を掠めた。

 

 こいつの契約悪魔か。肩を少し持っていかれたか。

でかい図体の厄介な奴だな。これだけ体積が大きいと近づく前に止まられてしまう。その蛇の尻尾が姿を現した瞬間に女の爪が一枚剥がれたのが見えた。

契約の代償は呼び出すごとに爪を一枚与えるといった感じか。

 

「ちっ、デンジの方も優勢とは言えないか」

 

 攻撃を避けながらデンジの戦いに目を向けるが優勢とは言えなかった。

互角のように見えているが、銃による援護射撃でデンジの動きが制限されている。徐々に攻めから守りへと態勢が変わろうとしていた。

四方八方から聞こえる銃撃音で耳が逝かれそうだ。

 

「逃げてばかりじゃ状況は変わらないぞ」

 

「くそっ」

 

「や、やめろ命だけは!」

 

「ちっ! 蛇、噛みつき」

 

 四発の銃撃音と共に目の前に男が吹き飛んできた。

四肢を撃ち抜かれ、俺の目の前で血を流して倒れている。吹き飛んできた方向を見るとレックスが銃を撃ち終わっていた。

 その姿を見たリーダーの女は契約悪魔に次の指示を出した。

再び爪の一枚が与えられ、蛇の巨大な口が現れ、指示通りの攻撃が行われようとしている。

 

「はぁ、アキ君。少し契約悪魔に頼り過ぎましたね? 最後に頼れるのは自身の肉体ですよ」

 

 奴がそう呟くと跳躍し、蛇の胴体へと飛び乗るとその上を走って移動している。

一撃の威力が高そうだが、それ故に動きは単純だと判断を下したのか。一気に相手へと接近する。迎撃するように女が狙いを定めて銃を撃つが当たっていない。

 

蛇の攻撃を躱しつつ、女の前へと飛び降りた。

俺の殺しは無しだという言葉に従って銃口を足へと向けて引き金を引こうとした瞬間、レックスは後方へと飛びのいた。

 

なんでだ? 疑問を浮かべる俺に答えはすぐに示された。

 

「話が違うじゃねえか。警戒すんのはデンジだけと聞いたんだがな?」

 

「私だって想定外だ。でも、助かったよ。チェンソーはどうした?」

 

「あぁ、胴体を真っ二つにしてやった。すぐに起き上がっては来れんだろう」

 

 刀の武器人間が女の前に急に姿を現したんだ。

動きが見えなかった、デンジはやられたのか! 俺は急いで視線を先ほどまでデンジが戦っていた方へと向けると相手の仲間と思わしき男と一緒に胴体を切られていた。

こいつら、捕まった仲間は切り捨てたのかよ!

 

今の俺じゃあ、駄目だって言うのか。

今のままじゃ駄目だ。最後に頼れるのは己の肉体という言葉が嫌に頭に残る。

 

「デンジ君、負けちゃったのか。戦いの基礎が出来ていなかったし、仕方ないのかな」

 

「ごちゃごちゃとうるせえぞ。お前も俺が斬ってやる! デンジの知り合いは殺す!」

 

「殺意がすごいですね。僕は敵対勢力の無力化という仕事を終えたので戦いたくはないんですけど?」

 

「戯言を抜かすんじゃねえ!」

 

 あいつ、この状況下においても表情一つ変えないのか。

俺は弱い。岸部さんにもっと厳しい修業を付けてもらって鍛えぬかないと戦いの場に立てない。契約悪魔の力を使えなければこんなにも無力なのか。

 

俺は自分の弱さを呪った。

強ければ、姫野先輩も銃に撃たれる前に守ることが出来たはずだ。

 

 

 アキ君に言われた通りに現れた増援は全員四肢を撃ち抜いて無力化した。

でもリーダー格の女の人と対峙していた彼は劣勢だった。やはり悪魔討伐は契約悪魔の能力による部分が大きく、対人ともなると戦い方も変わってくる。

 武器を貸してあげたけど、使いこなせないか。

相手が遠距離主体ってこともあって不利な状況も加わり、制圧することができなかったか。銃弾を斬るなんて彼にはできないだろうし。

 

「結局、僕が相手しないといけないのか」

 

「お前はデンジを運べ。こいつは俺が相手する」

 

「ちっ……油断するなよ」

 

 残っている増援で来た人達と上半身だけのデンジ君を引き摺って撤退を始めている。

僕は目の前の刀の武器人間の相手をしないといけないのか。銃を撃っても効果は薄そうだし、危険を承知の近接戦闘を仕掛けるのが被害を最小限に抑える方法かな。

 

「始めましょうか」

 

「ぶっ殺してやる」

 

 対峙した感じとデンジ君と戦っていた姿を見た限りだと戦いは素人に近い。

レゼと同じであるなら見た目からしても刀の悪魔という認識で間違いないだろうし、変身した事で底上げされた身体能力でのゴリ押しで戦っている。両腕から生えた刀の動きは大振りで、隙が大きい。

 たぶん、爆弾の悪魔へと変身したレゼと戦ったら圧倒されて終わるはずだ。

直接戦ってみれば、その答えも出ると思う。

 

「俺はデンジに爺ちゃんを殺された。だから俺はあいつにも同じ気持ちを味合わせてやるつもりだ」

 

「彼がお爺さんを殺したのか、僕は知りません。でも理由もなく殺すような人柄には見えない」

 

「ごちゃごちゃうるせぇ! お前を殺してデンジの前に突き出してやる」

 

「はぁ、血の気が多いことですね」

 

 何を言っても答えは変わらないという事か。

前へと踏み込んで僕へと大振りで刀を振り回す。右、左、右、そして両方の刀を同時に振るう。頭部を貫いている刀を使う様子は見えない。

 こちらも刀を鞘から抜いてわざと刃を当てる。

踏み込みの具合も相まって、吹き飛ばされるかと思ったが想定していたよりも威力が弱い。踏み込みのタイミングと刀を振るうタイミングが一致していない。

 

これは本当にこういった戦闘経験がない人間が戦っているという印象は限りなく正解に近いな。

 

 

 受け止めるのではなく振り下ろされる刀を側面で受け流して守りの構えを形成する。

一回、二回、三回と攻撃を受け流すことで相手の間合いを完全に把握した。ただ、不安要素があるとすれば、それは戦いが素人であるということ。

それはつまり、こちらが予想しない動きをしてくる可能性があるんだけど……。僕の場合は相手の動きの初動を見てから対応すればいいので、予想外の動きをされてもこの相手なら容易に対応できる。

 

「わかった」

 

「あぁ? 余裕をぶっこきやがる。むかつく野郎だ」

 

 しゃがんで体勢を低くし、重心を前足に掛けているのが見てわかる。

さっきから見ている動きから見ても聞き足は右。その右足に重心が移動して、若干前屈みの前傾姿勢になっている。

 

デンジ君を真っ二つにした居合か。

彼が倒れる前に消えたという言葉が僕の耳には入ってきていた。僅かに目を細めて、こちらもカウンター狙いの構えを取った。

 

「終わりだ」

 

「消えた!?」

 

 刀の悪魔がそう呟いた瞬間に後ろで倒れているアキ君の声が聞こえた。

本当にアキ君やデンジ君には居合の構えを取った男が動き出した瞬間に視界から消えたように見ているみたいだ。確かに早くはあると思う。でも、間合いもタイミングも滅茶苦茶で居合としては認めたくはない。

 

僕の間合いに入った瞬間に刀を真横へと一閃した。

 

「どうなったんだ?」

 

 僕と刀の悪魔は互いに2mほど離れた距離で背中を向けた状態で停止する。

しばらく沈黙が保たれていたが、パキっという音が決着を告げた。後ろを振り返ると刀の悪魔の両腕の刀が中ほどから切断され、胴体に赤い線がゆっくりと現れ上半身と下半身に分かれて床に倒れる。

 

「馬鹿な……見えてたのか」

 

「見えてましたよ? デンジ君達には見えなかったようですが」

 

「ちくしょうが……!」

 

 これでデンジ君と同じ状態になった。

でも、血を与えればこの状態からも簡単に復活するんだろうな。武器人間は不死身だという事は十分に理解しているからね。

 アキ君は肩を抉られてるし、致命傷ではないみたいだけど血で制服が赤く染まってる。

刀を鞘に納めて彼の方へと歩いていくと不意に声が聞こえた。

 

「蛇、丸呑み! 急げ!」

 

 その声は先ほどこの男にデンジ君を連れて行けと言われていた女性のもの。

白い蛇の悪魔が僕ではなく刀の悪魔を丸呑みにして、この場からすぐに姿を消した。なかなか応用のできるタイプの悪魔なのかな。

 

「大丈夫ですか?」

 

「肩を抉られただけだ。致命傷じゃないが、左肩はしばらく動かさない方が良いかもな」

 

「僕は言われた通り、無力化しましたよ。まぁ、デンジ君と同じ存在である男には逃げられてしまいましたが」

 

「デンジは連れていかれたのか?」

 

「まだビルを出たばかりだと思いますが……大丈夫だと思いますよ」

 

「なに?」

 

 左肩の具合を確認すると簡単な応急処置を行っておく。

自身の心配よりもデンジ君の心配をするあたり、アキ君は面倒見がよいタイプなのだろう。連れていかれたけど、視界に映った鴉の姿を見た瞬間に問題なさそうだと判断した。

 

その鴉の瞳が同心円状のものへとなっていたからだ。

それはある悪魔が視界を共有して監視を行っている時に変化する状態だとわかった。

 

 

 下の方で何かに圧し潰される音と逃げ惑う音が聞こえ、破壊されたビルから下を見下ろすと幾つもの血溜まりと衣服が散乱しており、上半身だけのデンジ君が取り残されていた。

しばらくするとレゼの方から無事に姫野さんを病院へと送り届けたと連絡を受け、銃弾は心臓をぎりぎり外しており致命傷は避けていたそうだ。

 

ただ、あと少し病院への到着が遅れていたら危なかったらしい。

 

 

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